出口王仁三郎 文献検索

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物語67-3-151924/12山河草木午 貂心暴王仁三郎参照文献検索
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第一五章 貂心暴〔一七一七〕

 一方バルギーは沢山の部下に酒肴および美食を与へ、「今日は奥様の十年祭だから、遠慮会釈もなく呑め喰へ」と命令しおき、コルトンと共にシャカンナの居間に細長い干瓢頭をニユツと突き出した。
バルギー『エー親方様、室外にて承れば、今晩は最早読経はお廃しになるとのこと、……英雄と英雄との会合が何よりの御回向になる……と仰せられたのを承り、部下に用意の酒肴を与へておきました。大変な御機嫌でございますな』
シャカンナ『ウーン、今日はどこともなく天気も好し、気分の好い日だ。コルトン、汝の骨折りで、俺の片腕を拾つて来てくれたやうなものだ。ヤ、感謝する。マア一杯やれ』
コルトン『エー、親方様、合点のいかぬ事おつしやいますな。何時も貴方はコルトンは右の腕、バルギーは左の腕とおつしやいましたが、この修験者が片腕とならば、一体どうなるのでございます。三本の腕は根つから必要ないやうに考へますがな』
シヤ『ウーン、それでいいのだ。コルトン、バルギー二人を合して左の腕とする、そしてこの天真坊殿を右の腕とするのだ。これから、さう心得たがよからうぞ』
コル『ハイ、仕方がありませぬ。のうバルギー、それで辛抱せうかな』
バル『ウーン、到頭二つ一だ。ずゐぶん相場が下落したものぢやないか。早晩こんな事が突発すると思うてゐたのだ。汝が仕様もない修験者を引張つてくるものだから、こんな破目になつたのだ。エー、沢山の乾児に対し、俺は今日から半人前になつたなどと、どうしていはれるものか。狼のやうな連中を、親分の片腕といひ、威喝して、やうやく治めてきたのだのに、半片腕となつちや部下の統制も出来まい。あーあ仕方がないなア』
玄『ワツハハハハハ、オイ、コルトン、バルギー、何といふ情けない面をするんだいエエン。よく考へてみろ、天帝の化身、天来の救世主と、たとへ半分にもせよ、肩を並べるといふことは汝達にとつては、無上の光栄ぢやないか。何だその不足さうな面は……まるきり梟鳥が夜食に外れたといはうか、せつかく苦心して盗んで来た松魚節を犬に取られた猫のやうに、つまらぬ面付きして半泣きになつてるぢやないか。チツとしつかりせぬかい。そんな腰抜を友達に持つたと思へば、俺も泣きたくなつて来るワイ。ウツフフフフ、情けない顔だのう。それでも元の通りになるだらうか。耆婆扁鵲でも頼んで来ねば、快復は到底覚束ないだらう。俺の診察するところによれば、予後不良だ。瀕死の重病だ、アハハハハ』
シャ『オイ、お前達、兄弟喧嘩はみつともないぞ。ともかく俺に免じて仲良うしてくれ。少々の不平や不満は隠忍するが、俺に対する忠義だ。俺の言ふ事なら、何でも聞きますと、いつも言つてるぢやないか。自分の都合の好い事は二つ返詞で早速聞くなり、チツとばかり面白くないといつて、そんな怪体な面をするものぢやない。あまり肝玉が小さうすぎるぢやないか。それよりも玄真殿のつらつて来た棚機姫様の柔らかいお手々でお酌でもしてもらつて、機嫌を直したらよからう』
コル『エ、何と親方仰せられます。こんな奇麗なお方に……酒をついでもらつて呑め……とおつしやるのですか、ヤ、有難い。さすがは親分だ。気が利いてる。のうバルギー、こんな事があるから、親分には放れられないといふのだ、エヘヘヘヘ』
バル『オイ、コルトン、みつともないぞ。何だ、汝の口から光つた糸のやうなものが、下つてゐるぢやないか。たぐれ たぐれ』
コル『ナアニ、コリヤ棚機姫様が錦の御機をお織り遊ばす玉の糸だ。粘液性に富み、そして光沢が鮮かだらう、イツヒヒヒヒ』
玄『オイ、コルトン、バルギー、今日から俺は天帝の化身、玄真坊の頭尾を取つて、天真坊と改名したのだから、今後は天真坊様と呼んでくれよ。その代りに、天真爛漫たる棚機姫さまの柔かいお手々で、お酒のお給仕を、今日一席に限り許してやらう。どうぢや有難いか』
コル『さう恩にきせられると、根つから有難くもありませぬワ。のうオイ、バルギー、あまり勿体なくて目が潰れると困るから、男らしく平に御免を蒙らうぢやないか』
バル『俺や、何といつても有難いワ。盃に一滴でもいいから注いでもらひたいな。キツとこんな女神様に酒をついでもらふと、その徳にあやかつて出世するよ。そしてこんな美しい女房が持てるかも知れないからな』
コル『ヘンおつしやいますワイ。反古の紙撚で編みあげた羅漢のやうな面しやがつて、美人の女房も午蒡もあつたものかい。チツと汝の面と相談したらよからうぞ、ウツフフフフ』
女『もし、天帝の御化身様、あなたは妾がスガの山に参拝いたしました時、天から降つたとおつしやいまして、……お前の母は決して死んでゐない。生きてをるから会はしてやらう……とおつしやつたぢやございませぬか。それを誠と信じ、此処までお伴をして参りましたのに……泥棒の酒の酌をせよ……とはお情けないお言葉ではございませぬか。そして貴方は最前から聞いてをれば、この世を許る悪魔の玄真坊さまとやら、オーラ山に立籠り数多の人間をゴマ化してござつた太いお方のやうです。私はモウ愛想が尽きましたからモウ御免を蒙つて独りで帰ります。どうぞこれまでの御縁と思ひ諦め下さいませ。あなたの素性が判つた以上は、半時だつて側にをれませぬ。そして皆様に申し上げておきますが、只今、玄真坊様に……これまでの御縁と思ひ諦めて下さい……と言つたのは、決して怪しい関係のある意味ではございませぬ。スガの山から此処まで連れて来られたことを言ふのでございますからね。一樹の影の雨宿り、一河の流れを汲むさへも他生の縁、といひませう。どうか、誤解のないやうに御賢察を願ひます、ホホホホホ。アタ阿呆らしい、妾は何といふ馬鹿だらう。こんな売僧坊主に誘惑されて、自分で自分に愛想がつきて来た。左様なら。皆さま、ゆつくり御酒でもおあがりなさい』
とツツと立つて帰らうとする。玄真坊は毛だらけの猿臂を伸ばし、グツと力を入れて女の首筋を掴み、その場に捻伏せながら、川瀬の乱杭のやうな歯を見せ、大口を開いて、
『アハハハハ、てもさてもいい頓馬だなア。この玄真坊様の舌三寸に操られ、こんな岩窟までおびき出されたのは、其方の不覚だ。モウかうなる以上は、なにほど帰らうといつても帰すものか。お前を此処へ連れて来たのは深い企みのある事だ。因果を定めて服従した方が其方の身のためだらう。てもさても可愛ものだなア』
女『エー、汚らはしい、悪魔の口から可愛い者だなどと、そんな同情的な悪言はやめて下さい。妾は憚りながら、スガの港の百万長者アリスの娘、ダリヤ姫でございますよ。吾が家へ帰れば何不自由なく安心にゆけるものを、何を苦しんでこんな不便な土地へ参り、イケ好かない売僧坊主のお前に従ふやうな馬鹿な事は致しませぬから、思ひ切つて、男らしう私を帰らして下さい』
玄『さう片意地を張るものぢやない。人間は浮き沈み七度といつて、いろいろの波風に当らねば人生の真の幸福は味はへないものだ。なにほど百万長者の娘でも、一日に一斗の米を食ふわけにもいかず、着物の十枚も二十枚も着るわけにはゆこうまい。お前の宅にをつても此処にをつても、食ふだけのことは食はしてやる。決して不自由はさせぬ。どうだ、出家に肌を触るれば、子孫七代繁栄するといふぢやないか。その上、七代前の先祖までが地獄の苦を逃れ極楽浄土へ登るといふ功徳がある。よく祖先や子孫の幸福を思つて、俺の言ひ条につくが、アリス家のためだらうよ。どうだ、合点がいつたか。目から鼻へ突き抜けるやうな賢いお前の事だから、キツと俺の言ふ事が分つただらうなア』
ダリヤ『エー汚らはしい、ようそんな事をおつしやいますな。貴方は山賊の親分と結託し、オーラ山の焼直しをやるお考へでせう。そんな危ない事はおよしなさいませ。今度はお命が亡くなりますよ』
玄『アハハハハ、お前のために命の亡くなるのは本望だ。一層のこと、お前のその優しい手で殺して欲しい。コレ、ダリヤ、これだけ思ひ込んだ男、さう無下に振り払ふものぢやない。男冥加に尽きるぞよ』
ダリ『エエ何なつとおつしやいませ、私は知りませぬ。この上貴方に対し言葉をかはしませぬ』
玄『エ、さてもさても渋太い女だなア』
コル『アハハハハ、天帝の御化身様も女にかけたら脆いものだな。オイ、バルギー、こんなデレ助と兄弟分になるとは、あまり有難すぎるぢやないか。親分も親分だ。どこに見込があるのかな』
バル『久米の仙人でさへも、女の白い腿をみて通力を失ひ、天からおちたといふぢやないか。なにほど天帝の御化身だつて、こんな美しいシャンの面を見りや、堕落するのは当然だよ、ウフフフフ』
シャ『オイ、コルトン、バルギー、酒を注いでくれ。何だか天真様のチンチン喧嘩で、座が白けたやうだ。一杯呑んで大いに踊つてくれないか』
コル『ハイ、已に已に胸が踊つてをります。そしてこの天帝の化身さまは、棚機姫さまに余程おどつてをりますね。いな劣つてゐるぢやありませぬか』
シャ『オイ、いらぬ事をいふな。天真坊様の御機嫌を損ねちや大変だぞ』
玄『オイ、シャカンナ殿、こんな小童武者は相手にしなさるな。男が下るから……』
コル『ヘン男が下るのは玄真さまぢやないか。俺達の前で、タカが女の一疋や半疋に肱鉄をかまされ、赤恥をかかされ、シヤアつく洒蛙々々然として蛙の面に水、馬耳東風よろしく、といふ鉄面皮だからなア。男のさがることも恥づかしい事も、お判りならないのだらう』
バル『そらさうだとも、恥といふことを知らぬ者に恥づかしいといふ観念があるものか、人間もここまで徹底すれば、結句、面白いだらう、ウツフフフフ』
 ダリヤは因果を定めたか、平然として機嫌を直し、シャカンナや玄真坊に愛嬌をふりまきながら、酌をしてゐる。玄真坊は心の中にて、
『ヤア占めた、ヤツパリ俺は色男だ。ダリヤの奴、人中だと思つて、ワザとにあんな事を吐してゐやがつたのだな。ウンよしよし、ダリヤがその心なら、俺もこれから特別大切にしてやらう。愛はすべて相対的だから、なにほど此方が愛してやらうと思つても、先方がその愛を受けないとどうする事も出来ない。ヤア願望成就だ』
と思はず知らず小声で口走つた。ダリヤはこれを聞いて、「ホホホホ」と小さく笑ひ、せつせと四人の男に酒注ぎをやつてゐる。玄真坊は得意然として歌ひ出した。

『世の中に  酒より大事の物はない
 酒より大事の物がある  それは何よと尋ぬれば
 花の顔容月の眉  天女のやうなダリヤ姫
 天の矛鉾を回転し  ウマンマこれの山奥に
 おびき出したる吾が手柄  鬼神もさぞや驚かむ
 呑めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗の後には月が出る
 月より花より雪よりも  一層きれいなこのシャンは
 玄真さまの宿の妻  思へば思へば有難い
 これを思へば人間は  完全無欠の大知識
 甘く活用せにやならぬ  知恵と言葉の余徳にて
 棚機姫にもまがふなる  姿の優しいダリヤさま
 タニグク山の山麓に  岩窟を構へしシャカンナの
 珍の御殿に現はれて  鈴のやうなる声しぼり
 愛嬌たつぷりふり蒔いて  お酌をなさる手際よさ
 姫のたたむき眺むれば  象牙細工のやうな艶
 爪の色をば調ぶれば  瑪瑙のやうな光りかた
 こんな美人がまたと世に  二人とあらうかあらうまい
 ホンに吾が身は何として  こんな幸福が見舞ふのか
 昔の昔の神代から  善をば助け悪人を
 戒め来たりし余徳だらう  こんなナイスと添ふからは
 ヤツパリ俺の魂も  万更すてたものでない
 昔の神代は天国の  尊き神の御身魂
 澆季末法の世を憂ひ  神の命令を畏みて
 この地の上に降臨し  衆生済度を励むべく
 命をうけたる御魂だらう  ああ惟神々々
 吾は神なり彼も神  神と神との睦び合ひ
 よき日よき時相えらび  シャカンナさまの仲介で
 天の御柱めぐり合ひ  山川草木生み並べ
 尊き神の子大空の  星の数ほど産みおとし
 いよいよ誠の救ひ主  生神様とあがめられ
 この世に永久の命をば  保ちて世人を救ひゆく
 誠の神となつてみやう  シャカンナさまの企てを
 これから夫婦が相助け  悪人輩を平らげて
 タラハン国の災を  科戸の風に吹払ひ
 天晴れ真の生神と  天地と共に芳名を
 千代万代に照らすべし  ああ惟神々々
 嬉しい事になつて来た  これも梵天自在天
 ウラルの神や八百万  神々様の御恵み
 ホンに嬉しい頼もしい  ダリヤの姫の玉の手に
 首をまかれてスヤスヤと  白川夜舟の旅をなし
 たちまち天国浄土の空へ  一夜の中に参りませう
 コルトン バルギー両人よ  こんな所を見せられて
 さぞやさぞさぞお心が  もめるであらうが辛抱せよ
 やがてお前も時来れば  目鼻のついた女房を
 俺が世話してやるほどに  末の末をば楽しんで
 キツと悋気をしてくれな  ダリヤは俺の女房だ
 夢にも秋波を送るなよ  ああ惟神々々
 皇大神の御前に  天真坊が真心を
 捧げまつつて両人が  ダリヤの色香に迷はぬやう
 お守り下さるその由を  ひとへに願ひ奉る
 ひとへに願ひ奉る』  

シャ『アハハハハ、イヤもう偉いところをみせつけられ、この爺も二十年ばかり気が若くなつて来た。天真坊殿のお得意、思ふべしだな、アハハハハ』
玄『エヘヘヘヘ、なア、ダリヤ、イヒヒヒヒ』
ダリ『……………』
コル『ヘン、馬鹿にしてゐやがる。俺だつて、さう軽蔑したものぢやないワ。おつつけ、立派な女房をどつかで掠奪して来て、天真坊さまの御目の前にブラつかして見せてやるワイ。のうバルギー、さうなとしなくちや、俺達の面が丸潰れだからな』
バル『フン、フン』

ダリ『ハルの湖酒の嵐の吹きあれて
  醜の荒波立さわぐかな』

シャ『うるはしきダリヤの花は山風に
  吹かれて遂に打ち靡きける』

玄『月も日もよりて仕ふる吾なれば
  ダリヤの姫の慕ふも宜よ。エヘヘヘヘ』

(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 松村真澄録)



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