出口王仁三郎 文献検索

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物語67-4-211924/12山河草木午 針灸思想王仁三郎参照文献検索
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第二一章 針灸思想〔一七二三〕

 左守の伜アリナは、評議の結果一ケ月の謹慎を命ぜられ、父の館に閉ぢ籠められてゐた。左守司のガンヂーも別に王からの咎めはなけれども、殿中を騒がし右守と刃傷したその責任を負ひ、自ら門を閉ぢ謹慎を守つてゐた。
ガンヂー『オイ伜、貴様は何といふ不埒な事を致したのだ。貴様がいつも太子の君を煽て上げ、共産主義だとか、人類愛善だとか、ハイカラ的の新思想を吹き込むものだから、あんな御精神におなり遊ばされ、万代不易の王統を継ぐ事をお嫌いなされ、殿内を飛び出し、上は大王殿下を始め奉り、この父や老臣共に心配をかけ、上下を騒がしたその罪はなかなか浅くはないぞ。これから心を改むればよし、今までの料簡でゐるならば太子のお側付は許されない。さうして吾が家にも置く事は出来ない。ちつとは親の心にもなつて見てくれ。王様の宸襟を悩まし奉り、老臣共に心配をさせ、殿内を騒がしたぢやないか』
アリナ『ハイ、いかにも父上のお言葉の通り、大王様に御心配をかけ、老臣を驚かせ殿内を騒がしましたのは事実でございます。しかし私は同じ殿内を騒がしても、父上のやうな刃傷などの乱暴は致しませぬ。お父さま、私に御意見下さるのならば、先づ貴方のお尻を拭ひ、自分の顔に留まつた蜂を払ひ、真面目になつて御教訓を願ひます。この親にしてこの子あり、親子が一致して、大王殿下の宸襟を悩まし奉り殿内を騒がしたのも、何かの因縁でございませうよ』
『エエ、ツベコベと訳も知らずに屁理窟を言ふな。お前と俺とは同じ殿内を騒がしたにしても訳が違ふのだ。天地霄壤、黒白、月鼈の差違があるのだ。かれ右守のサクレンス奴、王家の専制政治を廃し、共和政治を立てやうなどと、大それた国賊的機略を弄し、殿下の宸襟を悩ませ奉つたによつて、俺は命を的に奸賊を誅伐せむと彼れ右守に斬りつけたのだ。貴様のやうに、大切な太子に種々のハイカラ的思想を注入し、太子の精神を惑乱し、遂には国家の一大事を惹起せむとするやうな悪逆無道の行為とは比べものにならぬのだ。確りと性念を据ゑて父の言葉を聞いたらよからうぞ。大王様は金枝玉葉の御身をもつて、汝一人のために有るにあられぬ御苦心遊ばしてござるのだ。その伜の父たるこのガンヂーが、どうしてノメノメと生きてをられやうか。お前がどうしても悔い改めて、太子の御心を翻さぬにおいては、もはやこの父は自害して申し訳を立てねばならぬ羽目となつてゐるのだ。不忠不義の極悪人とは貴様の事だ。どうしてまアこんな極悪人が俺の胤から生れたものだらうなア』
『アハハハハ、お父さま好く自分の今までの行動を顧みて御覧なさい。さう、堂々と私に向かつて、御意見は出来ますまい。お父さまは私が幼年の時までは、右守の司と仕へてゐらつしやつたのでせう。その時に忠誠無比のシャカンナといふ左守の司様が国政を料理してござつたでせう。亡くなられた王妃様は悪魔に魅いられ、日に夜に残虐性が募り、遂には無辜の民を虐げ、憐れなる妊婦の腹を割いて胎児を剔ぐり出し、丸煮にして食膳に上せ舌皷を打つてござつたにも拘らず、死を決して直諫し奉る事も知らず、却つて王妃に媚び諂ひ、残忍性をしてますます増長せしめられたぢやございませぬか。国民の怨嗟の白羽の矢が王妃の狩の遊びの砌、天の一方より飛び来たつて王妃の額を射ぬきその場で絶命し、国民はこれを聞いて却つて喜んで密かに祝賀会を開いた事があるぢやございませぬか。それほど国民の怨嗟の的となつてゐる王妃を嗾かした上、大王様にまでいろいろの悪い知恵を吹き込み……天誅の白羽の矢を左守の部下が射放つたものだ……などと無実の罪を着せ、大王の手をかつて左守の妻ハリスタ姫を斬り殺し、なほ飽き足らず左守の命を取らむとして果さず、遂に自分が取つて代つてしやあしやあ然として左守の職につかれたぢやありませぬか。それさへあるに左守家の巨万の財産を全部没収し、自分が国民に信用を繋がんがために頭の揉めない、腹の痛まない、かれの財産を国民に与へ、善の仮面を被り、悪行を遂行した極重悪人ぢやございませぬか。お父さまのためにシャカンナは可憐な娘と共に天下漂浪の旅に出で、今にその行方さへ知れないといふぢやありませぬか。あなたの前にては誰も彼も阿諛諂侫追従の有らむ限りを尽し、お髯の塵を払はむとする役人ばかりでございますが、彼等は面従腹背、蔭では、いづれも後ろ向いては舌を出し、言葉を極めてお父さまの悪逆無道を罵り、かつ憎んでをりますよ。タラハン国が今日のごとく乱れかかつて来たのも皆、お父さまの責任ですよ。圧制と強圧と専制に便利な時代不相応の法律を作り、軍隊や警察や監獄の力で、今までお父さまは国民の頭を抑へつけ、思想を圧迫し、あらむ限りの吾儘勝手を振舞つて来たぢやありませぬか。お父さまの悪徳が子供に報いて遂に累を王家に及ぼし、今日の悲惨の有様になつたのぢやございませぬか。お父さまこそ私の意見を聞いて翻然と悔い、忠誠の赤心と愛善の行ひに立ちかへつてもらひたいものです。私はお父さまの口から御意見を聞くのは、ちやうど地獄の鬼が擦鉦を叩いて念仏を唱へてゐるやうで滑稽でたまりませぬわ。いやむしろ抱腹絶倒の至りでございます、アハハハハ』
『これや伜、何といふ口巾の広い事を申すか。かりそめにも子として父の行為を云々し、くだらぬ意見口を叩くといふ事は、天地転倒も甚だしいではないか。「親と主人は無理を言ふものと思へ」との格言を何と心得てゐるか。何というても親父ぢやないか。善悪正邪にかかはらず、親に反抗する奴は天下の不孝者だ。貴様も最早十八、ちつとは孝行といふ事を知れ。いな忠義の道を弁へねばなるまいぞ』
『お父さま、貴方は親といふ名の下に私を圧迫するのですか。吾が子になればどんな無理難題を吹きかけても、それで道理が立つと思ひますか。そんな古い道徳主義は三百年も過去の事ですよ。こんな流義で国政に当られては、数多の役人や国民どもの迷惑が思ひやられます。私はお父さまの所謂、不孝者、不忠者になりたうございます。「大孝は不孝に似たり。大忠は大逆に似たり」と古の聖人も言つたぢやございませぬか。大義親を滅するとかいふ諺もございます。私は大義明分のためには親を捨てます。何時までもその精神をお変へ下さらぬ以上は、親でも無ければ子でもありませぬ。私の方から貴方に向かつて勘当をいたしますよ』
『これ伜、言はしておけば何処までもつけ上り親を親とも思はぬその暴言、手打ちに致してくれるぞ』
『お父さま、よいかげんに血迷つておきなさいませ。何を狼狽してをられるのです。アリナの身体は最早貴方の自由にはなりませぬ。私の身体は太子様の杖柱とお頼み遊ばす、タラハン城に無くてはならない国宝ですよ。もしお手打ちに遊ばす御所存ならば、大王殿下および太子殿下のお許しを得た上になさいませ。太子殿下の寵臣を、何ほど左守だつて自由にする事は出来ますまい。それこそ貴方は不忠不義の大逆賊となるでせう』
『不忠不義とは何たる暴言ぞ。貴様こそ万代不易の王家を覆へさむとする悪逆無道の曲者だ。不忠不義の逆賊だ。共産主義や平民主義を太子殿下に日夜吹き込んだ売国奴め、黙言おろう』
『お父さま、天帝より賦与された私の言論機関を行使するのは、私の自由の権利でございます。今日の不完全極まる貴方の作つた法律でさへも、言論集会の自由を認めてゐるぢやございませぬか。左様な解らぬ事をおつしやいましては、耄碌爺といはれても弁解の辞はありますまい。矛盾混沌、自家撞着もここに至つて極まれりといふべしです。あなたは一体個人の人格を無視せむとしてゐられますが、国民としても、個人としてもその個性を十分発達させ、天地の分霊としての働きを十二分に発揮させ、その自由の権を十分行使させねばならぬぢやありませぬか。それだのに、あなたは圧迫や威喝をもつてこれを妨げむとするのは、時代に疎い癲狂痴呆者といはねばなりますまい』
『お前は年が若いから政治の枢機に参加した事がないから、左様な小理窟をこねるのだ。しかしながら理論と実際とは大いに違ふものだ。今頃の政治家を見よ、野にある時は時の政府の施設に対し、どうのかうのと極力反対を試み、民衆を煽て上げ遂に政府を乗つ取り、さて国政を執つてみると俄然と調子が変つてきて、野にあつて咆哮した主義主張もケロリと捨て、いな放擲せなくてはならぬやうになるものだ。それだから世の中は議論と実際とは大いに径庭のあるものだ。その間の消息も知らずに青二才の分際として、小田の蛙の鳴くやうにゴタゴタいうても納まらないぞ。総て政治の秘訣は圧迫に限るのだ』
『どこまでもお父さまは解らないのですな。理窟はどんなにでもつくものですよ。専制と圧迫を唯一の武器として治めてゐたスラブはどうです。チヤイナはどうですか。既に已に滅亡したではありませぬか。世界各国競うて共和主義をもつて治国の主義となし、次から次へと王政が亡びてゆく趨勢を見ても、時代の潮流は共和主義に向かつて、急速力を以つて進んでゐるぢやありませぬか、個人個人を無視するやうで、どうして国家を治める事が出来ませうか。賢明なる太子殿下は早くもこの点に気付かれ、王位を去つて庶民となり、個人として、人間らしい生活をやつてみたいと望んでゐらつしやるのですよ。もうお父さま、あなたも好い加減に骸骨をお乞ひなさい。あなたが一日国政を料理さるればさるるだけ、それだけ国家は滅亡に向かふのです。国民の多くは……頑迷固陋の左守が、一日も早くこの世を去れば、一日だけ国家の利益だ……と言うてをりますよ』
『お前は個人個人というて盛んに個人主義をまくし立てるが、個人主義が発達すればするほど専制政治が必要ぢやないか。完全なる個人主義が発達し、生活し得る力が出来たところで、ほんの小つぽけな砂のやうなものだ。二十万の国民が、二十万粒の砂になつたやうなものだ。個々別々になつた砂は何ほど堅固でも団結力はあるまい。個人としてはよからうが、国家および団体としては実につまらぬものぢや。そこで、カラピン王家といふ大きな革袋が必要なのだ。この革袋に二十万粒の砂を入れ袋の口を固く縛り、横槌などで強く叩きつけてこそ初めて一つの国家団体が固まるのぢやないか。革包の破れた袋はいはゆる支離滅裂何の力もない。それを貴様は破らうとする極重悪人だ。賢明なる殿下のそれくらゐの道理のお解りにならない筈はないのだが、貴様が常に悪い思想を吹き込むものだから、あのやうな悪い精神におなりなされたのだ。いはば貴様はタラハン国を覆へす悪魔の張本だ。アアもう仕方がない。死ぬにも死なれず、伜は何ほど説き聞かしても頑迷不霊にして時代を解せず、政治を知らず、何とした苦しい立場であらう』
『お父様、煩悶苦悩の今日の境遇、私も同情いたしますが、しかしながら心の持ちやう一つでございますよ。ちつと郊外の散歩でもして、天地の芸術を御覧なさいませ、さうすれば些とは胸も開けて新しい思想が生れて来るでせう』
 左守は青息吐息しながら、
『アアアアとやせむ角や線香の煙となつて、タラハンの国家は滅ぶのかなア』

(大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 加藤明子録)



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