出口王仁三郎 文献検索

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物語66-4-191924/12山河草木巳 女の度胸王仁三郎参照文献検索
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第一九章 女の度胸〔一七〇一〕

 梅公、花香の両人は密に大杉の麓に忍び寄り、よくよく調べて見れば、鉄線の梯子がタワタワと木の上から下つて居る。
梅公『ハハア曲神の奴どもこの梯子を上つて木の上に火を点し、天から星が降るなどと世の中を誑かつて居るのだらう。ヤ、面白い、曲神の唯一の力と頼むこの光を先づ消してやらう』
と云ひながら花香と共に梯子を伝うて大杉の梢に攀登り、十六の燈を一個も残らず吹き消してしまつた。昼を欺く杉の根本は俄に闇の幕が下りた。玄真坊、シーゴーは俄に火の消えたのに不審を起し樹下に佇んで、
シーゴー『オイ玄真坊、不思議な事があるものぢやないか。まだ油が断れる時でもなし、また十六個が十六個共消えるのは不思議ぢやなア。附近の人民はこの大杉の巨燈を見て天の星と信じ、渇仰憧憬して居るのに、ただ一時でも光が消えたとすれば、信仰の土台がぐらつく筈だ。さうすれば吾々の目的は到底達せられない。別に強い風が吹いたのでもなし、どうしたのだらうかなア』
玄真『どうも不思議でございます。こんな事が有らう筈がありませぬ。十分調べて油もついでおきましたなり、何かこの山に住む天狗の業ではございますまいか。何れにしても不思議な事でござる』
と二人頻に心配をして居ると、木の上から割るるが如き大声で、
『ウゥー、ウゥー、ウゥー、ウゥー、ウゥー』
と連続的に唸り声が聞えて来る。その怖ろしさといつたら五臓六腑に浸わたり、両人の身体には体内地震が突発した。またもや樹上より、
『オーラ山に立て籠もり、悪逆無道の企てを致す汝シーゴー、玄真坊、よツく聞け。この方は、オーラ山脈一体を昔より住家と致す、真の玄真坊大天狗だ。汝不都合千万にも吾名を騙り玄真坊と称し、大杉の枝に燈火を点じ、天より星下つて汝が説法を聴聞すると佯り、天下万民を誑惑かし、金銭物品は云ふも更なり、人の妻や娘を誘拐し、金穀を強奪する不届者。もはや汝の天命つきたれば、一時も早く悔い改め、解散を致さばよし、何時までも悪事を続行するにおいては、玄真坊大天狗、汝等の素首を引き抜きくれむ。返答は如何に、ウゥーウゥーウゥー』
 これを聞くより両人は顔色をかへ、ビリビリ慄へながら、
シーゴー『オイオイ玄真、偉い事になつたぢやないか。あんな事を天狗が云ふわい。折角茲まで仕組んだ狂言を中途に止めるのは惜いけれど、命にや代へられぬぢやないか』
 玄真坊は慄ひながら、
玄真『ソヽヽそれぢやと云つて、今俄に止める訳にはゆかず、沢山の乾児もある事なり、何とか天狗さまにお願ひ申し、しばらくの御猶予を願はうぢやないか』
シーゴー『ウン、それもさうだ。俺達はどうなつてもよいが、今俄に解散するとなると沢山の部下が忽ち路頭に迷ふからなア。まア一つお願ひして見ようかい』
玄真『もしもし、樹上の玄真坊大天狗様、誠に申訳のない事ではございますが、今俄に解散致しましては、三千の部下が忽ち路頭に迷ひ、四方八方に散り乱れて、益々悪を逞しうするかも知れませぬ。さうなれば国民の難儀は層一層甚しくなるかも知れませぬ。どうか改心致しますから、部下を取纒め、貴方様の御教訓を篤と云ひ聞かせ郷里に帰しますから、それまで御猶予を願ひます。私のみの難儀ではございませぬ、部下三千の難儀でございますから』
 声に応じて樹上より、
『ウゥーウゥー、ならぬならぬ。一時も早く退散致せ。三千人の小泥棒が苦しむのは自業自得だ。積悪の酬いだ。汝等は無辜の良民を苦しめ苛責み、良家の婦女を誘拐し岩窟に閉ぢ籠めおき、肉欲を逞しふせむとする不届き者。この霊山を汚せしにより、これよりレコード破りの山風を起し三千の部下を天空高く捲き上げ、その身体を木ツ端微塵に打ち砕き、懲してくれむ』
 次に女の優しき声にて、
『妾は天より下りし、誠の棚機姫命であるぞ。汝玄真坊、シーゴー坊とやら、よく承はれ。今やトルマン国はバラモン軍に攻め悩まされ、バルガン城は十重廿重に囲まれ、国王のトルカは将に捕虜にせられむとする大国難の際なるぞ。その虚に乗じて汝等は所在良民を誑らかし、金銭を奪ひ取り、武備を整へてバルガン城を囲みトルマン国を占領し、引いて印度七千余国を蹂躙せむとする、極悪無道の外道畜生奴。一時も早く悔い改めて神に謝せよ』
シーゴー『ハイ、どうも恐れ入りましてございます。キツト心得ますから、私を初め部下の命だけはお助け下さいますやうに』
 樹上より、
『ウハヽヽヽ、恐れ入つたか、往生致したか。サア一時も早く解散の実を示せよ』
シーゴー『ハイ唯今、大親分のヨリコ姫女帝に申上げ直ぐに解散致します。しばらくお待ちを願ひます』
と云ひながらヨリコ姫の居間に駆け付け右の次第を詳細に物語つた。ヨリコ姫は一伍一什を聞き取り、ニツコと笑ひながら、
ヨリコ『あれほど沢山油がさしてあり、風も吹かぬに火の消える道理もなし、また樹の上に天狗がとまつて託宣するのもをかしい。また棚機姫が下つて宣示するとは益々怪しいでは無いか。さう云ふ事に騙されるやうでこの大望が成就するものか。ちと確かりなさい。玄真坊はどうして居るのか』
シーゴー『ハイ、玄真は慄ひ戦き樹下に倒れてしまひました』
ヨリコ『ホヽヽヽ、何とした腰抜けだらう。天狗なんか何が怖ろしい。屹度何者かの悪戯だらう。よく調べて来なさい』
シーゴー『ハイ、もうこの上調べやうはございませぬ。一つ唸られやうものなら、五臓六腑が慄ひ戦き、立つても居ても居られなくなります。人間がどうして、あんな大きな声が出ませう。屹度天狗に間違ひはありませぬ』
ヨリコ『これシーゴーさま、お前も随分経験を積んだ悪党ぢやないか。天狗がそれほど怖いのか。そして天狗の声は陰性だから、決して人の体に響くものでない。大方酒にでも酔うて乾児の奴共が口に竹筒でも当てて、お前達の胆試しをやつて居るのかも知れませぬよ』
シーゴー『イエイエ、決して決して竹筒の声ぢやありませぬ。人間の声でも無し、大変な強力な声でございます』
ヨリコ『ハテ、妙な事を云ふぢやないか。どれ自分が行つて調べて見ませう』
と落付き払つた風でボツボツと着衣を整理し、悠然としてシーゴーの後から、大杉の下へとやつて来た。
ヨリコ『そこに居るのは玄真坊ぢやないか。何だい、天狗位に慄つて居るのかい』
玄真『ハイ、女帝様、どうかお助け下さいませ。大変な事が出来て来ました。もう私も年貢の納め時です。身体強直して身動きが出来なくなりました』
ヨリコ『ホヽヽヽ、まアよい腰抜だこと。どれ、これから妾が樹上の天狗とやらを取つちめてやりませう』
 この時樹上よりまたもや、
『ウゥーウゥーウゥー』
と千匹狼が一度に唸り出したやうな怖ろしい声が聞えて来た。シーゴー、玄真は耳をかかへて打ち慄ひその場にパタリと打ち伏してしまつた。ヨリコ姫は平然として樹上を打ち仰ぎながら、
ヨリコ『オイ、樹上に居る怪物は何物だ。いい加減に悪戯を致しておけ。ヨリコ姫が現はれた以上は、如何なる汝が奸策も根底より看破してやらうぞや。その方は三五教の宣伝使の供をいたす木ツ端武者だらう』
 この落付き払つたヨリコの声を聞いて、遉の梅公も舌を捲いた。樹上の花香はヨリコ姫と云ふ声を聞き……何となく聞き覚えもあり、もしか三年前に吾家を飛び出した姉上ではあるまいか、てもさても不思議な事だなア……と首を傾けて居た。樹上より、
『某は実の所は三五教の宣伝使梅公別命である。汝等悪党共オーラ山に立て籠り、よからぬ事を致すと聞き、神命を奉じ、汝等一同に改心を迫るべく、その第一着手として汝等が詐術の根元たる樹上の諸燈を吹き消し、大天狗として訓戒を与へてやつたのだ。どうだ、かく事のばれたる上はスツカリ改心を致すか、これでもまだ継続して悪事を致す覚悟か、返答聞かう』
 玄真坊は初めて人間と知り俄に強くなり、樹上を打ち仰ぎながら、
玄真『アハヽヽヽ、猪口才千万な三五教の宣伝使の玉子奴、いらざるほててんごうを致して後悔するな。吾々には三千の部下がある。汝の如き木ツ端武者、仮令鬼神を挫ぐ勇あるも寡をもつて衆に敵することは出来まい。要らざるせつかいを止めて樹上を下り、一時も早く吾前に謝罪を致せ』
 この間にシーゴーは縄梯子の縛を解いたから耐らない。梅公、花香の両人は急転直下の勢で、ズルズルズルドスンと樹下に落ちて来た。ヨリコ姫は手早く女を引つ捉へ後手に縛り上げた。梅公は聊か腰を打つて気が遠くなつて居た間にシーゴーの部下のパンクに高手小手に縛られ、サンダー、スガコの幽閉してある石室の中に男女共投げ込まれてしまつた。
ヨリコ『ホヽヽヽ、いらざる構へ立てをして縛につくとは情ない奴だなア。飛んで火に入る夏の虫。ヨリコ女帝の威勢には如何なる者も敵うまいがな。これ、玄真、シーゴー確りなさらないのか。こんな事で肝を潰すやうでは、バルガン城を占領し、次いで印度七千余国を掌握するやうな事は到底出来ますまいぞや』
玄真『私も人間と知れば別に驚かないのです。人間なれば仮令何万押し寄せて来るともビクとも致さぬ某ですが、中有界の魔神と聞いては一寸面喰らはないでは居られませぬ。しかし人間だと云うたつてこの山は天狗の巣窟と聞いて居ますから、本当の天狗が来ら困るでせう。その時の用意を今から講究しておかねばなりますまい』
ヨリコ『これ玄真坊、何を呆けて居るのだ。仮令中有界の魔であらうが、天界の鬼神であらうと、地獄の鬼であらうと、獅子、虎、熊、大蛇であらうが、万物の霊長たる人間と生れて何怖るべき事があらうぞ。人間は万有を支配するの権能を神から与へられて居るのだ。些と確りしなさい』
玄真『ハイハイ確り致します。何分宜敷うお願ひ申ます。到底かふ云ふ時には貴女でなければ解決がつきませぬ』
ヨリコ『ホヽヽヽ、天帝の化身様でも真実ものの天狗には敵ひませぬかな。これシーゴー殿、年にも似合ぬ、お前も随分狼狽へましたね。ちと恥をお知りなさい。何ですか、高が男の一匹や二匹に肝を潰して、こんな事でどうして今後の大望が成就致しますか』
シーゴー『ハイ、面目次第もございませぬ。何分突然の事と云ひ、消ゆべき筈の無い火が消え、大木の上から不思議な声がいたすものだから一寸面喰ひましたので、日頃沈着のある私も、玄真坊の狼狽病が伝染致しまして、つい気後れ病が突発致しました。女帝様の懇切周到なる外科手術によつて、やつと全快したやうでございます』
ヨリコ『ホヽヽヽ、まア全快が出来て結構々々、薬礼は幾何出しますかな』
シーゴー『ハイ、先づさうですな、薬、窮戦窮百九重九怨ばかり差上げませう。アハヽヽ』
ヨリコ『九死一生の場合を女帝さまに救はれたのだからな、その位はお出しになつてもよろしからう、ホヽヽヽ。しかしながらあの怪しき男と女をよく取調べて後ほど報告して貰ひたい。私はこれから居間に帰つてしばらく休息するから』
シーゴー『ハイ、承知致しました。玄真坊と相談致し、篤くと実否を調べ、改めて御報告申上げます。どうか明朝まで御猶予を願ひます』
 ヨリコはニコニコしながら打ち諾き、足早に帰り行く。

(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 加藤明子録)



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