出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=64b&HEN=4&SYOU=16&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語64b-4-161925/08山河草木卯 誤辛折王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=16367

第一六章 誤辛折〔一八二二〕

 トルコ亭の細い路地の衝き当りに、お寅が設立しておいた五六七の霊城には、トンク、テクの両人が、お寅と共に、三人首を鳩めて、ヒソビソと話に耽つて居る。
『コレ、トンクさま、一体あの守宮別さまとあやめのお花は、どこへ行つたのか、お前どうしても分らぬのかい』
『ハイ、丸で煙のやうな、魔者のやうなお方ですもの、サーッパリ、見当がつきませぬがな。しかし噂に聞けば、お花さまは守宮別さまと、夫婦約束をしられたとかいふ話ですよ。一昨日の晩ある人から十字街頭でその話を聞きましたので、早速報告しようと思ひましたが、生宮様の御病中、お気をもませましては……と実は控えてをりました』
 お寅は顔色を変へ、
『ナニ、二人が結婚した。ソラ本当かいな、ヨモヤ本当ぢやあるまい』
『イエイエ、実際の事云やア、貴方が、何でせう。二人よつて、何でせう。守宮別とお花さまと手を曳いてやつて来る所を、ペツタリ出会し、肚立紛れに卒倒なさつたのぢやありませぬか。噂で聞いたと云ふのは実はお正月言葉で、実際、私も睦まじ相にして歩いてる所を目撃したのですもの。なア、テク、さうだつたな』
『ウンさうともさうとも、あの時生宮さまがクワアッと逆上して、暈を遊ばし、大地に転倒されたぢやないか、警察医がやつて来る、群集は山の如くに出てくるし、もうエライ乱痴気騒ぎで、やつとの事生宮さまの気がつき、三台の俥で、生宮さまの警護をしながら、此処へ帰つて来たのですワ』
『なるほど、さう聞くと、夢のやうにボーッと記憶に浮んで来るやうだ。ハテナ、コンナ大問題を今迄スツカリ忘れて居たのかいな』
『そらさうです共、エライ発熱でしたよ。昨日までウサ言ばかりおつしやつて、吾々二人はどれだけ介抱したか知れやしませぬワ』
『いかにも、憎い憎いあやめのお花奴、十年が間、懇篤な教育をうけながら、師匠の私に揚壺をくはし、おまけに人の男を横領して出て行くとは、犬畜生にも劣つた代物だ。これがこのまま見逃しておけるものか。仮令両人天を駆けり地をくぐる共、この生宮が命のあらむ限り、岩をわつても捜し出し、生首かかねがおくものか……』
と面色朱をそそぎ、握り拳を固めて、二つ三つ自分の胸をうちながら、またもやパタリと倒れ伏しけり。
『オイ、テクどうせうかな。しまひにや気違ひになつてしまやしまいかな』
『サ、さうだから、守宮別、お花の事はいふないふなと俺が注意するのに、トンク汝が軽はずみな事を言ふから、コンナ事になつたのだよ。男の口の軽いのも困るぢやないか』
『それだと言つて、いつまでもかくしてゐる訳にも行かず、モウ余程精神が安定したとみたものだから、一寸云つてみたのだよ。俺だつて、コンナになると思や、うつかり喋るのぢやなかつたけれどなア』
『ともかく、冷水でも汲んで、頭を冷してやらうぢやないか。コンナ所で死なれて見よ、俺達が殺したやうに警察から睨まれたらつまらぬからな』
『一層の事、今の内にトンクトンク テクテクと逃出したらどうだ、到底駄目だらうよ』
『馬鹿云ふな。ソンナ事をせうものなら、益々疑はれてしまふよ。一樹の蔭の雨宿り一河の流れを汲んでさへ、深い因縁があるといふぢやないか。仮令三日でも養つて貰つたお寅さまを見捨てて帰れるものか。そんな不義理な事をすると、アラブ一党の面汚しになるぢやないか。絶対服従を以て主義とする回教のピュリタンを以て任ずる吾々が、ソンナ事がどうして出来ようかい。お天道さまが御許し遊ばさないからの』
『そらーあ、さうだ。天道様の御弔ひだ、空葬だ、大いに悪かつた。ヨシ、これからお前と俺と両人が力を併せ心を一にして、この生宮さまの命を助け、天晴全快して貰つて、この霊城を立派に開かうぢやないか。俺アこれから橄欖山へお寅さまの病気祈願のため参つて来るから、お前気をつけて介抱してあげてくれ』
『そら、いい所へ気がついた。サ、早く参つて来てくれ。後は俺が引受けるからな』
『ヨーシ、ソンナラこれからお参りして来うよ』
と云ひながら、夕日を浴びて、橄欖山へと登り行く。山上の祠の前に来て見れば、ブラバーサが一生懸命に何事か祈願をこめてゐる。トンクは傍により、
『もしもし貴方は三五教の宣伝使様ぢやございませぬか』
『ハイ、左様でございます。貴方はトンクさまぢやありませぬか。何時やらはエライ失礼を致しました』
『イヤもう、御挨拶痛み入ります。全く私が悪かつたのでございますから、どうぞモウソンナこたア云はないでおいて下さいませ』
『時にお寅さまは御壮健にゐらつしやいますかな』
『ハイ有難うございます。実の所は、お寅さまと、お花さま守宮別さまが大喧嘩をせられまして、終局の果にや、守宮別さまはお花さまと一緒に結婚とか何とか云つて、手に手を取つて、面当に霊城を飛び出してしまはれたものですから、生宮さまの御立腹と云つたら、それはそれは言語に絶する有様でございました。そこへ受付にをつたヤクの奴、生宮さまの気のもめてる最中へ毒舌を揮つたものですから、生宮様がクワツとなり、ヤクを叩きつけようと遊ばしたその刹那、ヤクの奴、庭箒をひつかたげて飛出し、途中で生宮さまの御面体を泥箒で擲りつけたり、いろいろ雑多の侮辱を加へたものですから、疳の強い生宮様はたうとう逆上してしまひ、それが元となつて、今では発熱し、ウサ言ばかり云つてゐられます。こんな塩梅では、生命もどうやら覚束なからうと存じ、テクに介抱させておき、私はこの祠へ御祈願に参つた所でございます。いやモウエライ心配で困りますワイ』
『話を承れば、実にお気の毒な次第です。コンナ事を聞いて聞逃す訳にも行きませぬから、平常は平常として、私は霊城へ参りませう。そして一時も早く御全快なさるやうに御祈願をさして貰ひませう』
『ハイ、そら御親切有難うございますが、常平生から、貴方を敵のやうに罵つてゐられますから、貴方がお出になつたのをみて、益々逆上し、上も下しもならないやうになつちや却て御親切が無になりますから、何ならお断りが致したいのでございますワイ』
『ハヽヽヽ非常な御警戒ですな。しかし人間といふ者はさうしたものぢやございませぬよ。災難の来た時にや互に助け合ふのが人間の義務ですからな。何程我の強いお寅さまだつて、滅多に私の親切を無になさる道理はありますまい。キツと喜んで下さるでせう。そしてこれを機会にお寅さまの心を和らげ、同じ日出島から来た人間です。和合の曙光を認めたいと思ひますから、たつて御訪問を致します』
『ヘーエ、誠に以て、お志は有難うございますが。しかしながら私は知りませぬで、どうか生宮さまに、私から病気の次第を聞いた、なんて云つて貰つちや困りますからな。貴方が勝手に御越しになつた事にしておいて頂かねば、後の祟りが面倒ですから』
『エ、それなら、私はこれから霊城を訪問致しますから、トンクさま、貴方はゆつくり御祈願をなし、エヽ加減に時間を見計らつて何くはぬ顔で御帰りなさい。そすりやお寅さまだつて、貴方に小言はありますまいからな』
『あ、さう願へば私も安心です。どうかよろしう頼みませぬワ』
 ブラバーサは急いで山を降り、何くはぬ顔して、トルコ亭の細い路地を伝ひ、霊城へ来てみると、テクが甲斐々々しく頭を冷してゐる。
『ヤ、これはこれは、テクさまでございますか。生宮さまは御不例にゐらつしやるのですかな』
『ハイ、左様です。そしてまたお前さまは何の御用で御出になりました。お前さまの顔見ると生宮さまの御機嫌が益々悪くなり、病気がまた重くなりますから、トツトと帰つて下され』
『帰らうと思へば、さう追立てられなくても返りますよ。しかしながら同国人の病気と聞いて、宣伝使たる私、見逃す訳に行きませぬから…』
と云ひながら、枕許にツカツカとより、熱誠籠めて天の数歌を三唱し、大国常立尊、神素盞嗚尊助け玉へ、許し玉へ…と祈願するや、今迄火の如き発熱に苦しみてゐたお寅は嘘ついたやうに熱は去り、忽ち起き上り座布団の上にキチンと行儀よく両手をのせ、
『ハ、これはこれは、何方かと思へば、ブラバーサさまでございましたか。ようマ御親切に来て下さいましたね。私もこの間からチツとばかり風邪の気で臥せつてをりましたが、夜前あたりからスツパリと全快致し、モウ寝てゐるのも何だか辛気臭くて堪らないのですが、日の出さまの御忠告によつて、養生のため、ねて居りました。決してお前さまの算盤の声で直つたのぢやございませぬから、ヘン、どうか恩に着せて下さいますなや。しかしながらこの霊城へお前さまが御参りさして頂いたのも、ヤツパリ神さまのおかげだよ。このお寅が病気だといふ噂をパーッと立たせておき、お前さまの心を引くために、この生宮をチツとばかり苦しめ遊ばしたのだから、必ず必ず仇に思つちやなりませぬよ。結構な結構な御霊城さまへお前さまが大きな顔で参拝出来たのもこのお寅がチツとばかり悪かつたおかげだ。神様の御仕組といふものは偉いものだな。サ、これからブラバーサさま、チツと我を折つて日出神の生宮を認めて下さい。いつまでもいつまでも変性女子のガラクタ身魂にトチ呆けて居つちやダメですよ。神政成就に近よつたこの時節に、何の事ですいな。早く改心して、日の出神の片腕となつて、ウラナイ教を開き、天下万民を塗炭の苦より救つて下さいや』
『ハイ、また考へておきませう。先づ先づ御病気の御本復と聞いて安心致しました。私一寸用がございますので、これから御暇を致します』
『ホヽヽヽ、ヤツパリ心に曇りがあると、この霊城が苦しうて、ゐたたまらぬと見えますワイ。第一霊国の天人のお住居、どうして八衢人足がヌツケリコと居れるものかい、ウツフヽヽヽ』
『お寅さま、余りぢやありませぬか。どこまでも貴方は私を敵にする考へですか』
『きまつた事ですよ、三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒の生身魂、日出神の生宮を認めないやうな妄昧頑固の身魂をどうして愛する事が出来ませうぞ。日の出様が一生懸命に艱難辛苦を遊ばして、立派な立派な、結構な、心易い、暮しよい、みろくの大御代を建てようと遊ばしてるのに、悪魂の変性女子にとぼけて、この世を乱さうと憂身をやつしてゐるお前さまだもの、これ位な大きな敵は世界にありませぬぞや。この神は従うて来れば誠に結構な愛のある神なれど、敵対うて来る身魂には鬼か大蛇のやうになる神ざぞえ。お前さまの心一つで楽に立派に御用致さうと、苦しみてもがいて地獄落の悪魔の用を致さうと、心次第でどうでもなるですよ。コンナ事が分らぬやうで、ヘン、宣伝使などと、よう言はれたものですワイ。改心なされ、足元から鳥が立ちますぞや』
『ハイ、有難うございます。また後して伺ひますから左様なら』
『ホヽヽヽたうとう、八衢人足奴、生宮さまの御威光に打たれて、ドブにはまつた鼠のやうに、シヨンボリとした、みすぼらしい姿で、尾を股へはさみて逃げよつたぞ。ホヽヽヽ、コラ、テク、ブラバーサなんて偉相に云つてるが、私にかかつたら三文の値打もなからうがな。丸で箒で押へられた蝶々のやうに命カラガラ逃げていつたぢやないか、イツヒヽヽヽ』
『モシ生宮さま、ヒドイですな、テクも呆れましたよ』
『ひどからうがな。いかなお前でも呆れただらう。耄碌魂のヒョロ小便使めが、あの逃げて行くザマつたらないぢやないか。それだからこの生宮の神力を信じなさいといふのだよ』
『生宮さま、そら違やしませぬか。今の今迄人事不省に陥つてござつたのを、ブラバーサさまがお出になり、指頭から五色の霊光を発射して、お前さまの病気を助けて下さつたぢやありませぬか。それに貴方は、昨夜から病気が直つてたナンテ、ようマア嘘が言へたものですな。私はその我慢心の強いお前さまの遣口に呆れた、といふのですよ』
『お黙りなさい。アラブの黒ン坊のクセに神界の御経綸が分つてたまるかいな。ソンナ事いつて、この生宮に敵たふやうな人はトツトと帰つて貰ひませう。アタ気分の悪い。エーエーそこら中がウソウソとして来た。これ、テク、塩をもつてお出で、お前の体に悪魔が憑いてる、これからスツパリと払つて上げるからな』
『イヤもう結構です』
といつてる所へ、トンクはドンドンと露地口の細路を威嚇させながら帰り来り、
『ヤア、これはこれは、生宮様、いつの間にさう快くおなりなさいましたか。私は心配致しまして、テクに貴女の介抱を命じおき、エルサレムの宮へ御病気祈願のために御参拝して来たのです。何と御神徳といふものは、アラ高いものですな』
『それは大きに御親切有難う……とかういつたらお前さまはお気に入るだらうが、ヘン誰がそんな事お前さまに頼みました。大弥勒様の生宮、三千世界の救世主、日出神の生宮さまの肉体の、病気を直すやうな神様がどこにありますか、いい加減に呆けておきなさいや』
『オイ、テク、チツと可怪しいぢやないか、病み呆けてござるのだらうよ』
『マアマア喧しう言ふな、何時迄言つたつて限りがないからな。何と云つても三千世界の救世主様だから、維命、維従うてゐさへすりやいいのだ』
と云ひながら、余り相手になるなといふ意味を目で知らした。お寅は布団を頭からひつかぶり、スヤスヤと眠に就きぬ。

(大正一四・八・二〇 旧七・一 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web