出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語63-4-161923/05山河草木寅 諒解王仁三郎参照文献検索
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本文    文字数=8053

第一六章 諒解〔一六二三〕

 初稚姫は、早くもエルの港につきたまひ、アスマガルダ、ブラヷーダ、カークス、ベース、スマートと共に阜頭に立つて玉国別の船の進み来るを待ちつつあつた。船は漸くにしてエルの港についた。玉国別は嬉しげに船より一行と共に上り来り、初稚姫の前に立つて一礼を終り、

玉国別『スーラヤの清き湖漸くに
  神の恵に渡り来にけり。

 初稚姫珍の命は逸早く
  着きたまひたる事の尊さ』

初稚姫『湖の面を眺めて幾度か
  待ちあぐみけり君の御船を』

真純彦『金銀の波漂ひしこの湖も
  初稚姫の輝きにしかず。

 浪の上ゆエルの港を眺むれば
  輝り灼きぬ珍の御姿』

三千彦『月は盈ち潮みち船に人も満ち
  心みちつつ浪路渡り来ぬ。

 恙なく神の恵に渡り来し
  この湖に別れむとぞする。

 別れ路のつらさは浪路にあるものを
  伴ひたまへ初稚姫の君』

初稚姫『皇神の御言畏み進む身は
  神としあれば伴は頼まじ』

デビス姫『惟神道往く人はただ一人
  進む掟を知らずありけり。

 如何にせば神の御心に叶ふらむ
  吾背の君と共にある身は』

ブラヷーダ『妾とて神としあれば草枕
  一人の旅も如何で恐れむ。

 さりながら神の許せし背の君に
  別れて如何で進み得ざらめ』

初稚姫『大神のまけのまにまに進む身は
  如何でか人を力とやせむ。

 三五の神の御規はただ一人
  道つたへ行くぞ務めなりけり』

治道『あら尊初稚姫の御言葉
  吾魂の闇を晴らしぬ』

玉国別『大神の御言畏み進む吾に
  一人はゆるせ初稚の君』

初稚姫『汝こそは神のよさしの神司
  やすくましませ真純彦と共に』

伊太彦『これはしたり三千彦さまの真似をして
  思はず知らず暗に迷ひぬ』

 伊太彦は埠頭の石に腰打ちかけ、双手を拱んで何事か思案に暮れて居る。その両眼には涙さへ滴り、さも懺悔の情に堪へざるものの如くであつた。ブラヷーダは心も心ならず伊太彦の前に躙り寄り、
『もし吾背の君様、貴方は俄に勝れさせられぬ御心持、何か心配な事が出来て参りましたか、お差支無くば私におつしやつて下さいませ。夫婦となれば何処までも苦楽を共にするのが天地の道でございます』
 伊太彦は首を左右に振り、声までかすめて、
『ブラヷーダ、どうか今までの縁ぢやと締めて、この伊太彦を許してくれ。一生の御願ひだ』
ブラヷーダ『何がお気に障つたか知りませぬが、つい初稚姫様の御言葉に従つて貴郎の御船を離れお先に参つたのが御意に障つたのでございませう。誠に済まない事を致しました。この後はきつと貴方の身辺を御保護を致しますからお許し下さいませ』
と涙ぐむ。
伊太『いやいや決してそんな事を彼これ思ふのではない。お前は初稚姫様のお伴をして大変結構であつた。天晴ハルナの都に参つて神命を果しその上神様のお許しを得てお前と夫婦になれるものならなりませう。この伊太彦はお前と別れたならば一生独身生活をして神界に仕へる積りだ。お前はこれから私に離れて家に帰り、両親に孝行を尽し、適当の夫を選んで安楽に暮してくれ。しかし一たん別れても縁さへあればまた添ふ事も出来るだらう。初稚姫様のお言葉と云ひ、ウバナンダ竜王の言葉と云ひ、もはやこの伊太彦は立つても居てもおられなくなつてしまつたのだ』
ブラヷーダ『もし玉国別様、初稚姫様如何致しませうか。どうぞ吾々夫婦に対してお指揮を下さいませ』
 玉国別は、アヽと云つたきり涙を拭ひながら黙然として俯き深き吐息をついて居る。

初稚姫『別れてはまた遇ふ海の末広く
  男浪女浪に浮ぶ月影』

玉国別『初稚姫様の今のお歌によれば、伊太彦、可愛さうだがお前は此所からブラヷーダ姫と袂を分ち天晴神業成就の上、改めて夫婦の契を結んだがよからう。ブラヷーダ姫も御承知でございませうな』
ブラヷーダ『如何にもお情の籠もつたお言葉、左様ならば大切なる夫の御神業を妨げてはなりませぬから、此処で潔う別れませう。しかしながらこのまま家に帰る訳には参りませぬから、妾もどうぞハルナの都の御用に立てて下さいませ。伊太彦様左様ならばこれでお別れ致します。どうぞ御無事で天晴御神業を果し、皇大神の御前に復命遊ばすやうお祈り致します』
 玉国別は莞爾として左も愉快気に、
玉国別『ブラヷーダ姫さま。貴女のお覚悟は実に天晴なものでございます。しからばこの上は貴女はただお一人でエルサレムに参拝し、それよりエデンの河を渡り、フサの国に出でハルナの都にお進みなさい。きつと神様がお助け下さいますから。あゝ私も互に助け助けられて此処まで出て参りました弟子達に別れるのは残念ですが、どうも神様の掟を破る訳にも参りませぬ。しかし、素盞嗚の大神様から、真純彦、三千彦、伊太彦の三人を伴ひ行く事を許されましたが、今となつて考へて見れば大神様はさぞ「玉国別は腑甲斐ない奴だ」とお心の中でお蔑みなさつたらうと今更懺愧に堪へませぬ。しかしながら初稚姫様のお許しで真純彦一人を連れて参る事に致します。伊太彦は独りこれからエルサレムに玉を納め、フサの国を横断してハルナの都に進んだがよからう。三千彦お前も一人でお出なさい』
 伊太彦、三千彦、ブラヷーダ、一度に頭を下げ涙を滴らしながら承諾の意を示して居る。
玉国『アヽそれで玉国別も安心致しました。初稚姫様の神懸りしてのお言葉によりまして、吾々も迷ひの夢が醒めました。有難うございます』
と合掌涕泣してゐる。

デビス姫『いざさらば神の教の三千彦よ
  別れて遇はむハルナの都で。

 初稚姫玉国別の神司
  やすくましませ妾はこれにて暇をつげむ』

と云ふより早く一同に目礼し、早くもエルの町の中に姿を隠してしまつた。これより初稚姫命により、アスマガルダは吾家に帰り、ブラヷーダ、デビス姫は思ひ思ひに人跡なき山を越へ谷を渡り、エルサレムに進む事となつた。伊太彦、三千彦もまた玉を捧持し一人旅となつてエルサレムに進み往く。初稚姫はスマートと共に何処ともなく姿を隠したまうた。治道居士は自分の幕下なりし、バット、ベル並にウラル教より帰順したる、カークス、ベースの四人を従へ各自比丘の姿となつて、エルの港にて法螺貝を購ひ、金剛杖をつき大道を進んでエルサレムに詣づる事となつた。今後における各宣伝使の行動は果して如何に開展するであらうか。

(大正一二・五・二五 旧四・一〇 於天声社楼上 加藤明子録)



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