出口王仁三郎 文献検索

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物語68-4-161925/01山河草木未 戦伝歌王仁三郎参照文献検索
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第一六章 戦伝歌〔一七四〇〕

『高天原に宮柱  千木高知りて永久に
 鎮まりいます伊都能売の  神の命を畏みて
 山野河海を打ちわたり  照国別に従ひて
 河鹿峠や懐の  谷間を越えて漸くに
 祠の森に辿りつき  山口浮木の森を越え
 ライオン川を打ち渡り  葵の沼に照りわたる
 月に心を清めつつ  あなたこなたの山々に
 立籠りつつ国人を  苦しめなやむ曲神を
 言向和し梓弓  引きて帰らぬハルの湖
 玉の御舟に身を任せ  数多の人を救ひつつ
 スガの港に上陸し  神の教を伝へつつ
 またもや山野を打ち渡り  照国別の師の君の
 神の軍と合せむと  夜を日についで進むをり
 巽の方に鬨の声  炎々天を焦がしつつ
 タラハン城市の大火災  救はにやならぬと雄健びし
 歩みを運ぶをりもあれ  曲神どもに遮られ
 五日六日と徒に  あらぬ月日を過しつつ
 標渺千里の荒野原  進み来るこそ勇ましき
 天に日月冴え渡り  下界を照らし玉はむと
 心をなやませ玉へども  中津御空に黒雲は
 十重や二十重に塞がりて  天津日影を隠しつつ
 初夏の頃とはいひながら  まだ肌寒き秋心地
 田の面に植ゑし稲の苗  発達あしく赤らみて
 飢饉の凶兆を現はせり  ああ惟神々々
 御霊幸はへまして  下万民の罪科を
 許させ玉へまた上に  立ちて覇張れる曲人の
 心を清め罪をとり  誠の人となさしめて
 天の下には仇もなく  暗も汚れもなきまでに
 照らさせ玉へ惟神  梅公別の宣伝使
 厳の霊や瑞霊  合はせ玉ひてなりませる
 伊都能売霊の大神の  御前に慴伏し願ぎ奉る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は割るるとも  誠一つの三五の
 神の教に従へば  この世の中に一として
 怯ぢ恐るべきものはなし  神が表に現はれて
 神と鬼とを立別ける  この世を造りし神直日
 心も清き大直日  ただ何事も人の世は
 ただ惟神々々  広き心に宣直し
 罪を見直し聞直し  許して通る神の道
 行方に曲の現はれて  吾が身に如何なる仇なすも
 神の恵みに包まれし  誠の身魂何かあらむ
 襲ひ来たれよ曲津神  戦ひ挑めよ大蛇ども
 吾には厳の備へあり  生言霊の武器をもて
 幾億万の魔軍も  瞬く中にいと安く
 言向和し進むべし  三千世界の梅の花
 一度に開く神の教  開いて散りて実を結ぶ
 月日と土の恩を知れ  この世を救ふ生神は
 高天原に現れませり  アア勇しや勇しや
 神の任しの宣伝使  月の御国に降り来て
 いろいろ雑多の災や  百の苦しみ甘受しつ
 無人の境を行くごとく  春野を風の渡るごと
 神の大道を開き行く  ああ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』  

 水車小屋の立番に雇はれてゐたカーク、サーマンの二人は宣伝歌の声を聞いて、少時耳を傾けてゐた。
カーク『オイ、サーマン、どうやらあの声は三五教の宣伝歌の声のやうだぞ。何とはなしに心持ちが悪くなつて来たぢやないか。もしもあんな奴が此処へでもやつて来よつたら、忽ち地下室の太子の遭難を看破し、俺たちを霊縛とやらをかけ倒しておき、肝心の玉を掻つ攫へて、帰るかも知れないぞ。幸ひにして外の道を通ればいいが、どうやら馬に乗つて此方に来るやうな塩梅式だ。こいつア何とか考へねばなるまいぞ』
サーマン『ウン、いかにも、身体がビクビク慄ひ出して来た。金玉寺の和尚が上京しさうになつて来たよ』
『向かふも宣伝使だ。宣伝使を追つ払ふには、こつちも宣伝使の真似をせなくちやなるまい。霊をもつて霊に対し、体をもつて体に対し、力をもつて力に対するのが神軍の兵法だからのう』
『宣伝歌を歌へと言つたつて、俺は不断から無信心だからウラル教の宣伝歌なんかチツとも知らぬわ。「飲めよ騒げよ一寸先や暗よ」ぐらゐは知つてるが、それから先はネツカラ記憶に存してゐないからな』
『ナーニ、そこはいい加減に出鱈目を喋るのだ。声さへさしておけばいいのだ。あまり明瞭した事をいふとアラが見えて却つて威厳のないものだ。チツタわけの分らぬことを囀る方が、よほど奥があるやうに見えて、敵を退散させるのに最善の方法だ。マア貴様から一つやつて見よ。肝心要の正念場になりや、このカークさまが堂々と言霊を発射するから、まづ先陣として貴様が出鱈目の宣伝歌をやつて見い。まだ距離が遠いから何をやつてもいい、ただ歌らしく聞こへたらよい。こちらの歌が明瞭解るやうになつたら、俺が本陣を承るのだ。いいか一つやつてみい』
『俺や貴様の知る通り牝鶏だから到底歌へないよ。どうか歌はお前の専門にしておいてくれ。一生の頼みだから』
『よし、歌へなら俺一人で引受けるが、その代り、この間取つた百円の中二十円はこちらへ、歌賃として渡すだらうな』
『エー、二十円も出さんならぬなら俺が歌つてみせる。その代り貴様も歌ふのだぞ。貴様が歌はねば此方へ二十円もらふのだ』
『ヨシヨシ、もし俺がよう唄はなんだら百円でもやるわ。サア歌つたり歌つたり、敵は間近く押寄せたりだ、早く早く』
『エー、やかましい男だな。何分腹に貯蓄がないのだから、さう着々と出るものかい。嬶が子を産り出すのは、ずゐぶん苦しいといふけど、何ほど難産と言つても腹の中にあるものを出すのだから易いものだ。俺たちは腹にないものを出すのだから苦しいものだよ。アーア二十円の金儲けは辛いものだな』
『エー、グヅグヅ言はずに早く歌つたり歌つたり』

サーマン『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗の後には月が出る
 つきはつきぢやが酒づきぢや  俺のお嬶のサカヅキは
 何処にあるかと尋ねたら  草野ケ原の谷の底
 お舟のやうな形した  池の真中に島がある』

カーク『馬鹿、そんな宣伝歌が何有難い。もつとしつかり言はぬかい』
『生れてから初めての歌だもの、さううまく行くものかい。さう茶々を入れない。サアこれからやり直しだ。しつかり聞け、

 大宮山の神の森  千木高知りて永久に
 おさまり玉ふ神さまは  盤古神王といふことだ
 この神様はカラピンの  大王様の氏神だ
 さてこの頃は何として  あれだけ力が無いのだらう
 大切の大切の氏子さま  カラピン王のお城まで
 飛火がいたして大切な  お宝物が焼けたのは
 神の守護のない証  今は洋行が流行るので
 神王様も沢山な  旅費をこしらへ船に乗り
 常世の国へ渡つたか  お宮の眷族八咫烏
 一月前から一匹も  森でカアカア鳴きよらぬ
 ただ悲しげに杜鵑  ホホホホホ亡ぶと鳴いてゐる
 右守の司に頼まれて  カラピン王の太子をば
 懸賞付きで縛り上げ  地底の牢獄に繋いだは
 皆俺たちの功名だ  もし神さまがござるなら
 氏子と生れます太子をば  こんな酷い目に会はしたら
 必ず罰をあてるだらう  チツとも祟りのないのんは
 神がお不在の証ぞや  それ それ それ それ宣伝歌
 だんだんだんだん近うなつた  オイオイカーク用意せよ
 交代時間が迫つたぞ  俺の宣伝歌は種ぎれだ
 もうこの上は逆様に  振つたところで虱さへ
 こぼれる気遣ひないほどに  どうやう鼻血が落ちさうだ
 胸と腹とはガラガラと  大騒擾が勃発し
 地震雷火の車  臍の辺りが熱うなつた
 お臍が茶でも沸かすのか  暑くて苦しうて堪らない
 これこの通り汗が出る  こら こら こら こらカーク奴
 早く代つて歌はぬか  白馬の姿が見え出した
 どうやら立派な宣伝使  こちらに向かつて来るやうだ
 盤古神王塩長彦の  不在の神さましつかりと
 私の願ひを聞きなされ  いよいよ歌の種ぎれだ
 アア叶はぬ叶はない  目玉が飛び出て来るやうだ

オイ、カークこれで二十円の価値はあるだらう。サア早く貴様もやらぬかい。敵は間近に押寄せたぢやないか』
『よーし、俺の武者振りを見てをれ、立派な歌だぞ、ヘン、

 右守の司に仕へたる  俺は誠のカークさま
 頭をカーク恥をカーク  終ひの果には疥癬カク
 人に礼儀をカク奴は  俺ではないぞや今ここに
 吠面かわいて慄うてゐる  小童野郎のサーマンだ
 カークのごとき腰抜けを  俺の相棒にした奴は
 サツパリ向かふの見えぬ奴  右守の司も気がきかぬ
 どことはなしに気がおくれ  向かふ猪には矢が立たず
 近く聞こゆる宣伝歌  胸に響いてせつろしい
 いやいやまてまてこれからだ  捻鉢巻をリンとしめ
 二つの腕に撚りをかけ  ドンドンドンと四股をふみ
 三十六俵の真中を  俺が陣屋と定めつつ
 いかなる強き敵軍が  押しよせ来るも追ひ散らし
 殴り倒して吼面を  かわかせやるは目のあたり
 盤古神王塩長彦の  貴の大神守りませ
 アアアますます近よつた  こんな処へ宣伝使
 やつて来たなら何とせう  どうか彼方の方角へ
 迷うて行くやうにして欲しい  誠の神があるならば
 俺の願ひを聞くだらう  こりやこりやサーマン地下室に
 心を配れよ油断すな  大切の玉を奪られては
 後で言訳ないほどに  ああ惟神々々
 かうなる上は地下室に  隠れてござる太子こそ
 却つて俺より幸福だ  ほんとに怪体な声がする
 彼奴の歌を聞くたびに  腹はグレグレ グレついて
 胸元苦しく嘔げさうだ  にはかに頭が痛み出す
 胸はつかへる腹痛む  足の付根がガクガクと
 遠慮もなしに慄ひ出す  ああ惟神々々
 わづか百両の金貰うて  こんな辛い目をさせられちや
 ほんとに誠につまらない  あの百両は玉の緒の
 命一つと掛替へだ  思へば思へば俺たちの
 命はお安いものだな  ああ惟神々々

叶はん叶はん、到底俺たちの挺にも棒にもあふ代物ではないわ。一層地下室に潜り込まうか。かへつてこんな処にをると宣伝使の目につき、首つ玉でも引抜かれちや大変だ。三十六計逃ぐるが奥の手、サーマンだつて地下室に潜り込んで土竜の真似をしてゐやがる。ナーニ俺一人頑張る必要があらうか』
と言ひながら水車小屋の中に慌ただしく走り込み、ドンドンドンと地下室さして降り行く。

(大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 北村隆光録)



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