出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語66-1-61924/12山河草木巳 神軍義兵王仁三郎参照文献検索
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第六章 神軍義兵〔一六八八〕

 玄関口に立ちはだかり『頼まう、頼まう』と呼ばはつて居る白髪異様の老人は、さも横柄に、この家の下女に向ひ、
老人『オイ、お下女どの、当家の主人はどう致して居るか。吾はオーラ山の修験者、シーゴーと申す者だ。当家の主人に申上げたい事あれば、面倒ながら案内をしてくれやれ』
下女『ハイ、何方か知りませぬが、旦那様は俄の御出陣で上を下への大騒動、どうかまた出直して来て下さい。何分御多忙でいらつしやいますから』
老人『アハヽヽヽヽ当家に係はる大難を救はむがため、遙々オーラ山より救世主の使として現はれ来りし修験者だ。何はともあれ、主人に面会致したい』
 かくいふ所へ、武装をつけた主人のジャンクは現はれ来り、老翁に向ひ、
ジャンク『いづれの方かは知りませぬが、今は国家の一大事、館は番頭共に任せおき、今早朝より出陣せなくてはなりませぬ。何御用か存じませぬが、もはや一身一家の事にかかはる場合ではありませぬ。どうかお帰り下さいませ』
シーゴー『アハヽヽヽヽ。拙僧がオーラ山を立ち出で、草茫々たる夜途を露に濡れながら夜も明けぬ中尋ねて来たのは、大神の御命令、国家を救ふも一家を救ふも、神ならでは叶はぬ事、その方も国家を救はむとして、義勇の軍に出陣なさるならば、拙者の一言をお聞きなされ。ただ一回位耳を借した所で、余り損にはなりますまい』
ジャンク『国家を救ふ方法がありとすれば何より結構、既に出陣の間際なれども、聞き逃す訳にはゆきますまい。此処は玄関口、サアサア奥へお進み下さい。篤とお話を承はりませう』
シーゴー『しからば御免、まかり通るであらう』
と錫杖をつきながら、横柄な面をして離れの別殿に伴はれ往き、丸き机を中に置き、主客向ひ合せとなつて談話が初まつた。
ジャンク『貴方は神のお使、修験者と承はりましたが、国家を救ふ要道をお示し下さるとの事、実に感謝に堪へませぬ。何卒御指導を願ひます』
シーゴー『拙僧はオーラ山の生神、玄真坊の高弟シーゴー坊と申すもの、この度吾師の君玄真坊におかせられては、トルマン国の危急を救ひ、民の苦を免れしめ、且小にしては一家一人の危難を免れしめむと、連日連夜の修業を遊ばし、一切の苦難を救ひたまふ、その霊験の著しき事、古今絶無でござる。天地の神明も吾師の高徳を慕ひ、教を受けむとし、毎夜オーラ山の大杉の樹に、天より棚機姫の星体下らせたまひ、深遠微妙なる教理を聞かせたまふと云ふ御威勢、如何にバラモン軍が跋扈跳梁するとも、吾師の君の祈祷によりて、煙散霧消するは火を睹るよりも明かである。就いては当家の娘御は行衛不明との事、必ずやバラモン軍の間諜者に捉へられ給ひしに相違なし、貴方は吾師の君に依頼して、最愛の娘御を、救つて貰ふ御精神はござらぬか』
 ジャンクは怪しみながら、頭を垂れ、稍思案に暮れて居た。
ジャンク『シーゴー様とやら、遠路の所御親切に有難うございます。しかしながら今日の場合、娘の事などに心を悩ます場合ではございませぬ。国家の一大事を救ふ御道あらばお示しに預かりたい』
シーゴー『アハヽヽヽ、貴方も偽善者の一人でござるな。何ほど国家のためだと云つても、天にも地にも掛け替のない娘が危難を救はれたいと云ふ精神は、十分にお持ちでせう。吾子を愛せない親は、人君として、或は里庄としての資格はございますまい』
ジャンク『いや、貴方の御明察、恐れ入りました。天が下に子を思はぬ親が何処にございませう。しかしながら今日の場合は、小なる愛を捨て、国家国王と云ふものに向つて、大なる愛を注ぐべきでございます。国家も国王様のお身の上も、既に焦頭爛額の危機に瀕して居りますれば、仮令最愛の娘を犠牲と致しても、大なる愛のために心力を傾注したい考へでございます』
シーゴー『貴方は大切な娘御を犠牲としてでも、国家を助けたいと云ふ思召、実に感心致しました。もし国家、国王、並に貴方の愛児がお助かりになるのなら、当家の財産に執着はございますまいなア』
ジャンク『勿論の事です。吾娘は行方知れず、生死もさだかならず、加ふるに老躯を引提げて、剣光閃く戦場に進むこの身、元より死は覚悟して居ます。吾死したる後は、巨万の財産も何の必要がございませう』
シーゴー『成るほど立派なお志感じ入りました。しからば一つ御相談を申上たいが、国王、国家、及びお娘御を救ふため、この財産をオーラ山の師の君玄真坊に奉るお気はございませぬか。山も川も、草木も天の星までその徳を慕ひ寄り来ると言ふ古今無双の生神様に、お上げなさつたならば、第一は祖先のため、国家のため最善の功徳と考へますがな』
 かかる所へ受付のセールは慌ただしく入り来り、
セール『旦那様、村中の用意が調ひました。早く御出陣をと、村人が武装のままお願に参りました。お馬の用意も出来ましたから……』
ジャンク『アヽさうか、直に往くからと申てくれ』
セール『ハイ畏まりました』
と、慌ただしく立ち去つた。
シーゴー『如何でございますか、御決心は……』
ジャンク『国家のため、国王様のためならば、吾財産を全部玄真坊様に差上げませう』
シーゴー『いや流石は明察の里庄殿、天晴天晴、しからば後日のため、貴方のお手より、一切の財産を差上るとの証文を認めて下さい』
ジャンク『男子の一言は鉄石の如し、面倒臭い証文などは要りますまい。これが人と人との交渉ならともかくも、善知識の活神様に差上るのだから、却つて証文など差上るのは失礼でございませう』
シーゴー『成るほど、御尤もの話だ。現に拙者が生証文でござる。梵天帝釈自在天様も御照覧あれ、決して二言はございますまいなア』
ジャンク『エ、執拗ござる。苟くも義勇軍の総司令、武士の言葉に二言はござらぬ』
シーゴー『しからば今日只今より、この財産は吾師玄真坊の所有に帰しました。御承知であらうなア』
ジャンク『吾財産を善用し、国家のため、国王様のため、娘のため、神様を鄭重に祭り、祈願を籠めて下さい。時刻も切迫致しますれば拙者はこれよりお別れ申す』
シーゴー『ヤ拙僧もこの吉報を吾師の君に申上げ、早速祈願に取りかかりませう』
と云ひながら、揚々として帰り往く。梅公は二人の問答を訝かりながら、密に立聞して居た。
 ジャンクは照国別の居間に入り来り、
ジャンク『いやどうもお待たせ致しました、サアこれから出陣を致しませう』
 梅公は次の間より慌ただしく入り来り、
梅公『もしもしジャンク様、御用心なさいませ、彼の修験者と云ふ老人は曲者でございます。彼の人相には剣難の相が漂ひ、悪相が顔面に満ちて居ます。貴方はこの財産を玄真坊とやらに全部提供なさつたやうですが、今の中にお取消しなさつたがよからう、一寸御忠告申上ます』
ジャンク『イヤ、有難う。私も怪しい事だとは思つたが、何と云うても国王様や国家を助けると云ふのだから、この言葉に免じ怪しいとは思ひながら財産全部を提供しました。最早男子の口に出した以上は撤回は出来ませぬ。これが撤回出来るやうなら地上に吐いた痰唾を再び呑むやうなものです。もう私も覚悟を定めました。サアサア御苦労ながら出陣致しませう』
梅公『チヨツ、曲津神の奴、偉い事をしやがつたな。こいつは屹度何かの秘密があるに相違ない。あんな事を吐して、自分が当家の娘を何処かに隠して居るのだらう。こんな事を聞いては見逃す事は出来ない。吾師の君が何と云はれても、オーラ山とやらに踏み込んで正体を調べてやらう、オウ、さうぢや さうぢや』
と独語しながら、照国別に従ひジャンクと共に三角旗を風に翻し、数百の義勇軍と共に旗鼓堂々とバルガン城を指して、法螺の声も勇ましく『ブウブウ』と四辺の邪気を清めながら隊伍を調へ進み行く。
 数百人の騎兵隊は、手に手に槍長刀などを携へ、果しもなき広原を進み行く。風は幸ひ追風にて進軍に最も便利であつた。ジャンクは馬上ながら進軍歌を謡ふ。

ジャンク『神代の昔皇神の  開きたまひし神の国
 トルマン国の若者よ  国と君とに尽すべき
 よき日は今や来りけり  勇めよ勇めよ神軍よ
 進めよ進め百軍  敵は幾万ありとても
 如何でか恐れむ敷島の  トルマン男子の魂は
 金鉄よりも猶堅し  国に仇なす曲津神
 払へよ払へよおつ払へ  骨身は積みて山をなし
 血潮は流れて河となり  屍を野辺に曝すとも
 神の御ため君のため  御国のために進むなる
 吾等は貴の神軍ぞ  撓まず屈せず進み行け
 ジャンクの率ゆる義勇軍  後れを取るなひるむなよ
 神の守りのある上は  汝の前途は坦々と
 蓮華の華の開くごと  真楽園が開かれむ
 進めよ進めよ快男子  進めよ進めよ神軍よ
 神は汝と倶にあり  吾等は神の選みたる
 御国を守る神軍ぞ  吾神軍の往く道に
 塞らむ曲のあるべきぞ  あゝ勇ましし勇ましし
 国を救ひのこの軍  民の守りの神軍ぞ
 あゝ惟神々々  梵天帝釈自在天
 大国彦の大稜威  吾身の上に輝きて
 忠義一途に固まりし  軍を守りたまへかし
 勝利の都は近づきぬ  勇めよ勇めよ快男子
 進めよ進めよ神軍よ』  

 照国別はまた謡ふ。

照国別『吾は神軍照国の  別の命の宣伝使
 三五教の御教を  四方の国々伝へむと
 進み来れる折もあれ  タライの村のジャンクさまが
 館に立ち入りこの度の  軍の話を聞きしより
 吾も義軍に加はりて  厳の言霊尽くるまで
 或は防ぎ戦ひつ  神の建てたる神の国
 御空に塞る黒雲を  伊吹払ひに払ふべし
 勇めよ勇めよ神軍よ  神は汝と倶にあり
 人は神の子神の宮  神に敵する曲はなし
 梵天帝釈自在天  大国彦の神様を
 敬ひまつり三五の  教を守りたまふなる
 神素盞嗚の大神の  御稜威を力と頼みつつ
 生死の境に超越し  神の御ため国のため
 国王と民を救ふため  身もたなしらに進むべし
 あゝ惟神々々  神の御稜威の尊さよ
 進めよ進めよ神軍士  勇めよ勇めよ軍人
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ
 御霊幸はひましませよ』  

 梅公はまた謡ふ。

梅公『吾師の君に従ひて  風吹き荒ぶ河鹿山
 やうやく越えて千万の  曲の難を払ひつつ
 葵の沼に来て見れば  月照り渡る水の面
 空に輝く清照の  姫の命や黄金の
 姫の命の宣伝使  右と左に袂をば
 別ちてタライの村の口  進み来れる折もあれ
 バラモン軍の暴状を  耳にせしより腕は鳴り
 血は躍りつつどこまでも  世人の難を救はむと
 思ひきはめし雄心の  大和心のやりばなく
 如何はせむと思ふ折  ジャンクの率ゆる義勇軍
 従軍せよとの師の君の  言葉に否み兼ねつつも
 皇大神の御心と  仰ぎまつりて進み往く
 さはさりながらスガコ姫  難に遇ひしと聞くよりも
 これが見捨てて置かれようか  戦の場に立ちながら
 心にかかるは姫の事  一旦救ひ助けむと
 思ひ定めし吾胸は  いつか晴れなむ大空を
 包みし雲の如くなり  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ  吹き来る風は強くとも
 敵の勢猛くとも  神にある身はどこまでも
 如何でか恐れためらはむ  あゝ面白し面白し
 敵を千里に退けて  トルマン国を永久に
 神の教に守るべく  進まむ身こそ楽しけれ
 進めよ進めよ神軍よ  勇めよ勇めよ諸人よ
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎまつる
 御霊の恩頼を願ぎまつる』  

 照公はまた謡ふ。

照公『風よ吹け吹け科戸の風よ  砂よ立て立て天まで立てよ
 吾は神軍照公の  神の司よ乗る駒の
 蹄の音も戛々と  如何なる山路も恐れなく
 神のまにまに進むべし  デカタン国の高原に
 駒に鞭つ吾々は  三千世界の救世主
 鳥獣や草木まで  救ひ助けむ職掌ぞ
 大足別の曲軍  バルガン城を十重廿重
 取り囲むとも何かあらむ  神のよさしの言霊を
 力限りに射放ちて  敵と味方の隔てなく
 言向け和すは案の中  刃に血をば塗らずして
 軍をおさむる神の徳  あゝ勇ましし勇ましし
 前途に光明輝きぬ  恐るる勿れ神軍士
 進めよ進めよ皆共に  天国浄土を地の上に
 完全無欠に開くまで  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』  

と声勇ましく謡ひながら、千里の広野を駒の蹄に砂塵を捲き上げながら、途々参加する兵士を合し、数千人の団隊となつてバルガン城を目がけ、勢猛く進み行く。

(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 加藤明子録)



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