出口王仁三郎 文献検索

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物語65-3-161923/07山河草木辰 泥足坊王仁三郎参照文献検索
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第一六章 泥足坊〔一六七二〕

 神の教の三千彦が  スダルマ湖水の西岸に
 無事安着の折もあれ  初稚姫のあれまして
 三五教の宣伝は  同行ならぬと手厳しく
 いましめられて是非もなく  伴ひ来りしデビス姫
 涙とともに袂をば  別ちて一人スタスタと
 姫の身の上案じつつ  ハルセイ山の峠をば
 半登りし折柄に  道のかたへに悲しげに
 倒れて泣ける女あり  何人ならむと立寄つて
 つらつら見ればこは如何に  年は二八の花盛り
 伊太彦司が最愛の  ブラヷーダ姫と覚りしゆ
 労はり助け介抱し  厚き情にほだされて
 胸に焔の炎々と  立上りたる苦しさに
 心は同じ恋の暗  月下に抱き泣きゐたる
 時しもあれやデビス姫  ここに突然現はれて
 心の迷ひを説き明かす  二人は恋の夢さめて
 汚れし心を悔悟なし  詫ぶればデビスに非ずして
 木花姫の御化身  尊き神の御試しに
 会ひし二人の胸の裡  可憐の乙女を振棄てて
 人跡稀な山径を  ただスタスタと登り行く
 ハルセイ山の峰を吹く  嵐に裾をば煽られて
 足もトボトボ頂上に  上りて見れば三人の
 見知らぬ男が朧夜の  木蔭にひそみ何事か
 声高々と話し居る  三千彦心に思ふやう
 これぞ全く山賊の  往来の人を待ち構へ
 宝を奪ふそのために  よからぬ事の相談を
 なし居るならむと傍の  木蔭に腰を打卸し
 様子如何にと聞き居たる。  

甲『オイ、随分恐ろしかつたぢやないか。今通つた奴は、一体ありや何だらうな。何ほど勇気を出して呼びとめようと思つても、あまり先方が大きな男だものだから、怖気がついて、自然に身体が慄ひ、どうする事も出来なかつたのだ。あんな奴に出会ふと泥さまもサツパリ駄目だのう』
乙『うん、彼奴ア何でもデーダラボッチに違ひないぞ。大きな法螺貝のやうな声を出しやがつて、四辺の山や谷を響かして通りやがつた時の怖さと云つたら、体が縮まるやうだつた。睾丸は、何処かへ転宅する。心臓院の庵主さまは荷物を引担げて遁走する。肺臓院の半鐘は急を訴へる。五臓郡六腑村の百姓は鍬を担げて逃げ出す。本当に小宇宙の君子国は、地異天変の乱痴気騒ぎだつたよ。その結果、俺の顔まで真青になつてしまつたよ』
丙『ハヽヽヽヽ、弱い奴だな。あんな小さいデーダラボッチがあるかい。デーダラボッチと云へば大道坊とも泥足坊とも別称して、スメール山を足で蹴り倒し、印度の海を埋めようとするやうな大道者だ。俺達の大道路妨とはチツとは選を異にしてゐるが、しかしながら今通つた奴は屹度比丘に違ひないぞ。貴様の目はあんまり、びつくりして目の黒玉が転宅して、白目ばかりになり、視神経の作用で、さう大きく見えたのだらう。大きいと云つても八尺位のものだ。キツト彼れは軍人上りの比丘に違ひないわ。疑心暗鬼を生ずと云つて、恐い恐いと思つてるから、そんな幻映を生じたのだ。チツとしつかりせぬとこの商売は駄目だぞ』
乙『成程比丘かも知れぬ。体中が比丘々々しよつた。ハルセイ峠の二度ビツクリと云つて、如何に聖人君子の泥棒さまでも、この峠だけは一度や二度はビツクリする事はあると、昔から定評があるのだ。三五教の宣伝使が「胴を据ゑ、腹帯をしめて居らぬと、ビツクリ箱が開くぞよ、今にビツクリして目まひが来るぞよ。フン延びる人民沢山出来るぞよ」と謡ひもつて通りよつた。チとビツクリに慣れて置かぬと、吾々の商売は真逆の時に、十二分の活動が出来ぬからのう。何と云つても貴様等二人は新米だから仕方がないわ』
甲『オイ、何はともあれ、今晩はテンと仕事がないぢやないか。折角香ばしさうな奴が来たと思へば、吾は伊太彦宣伝使なんて、肝玉の飛び出るやうな声で通つてしまひやがる。今度は四五人の足音がしたので一働きやらうと思ひ、捻鉢巻で木蔭に潜んで居れば、デーダラボッチのやうな比丘が通りやがる。本当に怪体が悪いぢやないか。俺達のやうな新米は到底あんな奴にかかつたら駄目だ。年の若い、足の弱い、女でも通りよると、都合がいいのだけどなア』
乙『さうだ。俺達は人間相手の商売だ。人間は男ばかりぢやない。爺も婆もある。時には若い女もあるだらう。小口から無理に手を出すと失敗るから、マアよい鳥が来るまで、ここで待つのだな』

甲『待つ身につらき沖の舟
  ほんにやる瀬がないわいな
   チヽツヽシヤン シヤン シヤン

アツハヽヽヽヽ』
丙『馬鹿、何を惚けてゐるのだ。千騎一騎ぢやないか』
甲『何、歌でも謡つて肝玉を錬つて大きくしてるのだ。英雄閑日月あり、綽々として余裕を存する事大空の如しだ』
乙『ヘン、ようおつしやりますわい。鮟鱇のやうな口から阿呆らしい、そんな歌がよく謡へたものだ。貴様の口つたら丸で河獺のやうだぞ。貴様が飯を喰ふ時は、狐のやうに口を尖らし、鼻が曲り、顔一面が丸で馬のやうに躍動するんだからな。そして頭ばかり無茶苦茶に動かしやがつて、額口から上が縦に振動くと云ふ怪体な御面相だから、泥棒の嚇し文句もサツパリ駄目だ。驚く処か向ふの方から笑つてかかるのだもの、飯食ふ時ばかりか、一言喋つても顔中が縦横十文字に躍動すると云ふ、珍な代物だからサツパリ駄目だい。一層の事、貴様は泥棒を廃して、ハルナの都の裏町辺で小屋者となり、顔芸でもしたら、人気を呼ぶかも知れないぞ。ハヽヽヽヽ』
甲『コリヤ、こんな山の上で人の顔の棚卸しばかりしやがつて、あまり馬鹿にするな。これでも泥棒さまとして、相手によつては睨みが利くのだ。マア俺の過去は咎めず、将来の活動を見てをれ。「あんな者がこんな者であつたか」と申して、貴様等がビツクリするやうな大事業をして見せるわ』
乙『ヘン、御手並拝見した上で、その業託は聞かして貰はうかい』
 三千彦は三人の話を、木蔭に潜んで面白がつて聞いてゐた。
三千彦(独言)『しかしながらブラヷーダ姫は後からここを上つて来るに違ひない。屹度此奴等三人のために裸体にしられ、凌辱を受けるかも知れないから、ブラヷーダさまが無事、ここを通過するまで、この木蔭に潜んで待つて居らう。もし事急なりと見れば、デーダラボッチだと云つて嚇かして散らしてやればよいのだ。うん、さうださうだ』
と一人頷きながら息をこらして控へてゐる。
 折から細いやさしい女の宣伝歌が聞えて来た。泥棒連は耳を澄まして無言のまま、様子を窺つてゐる。

(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 北村隆光録)



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