出口王仁三郎 文献検索

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物語69-3-131924/01山河草木申 国別王仁三郎参照文献検索
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第一三章 国別〔一七五八〕

国照別『われは淋しき冬の月  御空に高く打ちふるひ
 中空さへぎる雲の戸の  開くよしなき悲しさに
 苦しみ悶ゆる折りもあれ  忽ち吹き来る時津風
 十重に二十重に包みたる  雲吹き払ひ漸くに
 地上に降る道開く  草の片葉におく霜の
 冷たき宿を借りながら  都を後に下りゆく
 吾が身の上ぞ頼もしき  はるかに地上を見渡せば
 虎狼や獅子熊の  伊猛り狂ふ荒野原
 正しき人は醜神の  脚ににじられ踏まれつつ
 悲鳴をあげて泣き叫ぶ  曲れる人は揚々と
 春野に蝶の舞ふごとく  地上の悩みを他所にして
 歌舞音楽にひたりゐる  実にも矛盾の天地かな
 いよいよ神が現はれて  三千世界を引きならし
 草の片葉に至るまで  恵みの露にしたしつつ
 救はむ時ぞ近づきぬ  ああ惟神々々
 われは国照別司  この曇りたる国土を
 三五の月の御教に  照らし清めて永久に
 国照別の御世となし  草木もめぐむ春乃姫
 月と花との兄妹が  神の賜ひし珍の国
 昔の神代に引き戻し  憂きに悩める人草を
 救ひ助けむ吾が願ひ  達せむための鹿島立
 守らせ給へ惟神  神の御前に願ぎまつる
 吹き来る風は荒くとも  降り込む雨は強くとも
 たとへ地揺り雷の  頭上に轟く世ありとも
 いかでか恐れむ敷島の  聖き国照別の魂
 如何なる権威も物欲も  左右し得べき力なし
 珍の御国は言ふもさら  高砂島に国といふ
 国のことごと三五の  神の教とねぢ直し
 生ける真の神として  降り行くこそ勇ましき
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎ奉る』

と歌ひながら、アリナ山の峠の頂上に着いた。国照別は東方の原野を遥かに見おろしながら、
『アア珍の国もしばらくこれで見ることが出来ないだらう。その代り今度帰つて来た時は、この広大なる荒野ケ原も金銀瑪瑙、瑠璃硨磲、玻璃などの七宝に飾られた地上天国に一変するだらう。雲深き城中を後に親兄弟家来を見すてて、鄙に下り、今また吾が城下にも住む事を得ず、心からとは言ひながら、生れ故郷を立ち去るは、どこともなく心淋しいやうだ。アア否々、そんな気の弱いことで、この神業が勤まらうか。珍の国の国司は元は三五の教をもつて人草を教化するのが天職であつた。あまり政治などに心を用ひなくても自然に治まつてゐたのだ。しかしながら今日となつては国外よりいろいろの主義や思想や無用の学術が流れ込んで来て、古のごとき簡易な信仰のみをもつて国を治むる事は出来なくなつてしまつた。しかしながら、どうしても世の中は知識や学問の力では治まるものでない。まづ政の第一は徳を以てするより外にない。自分はその徳を養はむがために、城中をぬけ出し、最も卑しき車夫の仲間に入り、下層社会の事情を探り、今また侠客となつて、市井の巷に出没し、わが霊魂をして金剛不壊の如意宝珠たらしめむと、焦れど藻掻けど如何にせむ、永い間嬢や坊にて育てられ、少しの荒き風にさへも悩まされるやうな弱い身体で、どうして衆生を安堵せしむることが出来やうか。何といつても自分は珍の国の世子、清家生活も顕要の地位も少しも望まぬけれど、この先自分がこの国に居らなくなつたならば、信仰の中心、尊敬の的、思想の真柱を失うたも同然、容易に、如何なる賢者が現はれても、徳望者が現はれても、治むることは難かしいだらう。それを思へば、一時も早く魂を研き、真の神徳を身にうけて、再びこの国に帰つて来なくてはならうまい。珍の国の広き原野が今わが視線を離れるに望んで、何となく、山河草木をはじめ我が国衆生が恋しくなつて来た。しかしながら一旦決心した吾が魂を翻すことは出来ぬ。ああ惟神霊幸倍坐世。国治立大神様、何とぞ国照別が赤心を御受納下さいまして、珍の国は申すも更なり、高砂洲の天地をして、昔の神代の歓楽郷にねぢ直させて下さいませ。また両親を始め妹の春乃姫その他城中の老臣、及び友人の身の上に特別の御恩寵を垂れさせ給ひて、珍の国家を平安に隆昌に進ませ給ふやう偏にお願ひ申し上げます。珍の国に別るるに臨んで、国魂神様の御前に謹んでお礼を申し上げます。ああ惟神霊幸倍坐世』
と感慨無量の態で、太い息をついてゐる。浅公は珍の原野を見おろしながら、
『親分さま、何とマア珍の国も広いものですなア、そして何だか珍の国の山河草木が……浅公行くな行くな、元へ返やせ……と手招きするやうな気分が致しまして、これから先へ行くのが、何だかおつくうなやうな、嬉しくないやうな気になりました。今親方の様子を見てゐると二つの目から涙がポロリポロリと落ちてゐましたよ。何ほど侠客の親分でも、人情に変りはないとみえますな』
国照『ウン、生れた国といふものは、何とはなしに恋しいものだ。言はば自分たちを永らく育ててくれた真の母だからな。幼子が母の懐をはなれて、異郷の空に出るのだもの、俺だつて、チツとは感慨無量の涙にくれるのは当然だ。涙のない人間は鬼だ。俺も先づ鬼の境遇だけは免れたとみえるワイ。アツハハハハハ』
と俄かに笑ひに紛らす。浅公も泣き声交りに「アツハハハハハ」と附合ひ笑ひをする。
国照『浅公、これから先はつまりいへば、他国だ。神様の方からいへば、みな神の国で境界もなければ差別もないが、地上の人間どもが、これまでは珍の国、これから先はテルの国だとか、カルの国だとかヒルだとかハルだとか、勝手に境界をつけ、互ひに権勢を争うてゐるのだから、その考へでゐないと、大変な失敗をするよ。自分の国内では侠客も羽振りが利くが、様子も分らぬ他国では、そういふわけにはゆかぬからのう』
浅『所で吠えぬ犬はないとかいひましてな』
『オイ浅、犬に譬るとは殺生ぢやないか、ハハハ。サアここを降つて、懸橋御殿といふのがあるさうだから、それへ参拝をして一夜の宿を借り、ゆつくり行くことにしやう』
『ハイ、お伴いたしませう。あーあ、これで故郷の空のしばらく見納めかなア……

 去りかねて振り返り見ぬ珍の国
  妻さへ子さへなき身なれども

 何となく恋しくなりぬ珍の空
  今別れむとして涙こぼるる』

国照別『汝もまた人の御子なれ世のあはれ
  よくも悟れり深く覚れり

 足乳根の親のまします珍の空
  打ち仰ぎつつ別れ行く哉

 国愛別親しき友は如何にして
  吾がゆく後に活動やせむ

 吾が友よしばらく待てよ国照別
  神と現はれ帰り来るまで

 吾が行くは御国をすつるためならず
  真の神の国にせむため

 吾がゆくは親を苦しむるためならず
  大御心を慰めむため

 吾がゆくは国民すつるためならず
  天国浄土に救はむがため』

と歌ひ了り、金剛杖を力に急坂を下りゆく。

国照別『神の恵みのアリナ山  杖を力に下りゆく
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  誠一つの三五の
 神に任せし吾が身魂  神と国とに真心を
 尽す吾が身に幸あれと  朝夕祈る勇ましさ
 故国の空を後にして  踏みもならはぬ山坂を
 登りつ下りつ進み行く  国魂神の竜世姫
 守らせ給へ惟神  謹み敬まひ願ぎ奉る
 この世を造り給ひたる  国治立大御神
 世人を教へ諭しゆく  瑞の御霊の大御神
 この世の塵を打ち払ふ  科戸の風や雨となり
 雪ともなりて守ります  貴の力を頼りとし
 天にも地にも掛替への  なき垂乳根や妹を
 後に見すてて出でてゆく  涙の雨は袖に降り
 眼はかすむ今日の空  恵ませ給へ惟神
 神かけ念じ奉る』  

と歌ひつつ、国照別は先に立ち、浅公は杖を力に足拍子を取りながら、九十九曲りの石だらけの道を後に従ひ行く。

浅公『ウントコドツコイ アリナ山  噂に聞いたきつい坂
 いよいよ恋しい珍の国  涙と共に立ちわかれ
 ウントコドツコイ危ないぞ  石のゴラゴラする坂だ
 親方用心なさいませ  一時も早くこの坂を
 無事に下つてウントコシヨ  懸橋御殿にまゐ詣で
 足の疲れを休めませう  鏡の池とて名の高い
 昔の神の霊跡が  今に残つてゐるといふ
 名所を見るのも今少時  ああ惟神々々
 何とぞ無事にこの坂を  親方さまともろともに
 下らせ給へ惟神  御霊の恩頼を願ぎまつる
 旭もテルの国野原  向かつておりゆく二人連れ
 もしも国人わが姿  眺めて空から天人が
 降つて来たかと怪しんで  いと珍しき穀物
 八足の机におき並べ  迎へてくれれば嬉しいが
 ウントコドツコイ アイタツタ  メツタに左様なうまいこと
 あらうと思はぬボンの糞  雨露凌がしてドツコイシヨ
 くれてもそれで満足だ  もうしもうし親分よ
 にはかに霧が深くなり  一間先は靄の海
 だんだん淋しうなつてくる  一足一足坂路を
 降る度ごと根の国や  底の国へと行くやうな
 淋しい気分になつて来た  ああ惟神々々
 神様よろしく頼みます  後へは返さぬ男伊達
 たとへ命はすつるとも  思ひ立つたる親分の
 気象はいつかな怯むまい  俺も此処までお伴して
 卑怯未練に引返す  わけにはゆかぬ男の意気地
 かうなりやホンに侠客も  ウントコドツコイ辛いもの
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 霧は山路を包むとも  大蛇の奴が行先に
 道を塞いで攻め来とも  弱きを扶け強きをば
 挫いて通る男伊達  それを兼ねたる宣伝使
 国照別の珍の御子  御供に仕へた浅州は
 決して決してひるまない  アア勇ましや勇ましや
 一足一足ウントコシヨ  勝利の都へ進み行く
 神は吾等と共にあり  親分も吾等と共にあり
 吾等を守るは神にまし  吾等を守るは親分だ
 また親分の身の上を  守る真の神様は
 国治立大御神  次に乾児の浅州は
 朝から晩までテクテクと  御後に従ひ進み行く
 どこを当とも白雲の  山路を分くる旅の空
 実に面白し勇ましし  ああ惟神々々
 御霊幸はへましませよ  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 ドツコイ ドツコイ ドツコイシヨ』  

とちぎれちぎれに山降りの歌を唄ひながら、漸くにして稍平坦な緩勾配の坂道に着いた。霧はますます深くして咫尺を弁ぜず、太陽は西天にかくれしと見え、暗の帳はチクチクと二人を包んで来た。二人はやむを得ず、此処に一夜を明すこととなつた。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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