出口王仁三郎 文献検索

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物語64b-4-221925/08山河草木卯 帰国と鬼哭王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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本文    文字数=7013

第二二章 帰国と鬼哭〔一八二八〕

 ブラバーサはスバツフオードの厚意により、アメリカンコロニーを根拠として、マリヤと共に三五教の大宣伝をなし、その名を遠近に轟かし、数多の信者を集めて居た。しかるに日の出島における救世主の名声は、地球上隈なく知れ渡り、旭日昇天の勢で、エルサレムに来た各国人は、何れも競ふてブラバーサの話を聞かむと、このコロニーへ日一日と数多く集まつて来た。スバツフオードも非常に乗り気になり、アメリカンコロニーを三五教の出張所となし、自ら陣頭に立つて遠近の布教に出かけて居た。これに反してお寅婆アの日夜の活躍も寸効なく、一人の信者も出来ず、ただ徒に狂人婆アの評判を売つたのみ、市民の笑ひを買つたのみが収穫であつた。加ふるに守宮別、お寅、お花との三角関係が祟つて、遂にはその筋の耳に入り退去命令を受くる事になり、三日の後には聖地を後に本国へ帰る事になつたので、ブラバーサは俄に気をいらち、あんな狂人が国へ帰らうものなら、どんな噂を撒くかも知れない。自分は止むを得ずマリヤと関係した欠点もある。放つておけば自分の信用までメチャメチャにせらるるは火を睹るよりも明かだ。これやかうしては居られない。一度聖師にも会つて見たいし、また妻子にも安心させたいから、彼等に先だち急いで帰国仕度いものだと、スバツフオードに相談して見た。スバツフオードは一々諾づいて、
『成程一度お帰りになつた方がよいかも知れませぬな。肝腎の根拠地を蹂躙せらるる恐れが有りますから。しかしマリヤさまをどうなされますか』
『ハイ、マリヤさまには夜前篤と事情を打ち明けました処、快く承知して下さいました。遉は信仰生活に生きて居らるるだけあつて、変つた方ですわい。これこの通り私のために離縁状を書いて下さつたから安心を願ひます』
『一寸拝読さして頂いても宜敷うございますか』
『ハイ、宜敷うございます。マリヤさまの誠意がお分りになつて、互の便宜でございませうから』
 スバツフオード聖師は徐に読み初めた、

一、私事、神様の御縁によりまして、心にもなき御無礼を致し、今日まで貴方様の第二夫人として仕へて参りましたが、しかしこれも貴方様に悪魔の憑依しないやう、神様からの御命令を遵奉して来たものです。最早御帰国に際しましては、私の使命もいよいよ果されたと考へますから、後日の証拠としてこの書を書いて貴方にお渡し致しておきます。本国へお帰りになり、お寅さまや、守宮別さまや、魔我彦さまやお花さまなどが私と貴方の関係について、いろいろと悪く吹聴せらるるかも知れませぬ。万一左様な場合がございましたら、この書面を聖師様にお見せなさいませ、貴方と私との間は何の雲霧もなく、清浄潔白の間柄でございます。互に愛し愛され抱擁キッスなどは致しましたが、未だ肉交を行つた事はございませぬ。これは大神様がよく御存じですから、別に弁解する必要もなからうかと存じます。
   年 月 日
      アメリカンコロニーのマリヤより
 恋しき恋しきブラバーサ様

『なるほど立派な御両人のお志し、ヤ、私もこれほど潔白な間柄とは存じて居りませ何だ。矢張私の心が汚なかつたのでせう、ハヽヽヽ。サアサアこれからマリヤさまに来て貰つて、私と三人送別会を開きませう。さうして、コロニーの信者へもお神酒を一杯披露のため振れ舞ふ事に致しませう』
『長らく御厄介に預かりまして何から何まで御親切に有難うございます。何れまた近い中に上つて参ります。その時は日の出島の再臨のキリストの現はれたまふ時かと存じます。どこまでも幾久しく御厚情を願ひませう。随分お壮健で御神業に奉仕して下さいませ』
『三五教の信者はマリヤさまが担任致しますから、御安心下さいませ』
『ハイ、有難うございます』
と挨拶して居る所へマリヤは衣紋を繕ひ、出で来り、恭しく両手をつき、
『聖師様浅からぬ御神縁によりまして、いたらぬ妾、長らくお世話に預かりました。貴方が御帰国遊ばしましても、御教の御趣旨は私が代つて飽迄宣伝致します。また信者に対しても、貴方から教はつた教理を懇々と説き諭し、神政成就のため尽しますから、どうぞ御心配なくお帰り下さいませ』
『ヤ、実に長らく見ず不知の土地へ参りまして、お世話に預かりました。何れまた出直して参りますから、どうぞお身体を大切に御用を勤めて居て下さいませ。明後日のトルコ丸でお寅さま一行は帰国されるさうですから、私は一足先に今晩の汽船アラビヤ丸に乗つて帰らうと存じます。どうか御一同様へよろしくお伝へ下さいませ。序にマリヤさまにお願ひしておきたいのでございますが、駅前の有明家の綾子と云ふ芸者は、一旦守宮別と妙な関係が結ばれたと云ふ事でございます。守宮別が帰国の事となれば、嘸悲観の淵に沈み、女の小さい心から、無分別の事をするかも知れませぬ。万一そんな事があつては、日の出島から参りました、吾々宣伝使の責任が済みませぬから、どうぞ貴女から一度訪問して慰めて上げて下さい。きつとあの方は貴女のお弟子になるだらうと思ひます』
『ハイ、畏まりました。御心配下さいますな』
『どうやら出帆時刻までに、一時間よりございませぬから、今自動車を雇ふておきました。どうか早く乗つて下さい、私も船場まで送りますから』
 『ハイ、有難う』とブラバーサは自分の古い着物や手道具その他の日用品を、コロニーの人々に分与すべく頼みおき、三人自動車に乗つて渡船場へと急ぎ行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一四・八・二一 旧七・二 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)

(昭和九・五・二七 王仁訂正)
(昭和一〇・三・一〇 於台湾草山別院 王仁校正)



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