出口王仁三郎 文献検索

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物語64b-4-171925/08山河草木卯 茶粕王仁三郎参照文献検索
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第一七章 茶粕〔一八二三〕

 ブラバーサの親切を罵詈と叱咤を以て報ひ、箒で掃出さむばかりの待遇をして追返した。その翌日、狭苦しい霊城の日の丸の掛軸の前に、オコリが直つたやうな調子でお寅はチョコナンと坐り、祝詞を奏上し始めたり。
(祝詞)『小北の山を始めエルサレムの霊城に神つまります、底津岩根の大弥勒の大神、日出神の命もちて、三千世界の救世主、寅子姫命、つまらぬ餓鬼を腹立ち連の、ヤクザ身魂のために、身禊払ひ玉はむとして、現はれませる荒井戸の四柱の大神、もろもろの曲事罪穢を払ひ玉へ清め玉へ、ブラバーサ、お花の悪魔を退け玉へと申す事の由を、天の大神地の大神、底津岩根の神達共に、徳利聞し召せと畏みも申す。ミロク成就の大神様、上義姫の大神様、義理天上日出大神様、大広木正宗彦命様、木曽義仲姫命様、朝日の豊阪昇り姫命様、岩根木根立彦命様、天の岩倉放ち彦命様、厳の千別彦命様、四方の国中彦命様、荒ぶる神様、貞子姫命様、言上姫命様、その外世に落ちて御苦労遊ばした神々様、一時も早く世にお出まし下さいまして、神政成就、万民安堵の神世が立ちますやう、偏にお願申します。あゝ惟神霊幸倍坐世』
 ポンポンポンポンと四拍手し終り、
『これトンクさま、もうお茶が沸いただらうな』
『ハイ、夜前から沸いて居りますよ』
『さうかいな、ソンナラ一寸、ここへ持つて来ておくれ。久し振りで大神様にお祝詞をあげたものだから、喉が渇ついて仕方がない。あんまり熱いと舌をやけどするから、そこは飲みかげんにして、トツトと持つて来ておくれや』
『ハイ、今持つて参じます。オイ、テクの奴、早く土瓶をかけぬかい』
『土瓶をかけと云つたつて、夕べの騒ぎで、天にも地にも掛替のない土瓶君、切腹してしまつたぢやないか』
『エー、気の利かぬ、今の中に、それ表の瀬戸物屋へ行つて買つて来るのだ。同じ事なら白湯の沸いたのがあつたら、白湯ぐち買つて来ればいいぢやないか。サアサア、ソツトソツト、足音を忍ばせて』
 テクは小便しに行くやうな顔してソツと表へ出てしまつた。
『これこれ、何を愚図々々してゐるのだい。早くお茶をおくれと云ふのに』
『ハイ、今差上げます。一寸待つて下さいや』
『何とまア、早速間に合はぬ男だこと。あまりの愚図で、可笑しうて臍がお茶を沸かしますぞや』
『私だつて夕べの生宮様と、ブラバーサとの掛合を聞いて居つて、臍が夕から茶を沸かして居りますよ。本当にブラバーサの態つたら、なかつたぢやありませぬか』
 トンクは話を横道へ外らし、一寸でも暇を入れて、テクが帰つて来る時間を保とうとして居る。お寅はブラバーサの攻撃らしい事をトンクが云つたので、喉の渇いたのも忘れてしまひ、
『そら、さうだろ。お前だつてのう、トンク、あの態を見たら臍がお茶を沸かす所か、睾玉まで洋行するだらう』
『ヘーヘー、そらさうですとも。肝が潰れて、おつたまげる所か睾丸はまひ上る、おへそは腹がやけるほど、熱い茶を沸かします。イヤ、モウ、茶々無茶でございましたわい。チヤンチヤラ可笑しい。何程偉さうに云つても生宮様の前に現はれたら、丁度猫の傍へ鼠が来たやうなものですが、ニャーんともチュのおろしやうがございませぬわい。エー、テクの奴、気の利かない野郎だな。土瓶を折角買つて来た処で湯が沸く間が五分や十分かかるだらうし、この間何と云つてごまかしておかうかな』
と口の中で呟いてゐる。
『これこれトンクさま、今小さい声で云つた事、いま一度、云つて下さい。ごまかすとは、ソラ、誰をごまかすのだい』
『ヘー、何でございます。ブラバーサも立派な宣伝使だと威張つてゐますが、生宮様の鼻の息に、もろくも散つた処を考へて見ますと、籾粕か胡麻かすか、かるい代物だなア……、とこのやうに云ふたのですわい』
『ホヽヽヽ、籾粕ぢやのうて、揉み消すのだらう。胡麻粕ぢや無うて、うまい事生宮を、ごまかす積りだらうがな。ソンナ嘘を喰ふやうな生宮ぢやございませぬぞや』
『イエイエ、決して決して、勿体ない、大弥勒様の生宮を、ごまかすなぞと、人民の分際として、そんな大それた事が出来ますものか。第一、私の頭が世の中の悪潮流に、もみにもみ潰され、悪者共に、ごまかされ、脳髄が、ひつからびて、カスカスになつてゐますもの、どうして生宮様のやうに当意即妙の智慧が出ますものかい』
『これ、トンク、早くお茶を、おくれぬかいな』
『ハイ承知致しました。実の処は土瓶の奴、あの、何です。ブラバーサの態度に呆れたものと見えまして、腮を外し、腹まで破つて、てこねて居るのですよ。それだから、最も新しい、真新な、清新な土器を買つて来て、今日の初水を沸かし、進ぜたいと存じまして、今テクに買ひにやつた所でございます。どうぞ一寸、お待ち下さいませ』
『いかにも、そりや結構だ、いい処へ気がついた。何と云つても生宮様のお飲り遊ばす土瓶と、トンク、テクの奴連中と、今迄のやうに一つの土瓶で茶を沸かして居つたのが間違だ。今日から新しくなつて、イヤ誠に結構だ。神様もさぞ御満足遊ばすだらう』
『それに、生宮様、よう考へて御覧なさい。半狂人の曲彦や、お花さまが使つてゐた土瓶ですもの。夕べの騒ぎで、生宮様のお臂を使ひ、神様がお土瓶様を、滅茶々々にお割り遊ばしたのだと、私はこのやうに、おかげを頂かして貰ひますわ』
『成程、お前の云ふ通り、妾の聞く通り、チツとも間違ありますまい。ホヽヽヽ』
 かかる処へ、テクは青土瓶をひつ下げて帰り、
『イヤ、これはこれは、お早うございます。サアお茶が沸きました。どうぞお飲り下さいませ』
『これテクさま、新の土瓶を買つて来て下さつて誠に結構だが、湯を沸かすのなら、何だよ、初めてだから、あまり熱いお湯を沸かすと、お尻が割れますぞや。そして燻べぬやうにせないと、直お前の顔のやうに真黒になるからな。上等の炭火で沸かして下さいや』
『ヘー、瀬戸物屋の爺、仲々気の利いた奴で、新の土瓶で湯を沸かすのは仲々むつかしい、商売柄、一つ教へてあげませう、と云ひましてな、それはそれは立派な唐木で作つた角火鉢の上に、ソツとのせて、上等のお茶をチヨツトつまみ、ガタガタガタと沸かしてくれました。本当に飲み加減ださうでございますよ』
『そりや仲々気が利いてゐる。サア一つこのコツプについで下さい』
『ハイ、承知致しました』
と路地口でソツと垂れ込んでゐた小便の汁を七分ばかりついで、恭しく手盆に乗せ、おち付き払つてお寅の前につき出す。お寅は喉が渇いてゐるので、小便とは気が付かず、飛びつくやうにして、グイグイグイと飲み終り、
『ハ、何だか、妙な香がするぢやないか』
『何と云つても、土瓶が新でございますから、薬の香がチツトは出るさうです。どうです、も一杯、つぎませうか』
『イヤ、もう結構だ、とは云ふものの、コンナ結構なお土瓶のお新のお茶をお粗末にお取扱する御訳にはお行き申さぬから、も一杯ついで下さい』
『ヘー承知致しました』
と云ひながらまたもやコツプに今度は九分五厘まで注いで見た。
『ホヽヽヽヽ、何と、色よう出てゐること、エー今日は御褒美に大弥勒の太柱、日出神の生宮のお下りを、お前にも飲まして上げやう。結構な結構なお茶様ぢやぞえ。サア、テクさま、頂いて下さい。滅多に生宮様の口のついたお茶碗で頂くと云ふ事は出来ませぬよ』
『イヤ、もう沢山でございます。今日は何だか腹が張つて居りますので、水気は一切、欲しくはございませぬ』
『このお茶さまはな、御供水も同然だ。生宮が頂けと云つたら、反く事は出来ませぬぞや』
『どうか、おかげを、トンクに譲つてやつて下さいませぬか』
 トンクは、テクの奴どうも怪しい、途中で小便でもこいておきやがつたのぢやあるまいかと、やや疑ひ初めてゐた最中なので、
『ヤー、俺も結構だ。今日は水気一切飲みたくない。テク、お前が生宮様から頂かして貰つたのだから一滴もこぼさず、御神徳だ、グツと、思ひ切つてやつておき玉へ。俺としては、どうも、何々ぢや、マア自業自得だ。サアサア頂いた頂いた』
『これほど結構なお茶様が、お気に入らぬのかいな。ソンナラ仕方がない、このお茶さまは、下げて、あげる。イヤ、お茶さまは放かしなさい。そして、土瓶を灰でスツクリ中から外まで柄まで、研いておくのだよ』
『ハイ、承知致しました』
と匆々に裏口の溝溜りへ鼻に皺寄せながら打ちあけ、灰と水と簓とで大清潔法を行ひ、チヤンと走りの棚に安置しておいた。
『これ、テク、トンクの両人、俄かに、干瓢が欲しくなつたから、町へ出て一斤ほど買つて来て下さいな』
『ハイ、エー、私一人お使に参ります。お気に入りのトンクは、どうかお側においてやつて下さい』
『イヤイヤお前のやうな口穢いものは、一人やると、道で干瓢をしがみてしまふから目方が減つて大変な損害だ。口近いものはヤツパリ行儀のよい、トンクに買つて来て貰はう。その代りにお前は一寸使に行つて下さい。エルサレムのお宮へ、私の病気が本復したのでお礼詣りにだよ』
 テクとトンクは『ハイハイ』と二つ返事で小銭を、引ツつかみ立つて行く。干瓢はツヒ近くの店にあるので、十分たたぬ間にトンクは一斤ほど買求めて帰つて来た。
『生宮様、えらう遅うなつて済みませぬ』
『おそい所か、お前は夏の牡丹餅だよ。本当に足が早いぢやないか。使歩きは、お前に限るよ。今日は、この生宮が干瓢を煮いて神様にお供へをしたり、お前にも頂かしたいから手づから、お料理をしませう。テクの奴、エルサレムのお宮へ詣れと云つておいたのに、またどこに、外れて行くか分らないから、お前、御苦労だが一寸調べて来て下さらないか』
『成程、委細承知致しました』
と云ふより早く、窮屈の皺苦茶婆アの小言を聞いて居るより、外の空気に触れた方が面白いと、匆々に出でて行く。その後でお寅は干瓢に鰹のだしを入れ、グツグツと膨れる処まで煮き上げ、神様にもお供へをし、自分とトンクとの分をしまひおき、あとの残つた干瓢を、しばらく水に浸し、甘味をぬいてしまひ、再び土瓶の中へつツ込み、シスセーナをやつて、再び火鉢に土瓶をかけ、グツグツグツとたぎらし、テクの膳を出して、皿に一杯盛つておいた。しばらくすると、トンク、テクは怖さうに帰つて来た。
『もし生宮様、エー途中でテクに出会ひまして、無事に帰りましてございます』
『アヽそれはそれは御苦労千万、さア腹が減つただらう、朝御飯を食つて下さい。私もお前さまと一緒に御飯を食らうと思つて、空腹をかかへて待つて居つたのだよ』
『それはそれは。炊事まで生宮様にさせまして、オイ、テク、頂かうぢやないか。大弥勒様のお手づからの御料理だ。コンナ光栄は、滅多にあるまいぞ』
『今日は生宮が炊事をするけれど、明日からはトンクさまに願ひますよ』
『はい、承知致しました』
と三人は食卓を囲み、干瓢の副食物で、朝飯をパクつき初めた。
『何とマア、干瓢の味がいいぢやありませぬか。何ともかとも知れぬ味が致しますワ』
『ン、うまいな、しかし、チツと臭いぢやないか』
『何、臭いのが価値だ、鰹の煮だしの香だよ』
『さうだらうかな』
と云ひながら、お寅もトンクも、甘さうに喰つてゐるので、自分も怪しいと思ひながら、一切れも残さず平げてしまつた。
『ホヽヽヽヽ、これテク、どうだつたい。お前には特別の御守護が与へてあるのだよ。最前の返礼にな。チツとばかり、お報いしたのだから、悪う思つて下さるなや、ホヽヽヽヽ』
 テクは小田の蛙の、泣きそこねたやうな面をしながら、ダマリ込んでしまつた。そこへスタスタ帰つて来たのはツーロであつた。
『御免なさい。えらう遅くなつて済みませぬ。只今かへりました。ヤア、トンク、テクお前は、もう帰つてゐるのかい』
トンク『貴様、どこへ行つて居つたのだい。生宮様は大変に立腹してござつたぞ。まるで鉄砲玉のやうな奴だな。出たら帰る事を知らないのだから、困つたものだよ』
『ナニ、大変暇がいつて、すまなかつたが、その代り生宮様に対し、ドツサリとお土産を持つて来たのだ。お釈迦様でも御存じないやうな、秘密を探つて来たのだからなア』
『これ、ツーロ、妾におみやげとは、ドンナ事ぢやいな。大方お花と大広木さまとの秘密でも探つて来たのだらう』
『イヤ、御賢察恐れ入ります。私も実は、ヤクの後をおつかけて参りました所、行衛が知れないので申訳がないと存じ、二三日アメリカン・コロニーの食客をやつてゐましたが、大広木正宗さまとお花さまとが、カトリックの僧院ホテルで新ウラナイ教を立てられると云ふ事を聞き、ソツと見に行つた処、ヤクの奴、階子段の下に大の字になつて、フンのびてゐるぢやありませぬか。大勢のボーイがよつて、ワイワイ騒いでゐる、医者が出て来る、大変な騒動でしたよ』
『何と、マア天罰と云ふものは、恐ろしいものだな。この生宮の面態を泥箒でなぐつた報ひだらうよ。それで一寸、溜飲が下りました。どうも神さまと云ふものは、偉いものだわい。そしてお花や大広木正宗さまの様子は聞いて来なかつたかい』
『ヘーヘー、聞くの聞かぬのつて、大変な事が起つて居ります。守宮別の大広木さまはお花さまと結婚式を挙げ、新宗教を樹てやうとしてござつた所へ、有明家の綾子と云ふ白首が会ひに来たものですから、お花さまと大喧嘩が起り、大広木さまは種茄子を引張られて目をまかすやら、お花さまは頭を殴られて発熱し、囈言ばかり云ふので、博愛病院へ入院しました』
『ホヽヽヽ、何とマア神さまは偉いお方だな。誠さへ守りて居りたら神が敵を打つてやるぞよと、いつも日出さまがおつしやるが、ヤツパリ悪は善には叶ひますまいがな、しかし有明家の綾子と云ふ女、気の利いた奴だ。蹴爪の生えたお花と喧嘩するなぞと、本当に末頼もしい。ドーレ、それでは、守宮別さまの御見舞に行かねばなるまい。所在が分つた以上は、一刻も猶予は出来ぬ。トンク、テク、お前は神妙にお留守をしてゐて下さい。必ず小便茶なぞを沸かしてはなりませぬぞや。これツーロ、案内しておくれ』
『ハイ、承知致しました』
と先に立ち出でて行く。お寅はダン尻をプリンプリンと中空に、ブかつかせながら、表街道へ出て、ツーロと共に自動車を雇ひ、カトリックの僧院ホテルを指して急ぎ行く。

(大正一四・八・二一 旧七・二 北村隆光録)



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