出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=68&HEN=4&SYOU=17&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語68-4-171925/01山河草木未 地の岩戸王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=16586

第一七章 地の岩戸〔一七四一〕

 三五教の宣伝使梅公別は白馬に跨がり、渺茫として天に続くデカタン高原の大原野を、東へ東へと那美山の南麓を目当に進み来たり、古ぼけた水車小屋の前に駒を留め独言、
『ハテ、訝かしや、今この附近に人声が確かに聞こえたやうだ。駒を早めて近寄り見れば人の住みさうにもないこの破屋一つ。水車はあれど運転中止の有様、何かこの小屋には秘密が潜んでゐるに相違ない。どれ一つ調べて見やう』
と駒をヒラリと飛び下り、水車小屋の柱に縛りつけおきながら、いろいろと四辺を耳をすまして窺つて見た。どこともなしに人の声が聞こえて来る。地の底のやうでもあり、また上の方から聞こえて来るやうでもあり、声の出所が解らぬ。梅公別は菰を敷きて端坐し瞑目して祈願を籠めたその結果は、「地下室に立派な人が投げ込まれてゐる」といふことが解つて来た。あたりをよくよく調べ見れば、草鞋に摺りみがかれた床板がある。グツと手をかけ一枚めくつて見ると、地下室へ相当の階段が通つてゐる。梅公別はこの階段を四五間ばかり右に左に折れ曲りながら降つて往くと、そこに二人の男が抱き合うて慄つてゐる。
梅公別『やアその方は何者だ。察するところ、何か良からぬ秘密の伏在する魔窟と見える。有体に申し上げろ』
サーマン『ハイ、ワワワ私はサササーマンといふヒヒヒ一人の人間でございます。何も別に悪い悪事をいたした覚えは更にございませぬ。右守の司様の御命令によりまして、ここに勤めてゐるのでございます。どうぞ今日の所は見逃して下さいませ。お慈悲です、お情けです、頼みます。コココラ、カーク、貴様もチチちつと言ひ訳の弁解をいたさぬか』
カーク『いや申し宣伝使様、私はカークと申しまして余り悪くもない、良くもない世間並みの人間でございます。実のところは右守の司が大変な謀叛を企らみ、カラピン王の太子スダルマン太子を、二千円の懸賞付きで取つ捉まえてくれと、内々御命令が下りましたので、二十人のものが、ソソその百円づつ確かに儲けさして頂きました。どうぞ御了見下さいませ。いつでも、取る金は取つたのですから、太子様は何時でもお返し申します。のうサーマン、ソソさうぢやないか』
サ『ソソそれでも太子様をココこの人に渡さうものなら、俺達のクク首が飛ぶぢやないか』
梅『お前たちのいふ事は些とも要領を得ない。要するにタラハン城の太子様を右守に頼まれて何処かへ匿したと申すのだな』
サ『ハイ、その通りでございます。毛頭相違はございませぬ。何処かへ匿しましてございます』
梅『何処かでは解らぬぢやないか。かつきりと在所を言つたらどうだ』
サ『ハイ、たうとう……所へ匿しました』
梅『何といふ所へ匿したのだ』
サ『ハイ、チチチのつく所です。オイ、カークお前も半分いへ。俺も秘密を明しては責任があるからなア。一口づつ言はうぢやないか』
カ『ハイ、宣伝使様、包まず隠さず申上げます。カーに匿しました』
サ『シーに匿しました』
カ『ツーに匿しました』
梅『なに、チーとカーとシーとツーと、アア地下室か。地下室と言へば此処ではないか』
サ『サーでございます』
カ『ヨーでございます』
梅『オイ、邪魔くさい。左様でございますと言へばよいぢやないか』
サ『こんな秘密を申し上げやうものなら、右守の司から打ち首にあはされますから、それで態と解らぬやうに言葉を分けて申しました。御推察下さいませ、あなたの明敏の頭脳でお考へ下されば解るでせう』
梅『なるほど、それも一理がある、面白い。それでは二人が分けて話してくれ。自分は言霊別だから一言聞けば大抵解る。さうしてこの地下室に押し込まれてゐる方は一人か二人かどうだ』
 二人は互ひに一言づつ、
『フ、タ、リ、サ、マ、デ、ゴ、ザ、リ、マ、ス。ソ、シ、テ、ヒ、ト、リ、ハ、ス、ダ、ル、マ、ン、タ、イ、シ、サ、マ、ヒ、ト、リ、ハ、ス、バー、ル、ヒ、メ、サ、マ、デ、ゴ、ザ、イ、マ、ス。ミ、ツ、カ、マ、ヘ、カ、ラ、ナ、ニ、モ、ク、ハ、ズ、ノ、マ、ズ、ニ、オ、シ、コ、メ、ラ、レ、ク、ル、シ、ン、デ、イ、ラ、レ、マ、ス』
梅『ヤ、もう解つた。貴様達は此処を些とも動くことはならぬぞ』
カ『ハイ動けとおつしやいましてもこの通り腰が抜けてしまつたものですから、動く事は出来ませぬ』

梅『荒金の土の洞穴底深く
  繋がれ給ふ君を救はむ

 吾こそは三五の道の神司
  君を救はむと忍び来にけり』

 太子は石牢の中よりさも爽かなる声にて、

『惟神神の恵みの幸はひて
  岩戸の開く時は来にけり

 三五の神の司の御恵みの
  露に霑ふ若緑かな

 吾ぎ妹子は隣の牢屋に繋がれぬ
  とく救ひませ吾より先に』

 スバール姫は最前からこの様子を考へてゐたが、地獄で仏に遇うたる心地、喜びに堪えず、さも嬉し気に、

『訝かしきこれの牢屋に捉はれて
  泣き暮らしけり吾等二人は

 皇神の珍の御光現はれて
  常夜の暗を照らす嬉しさ』

 梅公別は牢獄の鍵を探せども、何処にも鍵らしきものが見当らないので、両人に向かひ厳しく訊問して見ると、牢獄の鍵は右守の司が持つて帰つたとの答へである。梅公別は途方に暮れながら一生懸命に天の数歌を奏上し祈りはじめた。不思議や牢獄の岩の戸は自然にパツと開けて、五色の光明が室内を射照らした。太子もスバール姫も転ぶがごとく牢獄を走り出で、梅公別の体に前後より喰ひつき嬉し涙にかきくれ、少時言葉さえ出し得なかつた。
梅『承れば殿下はタラハン城の太子様、また貴女はスバール姫様とのこと、どうしてまアかやうな所へ押し籠められ玉うたのでございますか』
太『恥づかしながら吾々二人は恋におち城内をひそかに脱け出で、山奥の破れ寺に入つて匿れ忍んでをりました所、心汚なき右守のサクレンスなるもの、王家を奪はむ企みより、吾々を邪魔者と見做し、悪漢に命じ金を与へてふん縛らせ、かやうな所へ連れ参り、吾ら二人を干し殺さむとの企み、もはや決心の臍は極めてをりましたが、思ひも寄らぬ貴方のお助け、かやうな嬉しい事はございませぬ』
ス『宣伝使様、有難うございます。お蔭で命を救うて頂きました。この御恩はミロクの世までも忘れは致しませぬ。命の親の神司様、辱なふ存じます』
梅『人を救ふは宣伝使の役、そのやうに礼を言はれては却つて迷惑をいたします。神様が私の体を通して貴方がたをお救ひ遊ばしたのですから、国祖国常立大神様、豊雲野大神様にお礼をおつしやつて下さいませ。サア私と一緒に声を揃へてお礼をいたしませう』
『ハイ、有難う』
と両人は梅公別司と共に、心のどん底より満腔の赤誠を捧げて、感謝の辞を大神に奏上し終り、梅公別は両人に向かひ、
『サア皆さま、かやうな所に永居は恐れがございます。これから私がタラハン城へお送りいたしませう。今までの間違つた心を取り直し城内へお帰り遊ばし、大王殿下の宸襟をお安め遊ばしませ』
太『ハイ、何から何まで、御親切に有難うございます。しかしながらこの女は父には内証で連れてをりますので、此女を連れて帰るわけには参りませぬ。それだと言つて今更捨ててゆくことも可愛さうで出来ませぬ。また私の恋愛至上主義より見ても捨てるわけには行きませぬから、どうぞお慈悲に此処から二人をお見捨て下さいませ。一生のお願ひでございます』
梅『アーそれは間違つたお考へ、どうあつても私がお伴をいたしませう。さうしてお二人の恋愛は敗れないやうに私が媒介となつて、父王殿下の御承諾を得る事にいたしませう。必ず御心配なくお館へお帰りなさいませ』
『父は大変に頑固でございますから、神司のお言葉といへども到底承知はいたしますまい』
『それは貴方の心の偏見と申すもの。天の下に子を愛せない親がございませうか。あなたがこのスバール様を愛してをられるよりも百層倍増して、貴方の父上は貴方を愛してをられますよ。愛する貴方の心を慰むる恋人をどうしてお憎み遊ばしませう。宣伝使の言葉に二言はありませぬ。生命を賭しても貴方の恋を完全に成功させませう。承ればタラハン国は紛擾絶間なく、国家は危機に瀕してゐるやうです。御父殿下も御心配の折りから、天にも地にも一人子の太子様のお行衛が分らないやうな事では、層一層父殿下の御心配は増すばかり、国家の擾乱は日を逐うて激烈を増すばかりです。その虚に乗じて悪臣どもが非望を企て、世は一日と修羅の巷となるばかりでせう。是非私に跟いてお帰りなさいませ』
『ハイ重ね重ねの御教訓有難うございます。そんならお言葉に従ひ一先づ城内に帰る事に決心いたします。まことに済みませぬが、どうか送つて下さいますやう』
『やア早速の御承知、さすがはタラハン国の太子様、私も満足いたしました』
ス『妾もお言葉に甘へ、宣伝使様のお伴をいたしまして、太子様と共に参らしていただきませう。どうか宜敷うお願ひいたします』
梅『や、御心配遊ばすな。きつと円満に解決をつけてお目にかけませう。何事も神様にお任せ申せば大丈夫ですから。しかし太子様、この両人はどう遊ばしますか』
太『ハイ、許し難い悪人でございますれば、この両人を牢獄へぶち込み懲らしめてやりたいは山々でございますが、私も牢獄生活の苦しみを味はひましたので、吾が身を抓つて人の痛さを知れとやら、どうも可憐さうで放り込んでやる気もいたしませぬ。この処置については宣伝使様の御判断に任せませう』
カ『アア、もしもし宣伝使様、決して私はこの後において悪事は致しませぬから、どうぞ牢獄へ入れることだけは許して下さいませ。その代りお馬の別当でも何でもいたします』
梅『人を救けるは宣伝使の役だ。しかしながら恐れ多くも太子殿下を苦しめ奉つたその方どもなれば、一人だけ助けてやらう。一人は気の毒ながらこの牢獄に打ち込んでおくつもりだ。太子様、どちらが比較的善人でございますか』
太『ハイ、私としては甲乙の区別がつきませぬ。揃ひも揃つて悪い奴でございますから』
サ『もし太子様、私は何時も貴方に対し同情を持つてゐたぢやございませぬか。このカークと言ふ奴、私が「太子様にお腹が空くだらうから、焼甘藷の蔕でも買つて来てソツと上げたらどうだらう」というたところ、大悪党のカークの奴、「私はそんな宋襄の仁はやらない、断乎として水一杯も呑ます事は出来ない。右守の司にそんな事が聞こえたら、俺の首が飛ぶ」と極端に自己愛を発揮した奴でございますから、どうか私をお助け下さいませ』
梅『アツハハハハ、オイ、カーク、お前はサーマンが今言つたやうな事を申したのか』
カ『ハイ、是非はございませぬ。神様の前で匿したつて駄目でございます。あの通り申しました。誠に今となつて思へば申訳のない事をいたしました。どうか私を牢獄に投げ込んで帰つて下さいませ。サーマンは女房も有ることなり、私は一人身、どうなつても構ひませぬ。妻も無く、子も無く、何時死んでも泣く者さえございませぬから』
梅『ハハハハ、わりとは正直な奴だ。どうやらお前の方が善人らしい。さう有体に白状した上はお前の罪は消えてしまつた。気の毒ながらサーマンを牢屋に投げ込むより仕方がなからう。太子様、殿下のお考へは如何でございますかなア』
太『や、それは面白いでせう。人の秘密を明して自分が助からうといふやうな悪人は懲らしめのため、何時までも冷たい牢獄に投げ込んでおくが宜敷いでせう』
サ『もし太子様、殿下様、どうぞ今までの悪事は大目にみて下さいませ。その代り殿下のためならば、今死ねとおつしやつても死にますから』
太『やア面白い。しからば牢獄に投げ込む事は許してやらう。どうぢや嬉しいか』
サ『ハイ嬉しうございます。ようまアお助け下さいました。今後は殿下のためなら何時でも命を差し出します』
太『やア愛い奴だ。そんなら余の身代りとなつて今此処で死んでくれ。汝の首を提げて右守司の前に差出し、スダルマン太子の生首と申し、首桶に入れて進物にいたす考へだから』
サ『メメめつさうな、今ここで命を取られては助けてもらつた甲斐がございませぬ』
太『ハハハハハ、汝のごとき生首がどうして余の身代りにならうか。瓦は金の代りにはなるまい。アア総て人間の心は皆こんなものだらう。父王殿下のお側に親しく仕へ侍る老臣どもは「大王殿下のためならば何時でも命を的に働きます」と、臆面もなく口癖のやうに申してゐたが、五月五日の大騒擾の勃発した時は、左守、右守を始め重臣どもは四方に逃げ散り、ただの一人も参内したものはなかつた。高禄に養はれた重臣でさへもその通りだから、匹夫の汝が命を惜しむのは無理もない。余は宣伝使に救はれた祝ひとして、汝等両人を立派に放免する。何処へなりと勝手に行つたがよからうぞ』
 太子のこの情けの籠もつた言葉を聞くより、今まで腰を抜かして居た両人はムクムクと起き上がり、長居は恐れまたもや御意の変らぬ内にといつたやうな調子で、「ア、リ、ガ、ト、ウ、サ、マ」と互ひに一言づつ謝辞を述べながら、一目散に階段を昇り、雲を霞と吾が家をさして馳せ帰り行く。
 梅公別は遥の原野に遊んでゐる二頭の野馬を捉へ来たつて両人に勧めた。スバール姫は騎馬の経験がないので、梅公別が乗り来たつた鞍付きの馬に乗せ、二人の男は荒馬に跨がりながら駒の蹄に土埃を立て、東北の空を目当に駈けて行く。

 捉はれし太子の御子も三五の
  神の恵みに放たれてけり

(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 加藤明子録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web