出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語64a-5-251923/07山河草木卯 地図面王仁三郎参照文献検索
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第二五章 地図面〔一六五四〕

 守宮別は酔がまはるにつれて一人ようがつて何もかも打忘れ、喋り出したり。
『おい、高姫の再来のお寅さま、真黒々姫の再来のお花さま、曲彦の再来の、ヤツパリ曲彦さま、どうだい。ちつとビールでも飲んで浮く気はないか。エー、何だ、青い青い顔して心配さうに。酒飲めば何時も心が春めきて、借金取も鶯の声。酒位笑顔のよいものはないわ。土堤ぎり、ここで散財やつたらどうだい。自分だけ飲んでも糞面白くもないわい。チヤンダーをソレ……○○へ押込んだ時、住の江神社へ詣つて茶屋で祝ひ酒を飲んだ時のやうに、一つはしやがぬかい。お寅さまとお花さま、お前さまも日の出島で、玉照彦様、玉照姫様の御結婚の後でチヤンダーが、調べられてゐる留守の間にでもやつたぢやないか。あの時位愉快の事はなかつたさうぢや。運悪く俺はその時アよう行かなかつたけれど、お寅さまの話に一寸聞いた。どうだ、一つ此処でその時の気分になつて、やらうぢやないか』
『コレ、お寅さま、どうしませうか。肝腎の通弁が、こんな態では、私等はどうする事も出来ぬぢやありませぬか。一層の事シオン山とかへ行つて、ブラバーサに会つて来た方が近道かも知れませぬぜ』
『そりやいけませぬ。神が一言申したら何時になつても変らぬとおつしやるのだから、人民が勝手に予定を変更する事は大変なお気障りですよ』
『だと云つて、守宮別の酔が覚めるのをまつて居れば何時になるか知れませぬわ』
『アハヽヽヽヽ駄目だよ駄目だよ、この新聞を見ても分つてるぢやないか。ブラバーサの信用と云ふものは大したものだ。到底これを転覆させる訳には行きますまい。またスバール博士もお前さまを偽救世主と云つてゐたから、何程シヤチになつても、アキませぬわい。それだから、ヤケ糞になつてビールを飲んでゐるのだ。オイ曲彦、貴様も飲めぬ口ではなし、一つ飲んだらどうだい。エー、訓狐と云ふ獣は、夜になると微塵の虫でも見えるが、白昼になると目がくらむで大山さへ見ることが出来ぬと云ふ奴だが、お寅さまは何といつても金毛九尾の訓狐さまだから駄目だよ。もういい加減に思ひきつたらどうだ』
と悪胴を据ゑて、ぐぜり出した。お寅はいろいろとすかしなだめつ、守宮別の手を引張つて町外れのアメリカンコロニーさして訪ね行く事となつた。行歩蹣跚として大道狭しと二人に両手を引かれ、漸くコロニーの門口まで着いた。数多の老若男女は怪訝な顔して見つめてゐる。守宮別は、
『エー御免なさい。拙者は日出島から救世主日の出神のお供をして、ここまでやつて来た者でございます。ここには天下無双のナイス、マリヤさまと云ふ方がゐられますかな。そして色男のヤコブさまといふ方が見えてゐるやうに今日都新聞で承はりましたが、御在宅ならば一寸会はして貰ひたいものです』
 マリヤは門口の騒々しいのに、何事ならむと立出で見れば見慣れぬ四人の男女が門口に立つて何事か囁いてゐる。マリヤはブラバーサに会つて余程日出島の言葉を覚えてゐた。それ故大体の意味は分るやうになつてゐた。
『貴方は何処からおいでになりました?支那からですか?朝鮮からですか?お見受け申しますと、よほど遠方の方と見えますが』
 お寅は肩を聳やかしながら、稍反身になり、
『妾は日下開山、日出島の小北山の聖場に天降つた日の出神の生宮、底津岩根の大弥勒様の化身でございますよ。貴方達は日出島から救世主がこの聖地へ降るといつて何十年も待つてゐられるさうですが、その救世主と云ふのはこの肉の宮ですから、その積で居つて下さいや。そしてお前さまは、あの身魂の曇つたブラバーサと云ふ男を大変信用してゐられるさうだが、あの男はバチ者ですよ。うつかり相手にならうものならドエライ事になりますよ。女殺しの後家倒しと名をとつた悪性男ですからな。今日も新聞で見ますれば勿体ない……橄欖山上で何か芝居をなさつたさうですが、ようもあのド倒し者と、阿呆らしい事をなさいますな。オツホヽヽヽヽ』
 マリヤはムツとして稍顔色を変へながら、
『放つといて下さいませ。ブラバーサ様は貴女のやうな偽救主ぢやありませぬよ。今日の新聞を御覧になつたでせう。あんな聖人君子はメツタにありませぬわいな』
『えらうまた、御贔屓ですな。大方性の悪い男だから、世間見ずのお前さまを○○したのぢやありますまいかな。あゝあ不品行の奴が来るから日出島の名誉に関する事をしてるかも知れない。コレ守宮別さま、お前さま、どう思ひますか』
『どうも思ひませぬわい。ラブ・イズ・ベストの流行る世の中だからな』
『それまた、何故ソンナ怪体な事を云ひますか。もう、チーチーパーパーは止めて下さい。外国魂のマリヤさまでさへも、妾等に分る言葉を使つてるぢやないか。それだからいろは四十八文字で通用すると、変性男子のお筆に出てゐるのですよ。スバール博士なんて、つまらぬ事を云つていろは四十八文字が分らぬのかいな。本当に学者といふものは訳の分らぬものだわい。コレ、ブラバーサをここに隠してあるのでせう。うまい事、シオン山の麓に居る等と新聞に書かしたのでせう。新聞に何程よく書いたとて、アテになりますかい。握らせさへすれば、よく書きますよ。今の人間は皆新聞に騙されてゐるのだからな』
マリヤ『それでも新聞は社会の耳目といひますからね。間違はありますまい』
『さあ、社会の耳目だから、いかぬのだよ。今日の社会の奴等の耳や目は皆、死んだも同然だ。目があつても誠が見えず、耳があつても誠が聞えず、善が悪に見えたり聞えたり、悪が善に見えたり聞えたりするのだから新聞の記事なんか、アテになりますかい。そんな事いはずにトツトと出して下さい。グヅグヅしてゐると日の出神の生宮が踏み込んで家探しを致しますぞや』
 守宮別はヒヨロヒヨロしながら、
『もうお寅さま、去にませうかい。駄目ですよ。どうも、ここにや居りさうにありませぬわい。それよりもホテルへ帰つてユツクリと一杯やりませう。こんな処へ立つて談判してるのも、気がきかぬぢやありませぬか。エー、グー、ウーウーあゝ苦しい苦しい、何と因果な婆アさまだらうかな。宿屋に居れば皆が慕つて来るのにな。あゝ一も取らず二も取らずだ。あゝ苦しい苦しい、こんな事して一人の男の後を追はねばならぬとは困つた事だな』
 マリヤは眉毛を逆立て、
『エ、お寅さまとやら、お前さまはブラバーサさまのレコですか、それで遥々と後追つて来たのでせう。何とブラバーサさまも年とつたレコを持たれたものだな。エーエ、妾も今迄騙されてゐたのか、クヽヽヽ口惜しい!トツトと去んで下され』
『ホヽヽヽヽ阿呆らしい、誰があんな四足魂の後追ふて、惚て来る奴がありませうか。私には済みませぬが守宮別……オツトドツコイ虎島久之助と云ふ大将軍様と云ふ立派な肉の宮がございますぞや。ヘン、馬鹿にして下さるなや。ネーお花さま、貴女も一寸証明して下さいな』
『もしマリヤさま、初めてお目にかかります。私が今度日の出神のお伴して来たのは決してブラバーサさまを慕ふて来たのぢやないから安心して下さい。しかし一度会ふて話しせねばならぬ事があるので来たのですよ。ブラバーサは何と云つてるか知りませぬが、あの男はウヅンバラチヤンダーと云ふ濁つた魂の教を受けた枉魂ですから、何云ふか分りませぬ。あんな男の云ふ事を本当にしてゐれば、世間に顔出しが出来ぬやうになりますよ。一寸老婆心ながら忠告して置きます。本当の救世主は今ここに居る底津岩根の大弥勒さまですよ。ようお顔を拝んで御覧なさい。どこともなしに違つて居りませうがな』
『ホヽヽヽヽホンに違つた所がありますわ。アトラスのやうな……お顔に縦横の皺がよつて宛然地球儀のやうでございますわ』
『マリヤさま、お前さまは余程身魂が研けて居りますな。私の顔が地球儀に見えますかな。あ、さうでせうとも、全地球を救済する底津岩根の大弥勒ですものね。それだけ身魂が研けて居れば神政成就の太柱になれますぞや』
と、自分の顔を地球儀と悪口云はれて居りながらも善意に解したのは面白い。
『これお寅さま、この女はお前さまの悪口を云つたのですよ。チツト怒りなさらぬのかいな』
『それでもオトラスの顔と云ふたぢやないか。オトラスの顔は地球儀のやうだとおつしやつたのは地球一般に顔がうれると云ふ謎ですよ。何事も善意に解さなくては駄目ですぞや』
 曲彦は吹き出し、
『アツハヽヽヽ』
 お寅は、
『これこれ曲やん、何を笑ふのだい。チツト、たしなまぬかいな』
 曲彦はまたもこらへ切れず吹き出し、
『アハヽヽヽヽイヒヽヽヽヽ』
 守宮別もまた、
『ウツフヽヽヽヽエヘヽヽヽヽ』
 マリヤは呆れて、
『ホヽヽヽヽ何とまア、よう訳の分らぬ救世主だ事、定めて聖地の人々は尊敬されるでせう。左様なら、また来て下さいませと申上げたいが……二度と来て下さいますなや』
とピシヤツと戸を締め中から突張をかけて奥へ姿をかくしたりけり。
 四人は是非なくブツブツ小言を云ひながら、ヨルダン川の辺のチヤーチを指して尋ね行く。

(大正一二・七・一三 旧五・三〇 北村隆光録)



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