出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語63-4-151923/05山河草木寅 波の上王仁三郎参照文献検索
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第一五章 波の上〔一六二二〕

 玉国別、初稚姫二人の乗り来れる二艘の船は伊太彦以下四人を分乗せしめ、スーラヤの湖面を西南に向つて走け出し、折柄の順風に真帆をあげてエルの港に進み行く。
 初稚姫の船にはブラヷーダ、アスマガルダ、カークス、ベースが乗せられた。玉国別の船には伊太彦がただ一人乗つて居る。
 漂渺として際限もなき湖面を渡り行く退屈紛れにいろいろの成功談や失敗談に花が咲いた。真純彦は伊太彦に向ひ、
真純『伊太彦さま、随分お手柄でございましたな。まアこれで貴方も夜光の玉が手に這入つて御不足もありますまい。何と云つてもタクシャカ竜王を言向和すと云ふ勇者だから、到底吾々はお側へも寄れませぬわい』
伊太『いやもうさう言はれては面目次第もありませぬ。実の所ウバナンダ竜王は、拙者には神力が足らぬからお渡しせぬが、初稚姫様ならお渡しすると云つて散々文句言つて渡してくれたのですよ。サツパリ今度は失敗でしたよ。アハヽヽヽ』
真純『しかし伊太彦さま、貴方はブラヷーダとか云ふ奥さまが出来たさうですな』
 伊太彦は真赤な顔をしながら、
伊太『いや、どうも痛み入ります。何ほど断つても先方が肯かないものですから、また親子兄弟の懇望によつて予約だけはして置きました。しかしながらまだ正妻と云ふ訳には行きませぬ。ともかく先生のお許しを得なくちやなりませぬからな。ウバナンダ竜王が云ふには、伊太彦司は女に心をとられて居るから神力が弱つたと云ひましたよ。別に女等に心をとられては居ないのだが不思議ですな』
 玉国別、三千彦は可笑しさを堪へて俯向いてクウクウと笑ふて居る。
真純『伊太彦さま、貴方に限つて女に心をとらるると云ふ筈はありませぬが、大方竜王の奴、岡嫉妬をして、そんな事云つて揶揄つたのですよ。本当なら初稚姫さまに渡すべき玉を貴方にに渡したぢやありませぬか。ブラヷーダさまがお側に居ると思つて貴方に渡したのですよ。さう云へば何かお心に障るか知りませぬが、そこはそれ、奥さまの手前、竜王さまも気を利かしたのですわい。アツハヽヽヽ』
伊太『いえいえ決して決して、そんな訳ぢやありませぬ。到頭あの山の死線を越えて岩窟に這入つた所、神力が足らぬので一行五人とも邪気にうたれ、仮死状態に陥り、幽冥界の旅行と出掛け、ウラナイ教の高姫に会ふて一談判をやり、つまらぬ小理窟を振り廻し、暗い暗い原野を進んで行くと針のやうな山にぶつつかり、それはそれは えらい目に会ひましたよ。そこへスマートさまが現はれ、次いで初稚姫様が現はれて高姫の守護神を追払ひ、再び現界へかへして下さつたのですよ。いやもう思ひ出してもゾツと致しますわ。「功は成り難くして敗れ易く、時は得難くして失ひ易し」とか云つて中々世の中は、うまく行かぬものですわい。知らず知らずに何時の間にか慢心し、夫婦気取りでやつて行つたのが私の失敗、高姫の奴に幽冥界においても大変な膏をとられましたよ』
真純『貴方は何故死線を越へて死生を共にした奥さまを初稚姫にお渡ししたのですか。あまり水臭いぢやありませぬか』
伊太『いいえ、エルの港までお世話になつたのですよ。また船の中で貴方等に冷かされると困りますからな』
真純『いや伊太彦さまは三千彦さまの御夫婦に就いて揶揄つたので機を見るに敏なる伊太彦さまの事だから予防線を張つたのでせう』
伊太『アハヽヽヽ、それまで内兜を見透かされては仕方がありませぬわい』
三千『伊太彦さま、随分冷かされるのは苦しいと見えますな』
伊太『三千彦さま、こんな処で敵討とは、ひどいぢやありませんか。いやもう貴方御夫婦の事は申しませぬ。どうぞ何事もスーラヤの水と消して下さい』
三千『決して敵討でも何でもありませぬよ。人に揶揄はれる時の御感想を承はりたいと思つただけですわ。しかし先生、伊太彦さまの縁談はお許しになるでせうね』
玉国『三千彦さまの夫婦を承諾したのだからな』
伊太『ヤア先生、有難うございます。そのお言葉でお許しを得たも同然と認めます』
玉国『まだ私は許して居りませぬ。しかしながら結婚問題は当人と当人の自由ですから、そんな点までは干渉しませぬわい』
 伊太彦はつまらな相な顔して頭を掻いて居る。治道居士はニコツともせず、目を塞ぎ腕を組み、この問答を一生懸命聞いて居る。バット、ベルも治道居士の傍に小さくなつて伊太彦の顔ばかり見つめて居る。

玉国別『神ならぬ玉国別は皇神の
  結ぶ赤縄を如何で論争はむや。

 伊太彦の神の司は皇神の
  御言のままに従へばよし。

 皇神の任さし玉ひし神業を
  遂げ終るまで心しませよ』

伊太彦『有難し吾師の君の御心は
  その言の葉に知られけるかな。

 皇神の結ばせ玉ふ縁なれば
  否むによしなき伊太彦の身よ』

真純彦『月の国ハルナの都に立向ふ
  旅にも芽出度き話聞くかな。

 言霊の軍の君も春めきて
  花の色香に酔ひつつぞ行く』

三千彦『若草の妻定めてゆ何となく
  心苦しく思ひつつ行く』

真純彦『苦しさの中に楽しみあるものは
  妹背の旅に如くものはなし。

 苦しみと口には云へど心には
  笑みと栄えの花匂ふらむ』

デビス姫『真純彦神の司の言の葉は
  妾の胸によくもかなへり』

真純彦『デビス姫その言の葉は詐りの
  なき真人の心なりけり』

治道『三五の神の大道に入りしより
  いつも心は春めき渡りぬ。

 花と花月と月との夫婦連れ
  花の都へ清くつきませ。

 大空に冴えたる月の影見れば
  笑ませ玉ひぬ今の話に』

伊太彦『大空の月の御神の笑ませるは
  夜光の玉をみそなはしてならむ。

 大空に夜光の月は輝きて
  吾懐の玉に照りそふ。

 ウバナンダ・ナーガラシャーの珍宝
  吾懐に光らせ玉ふ。

 願はくばこれの光を友として
  常夜の暗を照らしてや行かむ』

 艫に立つて船頭は艪を操りながら声も涼しく謡ひ出した。

『ここは名に負ふスーラヤ湖水
   水の深さは底知れぬ。
 底知れぬ神の恵と喜びに
   会ふた伊太彦神司。
 初稚の姫の命の玉の舟
   さぞや見たからうブラヷーダ姫を。
 ウバナンダ竜王さまの宝をば
   乗せて漕ぎ行くこの御船。
 風も吹け波も立て立て竜神躍れ
   いつかなこたへぬ神の舟。
 玉国別の神の司の居ます舟に
   醜の悪魔のさやるべき。
 スーラヤの山は霞に包まれて
   今は光も見えずなりぬ。
 夜光るスーラヤ山も伊太彦の
   神の身霊に暗くなる。
 これからは百里を照らした山燈台も
   消えて跡なき波の泡。
 月も日も波間に浮ぶスーラヤ湖水
   今日は天女が渡り行く。
 天人の列に加はる神司
   嘸や心が勇むだらう。
 漸くにエルの港が見えかけた
   かすかに目につくエルの山。
 十五夜の月は御空に有明の
   朝も早うから船を漕ぐ。
 エル港越えて進むはエルサレム
   一度詣りたや神の前。
 朝夕に波のまにまに漂ふ俺は
   何時も月日の水鏡見る』

 毎晩光つて居たスーラヤ山も夜光の玉が伊太彦の懐に入つてからは光を失ひ、今船頭の謡つた如く唯一の燈台をとられてしまつた。十六日の満月は東の波間より傘のやうな大きな姿を現はして昇り初めた。
 波に姿を半分出した時は丁度黄金山が浮いたやうに見えて来た。

玉国別『金銀の波漂ひし湖の上に
  黄金山の光輝く。

 東の波間を昇る月影は
  黄金の玉か夜光の玉か。

 如意宝珠黄金の玉も及ぶまじ
  波間を分けて昇る月影』

真純彦『空清く海原清き中空に
  月はおひおひ円くなり行く。

 月々に月見る月は多けれど
  今宵の月は殊更清し』

三千彦『御恵みの露は天地に三千彦の
  今さし昇る月の大神。

 瑞御霊早くも月は波間をば
  離れて御空にかかりましけり』

伊太彦『波間をば分けて出でたる如意宝珠
  吾懐の玉に勝れる。

 夜光る珍の宝珠も瑞御霊
  昇り給へば見る影もなし』

デビス姫『真純彦三千彦司の守ります
  珍の宝も月に如かめや。

 月の国ハルナの都へ進み行く
  旅路の空に清き月影』

治道『大空に昇り輝く月見れば
  吾魂の恥しくなりぬ。

 日は西に早や傾きて東の
  波間を出づる珍の月影』

玉国別『西へ行く吾一行を見送りて
  昇らせ玉ふか月の大神。

 仰ぎ見る清き大空隈もなく
  照らし玉ひぬ一つの玉に。

 日は暑く月は涼しく澄み渡る
  百の草木も露に生きなむ』

伊太彦『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令命は失するとも  誠の神の御教に
 任しまつりし吾々は  如何なる枉の攻め来とも
 必ず神の恵みあり  歓喜竜王の岩窟に
 一行五人進み入り  邪気に襲はれ吾魂は
 浮世にけがれし肉体を  脱けて忽ち死出の旅
 枯野ケ原をさまよひつ  ウラナイ教の高姫が
 醜の精霊に廻り合ひ  いろいろ雑多と論争ひ
 揚句の果ては大喧嘩  おつ初めたる恥しさ
 アスマガルダは鉄拳を  かためて高姫打たむとす
 流石の高姫驚いて  裏口あけて裏山の
 枯木林に身をかくし  雲を霞と消えにける
 吾等五人は勇み立ち  凱歌あげし心地して
 枯野ケ原をさまよひつ  神の試練に会ひながら
 三五教の信仰を  生命にかへて守りたる
 その報いにや神使  スマートさまが現はれて
 高姫司の守護神  銀毛八尾の悪狐をば
 追ひやり玉へば忽ちに  四辺の光景一変し
 いと苦しみし吾身体  俄に快くなりて
 勇気日頃に百倍し  天地の神に打向ひ
 感謝祈願の太祝詞  唱ふる折しも三五の
 神の司の初稚姫が  この場に現れましまして
 吾等が迷ふ霊身を  明きに救ひ玉ひけり
 気をとり直し四辺をば  よくよく見ればこは如何に
 歓喜竜王の岩窟と  判りし時の嬉しさよ
 ここに竜王は初稚姫の  生言霊に歓喜して
 多年の苦悶を免れしと  喜び勇み幾度か
 感謝の言葉奉り  夜光の玉を伊太彦に
 手づから渡し玉ひつつ  別離の歌を宣りおへて
 大空高く昇りけり  あゝ惟神々々
 神の恵の有難さ  初稚姫に従ひて
 海に通ずる岩窟の  光を見当てに隧道を
 探り出づれば有難や  吾師の君は玉の舟
 波打際に横たへて  吾等を救ひ玉ふべく
 待たせ玉ふぞ尊けれ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  神の恵みと師の恵み
 幾千代までも忘れまじ  思へば思へば有難や
 大空清く海清く  月また清き玉の舟
 清き真帆をば掲げつつ  清けき風に送られて
 清き教の司等と  清き話を取交はし
 珍の都へ指して行く  吾身の上こそ嬉しけれ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

 かく互に歌を謡ひ或は雑談に耽りながら、翌日の東雲頃玉国別の舟はエルの港に着いた。早くも初稚姫は一行と共に上陸し玉ひてスマートを引連れ波止場に立つて一行の来るを待ち受け玉ひつつあつた。スマートは喜んで「ウワッウワッ」と鳴き立てて居る。

(大正一二・五・二五 旧四・一〇 於竜宮館 北村隆光録)



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