出口王仁三郎 文献検索

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物語63-5-191923/05山河草木寅 仕込杖王仁三郎参照文献検索
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第一九章 仕込杖〔一六二六〕

 イク、サールの両人は伊太彦の路傍の石に腰打掛、俯向いてる姿を見て、月影にすかしながら、
イク『貴方は旅人とお見受け申しますが、一寸物をお尋ね申します。天女のやうな綺麗な綺麗な姫様が犬を連れてお通りになつたのを御覧になりませぬか』
 伊太彦はハテ不思議な事を尋ねるものだと思ひながら、二人の顔をツラツラ眺めて、
伊太『イヤさう聞く声は何だか聞き覚えがあるやうだ。拙者は三五教の宣伝使、伊太彦と申すもの、左様なお方はお通り遊ばしたのは見た事はござらぬ』
サール『やアお前は伊太彦さまぢやないか。清春山の岩窟では随分管を捲いたものだな、その後玉国別さまに跟いてハルナの都へ進まれた筈だが、まだこんな処へ迂路ついてござつたのか』
伊太『うん、君はイク、サールの両人だな。これはこれは珍らしい処で会ふたものだ。そしてまた初稚姫様の後を何処までも慕うて行く考へかな。初稚姫様がよくまアお伴を許された事だな』
サール『何と云つてもお許しが無いものだから、強行進軍と出掛け、見えつ隠れつ、後になり前になり、ここまでついて来たのだが、エルの港からサツパリお姿を見失ひ、前になつてるのか、後になつてるのか分らぬので心配してるのだ』
伊太『あ、さうだつたか。拙者も初稚姫様に一度会つてお礼を申したいのだが、あの方は神様だから変幻出没自在、何方へおいでになつたか皆目分らぬのだ。まアゆつくり一服し玉へ。まだこの阪道は随分あるさうだから、慌た処で仕方がない。チツとは人間の身体も休養が大切だ。休んでは歩き、休んでは歩きする方が、身体のためにも何ほどよいか分らないよ』
イク『久し振りに伊太彦さまに面会したのだから、先づ此処で、ゆつくりと話して行かうぢやないか』
サール『久振りだと云ふけれど、スマの関所でお前が宿屋をやつて居た時に入口に守衛然と控へて居つたぢやないか。云はば伊太彦司等の救ひの神さまだ』
イク『成程、あの時に伊太彦司も居られたのかな。あまり沢山のバラモン軍で見落して居たのだ。そして初稚姫様に叱られるものだから、スマの里を一目散に駆け出し姫様を待ちつつ、彼方此方とバラモンの泥棒を言向和して来たものだから今になつたのだが、伊太彦さま、これから三人一緒にハルナの都へ行かうぢやないか。どうしたものか姫様はハルナへ行かずに、エルサレム街道の方へ足を向けられたものだから、跟いて来たのだが一体どうなるのだらうな』
伊太『神様のなさる事は到底吾々には分らないよ。吾師の君の玉国別様だとて、テームス峠を向ふへ渡り、直にハルナに行かれる都合だつたが、いろいろ神様の御用が出来たり、事件が突発して、何者にか引かるるやうに此方へおいでになつたのだ。これも何かの神様の御都合だらう。しかしながら三人一緒に行く事は到底出来ない。宣伝使は一人と定つてるさうだから初稚姫様も伴をつれないのだ。それで私も玉国別の師匠から途中から、突放されて一人旅をやつてゐるが、一人旅は辛いもののまた便利なものの気楽なものだ。何はさて置き、神様の命令だから君等と一緒に行く事は出来ないわ。何れエルサレムで一緒にお目にかからうぢやないか』
イク『それでも照国別、治国別、黄金姫様等は一人でおいでになつたのでは無からう。あの方々はどうなるのだ』
伊太『それも何か御都合のある事だらう。俺等には解らないわ』
サール『おい、イク、そんな事云ふだけ野暮だよ。初稚姫様はただ一人おいでになつたのも独立独歩、一人前の宣伝使になられたからだ。黄金姫、清照姫が二人連れで行つたのは、半人前づつの二つ一で行つたのだよ。その外の宣伝使は皆三人連れ四人連れだからまア三分の一、四分の一の人間位なものだ、アツハヽヽヽ』
イク『さうすると伊太彦さまは偉いぢやないか。到頭一人前になられたと見えるわい。俺等も二つ一かな』
サール『きまつた事だよ。二人に一つの玉を頂いて居るのを見ても分るぢやないか』
イク『それでも伊太彦さまは一人でゐながら玉がないぢやないか。そりやまたどうなるのだ』
サール『改心の出来たお方は心の玉が光つてるのだから、形の上の玉は必要ないのだ。玉を持つて歩かなくちやならぬのは、ヤツパリ何処かに足らぬ処があるのだ。夜道が怖いと云つて仕込杖を持つて歩くやうなものだ。なア伊太彦さま、さうでせう』
伊太『さう聞かれるとお恥かしい話だが、実の所はスーラヤ山の岩窟に入り、ウバナンダ竜王の玉を頂いて此処に所持して居るのだ。ヤツパリ私も仕込杖の口かな』
サール『ヤア其奴ア不思議だ。あの八大竜王の中でも最も険難な所に棲居をしてゐる死の山と聞えたスーラヤ山へ駆け上つて玉をとつて来るとは豪気なものだ。そしてその玉は今持つて居られるのか。一つ見せて貰ひたいものだな』
伊太『ヤア折角だが神器を私する訳には行かぬ。丁寧に包んで懐に納めてあるのだから、エルサレムに行つて言依別の神様にお渡しするまでは拝む事は出来ないのだ。そしてお前達の持つて居る玉と云ふのは誰から頂いたのだ』
イク『勿体無くも日出神から直接に拝戴したのだ。この玉のお蔭で沢山な泥棒にも出会ひ、色々の猛獣の原野を渡り、大河を越えて無事で来たのも、この水晶玉の御神徳だ。伊太彦さまが玉が大切だと云へば、此方も大切だ。絶対的に見せる事は出来ませぬわい』
伊太『それでは仕方がない、売言葉に買言葉だ。自分の玉を隠しておいて、人の玉を見せろと云ふのが此方の誤謬だ。さアここで別れませう。エルサレムに行つて何れ十日や二十日は吾師の君も御修業遊ばすから、その間には一緒になるであらう。左様なら』
と伊太彦はスタスタと下り行く。
 二人は伊太彦の言葉に従ひ後をも追はず、ゆつくりと路傍の岩に腰打掛け話に耽つてゐる。
イク『おい、サール、伊太彦が松彦に捕へられ、清春山の岩窟にやつて来た時は随分面白い奴だつた。滑稽諧謔口を衝いて出ると云ふ人気男が、あれだけの神格者にならうとは予期しなかつた。何と人間と云ふものは変れば変るものぢやないか。吾々二人は初稚姫様のお伴も許されず、日蔭者となつて、かう春情のついた牡犬が牝犬を探すやうに後を嗅つけてやつて来たものの公然とお目にかかる訳にも行かず、ハルナの都へ行つてから、「不届きな奴だ、何しに来た」と叱られでもしたら、それこそ百日の説法屁一つにもならない。何とか立場を明かにせなくては、「名正しからざるは立たず」とか云つて、マゴマゴして居ると其処辺四辺の奴に泥棒扱ひをされて、その上虻蜂とらずになつては詮らぬぢやないか』
サール『何、神様は心次第の御利益を下さるのだから、吾々の真心が姫様に通らぬ道理が何処にあらう。姫様は千里向ふの事でも御承知だから、自分等がかうして跟いて来るのも御承知だ。これを黙つて居られるのは表面は何とも云はれないが、実は跟いて来いと言はぬばかりだ。そんな取越苦労はするな。さア行かうぢやないか』

イク『道の辺に憩ふ二人は尻あげて
  またもや先へ行かうぞとする』

サール『この場をばサールの吾は何処へ行く
  蓮花咲くハルナの都へ。

 今先へ一人伊太彦宣伝使
  逃げるやうにして玉抱へ行く』

イク『泥棒のやうな顔した吾々を
  恐れて逃げた伊太彦司』

サール『馬鹿云ふなこの世の中に住む奴は
  皆泥棒の未製品なる』

イク『バラモンの軍の君に従ひて
  泥棒稼ぎし吾等二人よ』

サール『そんな事夢にも云ふてくれるなよ
  吾等は最早神の生宮。

 泥濘の泥の中より蓮花
  咲き出づる例あるを知らずや』

イク『蓮花如何に清けく匂ふとも
  散りては泥の埋草となる。

 一度は祠の前で咲き充ちし
  蓮なれども今は詮なし。

 神の道聞く度ごとに村肝の
  心の垢の深きをぞ知る。

 吾胸にさやる黒雲吹き払ひ
  照らさせ玉へ水の光に。

 伊太彦の神の司を規範として
  魂研かまし道歩みつつ』

 二人は半時ばかり経つてまたもや宣伝歌を謡ひながら足拍子をとり下り行く。

『月の国にて名も高き  百の花咲き匂ふなる
 ハルセイ山の大峠  三日三夜をてくついて
 漸くここに来て見れば  思ひも寄らぬ三五の
 伊太彦司が道の辺に  旅の疲れを休めつつ
 眠らせ玉ふ不思議さよ  思へば思へば恥かしや
 高春山の岩窟に  伊太彦司と諸共に
 酒酌み交はし夢の世を  酔ふて暮せし吾々も
 心の駒を立て直し  祠の森に屯して
 珍の宮居の神業に  仕へまつりし嬉しさよ
 初稚姫の御後をば  慕ひてここまで来て見れば
 姫の姿は雲霞  行衛分らぬ旅の空
 大空渡る月見れば  雲の御舟に乗らせつつ
 西へ西へと進みます  ハルナの都に姫様が
 進ませ玉ふと聞きつれど  月の御後を従ひて
 一旦珍のエルサレム  進ませ玉ふが天地の
 誠の道に叶ふのか  思へば思へば神様の
 遊ばす事は吾々の  曇りきつたる魂で
 測り知らるる事でない  ただ何事も惟神
 誠の道を一筋に  行く処までも行つて見よ
 神は吾等と共にあり  人は神の子神の宮
 いかでか枉の襲はむと  教へ玉ひし御宣言
 頸に受けて逸早く  水晶の玉を守りつつ
 伊太彦司の後を追ひ  いざや進まむエルサレム
 守らせ玉へ天地の  皇大神の御前に
 慎み祈り奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠の道は世を救ふ  誠一つの三五の
 道行く吾は惟神  月の御神の後追ふて
 神の集まるエルサレム  黄金花咲く神の山
 黄金山に参上り  橄欖樹下に息休め
 神の恵の涼風に  心の塵を払ふべし
 進めや進めいざ進め  勝利の都は近づきぬ
 深き恵にヨルダンの  川の流れに御禊して
 生れ赤子となり変り  初稚姫の御許しを
 受けて尊き神司  栄えに充てる御顔を
 伏し拝みつつツクヅクと  エデンの川を舟に乗り
 フサの入江に漕ぎ出して  何のなやみも波の上
 ハルナの都へ進むべし  勇めよ勇めよ よく勇め
 神は吾等と共にあり  あゝ惟神々々
 御霊の恩頼を玉へかし』  

 かく謡ひながら、イク、サールの両人はハルセイ山の西阪を勢込んで下り行く。

(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社楼上 北村隆光録)



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