出口王仁三郎 文献検索

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物語64a-4-181923/07山河草木卯 新聞種王仁三郎参照文献検索
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第一八章 新聞種〔一六四七〕

 ヨルダン河の河縁に新しく建つたバハイ教のチヤーチがある。そこには、バハーウラーが足を止めて、各国人に対し、バハイ教を宣伝してゐた。次から次へ聞き伝へて救世主の再臨の如く、聖地に集まる各国人はその教を聴かむと、昼となく夜となくかなりに集まつて来た。サロメもヤコブとの恋愛関係より両親と意見合はず、このチヤーチに隠れてバハイの教を研究してゐた。
 ヨルダン河は朝霧立ち昇り、余り広からぬ向ふ岸の樹木さへも見えないまでに濃霧に包まれてゐる。川べりの窓をあけて水の流れを打見やりながら、バハーウラーと共に世間話に耽つてゐる。サロメは、
『聖師様、この世の中に最も幸福な人と云へば如何なる人でございませうか』
『一般の人は一国の主権者となり、或は貴族生活をして道を行くにも馬車自動車に乗り、何一つ不自由なく安楽に暮す者を最も幸福者として居りますが、私なんかは、世界人類を救済する聖き神の使となる位、世の中に幸福な者はないと思ひます。そして夫婦睦まじく、二三人の子を生んでその子も親も同じ神さまの道に、一身を捧げて信仰する人の家庭位幸福なものはなからうと考へます』
『成程、妾も御存じの通り、貴族の家に生れ、ウルサイ虚礼虚式に束縛され、少しも自由の行動は出来ず、殆ど慈悲の牢獄に投ぜられたやうなものでございました。その苦痛に堪へかねて、筆墨に親み、下らぬ小説を書いたり歌などをよんで、悶々の情を消さむと努めてゐましたが、小説を一つ書いても身の生れが貴族のために、あちらにつかへ、此方につかへ、思ふやうに筆を走らすことも出来ないので、本当に人生貴族となる勿れといふ事を深く味はひました。それから無理解な親兄弟の圧迫によつて、素性卑しき毘舎の妻として追やられ、十年が間あるにあられぬ苦痛と不愉快を忍んで参りましたが、とうと居たたまらなくなつて、毘舎の家を飛び出し、自分に同情をしてくれる男の方へ走つたのでございますが、これもまたウルサイこつてございます。どうしたら天下晴れての夫婦になれるであらうかと、いろいろと心を痛めましたが、モウこの上は神様のお力を借りるより仕方がないと存じまして、バハイ教の教を信仰することになつたのでございます。本当に不運な生付でございます』
『成程、貴女のお考へも強ち無理ではありますまい。しかしながら今日の世の中は分らずやが多くて、誤解する者ばかりですから、余程心得なくちやなりますまい。あなたもシオンの女王として随分新聞紙に喧しく書き立てられましたなア』
『世界中へ醜名を拡めてくれました。ルートバハー教のウヅンバラチヤンダーさまと東西相並んで新聞種の巨壁となりましたよ。オホヽヽヽ』
『あなたが普通の平民の生れであつたならあれ位な事は、六号活字で人の気のつかないやうな所へ、ホンの二行か三行のせるのですけれど、何と云つても伯爵家のお嬢さまだから新聞屋の阿呆奴が、針小棒大に書き立てたのでせう。ウヅンバラチヤンダーさまだつて、やつぱり、ルートバハー教といふ背景がなければ、あれほど喧しくならなかつたでせう。本当に新聞記者位悪い奴はありませぬなア』
『新聞記者に狙はれたが最後、助かりつこはありませぬよ。丸で胡麻の縄のやうなもので、何処へ隠れて居つても探し出して、おマンマの種を拵へやうとするのですからねえ』
『時にサロメさま、この頃日出島から、立派な宣伝使が聖地へ見えて居りますが、お聞及びでございますか』
『ハイ、存じて居ります。本当に立派な方でございますねエ』
『あなたは此処へお出になつてから殆ど二ケ月になりますさうですが、どこでお会ひになつたのですか。根つから貴女がその方にお会ひになる機会がなかつたやうに思ひますが……』
『ハイ、妾は橄欖山へ夜分にお参りする時、チヨコチヨコ山上や坂の途中において、お目にかかり、お話しもさして頂いて居ります。それ故あの方の人格も思想もよく存じて居ります』
 バハーウラーは微笑を泛べながら、
『ヤコブさまに比べては、あなたどちらが良いと思ひますか』
『お尋ねまでもありませぬワ、ホヽヽヽヽ』
 かかる所へ『御免なさいませ』と言ひながら受付に案内されて這入つて来たのは、ブラバーサであつた。ブラバーサは、
『これはこれは聖師様、この間は御親切にお尋ね下さいまして、有難うございます。今日は折入つて、サロメ様に御相談致したいことがあつて、お伺ひ致しました』
『ヤ、よう来て下さいました。呼ぶより誹れとか云つて、今も今とて貴方のことを話して居つた所です。サロメさまに御用とあれば私は席を外します。どうぞゆつくりお話し下さいませ、……モシ、サロメさま、ヤコブさまのことを忘れちやいけませぬよ』
とニツコリと笑ひ、気を利かしてこの場を立去りぬ。
『ブラバーサさま、よくマア訪ねて下さいました。一昨夜はエライ失礼を致しましたね。妾思ひ出しても恥しうなつて参りましたワ』
『イヤもう失礼は御互でございます。しかしサロメさま、今日参りましたのは外のことだござりませぬ、吾々の身の上に関して大変なことが起つて居るのでございます』
『大変とはソリヤドンナことでございますか。どうぞ早く聞かして下さいませ。何だか妾も胸が騒いでなりませぬワ』
 ブラバーサは眉をひそめながら言ひ憎相にして、
『実の所は一昨夜の山上の活劇を三人のアラブがスツカリ見て居つたと見えまして、私の草庵を訪ね、一万両の金を出さねば、新聞へ出すとか言つて、強請に参りました。私だつて遠国から参つた者でございますから、それほどの大金は持つてゐる筈もなし、已むを得ず百両包んでやつた所、忽ち大地にぶつつけて、これから新聞社へ行つて二三万両の金を貰つて来る、さうすりやお前達四人はユダヤ人の怨府となり磔刑に会ふだらうと捨台詞を残して帰りました。グヅグヅしてゐて新聞にでも出されちや大変ですから、何か貴女によいお考はなからうかと御相談に参りました』
 聞くよりサロメは目を丸うし、面色まで変へて稍慄ひ声になり、
『ヤ、其奴ア大変です。どうしませうかなア』
『どうも仕方がありませぬ。恥しながら、何れ分ることですから、バハーウラーさまに一伍一什打あけて、何かよい智慧を借らうぢやありませぬか』
『だつてマサカ、ソンナ恥しいことが言へぬぢやありませぬか。あゝ困つたことですねえ』
 かかる所へ聖師バハーウラーは少しく苦々しい顔をしながら現はれ来り、
『モシお二人さま、都新聞の記者があなた方にお目にかかりたいと云つて参りましたが、どう致しませうかね』
『ハテ、困りましたねえ』
『モウかうなつては隠れたつて駄目でせう。此方の方から面会して、何もかも事情を云つてやりませう。それの方が却て良いかも知れませぬよ。新聞記者に隠れると、憶測で針小棒大に何を書き立てるか知れませぬからな』
 サロメは胴を据ゑて、
『ソンナラさう致しませう。聖師様、記者様をどうか此方へお出で下さるやうに云つて下さいませぬか』
 バハーウラーは『よろしい』と諾きながら表へ出で行く。

(大正一二・七・一三 旧五・三〇 松村真澄録)



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