出口王仁三郎 文献検索

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物語69-2-101924/01山河草木申 宣両王仁三郎参照文献検索
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第一〇章 宣両〔一七五五〕

 城下外れの極めて淋しい河原町の饂飩屋の店に、四五人の若者が饂飩を肴にコツプ酒を呑みながら、配達して来る新聞を見て、いろいろと話の花を咲かしてゐる。
甲『オイ、ずゐぶん世の中も物騒になつて来ただないか、このごろの新聞をみてみよ。何時とても吾々の肝を冷すやうなことが、一つや二つは出てゐるだないか。ヒルの都の大地震にエトナ山の破裂、……といひまた、珍の都の国照別様が顕要の地位を嫌つて人力車夫となり、あるひは老中の岩治別が陰謀露顕したとか何とかで姿を隠し、伊佐彦老中の家内樽乃姫といふ大兵肥満の樽女はサデスムスとか何とかに罹つて、人を斬る打つ、そして牢獄へ入れられる。横小路の親分は牢へぶち込まれるといふ大騒ぎだ。そして春乃姫様が大変なハイカラで、そこら中を馬に乗つて駈け廻り、その上彼方に強盗、こちらに火災、殺人、姦通、会社銀行の破綻、重役の持逃げに詐欺、破産、ルーブル紙幣の下落、本当に世の中はモウ末だな。この先、俺等やどうして生活を続けたら良からうかと心配でならないワ』
乙『それだから、衆生一般が生活難の声に脅かされ、人心は日に悪化して、ソシアリズムやアナーキズムが蔓延するのだよ。これも時代の影響だから仕方がないな』
『だといつて、俺たちア、やつぱり家族制度の国に生れたのだから、家族制度の破れるやうな主義には賛成したくないのだ。私有財産撤廃とか土地国有とか、いろいろの議論が新聞紙上にのつてゐるが、困つた社会になつたものだな』
『別に困る必要はないだないか。偉さうに汝いつてゐるが、猫額大の土地も所有せず、嬶の湯巻まで質においてる分際として、家族制度が好きだの嫌いだなんて、柄にないこと吐くない。俺等はソシアリズムでも、アナーキズムでも結構だ。人間は生の執着を持つてる以上は、完全なる生活を営まねば、牛馬にも劣るやうなことでは人間を廃業するより外に仕方がないからのう』
丙『ウン、そらさうだ。俺だつて朝から晩まで営々兀々と、ブルのためにこき使はれ、労働と賃銭の不統一のため、悲惨な生活を送つてるのだ。嬶の着替一つあるでなし、正月が来ても子供に下駄一足買つてやるわけにもゆかず、大勢の家内が高い家賃を取られて、三畳敷や二畳敷に雑魚寝をしてる生活に甘んじてゐるのだから、本当に世の中に生存の価値も何もあつたものでないと思ふよ。三五教の教に、神が表に現はれて善と悪とを立分けるとかいふ事があるさうだが、早く救ひの神が現はれて、この暴悪な残虐な、吾よしの強い者勝ちの世の中を立直し、四民平等の幸福と平和を得るところの世の中に会ひたいものだ。大きな声でこんな話をすれば、すぐ取締に取捉まへられて、臭い飯を食されるなり、本当に弱者となれば頭の上らない時節だなア』
乙『それだから、アナーキズムやソシアリズムが頭を擡げ出したのだ。神が表に現はれる現はれると昔から言つて来たが、ねつから現はれさうにないぢやないか。救主は東方の天より現はれるとか聞いてるが、根つから吾々を救うてくれる光明も神霊も現はれた例もなし、本当に苦しい暗黒な世の中だな』
 かく話すところへ宣伝歌の声が聞こえて来た。

『神はこの世の救主  厳と瑞との二柱
 常世の暗をはらさむと  天津空より降ります
 助けの神と現はれて  善悪邪正を立分ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 直日の御霊現はれて  悪を戒め善を賞め
 貧しき人を富しつつ  生活難に苦しめる
 可憐の民を救ふなり  誤解と矛盾に充たされし
 悪魔の世界を射照らして  松の神代に立直す
 救ひの神は天にあり  恵みの神は地にます
 天と地との真中に  生ひ育ちたる民草は
 いづれも神の御子ぞかし  神は汝等の親なるぞ
 わが子の悩み苦しみを  如何でか見すて玉ふべき
 神には神のそなへあり  しばらく待てよ神の子等
 五六七の柱現はれて  光りと栄えと喜びに
 充てる社会を建設し  神人和合の瑞祥を
 来たし玉ふは目のあたり  心を研き身をきよめ
 その日の境遇に甘んじて  天地の時を待てよかし
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 星は御空にきゆるとも  山裂け海はあするとも
 たとへ地震強くして  大廈高楼たちまちに
 地上に壊れ崩るとも  恵みの神は誠ある
 可憐の御子を救ふべし  喜べ勇め四方の国
 山野に生ひたつ人草よ  山野に生ひたつ神の子よ
 神は汝と共にあり  勇めよ勇めみな勇め
 勇んで時の至るをば  神に祈りて待てよかし
 ああ惟神々々  神にまされる力なし
 神の恵みに如くはなし  吾はこの世を教へゆく
 三五教の宣伝使  斎苑の館に現れましし
 瑞の御霊の大神の  聖き教を世に弘く
 宣べ伝へゆく神司  何れの人も世の中に
 合点のゆかぬ事あらば  吾が目の前に集まりて
 深き教を聞けよかし  吾等は神の御使
 神に代りて何事も  完全に委曲に諭すべし
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎ奉る』

 かく歌ひつつ年若き女宣伝使が店の前を通り過ぎた。甲乙丙丁戊等は宣伝使の後を追つかけて、どこまでもと従いて行く。宣伝使は被面布をかぶり、蓑笠をつけ、手甲脚絆草鞋の扮装にて金剛杖をつきながら、足拍子を取り、優しき声にて、五人の男の追跡するのも知らず進み行く。
 向かふの方より馬に跨がつて、やつて来たのは横小路の侠客愛州であつた。愛州は馬上ながら四ツ辻に立ち、声高らかに歌ひ出した。

『珍の都の人々よ  早く眼をさませかし
 物質文明の世の中は  もはや終りとなりにけり
 これの御国はその昔  高天原に現はれし
 桃上彦の天降りまし  恵みの露を降らせつつ
 汝等の祖先を守りまし  神人和楽の神国を
 いや永久に樹て玉ふ  珍の御国ぞ神の国
 四民平等博愛の  聖き教を樹て玉ひ
 上下和合し官民は  一致の歩調を取りながら
 世は安国と平らけく  治まりゆきし御代なれど
 近き御代より常世なる  怪しき国の曲教
 蔓り来たりて珍の国  先づ第一に上に立つ
 醜の司の魂を  物質本位に惑溺し
 優勝劣敗吾よしの  教をしきりに吹き込みて
 衆生の痛苦は白河の  夜舟と枕を高くして
 大廈高楼に安臥なし  尸位と素餐の譏りをば
 受けつつ知らぬ曲津神  上のなす事下倣ふ
 上流濁れば下にごる  中間連中はことごとく
 上流階級に圧倒され  国家の中堅ことごとく
 影を隠せし今日は  如何にせむ術なきままに
 吾等は神に祈りつつ  苦しむ衆生を救はむと
 背水会を組織して  義侠をもつて任じつつ
 衆生の権利を壟断し  私利を営む奴原の
 鼻つぱしをばねぢ折りて  モルヒネ注射を断行し
 なほも自ら悟らずば  吾に正義の剣あり
 珍の御国の御ために  尊き命を犠牲とし
 衆生に代つて大掃除  敢行せむと思ふなり
 仁義に富める人達よ  義侠に強き諸人よ
 吾等が傘下に集まりて  震天動地の大業に
 参加し玉へよ時は今  天と地とは転倒し
 上と下とは逆転し  善悪正邪を誤りて
 悪人ますます世に栄え  善人将に亡び行く
 この現状を見ながらも  吾が身の安全計るため
 袖手傍観する奴は  姿は人間なればとて
 体は畜生の容物だ  早眼をさませ眼をさませ
 虚偽と猜疑と罪悪に  満ちたる旧衣を脱ぎ捨てて
 仁慈と進歩と幸福に  満てる新衣と着替へかし
 正義に刃向ふ刃なし  誠を辿る吾々に
 神の守りのなからむや  衆生よ衆生よ奮起せよ
 起つて醜類打ち倒せ  汝等起つて倒さずば
 たちまち汝等亡びなむ  人間興亡の黄泉坂
 振へよ振へ今の時』  

と呶鳴つてゐる。女宣伝使は愛州の姿を被面布起しに眺めて、何思つたか、コソコソと横道へ姿を隠してしまつた。これは春乃姫が宣伝使と変装して、市中を宣伝に廻つてゐたのである。女宣伝使に従いて来た五人の男は、愛州の演説に気を取られ、女宣伝使の行方を見失つたのも気がつかなかつた。愛州は馬の頭を立て直し、横小路の吾が家の方面を目がけて、

『神が表に現はれて  善悪邪正を立別ける
 との御教は昔より  今に伝はりましませど
 今まで神の現はれし  例を聞きし事はなし
 物質界の現代を  救うて神の天国を
 建設するは肉体の  神に等しき真人の
 力でなければ世の中は  決して立つては行かうまい
 吾等はそれをば感じしゆ  ヒルの国をば後にして
 これの都に進み入り  先づ第一に吾が身をば
 犠牲となして済世の  模範を示し世の中の
 眠れる僧侶や宣伝使  比丘や比丘尼の目をさまし
 この世の泥をすすがむと  覚悟をきはめ侠客の
 身分となりて朝夕に  人類愛護の本旨をば
 遂げむがために励むなり  ああ惟神々々
 神は万物普遍なる  誠の霊にましまして
 人は天地の経綸を  司るべき器なり
 神人茲に合一し  無限絶対無始無終
 太き力を発揮すと  三五教の御教に
 示させ玉ふを自ら  事実に現はしためさむと
 思ひ立つたる侠客の  義侠にみちし愛州ぞ
 如何なる妨害あるとても  恐るな屈すなためらふな
 神は汝と共にあり  神の守りし人の身は
 如何なる曲も襲はむや  いざ諸人よ振ひ立て
 勇めよ勇め世のために  宝も名誉も打ちすてて
 来たらむとする神の世の  犠牲となつて尽せよや
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

と歌ひながら己が館を指して、馬上豊かに帰りゆく。道筋は人の山を築き、市中の人気は鼎の沸くが如くなりける。

(大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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