出口王仁三郎 文献検索

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物語69-3-151924/01山河草木申 四天王王仁三郎参照文献検索
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第一五章 四天王〔一七六〇〕

 国州、浅州の両人は午前の十時頃辛うじて、国玉依別命が主管してゐるアリナの滝の懸橋御殿の大広前に辿りついた。国玉依別、玉竜姫夫婦は祭服を着し、数多の信徒と共に月例の祭典を了り、宣伝歌を奏上してゐる。

国玉『アリナの滝の水清く  この谷間のいや深き
 神の恵みに包まれて  懸橋御殿に朝夕に
 真心ささげ仕へゆく  吾は国玉依別の
 神に仕ふる宣伝使  玉竜姫と諸共に
 皇大神の御教を  アリナの山の空高く
 テルの荒野のいや広く  海の外まで伝へゆく
 ああ惟神々々  世は常暗となりつれど
 遠き神代の昔より  神の恵みは変りなく
 四方の民草恵みまし  世の荒風も醜雨も
 凌ぎて安く世をわたる  テルの国こそめでたけれ
 旭は清くテルの国  夕日も清くテルの国
 月は御空に鮮かに  天伝ひつつテルの国
 浜の真砂の数多く  御空の星もテルの国
 月照彦の皇神の  現はれ玉ひし鏡池
 常夜の暗を照らしつつ  稜威輝くテルの国
 天照神の恵みにて  野山は青く水清く
 大海原より打ちよする  波も静かに漁りの
 わざも豊かに国原は  稲麦豆粟よく稔り
 地上に生ふる人草は  朝な夕なに嬉しみて
 神を敬はぬ者ぞなし  げに高砂の名に負へる
 底津岩根のテルの国  領有ぎたまふ国魂の
 聖き御前に鹿児自物  膝折りふせて大稜威
 神嘉ぎ仕へ奉る  ああ惟神々々
 身魂の恩頼を謝し奉る  一二三四五つ六つ
 七八九つ十たらり  百千万の国人が
 朝な夕なに大前に  い寄りつどひて御恵みの
 千重の一重に酬いむと  三五の月の照り渡る
 今日の生日に月例の  御祭仕へ奉り
 海川山野くさぐさの  うまし物をば横山の
 いとさわさわに置足ひ  真心捧げ仕へゆく
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 大西洋はあするとも  アリナの山は崩るとも
 滝の流れは干るとても  千代に尽きせぬ神恩の
 露に霑ふ民草の  心の色ぞ麗はしき
 心の花ぞ麗しき  この世を造り玉ひたる
 無限絶対無始無終  神徳強き国の祖
 国治立の大御神  世人を洽く救ひます
 神素盞嗚大神の  貴の御前に畏みて
 天津祝詞の太祝詞  たたへまつるぞ嬉しけれ
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を謝しまつる』

と歌ひ了り、四拍手して神前を退き、二柱は数多の信徒に笑みをたたへて目礼しながら、おのが居間へと進み入る。
 国、浅の両人は信徒の中に交はりてこの祭典に列してゐた。浅州は国照別の耳に口を寄せ、
『何と荘厳な宣伝歌だありませぬか。そして此処の神司はずゐぶん老耄のやうだが、その言霊は十七八の若者のやうな涼しい清らかな声を出すだありませぬか。あの声を聞くと私はふるひつくほど好きになりました』
国『心さへ清浄潔白にあれば、言霊も濁らないから、アアいふ美しい声が出るのだ。俺達もこれからは魂を清めて声の年がよらないやうにしたいものだ。これは昔俺の親爺から聞いてゐるが、親爺の友達の竜国別といふ宣伝使が、自分の母親や弟子どもと共に、玉よせの芝居をやつた所ださうな。その時に竜国別母子がソツと黄金の玉を失敬して、アリナ山をはるばる越え珍の野野までいつたところ、神様の戒めに会うて悔い改め、その次に高姫といふ我の強い宣伝使がやつて来て、またその玉のために神様に脂を搾られ、改心したといふ歴史の残つてゐるお宮様だ。竜国別が中途で神様に取上げられた黄金の玉が御神体となつて、このお社に祀つてあるといふ事だから、俺たちも三五教の信者たる以上は、まんざら縁のない者でもない。どうだ、今晩此処でお通夜でもやつて御神徳を頂き、アリナの滝で身をうたれ、それからボツボツ目的地へ行かうぢやないか』
『それは誠に至極結構でせう。何なら親分、ヒルの国なんて、山河数百里も隔てた遠国へ行くよりも、山一つ越ゆれば、自分の生れた国だから、一層の事、ここでしばらく尻を据ゑたらどうでせう。別にヒルの国まで行かなくても、侠客にはなれますよ』
『一旦男子が思ひ立つた事は中途にやめるわけには行かない。絶壁前に当るとも、白刃頭上に閃くとも、一旦言あげした事は実行せなくちや男とはいはれない。まして男の中の男一匹と、世間に持てはやされ、仁侠をもつて世を救ふ大望を抱いた吾々、そんな腰の弱い事が出来ようか。お前は厭なら厭でよいから、ここに何時までも固着してゐるが良からう、俺は一人でやつて来るからのう』
『どこまでもお供いたします。しかし三日や四日はお骨休め、足休めのため、ここでお籠りしたらどうでせうか』
『まづ二三日滝に打たれて、体を浄め、鏡の池の神様に神勅をうけ、そしてボツボツ行く事にせう』
『ヤ、それで安心しました。そんならこれからお滝へ参りませうか』
『ヨーシ、まづ第一に禊をやつて来う』
といひながら、拍手再拝し、口の奥で天の数歌を称へてゐると、信者の風をした十四五人の男、前後左右よりバラバラと取囲み、両人の首筋をグツと握り、剛力に任して押へつけた。浅公は驚いて、
『アイタタタタ、ナナ何をさらすのだ。コリヤお前達ア、神様を信心してる信者ぢやないか。人の首筋を押へてどうするつもりだ。イイ痛いワイ、何ぢやい。人の手を後ろへ廻しやがつて……何俺が悪い事したか……モシ親分、タタ助けて下さいな』
 国照別は剛力に押へられ、俯向いたまま、阿吽の息を凝らし、隙をねらつてゐた。息の調子を計つて、パツとはね起き、やにはに大の男四五人を取つて投げた。浅公を押へてゐた大男も吃驚して手を放した。浅公は矢庭に座敷の真中につつ立ち上り、大手をひろげ、手に唾しながら、
『サー来い、珍の都において隠れなき白浪男の浅公さまとは、こなはんのことだ。いらざるちよつかいを出して後悔を致すな。乾児の俺でさへもこの通りだ、俺の親分を何と心得てゐるか、珍の一国の国の柱の国さまだぞ』
 この中の最も大将らしき奴、行儀よく畳の上にキチンと坐り両手をついて、
『誠に失礼をいたしました。私は伊佐彦老中の部下に仕ふる、はした役人共でございまするが、国照別の世子様が、珍の都に身をおとして、お忍びになつたといふ事が城下一般にひろがり、それから大勢の者が手配りを致しましたが、どうしてもお行方が知れぬので、ヒヨツとしたら他国へ逐電されるかも知れないと、十数人の手下を引きつれ、一方口のこの館に信者と化込み、様子を考へてゐたところ、今日計らずも、世子様のお出で、誠に恐れ多い事でございますが、吾々がお供を致しますから、どうぞ国へお帰り下さいませ』
国『お前達は誠に御苦労な役だ。願ひによつて帰つてやるのは易い事だが、俺も最早決心した以上は、一歩も後へ返す事は出来ない、諦めて帰つてくれ。いづれ永遠に珍の国を見すてるのではない。俺には俺の考へがあつての事だから、素直に帰つたがよからう』
男『私は深溝役所の目付でございまして、駒治といふ者でございます。左様な事を仰せられずに、一まづお帰り下さいませ。珍の城下は大変な騒ぎでございますから、一度帰つて頂かねば、衆生が塗炭の苦しみに陥ります。衆生を愛し下さる真心があるなら、どうぞ私がお供をいたしますから、この場よりお帰りを願ひます。あなたがお帰り下さらねば、吾々は再び都へ帰るわけには参りませぬ』
『別に都へ帰る必要はないぢやないか。生活の保証は俺がしてやるから、どうだ。俺は国州といふ侠客と還俗したのだから、汝等も俺の乾児となり、天下の男伊達と名を売つたらどうだ。そして腕を研いた上、俺は故国へ帰り国の真柱となるつもりだ。その時はお前も抜擢して、大取締ぐらゐに使つてやるが、ここは一つ思案の仕所だ、どうだ、俺のいふ事が合点がいたら、否応なしにすぐにその十手をこの谷川へ捨ててしまへ』
 駒治は心の中にて……一層の事、侠客にならうかなア、何といつても、珍一国の御世子だ。その方がかうして身をおとし、白浪男になつて世の中を救はうとなさるのだから、何時までも役人の端に加はつてをつても、先が見えてゐる。一層潔よく降参せうかな……と早くも決心してしまつた。しかしながら大勢の部下に対し、直ちに服従する訳にも行かず、部下の顔色をソツと窺つてゐる。
国『オイ一同の者ども、今日から俺の乾児だ。侠客でなくつても、高砂城の未来の国司だ。さうすりやお前たちは皆俺の乾児だ。どうだ否応あるまい。そのペラペラした十手をねぢ折つて谷川へ放る気はないか』
駒治『何とぞ私を貴方の直参の乾児にして下さいませ。如何なる事でも御命令に服従いたします。証拠はこの通りでございます』
と十手を、眼下の谷底へ投げこんでしまつた。他の捕手連中は去就に迷ひ、目を白黒させて駒治の顔を見つめてゐたが、市公、馬公の両人を除く外、十手をかけたまま、列をつくり、駈足の姿勢で、怖さうに館を逃げ出しアリナ山を指して逃げ帰りゆく。後見送つて国照別は、
『ハハハハハ駒治、市に馬、誠の者は三人になるかも知れぬぞよ……とはよく言つた事だ、三人世の元結構々々だ。お前たち新帰順新侠客が三人、俺たち二人を合すれば五人となる、厳の御霊だ。三五の明月だ。ヤ、目出たい目出たい、サアこれから神様にお礼を申し上げやう』
駒治『御世子様、そんなら今日から、誠にすみませぬが、あなたを親分と申してもよろしうございますか』
国『きまつた事だ、親分国州さまと言つてくれ。市も馬もその通りだぞ。窮屈な取締をやめて脛一本、沼矛一本の男一匹になるのは男子の本懐だ。汝もこれで救はれたのだ。ヤツパリ霊がいいとみえて、俺の心が分つたと見えるワイ、アツハハハハハ』
駒治『エー、親分に申し上げますが、早くこの場を立去らないと、今帰つた十三人の奴、都へ帰り、伊佐彦老中へ報告するに間違ひありませぬ。さうすりや捕手がやつて来る、険呑ですから、何とか身隠しをせななりますまい』
『ナアニ、心配するな、この急坂を登り下りして、それから広い野を渡り、都へ帰るにも五日や六日はかかる。それからやつて来たところで、また五日や六日は時日が要る。マアここ十日ぐらゐは大丈夫だ。ゆつくり禊でもして神勅を受け、それから自分の方針を徹底的にきめるのだ。そんな事に齷齪して頭を痛めてゐるやうな事では、到底侠客にはなれないぞ。ヤ面白い面白い、俺も〆て乾児が四人出来たか、四天王の勇士、しつかり頼むよ』
浅『モシモシ親分さま、四人の中で順序を立てておかねばなりませぬが、誰がこの中では一番兄貴になるのですか、キツと私でせうね』
国『時間においてはお前が兄貴だ。しかしながら胆力と腕力においては怪しいものだなア。何はともあれ、お滝へ禊に行く事にしやう、一二三四』
と言ひながら懸橋御殿を後に、水音轟々として響きわたる瀑布の傍に一行五人辿りついた。無心の滝水は何を語るか。囂々鼕々として地をゆるがせ、無数の飛沫には日光が映じて、えも言はれぬ宝玉の雨を降らしてゐる。

(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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