出口王仁三郎 文献検索

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物語64b-2-81925/08山河草木卯 擬侠心王仁三郎参照文献検索
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第八章 擬侠心〔一八一四〕

『僕の人生はどこにある  朝から晩までタラタラと
 汗水しぼつて金儲け  しようと思つて人並に
 苦しみ悶え汗膏  殆ど尽きたこの体
 膏のやうに絞られて  身体頓に骨立し
 悲鳴をあぐるその中に  君と僕との人生は
 深く潜んでゐるのだらう  思へよ思へ友の君
 資本主義なる世の中は  キヤピタリズムを唱ふれば
 大罪悪の酵母だよ  殺人強盗強姦や
 詐偽に窃盗脅喝や  まだあるまだある沢山に
 これもヤツパリ吾々が  人生に処する余儀なき手段であるだらう
 このやうな事になつたのも  キヤピタリズムの賜だ
 不労所得者の賜だ  ガンヂガラミに縛つてる
 その方法は警察だ  裁判所だ刑務所だ
 も一つひどいのは絞首台  おまけに憲兵だ軍隊だ
 まだまだ無数に手段ある  蜘蛛の巣よりも巧妙に
 鋼鉄よりも頑強に  無数の吸盤で吾々の
 生血を吸ふたり膏をば  ねぶつて喰ふ資本主義
 制度のこの世にある限り  君等も吾等も助からぬ
 抑人生のおき所が  悪かつたために吾々は
 膚は寒く腹は餓ゑ  終にや縛られ殺される
 何とかせねばならうまい  悪逆無道のこの制度
 打てや、こらせやブル階級  振へよ、起てやプロレタリヤ
 立つべき時は今なるぞ  政治宗教法律や
 倫理や修身何になる  吾等は命を的にかけ
 子孫のために悪制度  破壊せなくちや人生の
 大本分が尽せない  打てや懲せやブルジョアを』

と四五人の労働者が赤い旗を立てて橄欖山麓を歩んで来る。待ち構へて居た数名の警官は有無を云はせず一人も残らずフン縛つてしまつた。
警官『コリヤ、その方は今何を歌つてゐた。不穏と認めるから捕縛したのだ。調べる事があるからエルサレム署までキリキリ歩め』
 その中の一人は盛に首を振りながら、
『オイ、ポリス、馬鹿にすな、俺達はもとより主義のために生命を捨ててゐるものだから、拘引位は屁の茶とも思つてゐないが、しかしながら、人民の声を聞いて省たがよからうぞ。貴様は何だ、僅かな目くされ金を貰ひやがつて人民の怨府になり、時代錯誤の張本人の部下となつて、その日を暮すとは実に憐れつぽいものだのう。俺は、かう見えても世界で有名なトロッキーだ。どうだ、今この際俺の云ふ事を聞いて一同の縛を解くか、それとも時代に目醒めずして俺等を拘引するか。忽ち汝が頭上に災の来るは電光石火よりも速かだぞ。この聖地には俺の部下が殆ど七八分ある筈だ。それだから何程法律を喧しく云つても、宗教を叫んでも駄目だ。覚醒するなら今だが、どうだ、返答を聞かう。それまでは一寸だつて吾々は動かないぞ』
 警官は互に顔を見合せ、トロッキーと聞いて、稍恐怖心に懸られてゐる。警官は各耳に口を寄せ善後策について協議をやつてゐる。そこへ守宮別、お花の両人がホロ酔機嫌で現はれ来たり、
守宮『オ、これはこれは誰かと思へば警官、こなたでござるか。さてもさても沢山な得物がござつたものだな。エー、しかしながら、御忠言で恐れ入りますが、一寸、私の言ふ事も聞いて下さい。永くお暇はとりません。何のために労働者をお縛りになつたのですか、労働者は抑も国家生産機関の基礎でございますよ』
トロッキー『イヤ、お前さまが噂に高い日出島の守宮別さまだな、そして、そこにゐるのは有名なお寅さまかい』
守宮『イヤ、お寅さまは、一寸様子があつてこの頃霊城に神界のため立籠もつてゐられますよ。私はお寅さまのお弟子と、……エー……、神界の御用でお山に詣る途中ですが、貴方等が縛られとるのを見て、どうも、黙過する訳にも行かず、今警官とかけあつてゐる処ですよ。また何のために、こんな目にお会ひになつたのですか』
トロッキー『今日は全国の農民が労働を祝福すると共に、暴逆極まる資本主義の搾取と圧制に対し、一斉に抗議を投げつけるため、世界の無産階級のために友情を示し、また吾々団体の決意と団結の一層強固ならむ事を誓ふために、示威運動を全国一斉に行ふ日です。農民組合員は一人も洩れ落ちなく、婦人も青年も、これに加はつて吾々の無産階級団体を作るための運動最中、わからずやのポリスに引かかつたのですよ。警官が何と云ふか知りませぬが一同に農民歌を歌はせますから、それを聞いて農民の苦境をお覚り下さい』
 『農民歌始め』と号令するや縛られた六人を初め、その附近に立つて居た人々も口を揃へて歌ひ出した。警官は呆気にとられて黙つて聞いてゐる。

『農に生れて農に生き  土を耕し土に死す
 痩たる土の香りにも  汗と涙に生きむとす
 吾生活の悲愴さは  ブルジョア階級の夢にだに
 感知し得ざる悲惨さよ  アヽ吾生命に力あれ
 吾運動に力あれ。  
   ○
 春幾度か廻れども  富みおごれるは農民の
 吾々老若男女等が  汗と膏の賜物ぞ
 汗とあぶらを盃に  汲んでは花にたわむれつ
 秋の月をば慰めに  酒汲み交すブル階級
 寒く餓ゑたる同胞を  蔑み笑ひ鞭てり
 鬼か大蛇か狼か  悪魔のはばるこの世界
 立替せずにおくべきか  吾等が生命に力あれ
 吾等が運動に力あれ。  
   ○
 たぎるが如き小山田の  真夏真昼も孜々として
 滝なす汗をしぼるのも  来らむ秋の八百穂の
 稲の実のりの肥料ぞと  苦熱を凌ぎ草とれば
 高楼絃歌にさんざめく  吾等は命を的として
 この悪風を根絶し  吾等の未来を救ふべし
 未来は吾等のものなるぞ  吾活動に力あれ
 吾生命に力あれ  
   ○
 曙白く星寒く  刃の如き秋の風
 山野の草は枯れ尽し  地上一面霜をおき
 鎌を握れるこの手先  霜ふみしめし足の先
 罅凍傷に血走れど  憩はむ暇さへなかりしが
 その収穫は大部分  地主の倉に収まりて
 淋しく泣ける寒狐  住む家さへも壁は落ち
 見るも悲惨な光景ぞ  あゝ人生はかくの如
 悲惨で一生を通すのか  否々決してさうでない
 天の与へし田種物  働くものの所有ぞや
 不労所得者の権力が  どこに一点あるものか
 吾等の運動に力あれ  未来は吾等のものなるぞ。
   ○
 汗と涙と血を捧げ  地上に画がく芸術の
 誇りも空しく夢と消え  汗と涙に汚れたる
 吾等が辛苦の結晶は  奢侈逸楽の犠牲となり
 飢と寒さに子等は泣く  あゝこの惨状をいかにして
 いつまで看過出来やうか  吾等の命に力あれ
 未来は吾等のものなるぞ。  
   ○
 咄何者の奸策ぞ  正義の刃に血は煙
 自由の剣をとりて立つ  雄々しき勇士といたはしき
 妻子の上に迫害の  魔の手は下れり爪先を
 敏鎌の如く研すまし  吾等が大切の玉の緒を
 斬らむと企むブル階級  倒さにやならぬ吾々は
 この世このまま置いたなら  彼等のために亡ぼされ
 子孫断絶するだらう  吾等の生命に力あれ
 吾等の運動に力あれ  未来は吾等のものなるぞ。
   ○
 壁落ち軒は傾けど  五尺の体を休養する
 ためには自由の誇りあり  吾等貧しく疲れしも
 抱く真理に光あり  永き搾取と圧制に
 反逆すべく起てるなり  未来は吾等のものなるぞ
 打てよ懲せよブル階級。  
   ○
 君よ見ざるや農民を  全土を覆ひし団結を
 君聞かざるや農民を  来れよ友よと呼ぶ声を
 あゝ今吾等起たずんば  混沌の世を如何にせむ
 起てよ振へよ怒れよ狂へ  未来は吾等のものなるぞ』

トロッキー『先づ吾々の主義はこの通りでございます、永らくの間、農民は地主資本家のために生血を絞られ、痩衰へて参りました。そのため国家の大本たるべき農民は身体骨立し満足な働きも出来ないのです。これに反して不労所得者たるブル階級は豚の如く、象の如く肥太つて居ります。これも皆貧民の生血を搾取した結果です。神の子と生まれたる吾々人間が、どうしてこの惨状を真面目に見てゐる事が出来ませうか。如何に宗教が倫理を説くとも、天国を説くとも、法律が八釜しく取締つても、パンなくして人は世に生活する事は出来ますまい。そのパンの大部分を搾取する鬼や大蛇の階級を蕩滅し、平等愛の世界に作り上げるのは、吾々志士たるものの天職ではありませぬか。無論宗教は精神的に人類を救ふでせうが、焦眉の急なる衣食住の問題を閑却しては、宗教の権威も有難味もございますまい。そんな手ぬるい手段では、今日の世を救ふ事は駄目だと思ひます』
守宮『成程尤も千万だ、僕は大賛成を致します。もし警官どの、どうかこの憐れな労働者を解放して下さい。その代り拙者が代人となり括られませう』
お花『これ、守宮別さま、何と云ふ事を、お前さまはおつしやるのだい。人の罪まで引受けると云ふ事が、何処にありますか。私をどうして下さるおつもりですか』
守宮『ナザレのイエス・キリストでさへも世界万民のため十字架にかかられたぢやないか。俺がいつも酒を飲んで浮世を三分五厘で暮してゐるのも、社会人類のため命を投げ出してゐるからだ。ブラバーサやお寅さまのやうに口ばつかり云つて居つても誠が無けりや駄目だ。俺はこれから無産階級者の代表となつて処刑を受けるつもりだ』
お花『それも、さうでございませうが、これ守宮別さま、お前さまが、そんな処へ行つた後は、妾はどうするのですか』
守宮『お前は、精出してお酒の差入をするのだ』
お花『酒なんか差入は出来ますまい』
守宮『出来いでかい。今の役人は皆飢る腹をかかへてブリキを佩つて威張つてゐるから、ソツと金さへやれや何でも、云ふ事を聞くよ』
 かかる所へ俄かに四辺騒々しく数百人の、暴漢が現はれて警官を十重二十重にとりまき袋叩きにしてしまつた。トロッキーと名乗る男、及び縛されて居た連中は、この隙に各縄目をとき凱歌をあげ何処ともなく消えてしまつた。守宮別お花は得意になり、鼻歌を歌ひながら橄欖山上目がけて登り行くのであつた。

(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於丹後由良 北村隆光録)



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