出口王仁三郎 文献検索

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物語64a-4-171923/07山河草木卯 強請王仁三郎参照文献検索
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第一七章 強請〔一六四六〕

 シオン山の谷間に草庵を結んで、恋の鋭鋒を避けて居たブラバーサの隠家へ慌だしくやつて来たのは三人のアラブである。ブラバーサは橄欖山上において、ゆくりなくもマリヤの愛情に絆され、自分も何時の間にやら恋の虜となり、夫婦の約束をしたものの、今となつて考へてみれば、何とはなしに重罪を犯したやうな心持がして来出した。……あゝなぜ私は之丈愚昧だらう。一度ならず二度までも恋の誘惑におち、はるばる聖地から万里の海を渡りてここまで来ながら、かやうなことでどうして神様に申訳が立たう。またルートバハーの教主に対しても言訳がない。困つたことになつたものだ。……と朝早うから草庵の中に端座して悔悟の涙にくれてゐた。そこへ三人のアラブが柴の戸押あけドヤドヤと入来り、
テク『ヤ、お早う。わつちは何時も橄欖山のシオン大学の工事に使はれてゐるアラブだが、夜前一寸面白いことを吾々三人が見たので御相談に参りやした』
『してまたあなた方が私の草庵を訪ねて下さつたのは、何か変つたことがございますかな』
『ヘン、トボケまいぞ。夕べの活劇はどうだい。誰も知らぬかと思つてゐても、天知る地知ると言つて、チヤンと吾々三人さまの耳につつぬけるほど響いたのだ。イヤ耳ばかりでない、この二つの黒い眼で、作事場の隅から覗いておいたのだ。二組の男女が随分立派な活劇をやつたでせう。これでも違ひますかな』
『これは聊か迷惑、拙者はこの草庵よりここ二三日、一歩も出たこともありませぬ。ソリヤ大方何かの間違ひでせう』
と聞くよりトンクは、
『ヘン、馬鹿にするない。おれは聾でも盲でもないぞ。お前も日の出島からやつて来たルートバハーの宣伝使だといふことだが、宣伝使はウソを云つていいのか。この聖地へ各国の人々が出て来てるが、ウソをつく奴アお前ばかりだ。お前は日の出島の代表者とも認めらるべき者だ。その代表者が嘘つきとあれば日の出島の人間は一体に嘘つきと定つてしまふがそれでもいいのか。キリストの再臨に間もなき今日、嘘を云ふ国民は世界の連盟から排斥され、今迄のユダヤ人のやうに放浪の民とならねばならないぞ。しつかり性念を据ゑ、本当の事を云つたらどうだ。お前一人の嘘が日出島全体の嘘になるのだ。ここには都新聞も聖地新報もまた回々教新聞も発刊されてゐるから、俺達が記者に会うて夕べの実状を喋らうものなら、汝は此処に居るこた出来ないのだ。ユダヤの女をチヨロまかしやがつて……ユダヤ人全体の敵としてハリツケに会はなならぬが、それでもいいか。汝の出様によつてこの方にも考へがある、サアどうだ。判然と返答を聞かして貰はうかい』
『此奴ア近頃迷惑の至りだ。拙者はソンナ覚は決してござらぬ』
『馬鹿云ふない。汝が隠したつて駄目だ。サロメにもヤコブにもチヤンとテクが調べ上げて来てあるのだ。グヅグヅしてると、四人の奴ア、ユダヤ人の怨府となつて、忽ち寂滅為楽の運命に陥るが、それが可哀相だと思つて、おれ達三人が談判に来たのだ』
『どうすればいいと云ふのだ』
『ザマア見やがれ、ヤツパリ覚があるだらう。汝の命とつり替への一万両、ここへオツぽり出せ。さうすりやおれ達や沈黙を守つてやる。俺達三人の外にやお月さまより見たものはないのだから、お月さまがおつしやらぬ限り分る気遣はない。こんな事を都新聞の記者にでも話さうものなら、二万両や三万両の報酬をくれるに違ひない。何しろ一方はルートバハーの宣伝使、一方は貴族の娘サロメさまといふのだからな……何しろいい金儲の種を見つけたものだ。イヒヽヽヽ』
『ナアニ、一万両到底ソンナことは出来ない、アヽそこは世界同胞のよしみで、一封包むことにして辛抱してくれ。また何か……埋合せをすることもあらうから……』
『一封だと云つても、一銭でも一封だ。十千万両でも一封だ。一封なら一封でいいからいくらと云ふ事を表へ現はして貰はうかい』
 ツーロは、
『オイ、テク、さう尻から火のついたやうに喧しく云はなくてもいいワ。何と云つてもサロメ、マリヤといふ別嬪を自由自在に翻弄するといふ抜目のない宣伝使だから、そこは俺達の面の潰れるよなことはなさる筈はない。マア聖師の意志に任す方がよからうぞ』
『ソンナラ、お任せせう。テクの面のつぶれないやうに頼みますぜ』
 ブラバーサは是非なく百円を包んで、前につき出し、
『サアこれで辛抱してくれ。おれも災難だ。別に自分の方から恋したのでもなし、自然の成行であのやうな災難に会うたのだから……』
 テクはその包を受取り、
『成るほどエライ災難に会うたものだなア。俺達もアンナ災難に幾度も会うてみたいものだワイ……モシモシ聖師さま……エー一寸ここで中をあらためて見ましてもよろしいだらうな』
『どうぞ御勝手に開いて下さい』
 テクは包をほどいて見て、ふくれ面、
『エーツ、馬鹿にするない。たつたの百両位な目くされ金に誰がコンナイヤな事を云うて来るものかい』
と言ひながらその場にブツつけたり。
『大切なお金、必要がなければ元へ納めておきませう』
と手早く拾うて懐に入れる。トンクは、
『オイ、テク、ツーロ、コンナ奴に相手になつて居つても駄目だ。命より金が惜いとみえるワイ。モウ構ふことはない、都新聞へ行つてドツサリと褒美を貰うて来う。此奴とあとの三人には気の毒だが自業自得だから仕方があるまいサア帰らう』
 ツーロは二人に向ひ、
『オイ、一寸待て。おれ達は金のよなものが目的だない。それよりもマリヤを此方へ渡してさへ貰へばいいのだ、……オイ先生、一万両の金の代りにチツと高いけれどマリヤを此方へ渡すといふ証文を書いて貰はうかい。無い懐をしぼつて出すよりも、お前もそれの方がいいだらう』
『マリヤは拙者の女ではない。また仮令自分の女房にした所で、彼女の意志を無視してお前達にやるといふ訳には行くまい、マア二三日考へさしてくれ』
『ヘン何をぬかしやがるのだい。マリヤをとらうと取ろまいとテクの勝手だよ。こないだも橄欖山の上でマリヤを物にせうとしてる所へ、汝がせうもない事吐しやがるものだから、役人が来たと思つて逃たが後で汝と分り、歯がみをしたのだ。オイ兄弟、此奴を縛りシオンの谷へ葬つてしまへば、マリヤは此方の者だ。サアやつてしまへ一イ二ウ三ツだ』
『ヨーシ来た』
と両人は手ンでに棍棒を打振りブラバーサに打つてかかる。ブラバーサは一生懸命に神言を奏上した。三人はその言霊に打たれ、『エー此奴ア大変だ』とこけつ転びつ先を争ひ逃げ散りて行く。

(大正一二・七・一三 旧五・三〇 松村真澄録)



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