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物語67-1-11924/12山河草木午 梅の花香王仁三郎参照文献検索
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第一章 梅の花香〔一七〇三〕

 オーラ山の曲の企みも大杉の怪しき夜這星は神の伊吹に吹き消され、一たん包みし木下暗、晴れては清き三千世界の梅の花香、峰の尾上を包みし黒雲もサラリと散りて、宇宙晴れの大広原、真夜中の空には、宝石を鏤めたやうな一面の星光瞬き、鬼の囁き、猛獣の健び、狐狸の鳴き声も虫の音も、ピタリと止まつて天地静寂、あたかもふくらむだ庭の砂に、ほどほどに水を打つたるが如く、一点の風塵もなく、雲霧もなし。微風おもむろに人の面を吹き、五臓六腑に静涼の気しみ渡る。諸行無常の鐘の声、是生滅法の杜鵑の啼く音、生滅滅已の梟の叫び、いづれも寂滅為楽の清浄界となり果てぬ。
 丹花の唇、木蓮の莟のごとき鼻の格好、黒豆に露を帯びたやうな優しく床しく光る二つの眼、地蔵の眉、あらゆる美の極、善の極、愛嬌を満面にしたたらして、心に豺狼の爪牙を蔵し、天下を掌握せむと、昼夜肝胆を砕いて、外面如菩薩内心如夜叉、羅刹悪鬼の権化ともたとふべき山賊の大頭目、ヨリコ姫女帝は、梅公が口より迸る天性の神気に打たれて、忽ち心内に天変地妖を起し、胸には革新軍の喇叭の音響き、五臓六腑一度に更生的活動を起して、専制と強圧と尊貴を願ふ欲念と、自己愛の兇党連は俄かに影を潜め、惟神の本性、生れ赤児の真心に立ちかへり、一身の利欲を忘れ、神に従ひ神を愛し、人を愛し万有一切を愛するの宇宙的大恋愛心に往生したのである。
 かくヨリコ姫が心に悔悟の花開き、愛善の果実みのり、信真の光輝と、慈味に浴したる刹那において、その真心は天地に感応し、天は高く清く澄みわたり、一点の雲もなく、七宝を鏤めたるがごとき星の大空をボカして、見渡す東の原野より千草を分けて昇り来たる上弦の月光、あたかも切れ味のよい庖丁をもつて、円満具足せる西瓜を真中より二つに手際よく切りわけしごとき、輪廓の判然とした白銀の半玉、たちまち天地を照り輝かし、地上に往来する蟻の姿さへも明瞭に見えてきた。
 白髪童顔の山賊の巨頭、修験者と化けすまし、三千の部下を使役し、豺狼の欲を逞しうし、ヨリコ姫を謀師と仰ぎ、大親分と崇め、大胆不敵にもハルナの都の大黒主を征伐し、印度七千余国の覇権を握らむと、霜の晨雨の夕、夢寐にも忘れぬ胸裡の秘密深く包んで、雲に聳えたオーラ山に立籠り、霧を帯にし、靄を被衣となし、木の葉のそよぎを扇の風と見做し、青空を天井と定め、草を褥となし、髑髏を仮睡の枕となし、虎狼獅子熊の肉を嗜み、阿修羅王のごとく魔王のごとく、時あつては彗星のごとく、妖邪の気を四方に吐き散らし、一本の錫杖に四海を征服し、心に秘めた魔法の剣に、諸天諸善を悩ませ苦しめ、わがままを振舞ひ、天地を自由に攪乱せむものと、夢のごとき、虹のごとき蜃気楼のごとき空中楼閣的妄念を抱いて、得々として、その無謀なる目的に心身を傾注したるかれシーゴーは、三五教の神司梅公が言霊にその心胆を奪はれ、五臓六腑の汚濁を払拭され、彼が神気に打たれ、心気たちまち一転して、夜嵐にそよぐ枯尾花の手振りにも驚きふるふ、いとも弱き落武者とならむとする一刹那、力と頼みしヨリコ姫の打つて変つた言行に、今はなほさら反抗の勇気もなく、今まで包みし心天の黒雲はオーラ山の荒風に吹き散らされて、心も清き上弦の月、たちまち大地にひれ伏して、その慈愛と温雅と清楚なる月神の美影に渇仰憧憬し、本然の性に立ち返り、悪魔はたちまち煙と消え、胸の奥深きところに神の囁きを聞き、その霊光に触れ、信真なる愛の情味に接し、全く別人のごとくなり、白き長きかれの髪は白金の色、ますます艶やかに、その顔色は天上の女神かと疑はるるばかり純化遷善し、罪もなく穢もなく、一点の憎悪心もなく、欲望の雲霧もなし。ただこの上は天地神明の加護により、誠の道を踏み、誠の業を行ひ、戦々恟々として神を畏れ神を愛し、日夜心力を神に捧げむことを希求するに至つた。
 つぎに天来の救世主、天帝の化身、オーラ山の活神と揚言し、毒舌を揮つて天下万民を誑惑し、悪事の限りを尽さむとしたる、奸侫邪智の曲者、玄真坊、天下唯一の色餓鬼、情欲の焔に苦しめられ、煩悶苦悩の結果、恥を忘れて獣畜の行為に及ばむとせし、偽救世主、偽予言者なる、かれ売僧は、三五教の神光に打たれ、正義心の神卒に攻め立てられ、遂に悔悟して、大頭目のヨリコ姫およびシーゴーと行動を共にせむことを誓ふに至つた。
 オーラ河の水は緩かに流れ、深く青くして底さへ見えぬ河の面にきらめく星の大空を映し、そよと吹く小波に月光如来の千々に砕くる慈愛の御影を宿して、天地燦爛光明界の現象を泛ばせたり。東の大空は紅の雲、紫の霞棚引き初め、木々の百鳥は千代千代と永遠無窮の前途を寿ぎ、せせらぎの音は何事か宇宙の神秘を語るがごとく、風の響きにさへも神の御声の宿るかと疑はる。ヨリコ姫をはじめ、その他の兇党が心の天地忽然として蓮の花の開くがごとく、薫り初めたる一刹那、五色の雲を押し分けて、忽ち昇らせ給ふ黄金鴉、旗雲の中にまん丸き日の丸を印し、いよいよ日の出の神代の祥兆を天地万有に示したまふ。瑞祥開く聖の御代の魁とぞ、神も人も、この山に集まれる曲人も禽獣虫魚も、一斉に五六七の御世を寿ぎまつる思ひあり。ああ惟神霊幸倍坐世。
   ○
 現幽神の三界を浄め、天地開闢の昔の祥代に立替へ立直し、神人万有を黄金世界の恩恵に浴せしめ、宇宙最初の大意志を実行せむと天より降りて厳の御霊と現じ、大国常立尊と現はれて神業を開始し給ひし、宇宙唯一の生神、朝な夕なに諄々として神人万有を導きたまふ。愛善と信真の大神教を天下に布衍し、五六七神政出現の実行に着手せむと、ウブスナ山に聖蹟を垂れ、瑞の御霊と現じて三界の不浄を払拭し、清浄無垢の新天地を樹立せむと、神素盞嗚の大神は、世界各山各地の霊場に御霊を止め、数多の宣伝使を教養し、これを天下四方に派遣し給ひぬ。
 派遣されたる神柱の一人、照国別の宣伝使の従者となり、ハルナの都の魔神の言向け戦に従軍したる梅公司は、勇気凛々たる壮者にして、その心鏡は惶々として照りわたり、よく神に通じ、万民が心の奥底まで、玻璃を通して伺ふがごとく、通観して過らず、かつ心は清浄潔白にして神律を弁へ、道理に通じ、挙措常に軽快にしてかつ軽からず重からず、中庸を得たる好漢なり。かれの行く所、百花爛漫として咲き満ち、地獄はたちまち天国と化し、猛獣の猛る原野は鳥唄ひ蝶舞ふ百花爛漫の天国と化するの慨あり。精神剛直にして富貴に阿らず威武に屈せず、常にその職に甘んじ、何事も神意と解して、いかなる境遇にあるも不平を洩らさず、悲しまず、いかなる悲境に沈淪するも悲観せず、悠々閑々として自ら楽しみ、自ら喜び、災の来たる時は、これ天の恩恵の鞭となし、喜びの来たる時は天の誡と警戒し、寸毫も油断なく、かつ楽天主義をもつて世に処す。実に神人の典型、宣伝使の模範、言心行いづれの方面より見るも、一点の批評をさしはさむの間隙だになし。かれは照国別に従つて、よく師弟の情誼を守り、自分の師に優れる数多の美点を隠して、その徳を長上に譲り、同情に富み、僚友をよく愛し、目にふるる者、耳に入る物、いづれも彼が感化の徳に浴せざるはなし。
 元来梅公は大神より特に選まれたる神柱にして、無限の秘密を蔵し、神妙秘門の鍵を授かり、宇宙間一の怖るる者なき大神人なり。それゆゑ彼は平然として悪魔の巣窟に単騎出入し、豺狼の群に入つて、機に臨み変に処し、一男二女の危難を救ひ、かつ他の宣伝使のごとく、千言万語を費やすの要なく、さしも兇悪なる悪神の巨頭、ヨリコ姫等の一派を翻然として悔悟せしめたる英雄なり。彼が師の照国別宣伝使も、彼が神格の一部分を窺知することさへ出来なかつた。しかしながら彼は和光同塵的態度をもつて、愛善の徳と信真の光の劣れる照国別を神の経綸として、吾が師の君と尊敬し、照公その他の同僚に対しても、常に後輩者として行動せむことを望んでゐた。はたして梅公司は魔か神か真人か、ただしは大神の化身か、今後の物語によつて読者の自ら判知されむことを望む。
 これよりヨリコ姫は梅公、花香の勧めにより、タライの村に立ち帰り、母のサンヨに面会し、今までの不孝不始末の罪を謝し、今後は悔い改めて、老後の母の心を安んじ、かつ神の御ため世のために、愛善の道に生涯を投ぜむ事を誓つた。母のサンヨは二人の姉妹が梅公司の艱難辛苦の結果と慈愛心の発露によつて、無事母子の対面が出来たことを涙片手に感謝し、梅公を真の生神として尊敬して止まなかつた。
 次にシーゴー坊や玄真坊の両人はサンダーの家に至り、彼が両親に向かつて、今日までの悪業を謝し、かつ悔ひ改めて天下万民のために神業の一部に奉仕せむことを誓つた。サンダーの両親は夢かとばかり喜んで、梅公その他に対し、百味の飲食を調理してこれを饗応し、かつシーゴーには数多の所有地を与へ、開拓の事業に従事せしむることとなつた。かれシーゴーはサンダー、スガコ姫に従ひ、両人を主人と仰ぎ、スガコ姫が父のジャンクが所有せる無限の山林田畑を開墾し、三千の部下をしてこれに従事せしめ、大都会を造つて……………新しき村を経営し、タライの村の真人と謳はれて生涯を送つた。
 父のジャンクは遥かにサンダー、スガコの無事に帰宅せしこと、梅公司に救はれしこと、およびシーゴーを一の番頭となし、数千の部下を使役して開墾の業に従事せしめ、日々事業の発展しつつある事を聞知し、大いに喜んで、全く神の恩恵となし、一生を神に捧げ、神業に参加し、屍をさらすまで、吾が郷里に帰らなかつた。そしてジャンクは義勇軍の勇士としてバルガン城下に驍名を走せた。
 一旦悔い改めたる玄真坊は再び悪化して、シーゴーと論争し、三千の部下の中、不平組三百余名を引率し、オーラの峰を渉つて民家を掠奪しながら、地教山方面指して姿を隠したのである。

 惟神神の心は白梅の
  旭に匂ふ姿なりけり

 梅の花香ひ初めたる如月の
  空に瞬く珍の星影

 何事も神の教にヨリコ姫
  世の神柱となりし雄々しさ

 現世の罪をば恐れシーゴー(死後)を
  思ひて神に帰るつはもの

 サンダーやスガコは生れし己のが村に
  帰りて新村永久に開きぬ

 光暗行きかふ曲の玄真は
  心変りて鬼となりぬる

 村肝の心曇りし曲人と
  山野に迷ふ玄真の果

(大正一三・一一・二三 新一二・一九 於教主殿 松村真澄録)



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