出口王仁三郎 文献検索

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物語64b-2-71925/08山河草木卯 虎角王仁三郎参照文献検索
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第七章 虎角〔一八一三〕

 守宮別お花の二人は奥の一間で、酒汲みかはしながら、意茶付き喧嘩をやつて居る所へ、トンク、テク両人は盗人猫が不在の家を覗くやうなスタイルで、ヌーツと顔をつき出した。お花は早くも二人の姿を見てとり、
『ヤ、お前は、お寅さまと一所に霊城へやつて来たトンク、テクの両人ぢやないかい、何ぞ御用があるのかな』
トンクは右の手で額を二つ三つ叩きながら、
『イヤ、どうも、誠に済みませぬ。些とばかり酒代が頂戴致したいので、……』
『お前はお寅さまの御家来ぢやないか、妾に些とも関係はありませぬよ、酒代が欲しけら、お寅さまに貰つて来なさい、ノコノコと失礼な、人の座敷へ入つて来て、盗猫のやうに、黒ん坊のクセに何んぢやいな』
『お前さまに直接の関係はありますまいが、ここにござる守宮別さまには深い深い関係があるのです。……これはこれは守宮別様、大変お楽みの所を、不粋な黒ん坊が二人もやつて来まして、嘸御迷惑でもございませうが、チツとばかり口薬が頂戴致したいのでございますよ』
『何、口薬が欲しいと云ふのかい、守宮別さまの暗い影でも掴んだといふのかい』
『ハツハヽヽヽ、白々しい事をおつしやいますな。大変なローマンスを見届けてあればこそ、かうして口薬を頂戴に参つたのです。ゴテゴテ云はずに、ザツと二十円、二人で〆て四十円、アツサリと下さいな、安いものでせう』
 お花はこれを聞いて、守宮別がお寅以外に女でも拵へて居るのではあるまいか。そこをこのトンクに見つけられて、弱点を握られてるのだらう、何と気の多い男だなア。……と稍嫉妬心が起り出し、
『これ、守宮別さま、お前さまはまたしてもまたしても箸まめな事をしてござるのだろ、サ、トンクさまとやら、あつさりと云ふて下さい、さうすりや、お金は二十円はさておいて、五十円でも百円でも上げます』
『コレお花、コンナ者に、さう金をやる必要がどこにある。相手にしなさるな』
『そらさうでせう、妾がトンクさまを相手にすると、チト、あなたの御都合が悪いでせう。コレコレ、トンクさま、遠慮はいりませぬ、とつとと守宮別さまのローマンスをスツパリと、この場でさらけ出して下さい』
『ハイ有難う、屹度百円くれますな』
『しかし二人に百円だよ。取違して貰ふと困るからな』
『ハイよろしあす、この守宮別さまは、お寅さまと何時も師匠と弟子のやうな顔をして、殊勝な事をいふてゐられますが、その実内証でくつついてゐるのですよ。私や、いつやらの晩、橄欖山の上り口で、怪体な所を見て置きました。なア守宮別さま、その時あなた、人に言つちやいけないよ……と云つて私に十円くれましたね』
『ウン確かにやつた覚がある、しかしそれをどうしたといふのだ。ソンナこた、お花さまの前で言つた所で三文の価値も無いぢやないか。お花さまだつて、今日までの俺とお寅さまとの関係は御承知だからなア』
『それでも、あなた、さういふ事を世間へ発表せうものなら、貴方もチツトは困るでせう』
『阿呆らしい、トンクさま、そんなことなら聞かして貰はいでもいいのだよ。この守宮別さまが、外の女と怪しい関係があつたか無かつたか、それが聞かしてほしかつたのだよ。確な証拠はなくても、どこの家で酒を呑んで居つたとか、意茶ついて居つたとか、それが分ればいいのだからな』
『ヘ、五十円なら申上げます。エルサレムの横町のカフエーの奥で、お花さまと守宮別さまが一杯やりながら、夫婦約束をしたり、頬ぺたを抓つたり、肩にブラ下つたり、それはそれは見るに見られぬ醜体を演じてをられました、事を私ばかりぢやなく、ここの女中が証人ですよ。それも今月今日、サ五十円、二人でシメて百円、どうです安いものでせうがな』
『フツフヽヽヽ、此奴ア面白い。マ一杯やつたらどうだ』
とコツプをつき出す、お花は眉を逆立て、声を尖らしながら、
『ヘン、あほらしい、業々し相に、何のこつちやいな。五十両もお前さま等にやるやうな、金があつたら、ヨルダン川へでも放かしますわいな』
『よろしい、お前さまがその了見なら、直様お寅さまへ注進致しますよ』
『どうぞ注進して下さい。そして守宮別さまとこのお花との交情のこまやかな所を、お寅さまにつぶさに報告し、忠勤振を発揮なさいませ。最早このお花はお寅さまと手を切り、守宮別さまとは天下晴れて、切つても切れぬ夫婦ですよ。どうか、お寅さまに守宮別さま夫婦がよろしう伝へたとおつしやつて下さい。そしてエルサレムの市中へ、妾達夫婦の結婚式を挙げた事を、駄賃をよう出しませぬが、披露をして下さい』
『エー、クソ面白くもない。ようし、これから、一つお寅にたきつけてやらう』
とテクと共に千鳥足しながら、カフエーを立出で、お寅の霊城へと注進のため忍び行く。
 お寅は守宮別、お花の打つて変つた愛想づかしと無情な仕打に、憤慨の余り逆上し、暫庭の土の上に倒れてゐたが、漸く気がつき、辺りを見れば、箱火鉢は腹を破つて木端微塵となり、そこらは灰神楽で、一分ばかりの畳の目もみえぬほど黒くなつてゐる。ブツブツ小言を云ひながら、穂先の薙刀になつた箒でヤツトの事、灰を掃清め、ドスンと団尻を下ろした所へ、ヒヨロヒヨロになつて、一杯気嫌の鼻唄諸共、トンク、テクの両人が入り来たり、トンクは開口一番に、
『これはこれは、生宮様、お一人で嘸お淋しいこつてございませう。ヤクの後を追つかけて、生宮様がお駆出しになつたものですから、人馬の行通ふ雑踏の巷、貴女のお身の上が険呑だと思ひ、三人が手分を致しまして、そこら中を捜しました所、お行方が分らず、一層の事ヤクを取つ捉まへてお目にかけたいと思ひ、エルサレムの裏長屋まで捜して見ましたが、たうとう幸か不幸か、姿を見失ひました。それから横町のカフエーに立寄り、ブドー酒をテクと二人引つかけてゐますと、それはそれは天地転倒と云はふか、地震ゴロゴロ雷ピカピカ、いやもう、ドテライ、貴女のお身の上に取つて、大事件が突発して居りましたので、取る物も取敢ず、お弟子になつた御奉公の初手柄として御報告に参りました』
『それはどうも有難う、お前ならこそ報告に来てくれたのだ、大方ブラバーサが暴力団でも使つて、このお寅を国へ追返さうとでも企んでゐるのぢやないか』
『イエ、滅相な、ソンナ小さい事ですかいな。貴女のお身の上にとつて、天変地異これ位大きな災はございますまい、なあテク、側から見て居つても、ムカつくぢやないか』
『本当にテクも、腹が立つて、歯がギチギチ云ひよるわ、あのザマつたら、論にも杭にもかからぬわい。お寅さまが本当にお気の毒だ』
『コレ、序文ばかり並べて居らずに、短刀直入的に実地問題にかかつて下さい。一体大事件とは何事だいな』
 トンクは、
『ヘー、これほど大事な事を申上げるのですから、貴女はお喜びでせうが、一方のためには大変な不利益です。さうすれば、貴女に喜ばれて、一方の方からは非常な怨恨を買ひ、暗の晩にでもなれば、うつかり外は歩けませぬわ。それだから、ヘヽヽヽ一寸は容易に申上げたうても申上げられませぬ。なあテク、地獄の沙汰も○○だからなア』
『エー辛気臭い、お金が欲しいのだらう。お金ならお金と何故あつさり言はぬのだいな』
『ハイ、仰に従ひ、あつさりと申上げます。どうか前金として、二十円ほど頂戴致したうございます』
『ヨシヨシ、サ、あらためて取つておくれ』
とその場に投出せば、二人はガキのやうに引つつかみ、ヤニハにポケツトへ捻込んでしまひ、
『ヤ、有難う、流石はウラナイ教のお寅さま、底津岩根の大ミロクの生宮、日出神のお寅さま、ウラナイ教の大教主、誠に感じ入りました』
『コレコレ、ソンナ事聞かうと思つて、お金を出したのでない。大事件の秘密を早く聞かして下さい』
『ハイ、これからが正念場です。どうか吃驚せないやうに、胴をすゑて居つて下さいや。エー、実の所は横町のカフエーまで一杯呑みに行きました所、裏の離れに男女が喋々喃々と、甘つたるい口で囁いたり、頬べたを抓つたり、金切声を出して、意茶ついてる者があるぢやありませぬか』
『成程、そら大方ブラバーサとマリヤの風俗壊乱組だらうがな。そんな事がナニ妾に対して大事件だろ、しかしながらヨウ報告して下さつた。これから彼方等を力一杯攻撃して、再び世に立てないやう、社会的に葬つてやる積だから、そらよい材料だ』
と話も聞かぬ内から早呑込みしてゐる。トンクは言句に詰り、
『もし、お寅さま、さう早取して貰ふと、二の句がつげませぬがな。オイ、テク、お前これから性念場を些とばかり申上げてくれ。お前廿両貰ふた冥加もあるからの』
『お寅さま、ソンナ気楽な事ですかいな、お前さまの寝ても醒めても忘れない、最愛のレコとあやめのお花さまとが、それはそれは目だるい事をやつていましたよ。私が貴女だつたら、あのままにはして置きませぬがな。生首を引抜いて烏にこつかしてやらねば虫が癒えませぬがな』
 これを聞くより、お寅は電気にでも打たれた如く打驚き、しばしは口を尖らし、目を剥いて言葉も出なかつたが、稍暫時して、
『テヽテクさま、トヽトンクさま、そら本当かいな。本当とあれば、ジツとしては居られない、お花の奴、本当にバカにしてる』
と早くも捻鉢巻をなし、赤襷をかけようとする。
『そら、マヽ待つて下さい、さう慌てても、話が分かりませぬ、たうとう二人は夫婦約束を致しました。そして祝言の盃もやり直したといふことですよ』
『ナヽナアニ、シユシユ祝言の盃、そしてまたドヽ何処の家で、ソヽそんな事を、ヤヽやつてゐるのだい』
『横町のカフエーの奥座敷ですがな、しかしながらトンクが言つたとは、云つて貰へませんで、あとが恐ろしうございますからな』
『コリヤ、トンク、テク、お前も妾の家来に成つたのぢやないか、妾のためには何でも聞くだろ、妾が踏込んで生首引抜くのも易い事だが、そんな乱暴な事すると、日出神の沽券にかかはる。妾はここで辛抱するから、お前代りにお花の生首引抜いてヨルダン川へ投込みて下さい。さうすりや、何ぼでもお金は上げるからな』
『何程お金に成りましても、ソンナこたア私に出来ませぬワ。暴力団取締令が出て居りますので、二人寄つても、直にスパイが後を追つかける時節ですもの。そんなこたア、御本人直接に決行されたがよいでせう。刑務所へ放り込まれて臭い飯くはされても約まりませぬからな、それとも一万両下さらばやつてみてもよろしい』
『エーエー腑甲斐のない、何奴も此奴もガラクタばかりだな。守宮別さまは決してそんな無情な人ぢやない。酒に酔ふと、いろいろの事をおつしやるが、正直な親切な、誠生粋な大広木正宗さまの生宮だ、スレツカラシのお花の奴、たうとう地金を放り出し、男を喰はへて、ヌツケリコと夫婦気取で、そんな所へ行て酒をくらうて居やがるのだらう。エーまどろしい、暴力団取締が何だ。日の出神の生宮がお花位に敗北を取つてどうなるものか』
と眉毛は逆立ち目は血走り鉢巻したまま、襷をかけたまま、後先の考へも無く腹立紛れに飛出した。トンク、テクの両人は、『コラ一大事』とお寅の後を見え隠れに付いて行くと、十字街頭を微酔機嫌で守宮別がお花の手を引いてヒヨロリヒヨロリとやつて来るのに出会した。お寅はアツと言つたきり、その場に悶絶してしまつた。守宮別、お花はかかり合になつては一大事と、素知らぬ顔しながら、橄欖山目がけて逃げてゆく。

(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良秋田別荘 松村真澄録)
(昭和一〇・三・一〇 於台湾草山別院 王仁校正)



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