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物語66-4-201924/12山河草木巳 真鬼姉妹王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 真鬼姉妹〔一七〇二〕

 サンダー、スガコの二人は玄真坊の強圧的恋の請求に手古摺つて居た処へ、またもや二人の男女が投込まれて来たのを見て、サンダーは思はず知らず『アツ』と叫んだ。女もまたサンダーやスガコの面を見て、『マアマア』と言つたきり、口を噤んだ。
 梅公は洒蛙々々然として平気に笑ひながら、
梅公『たうとう猿も木から落ちるの喩、オーラ山の大天狗も芝居のやり損ひをやつて、舞台から墜落し、名もない奴にふん縛られ、かやうな女護の島へ落込んで来た。何とマア不思議な事もあればあるものだ。人間万事塞翁の馬の糞とはよく云つたものだ。揃ひも揃うて絶世の美人、しかし吾妻君は例外として……お二人の姫御前、貴方は何の理由あつて、かやうな所へ鎮座ましますのですかなア』
サンダー『ハイ私はコマの村のサンダーと申す者でございます。この方は、タライの村のジャンクさまの娘でスガコ姫様でございます。悪者に拐かされ、日々苦しい目に会はされてゐるのです。貴方はまたどうしてこんな所へお越しになりましたか』
 梅公はタライの村のサンヨに話を聞いて、花香を救はむとの決心を起した事や、ジャンクの家に泊つて、スガコ姫の行方不明になつた事、サンダーの失踪した事などを聞き、義勇軍に従ひながら、どうしてもこの三人を救ひ出したいといふ真心から、師匠に別れて、私かにオーラ山へ向つて駒に鞭ち駆込む途中、花香の危難を救ひ、相伴うて当山に登り、大杉に攀ぢ、彼等が魔術の奥の手たる灯火を吹消し、天狗の声色を使ひ、化が現はれて、取つ捉へられた事などを、逐一話し聞かせた。サンダー、スガコの両人はこの話を聞いて、感謝の涙に袖を搾りながら、
サンダー『見ず知らずの貴方様が、それほどまで吾々を助けようと思召し、御苦労下さいました事は、何とも御礼の申上げやうがございませぬ。実は私は、お聞及びでもございませうが、女に化けてゐますが、男でございます。これなるスガコと夫婦となるべく、両親の許嫁でございますが、スガコの行方を尋ねむために当山へ参拝致し、今日まで玄真坊のために閉ぢ込められて居つたのでございます。何卒御推量下さいませ』
と力なげに云ふ。
梅公『ヤ、それで何もかも判りました。ナアニ心配いりませぬ。こんな岩窟位、叩きわるかつて、朝飯前ですワ。モシモシ スガコさまとやら、必ず心配なされますな。キツと私が救ひ出して上げますよ』
スガコ『ハイ有難うございます。不運な身の上でございますから、貴方のお助けを頂かねば到底遁れる道はございませぬ』
花香『モシ、お嬢様、私はサンヨの娘花香でございます。お嬢様が何者にか攫はれ、御行方が分らぬと云うて、村中の大騒動でございましたが、少時すると、バラモンの軍人が参りまして、私を掻つ攫へ、母に手疵を負はせ、ホラが丘の森林へ連れ込み、其所辺中を引きまはし、操を破らむと致しましたなれど、神様のお蔭によつて、漸くその難を免れ、最後に至つて今や辱られむとする所へ、このお方がお出下されましてお助け下さつたのでございます。因縁と申すものは妙なものでございますなア。私には一人の姉がございましたが、ある夜のこと修験者と手に手を取つて、家を脱出し、最早三年にもなりますが、どうしてゐる事やら、皆目行方が分らぬのです。それに不思議な事には、あの玄真坊といふ男、何処かに見覚えがあるやうに思へてなりませぬ。暗がりでハツキリ分りませぬが、身体の格好といひ声といひ、どうも彼奴ぢやないかと思ふのでございます』
梅公『あーあ、話が理におちて気が欝いで仕方がない。どうです皆さま、二男二女がよつてこの岩窟が割れるやうな声で歌でも唄つてやりませうか。私が……何なら歌ひますから手を拍つて囃して下さい』
サンダー『どうか御願ひ致します』
 梅公はヤケクソになり、大声を出して唄ひ出した。

梅公『歌へよ歌へよく唄へ  岩戸の唐戸の割れるまで
 玄真坊は云ふも更  シーゴーとかいふ親玉も
 これに従ふ三千の  泥棒の頭が割れるまで
 歌へよ唄へよく唄へ  歌うて器量は下りやせぬ
 美人のまします岩の中  ここは竜宮か天国か
 丹花の唇月の眉  月日に等しき目の光
 こんなナイスと一夜さの  宴をするのも面白い
 酒はなけれど美人さへ  前にゐませば満足だ
 玄真坊奴が涎くり  何だかんだと朝夕に
 口説き立てたがザマを見よ  肱鉄砲や後足の
 砂の礫を浴びせられ  口アングリと悄気返り
 またもや天狗に肝潰し  弱腰抜かした可笑しさよ
 ここの大将といふ奴は  確にヨリコと云ひよつた
 もしや姉ではあるまいか  花香の姉もまたヨリコ
 同じ名前は世の中に  沢山あれ共どこやらに
 彼奴の声がよく似てる  あゝ面白い面白い
 神の仕組でこの岩窟  やつて来たのは天地の
 神々様の御心だ  早くこの戸を開けてくれ
 玄真坊よシーゴーよ  一つの秘密を云うてやろ
 何ほど心を砕きつつ  天下を狙つて見たとこで
 お前の智慧では及ばない  肝心要の救世主
 此処にござるを知らないか  玄真坊やシーゴーの
 腰抜身魂ぢや駄目だぞよ  俺のいふ事分らねば
 女帝のヨリコを招んで来い  女帝であらうが何だろが
 吾言霊の一節に  言向和して見せてやろ
 神は吾等と倶にあり  吾等は神の子神の宮
 いかなる曲の健びさへ  おめず恐れぬ神司
 見違へするな早あけよ  スガコの姫や吾ワイフ
 女に化けたサンダーさま  揃ひも揃うて美しい
 月雪花が待つてゐる  俺は梅公宣伝使
 どんな事でも聞いてやろ  安全無事の神の教
 こんな悪事が何時までも  続くと思つちや間違だ
 早く改心するがよい  女帝のヨリコを始めとし
 何奴も此奴もやつて来て  吾御前にひれ伏せよ
 吾は救ひの神なるぞ  天教山にあれませる
 木花姫のみことのり  神素盞嗚大神の
 教を畏み月の国  ハルナの都に出向ふ
 尊き神の珍柱  早くも迎へ奉れ
 開けよ開けよ早開けよ  開けるが厭ならブチ割ろか
 吾言霊の神力に  オーラの山も野つ原も
 忽ちガタガタ ビシヤビシヤと  顛覆させるは夢の間だ
 俺の力が解つたら  一時も早く開けに来い
 最早夜明に近づいた  あけて嬉しい玉手箱
 竜宮海の乙姫が  三人ここにまつて居る
 お面が拝みたうないのかい  唐変木にもほどがある
 あゝ惟神々々  叶はぬからあけてくれ
 アツハヽヽヽヽ オツホヽヽヽ』  

と魔神の岩窟に閉ぢ込められたのを知らず面に笑つてゐる。
 玄真坊は戸口にソツと耳を当て、様子を考へてゐたが……、
『梅公の歌の中に、どうやら今やつて来た女は女帝の妹らしい。コリヤうつかりしては居れない。また二人の女は女帝の妹が眤懇な奴と見える。あの天狗のマネをして失敗つた男は、妹の婿らしいぞ。何とかして大切に扱はねば、姉妹の対面が事実になつたならば、その時は俺もサツパリ、ワヤ苦茶だ。忠義を尽すは今の時だ。旗色のよい方へつく方が当世だ。シーゴーとは俺の方が、どうやら旗色が悪くなつたやうだ。今の内に勢力のある方へ加担するのが最善の行方だ……』
と独語ながら吾居間へ帰り、酒や煙草や珍らしき果物などを持ち出し来り、面色を和らげて、
玄真『ハア、これはこれはお客様方、山奥の茅屋へよくも御入来下さいました。何か差上げたいのでございますけれど、御存じの通り不便の土地。これが私の力一杯の御馳走です。どうか精一杯おあがり下さいませ。私もヨリコ女帝様の御厄介になつてるツマらぬ男ですから、どうか、末永く可愛がつて頂きたうございます』
梅公『ハイ有難う。思召しは受けますが、今はお肚が膨れて居りますから頂戴致しませぬ』
玄真『何かお腹立でもございませうかなれど、御機嫌を直して、私の心をおあがり下さいませ。メツタに天然の果然に毒などは入つて居りませぬから……』
梅公『それでも余り、気の毒だから、御遠慮致しませう』
玄真『滅相もない。気が毒になりましたら、箸で飯はくへませぬ。どうか、キの毒とか灰の毒だとか云はず、キようおあがり下さいませ。貴方方は水入らずの間柄と思ひますから』
梅公『水入らず…ではなくて、猫入らずかも知れませぬぞ、アハヽヽヽ。沢山な鼠賊が横行して居りますから。チツタ猫入らずも当家には買込んでございませうね』
花香『ア、お前さまは、三年前に吾家に泊り、姐さまを拐かしていんだ修験者ぢやありませぬか。マア マア マア マアよく似てる事……』
玄真『ハヽヽヽ、ヤ、実の所はその時にお前の内に泊つたのは私だ。何とマア大きくなつたね。どこともなくヨリコさまに似てるワイ。お母アさまも随分面立のよい人だつたが、お前さまも姉さまに劣らぬ美人だ。これも何かの因縁だらう。マアよう来て下さつた。お前さまが御姉妹と分つた以上、女帝さまに黙つてる訳にも行かぬ。これから一つ女帝様に申上げて来る。また何か御馳走をして下さるだらうから』
花香『一寸、玄真坊さまにお断へ致しておきますが、この凛々しい男らしい方は三五教の梅公別さまと云つて宣伝使ですよ。そして私の大事の大事の夫でございますから、大切に扱つて下さいや。私が姉さまの姉妹とあれば、ここの女帝さまの弟ですから、粗略な扱は出来ますまい、ホヽヽヽヽ』
と稍顔を赤くし、袖に隠す。
 玄真坊は倉皇として女帝の居間に駆けつけ、声まであわただしく、
玄真『女帝様に申上げます。タヽ大変なお悦びが出来ました』
ヨリコ『大変なお悦びとは、どんな事が出来たのだえ』
玄真『ハイ、貴女のお妹御の花香さまが、お婿さまを連れてお出になつたのですよ。あの大杉の上から落ちて来た二人の男女がその方です。何と驚くぢやありませぬか』
ヨリコ『オホヽヽ、あのマア玄真坊殿の慌て方ワイの。妾は杉の木から落ちた時、已に妹だと看破してゐたのだ。仕様もない者がやつて来て、折角の仕組が破れはせぬかと心配してるのだ。しかし妹と分つては手にかける訳にもいかず、同じ母の体内から出た、同じ血筋だから、何とかしてやらねばなるまい。そしてあの男は妹の婿らしいが、中々あれはシーゴーやお前のやうな弱虫ではない。グヅグヅしてゐると岩窟退治をやられるか知れませぬよ。しかし打やつておく訳にも行くまいから、女帝自ら出馬して、姉妹の名乗をしてやりませう、ホヽヽヽヽ』
玄真『サ、お伴致しませう。エ、シーゴーの奴どこへ行きやがつたのだらう。右守司ばかり居つても、左守が居らなくちや、女帝様の権式が上らない。どつかへ潜伏してゐるだらう』
と呟いてゐる。シーゴーは次の間からヌーツと面を出し、
シーゴー『アハヽヽ、オイ玄真、何を慌てて居るのだ。もうかうなりや、毒を以て毒を制する法を講じなくちや仕方がないよ。巧く宣伝使を抱込んで吾々の味方となし、女帝様の謀師と仰ぎ、俺達や一段下へさがつて、日頃の大望を成就することに努めねばなるまいぞ。女帝様に余り口を叩かしちや権威がおちるから、そこはよく心得てをるのだ。しかし貴様は肝心の時になると、慌てるから、すぐに内兜を見透かされる。この談判の衝にはシーゴーが当るから、寧お前は沈黙を守つてる方が奥床しくてよからう。そしてサンダーといふお前の恋してゐた女は、コマの村の里庄の息子だ、一人は彼の許嫁のスガコ姫だ。主ある花を手折らうと思つたつて到底駄目だから今の中にスツパリ思ひ切つておくがよからう。妙な目遣ひをして貰うと俺達の面にかかる。第一女帝様の権威にかかはる。エヽか、心得たか』
 玄真坊はスツカリ恋の夢も醒め、豆狸が小便壺におちたやうな面をして膨れてゐる。この時一天を包みし黒雲は、折柄吹き来る山嵐に晴れ、大空は梨地色に星光燦爛として輝き初めて来た。吁惟神霊幸倍坐世。

(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 松村真澄録)
(昭和一〇・六・一七 王仁校正)



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