出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語64a-5-271923/07山河草木卯 再転王仁三郎参照文献検索
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第二七章 再転〔一六五六〕

 シオン山の谷間のブラバーサが草庵に靴音高く訪ねて来た一人の紳士は、シカゴ大学の教授スバール博士であつた。博士は「御免なさいませ」と柴の戸を排して這入つて来た。ブラバーサは嬉しげに出で迎へ、狭い座敷の奥へ通しけり。
『ヤアあなたは橄欖山上でお目にかかりました博士でございますか。かやうな草庵をよくマア訪ねて下さいました』
『ハイ一寸お伺ひしたいことがございますので参りました。実の所は私もシカゴ大学の教授を致して居りますが、今度シオン大学の建設に就て委員に選まれ監督のために茲二ケ月ばかり以前から参つて居るのでございます。付いては私は日の出島は隅から隅まで二三回も旅行を致し、神社仏閣を巡拝しお札博士と名を取つた男でございますよ。あなたは桶伏山の聖地から来たと仰せられましたが、私も一度ルートバハーの本山に参拝致し教主に直接お目にかかり、言霊閣においてお世話になつた事がございます。何だかルートバハーの宣伝使と承はりますればなつかしいやうな気が致しまして、一度お尋ね申したいお尋ね申したいと思うてゐましたが、忙しいためついその機を得ませぬでした。しかるに二三日以前の夕方、日の出島より守宮別と云ふ男が三人の男女を従へ参りまして、日の出神の救世主だとか、大ミロク様だとか何とか申し、そして貴方のことを偽宣伝使だなどと悪く云つてゐましたよ。そこで私がいろいろとあなたのために弁解を致しておきましたが、何と云つても聞かないものですから、相手にならずに別れた次第ですが、ありや一体ドンナ人でございますか。一遍お尋ね致したいと思つてゐましたが、今日は幸ひ日曜日のことでもありお邪魔を致しました次第でございます』
『ハテナ、守宮別と云ふ男が来て居ましたか、ソリヤ大方お寅といふ五十格好の婆アさまと一所ぢやございませぬか』
『何でもお寅さまにお花さま、曲彦とか言はれたやうに覚えて居ります。そして再臨のキリスト、ミロクの再生はこの婆アさまだと言つて、守宮別さまが固く固く主張して居りました。余程あの連中さまは変つて居りますなア』
『大方私が此方へ来たことをかぎつけて邪魔しに来たのでせう。どこまでも執念深い連中です。本当に困りますワ』
『さぞお困りでございませう。しかしあなたはキリストの再臨に就てお出になつたといふ先達のお話しでしたが、私は世界各国を廻りましたが、印度にも支那にも日本にも露国にもまた南米、メキシコにも救世主が現はれてをりますよ。何れどつかのある地点に救世主がお集まりになつて国会開きをお始めにならなくては真の救世主が人間としては分らないと思ひます。あなたはどう思ひますか』
『ともかく世界の救世主が一所へお集まりになり、その中で最も公平無私にして仁慈に富める御方が真の救世主と選ばれるでせう。イスラエルの十二の流れから一人づつ救世主が出るといふことですから、その中から大救世主が出現されることと思ひます』
『成程それは公平なる見解です。そして御降臨の場所はどこだとお考へですか』
『無論私はエルサレムだと思つて遥々茲へ参つたのでございます』
『成程聖書の予言によりますればエルサレムでせうが、しかし救世主は何処へお降りになるか分りますまい。私は決してエルサレムと限つたものとは思ひませぬ。或は日出島へ現はれ玉ふかも知れませぬ』
『さうかも分りませぬなア』
 かく話して居る所へスタスタやつて来たのはお寅、お花、曲彦の三人なりける。
『あゝ、どうやらかうやら隠れ家を見つけた。これも矢張日の出神のお導き、ヤレ御免なされ、お前さまはブラバーサさまだな。日の出神の救世主が二三日以前から橄欖山に御降臨になつたのを御存じですかな。ヤ、そこに居る毛唐さまはこの間橄欖山上で守宮別とチーチーパーパー云ふて居た博士だございませぬか。マアマア因縁といふものはエライものだな。またこんな所で会はうとは思ひもよりませなんだ。コレ毛唐さま、お前さままたこのブラバーサにだまされて来なさつたのかな。チト用心なさいませや』
 スバールはうるさ相な顔をしながら、日出島の言葉を使つて、
『ヤアお前さまはルートバハーの教をまぜ返しに廻つてる、あの有名な小北山のお寅婆アさまだな。そして一人は曲彦、それからお花といふ剛の者だらう、イヽかげんに落着きなさらぬとこの聖地には相手になる者がなくなりますよ』
『何とマア流石に博士だワイ。イロハ四十八文字の言葉が使へるやうになりましたな。この間まで四足か鳥のやうにチーチーパーパー云ふて居つたのに、日の出神に一目会ふたお蔭に真人間の言葉が使へるやうになつたのかな。コレお花さま、曲やん、これでも日の出神の神力が分りましたらうがなア』
『何しろ夜抜食逃げの張本人だから偉いものですワイ』
『コレ曲、ソリヤ何といふ事をいふのだえ』
『それだつて事実は事実ですもの、仕方がありませぬワ。もし、ブラバーサさま、どうぞ私をあなたの弟子にして下さいな。実の所はお寅さまがお金をおとし、吾々三人は無一物ですから、二進も三進も仕方がないのです』
 ブラバーサはニタリと笑ひながら、
『日の出神様も、お金がないとヤツパリ、お困りですかな。私も淋しい懐だからお金を貸して上げる訳にも行きませぬが、マアしばらく茲にをつて、味ないものでも喰べてお金の来るまでお待ちなさいませ。電報さへうてば二十日も立たん内に届きますからな』
『ヤア大変御邪魔を致しました。何れ今度の日曜にはトツクリとお目にかかり御話をさして頂きませう。今日は用事もあり少し急ぎますから御免を蒙りませう』
『折角お越し下さいまして、何の御愛想も致さず失礼を致しました。今度お足を運ばしてはすみませぬから、私の方からお訪ね致します』
 博士は、
『左様ならば後日お目にかかりませう。皆さま、御ゆつくりなさいませ』
と早くもこの場をスタスタと立去つた。
 お寅、お花、曲彦の三人は異郷の空に懐空しく何となく淋しくなり、知己と云ふて別になければ、反対で憎うてならぬブラバーサの寓居に世話にならうと覚悟をきわめワザとにおとなしく、ブラバーサの言に従ひ、何事もヘーヘーハイハイと猫をかぶつて、表面帰順した如く見せかけてゐた。その翌日の日の暮頃守宮別は二百五十円の金を懐にねぢ込んで茲へ訪ねて来た。
『御免なさいませ。ブラバーサ様のお宅はここでございますかな』
『ハイどなたか知りませぬがお這入りなさいませ』
『あの声は守宮別さまぢやないか、サアサア早うお這入りなさい』
『あゝ御免なさいませ、お寅さま、あなたはヒドイですな。本当に油断のならぬ悪性な人だ。オイ曲彦、お花さま、人を置去にして余り友情がなさすぎるだないか』
 両人は一言もなくウツムク。
『ヽヽヽヽヽ』
『それだと云つて、二万四千両の金がどうして払へるものか。お前はまた夜脱けをして来たのかな。よう出られたものだなア』
『お前さまが財布をおいといてくれたおかげで、スツカリ勘定をすまして帰つて来ましたよ。サア茲に二百五十両ばかり残つてるからお前さまに返します』
『あのお金はどうして勘定したのだい』
『何分一ダースが六弗よりせないものだから、何もかもお前さまの分まで払うて二十五弗ですみましたよ』
『あゝさうだつたかいな。何とした、あの奴さまは間違つた事を云つたのだらう。マア二百五十両あれば少時大丈夫だ。国許へ電報かけさへすれば送つてくれるからな。ヘン、今迄耳の痛い話を、御無理御尤もでブラバーサさまに聞いてゐたが、モウ誰が聞くものか。コレ、ブラバーサさま、救世主は瑞の御霊だといひましたが、あんな奴が救世主になつてたまりますかい。キユキユ世の中を苦める救世主のキウの字は貧窮の窮の字でせう。オホヽヽヽ』
とソロソロメートルを上げ出した。
『どうなつと勝手になさいませ。事実が証明致しますからな』
『サア三人の御連中、コンナ所に居らぬと早く聖地へ行きませう。そして最早エルサレムの町に誰憚る所ないのだから、私はこれから橄欖山に登つて救世主になるから、お前たち三人は町中をふれて歩くのだよ。左様なら、何れ事実が証明しますからな。なア、ブラバーサさま』
とプリンプリンと大きな団尻をふり羽ばたきしながら帰り行く。

(大正一二・七・一三 旧五・三〇 松村真澄録)
(昭和一〇・三・九 於台湾航路吉野丸船室 王仁校正)



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