出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語63-3-131923/05山河草木寅 蚊燻王仁三郎参照文献検索
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第一三章 蚊燻〔一六二〇〕

 人(精霊)の内面的情態に居る時は自有の意志そのままを思索するが故にその想念は元来の情動即ち愛そのものより来るものです。そしてその時において想念と意志とは一致する。この一致によつて人の内面的なる精霊は自ら思惟するを覚えずただ意志するとのみ思ふものです。また言説する時もこれに似たるものがありますがただ相違せる点は、その言説はその意志に属する想念そのままを赤裸々的に露出することを憚るの情が籠つてゐるものです。その故は人(精霊)が現界に在つた時に俗を逐ふてその生を営みたる習慣がその意志に附属するに至るからであります。
 精霊が内面の情態に居る時は、その精霊(人)が如何なる人格を所有して居たかと云ふことを明かに現はすものです。この時の精霊は自我に由つてのみ行動するからであります。現界に在つた時に内面的に善に居つた精霊は茲においてその行動の理性と証覚とにかなふこと益々深きものあるを認め得られるものです。今や肉体との関連を断ち、雲霧の如く心霊を昏迷せしめ、かつ執着せる物質的事物を全部脱却したからであります。これに反し精霊の内面が悪に居つたものは、今や外面的情態を脱れてしまひ、その行動は痴呆の如く狂人の如く、現世に在つた時よりも層一層の癲狂状態を暴露し、醜悪なる面貌を表はすものであります。彼精霊の内面悪なりしものは今や自由を得て表面を飾る外面情態の繋縛を離れたからです。現世にあつて外面上善美と健全の相を装ひ理性的人物に擬せむとして焦慮して居たものが、全く外面の皮相を取り除かれたので、その狂質は遺憾なく暴露するに至つたのであります。外面上善人を装ひ学者識者を以て擬して居た人間は馬糞を包んだ錦絵の重の内のやうなもので、外面より見れば実に美麗なる光沢を放ち人をして羨望の念に堪へざらしむるものですが、その蔽葢を取り除けて内面を見る時は始めて汚物の伏在せるを見て驚くやうなものです。心霊学者だとか、哲学者だとか、宗教家だとか、種々の立派な人間も外面の蔽葢を取り去つて見れば、実に痴呆癲狂の汚物が内面に堆積され、地獄界の現状が暴露されるものであります。
 現世に在つた時神格を認め神真を愛し内面の良心に従つて行動をなせしものは、霊界に入り来る時は直に内面の情態に導き入れられて永き眠りより醒めたる如く、また暗黒より光明に進み入りしものの如きものであります。その思索もまた高天原の光明に基き内面的証覚より発し来るが故に、凡ての行動は善より起り、内面的情動より溢れ出づるものです。かくて高天原は想念と情動との中に流れ入り歓喜と幸福とを以てその内面を充満せしめ、未だかつて知らざる幸福を味はふものです。最早かくなりし上は高天原の天人との交通が開けて居るので、主の神を礼拝し真心を尽して奉仕し、自主の心を発揮し、外的聖行を離れて、内面的聖行に入るものです。かくの如きは三五教の教示に由りて、内面的善真の生涯を送りしものの将に享くる所の情態であります。しかし三五教以外の教団に入信したものと雖も、神真を愛し内面的善に住し神格を認めて奉仕したるものの精霊もまた同様であります。
 これに反し現世にあつて偽善に住し神を捨て悪に住し、良心を滅し神格を否定し、或は神の名を称ふる事を恥ぢて、種々の名目にかくれ霊的の研究に没頭し、凶霊を招致して霊界を探り現世の人間を欺瞞し、または一旦三五の教を信じながら心機一転して弊履の如くこれを捨て去り、或は誹謗し、世間の人心を狂惑したるものの精霊界における内面的情態は全然これと正反対であります。
 また内心に神格を認めず、或は軽視し何事も科学に立脚して神の在否を究めむとし、かつ自己の学識にほこるものは、皆悪の霊性であります。たとへ外面的想念においては神を否定せず、これを是認し少しは敬神的態度に出づるものと雖も、その内面的精神は決してしからざるものは依然悪であります。何故なれば神格を是認することと悪に住することとは互に相容れないからであります。また「吾々は単に神を信じ宗教を学ぶ位なれば、決して学者の地位を捨てたり、役目を棒に振つて入信はしないのだ。ただ吾々は神諭のある文句を信じたからだ。万万一その神諭が一年でも世界に現はるる事が遅れたり間違ふやうなことがあつたならば、自分が率先して教壇を打き潰してしまふ」と揚言し、到頭意の如く神の聖団を形体的にも精神的にもたたき毀し、沢山な債務を後に塗り付け、谷底へ神柱を突き落し頭上から煮茶を浴びせかけ、尻に帆を掛けてエルサレムを後に又々種々の企てを始めて居る守護神の如きは、実に内面の凶悪なる精霊であります。しかしながらかかる精霊は表面に善の仮面を被り、天人の如き善と真との言説を弄するが故に、容易に現界においてはその内面の醜悪を暴露せないものであります。かくの如き精霊が霊界に来り内面的情態に入つてその言説する所を聞き、その行動する所を見る時は恰も前後の区別も知らず、発狂者の如く見ゆるものであります。彼等精霊の凶欲心はここに爆裂して、一切憎悪の相を現はしたり、他を侮蔑して到らざる無く所在悪の実相を示し、悪行を敢てし殆んど人間の所作なるかと疑はしむるばかりであります。
 現世にあつた時には、外的事物のために制圧せられ沮滞しつつあつたけれ共、今やその覊絆を脱し彼等の意志よりする想念に任せて放縦自在に振舞ふ事を得るからです。彼等がまた生前において所有した理性力は皆外面に住し、内面に住して居なかつたから、かくの如き悪相を現ずるに到るのであります。しかも彼等は他人に優りて内面的に証覚あるものと自信して居たものであります。今日の学者や識者と謂はるる人の精霊は、概して外面的情態のみ開け、内面は却て悪霊の住所となつて居るものが大多数を占めて居るやうであります。
   ○
高姫『これ、お前さま等、何が可笑しうてさう笑ふのだい。千騎一騎のこの場合、笑ふ所ぢやござるまい。変性男子様の教にも「座敷を閉めきりてジツとして居らぬと、笑つて居るやうな事では物事成就致さぬ」とありますぞや。五人が五人とも揃うて笑ふとは何の事ぢやい。この日出神を馬鹿にしてるのぢやあるまいかな』
カークス『何、馬鹿にする所か、私達五人は高姫さまに馬鹿にされて馬鹿になつて、この道端でお話を聞かうと思つてるのです。なあベース、さうだらう。これも旅の慰みだからな。立派な先生がありながら三五教の謀反人ウラナイ教の高姫さまに説教を聞く者がありますか。あんまり名高い高姫さまだから、一つ話を聞いてやるのですよ』
高姫『オツホヽヽヽ、盲蛇に怖ぢずとやら、困つたものだわい。かう云ふ代物も神様は済度遊ばすのだから、並や大抵の事ぢやないわい。日出神や大神様のお心を察しましておいとしうござりますわいな。オーンオーンオーン。日出神様、かくの如く憐れな身魂ですから、何卒虫族だと思つて腹を立てずに、神直日大直日に見直して助けてやつて下さい。どうしてまた世の中はかうも曇つたものだらう。俺もここで足掛け二年も大弥勒さまの教を伝へて居るのに、ただ一人聞く者がいないとは、如何に暗がりの世の中とは云へ、困つたものだな』
カークス『お前さま、えらさうに善人らしく、智者らしく、神さまらしくおつしやるが、肝腎要の内面的状態は地獄的精神でせうがな。このカークスはかう見えても精神の内面状態は……ヘン……第一天国に感応して居るのだから、お前さまの云ふ事が、何だか幼稚で馬鹿に見えて仕方がありませぬわ。ウツフヽヽヽ』
高姫『オツホヽヽヽ何とまあ没分暁漢だこと。現在目の前に底津岩根の身魂が現はれて居るのも分らず、第一霊国の天人、珍の神柱高姫が言葉を幼稚だとか、馬鹿に見えるとか云ふて居るが、ほんに困つたものだな。丹波の筍ぢやないが、煮ても焚いても喰はれない代物だ。それでも人間の味がして居るのかな。伊太彦さま、お前も大抵ぢやなからうな。仮令千年万年かかつても、誠の道に帰順させる事は難かしいよ。如何なこの大弥勒の御用する高姫でも、この代物には一寸、手古摺らざるを得ないからな』
カークス『ヘン、そこつ岩根の大弥勒さまだけあつて随分粗忽な事をおつしやるわい。霊国の天人ぢやとおつしやつたが、いかにも無情冷酷の天人イヤ癲狂人と見える。神の道には好き嫌ひは無い筈、それに結構な神様の生宮を捉まへて這入ると家が穢れるの、なんのつておつしやるから恐れ入るわいウツフヽヽヽ』
高姫『お前のやうなコンマ以下に相手になつて居つたら日が暮れる。さア伊太彦さま、お前は一寸利口さうな顔をして居るが、高姫の云ふ事は耳に入るだらうな』
伊太『もとより愚鈍な私、賢明な貴女のおつしやる事、どうせ耳に入りますまいよ。平易簡単におつしやつて下さい。どうぞお願ひ致します』
高姫『あ、よしよし、お前の方から、さう出れば文句はないのだ。しかしながらこの大弥勒さまに教へてやらうと云ふやうな態度に出たら大間違が出来ますぞ。それこそアフンとして尻がすぼまりませぬぞや。結構な結構な大神様の一厘の仕組、これが分つたら俺も私もと高姫の足許に寄つて来るなれど、あまり身魂が曇つておるから何も申されぬが、兎角改心が一等ぞや。これ伊丹彦さま、傷み入つて改心するなら今ぢやぞえ。後の後悔間に合はぬ。毛筋の横巾でも間違ひはないぞや。大弥勒の神に間違ひはないぞえ。高姫が申しても高姫が申すのではない。口借るばかりぢやから慎んでお聞きなさい。分つたかな。分つたら分つたと、あつさり云ひなさい。これだけ説教したら分る筈だから……』
伊太『根つから分りませぬがな。もつと詳しく簡単明瞭におつしやつて下さいな』
高姫『何と頭の悪い、これだけ細かう云ふてもまだ分らぬのかな。何ほど簡単に言つても肝胆相照さない伊丹彦さまにはイタイタしいぞや』
カークス『何だ、訳の分らぬ能書ばかりを吹聴して、肝腎の事は一つも云はぬぢやないか』
高姫『エー、黙つて居なさい。お前等の下司身魂に分るものか。この高姫は底津岩根の大弥勒と分ればいいのだ』
伊太『そりや分つて居ります。その大弥勒がまたどうして斯様な処でお一人お鎮まりになつてるのでせうかな』
高姫『「竜は時を得て天地に蟠り、時を得ざれば蚯蚓蠑螈と身を潜む」と云ふ事がある。何ほど天地の大先祖の大先祖の、も一つ大先祖の底津岩根の大弥勒さまでも時節が来ねば身を落して衆生済度をなさるのぢやぞえ。この高姫を見て改心なされ。この世の鑑に出してあるのだよ。別にエルサレムとか斎苑館とかコーカサス山とか甘粕大尉山とかへ行かなくてもこの高姫の云ふ事を腹に締め込みて置いたら世界が見えすきますぞや』
伊太『どうもハツキリ分りませぬがな。余程甲粕御魂と見えますわい。アハヽヽヽ』
高姫『これほど細かく云つても未だ分らぬのかいな。さうするとお前は一寸落して来て居るのだわい。一体誰のお弟子になつてゐたのだな』
伊太『玉国別の先生に教養を受けて居りました』
高姫『何だ。あの玉かいな。彼奴は音彦と云つてフサの国の本山にも、俺の宅の門掃をして居つた奴だ。彼奴は謀叛者でな。自転倒島の魔窟ケ原でも後足で砂をかけて逃げて行つた不人情者だ。あんな者が天理人道が分つて堪るものかい。五十子姫と云ふ阿婆摺れ女郎を貰つて玉国別だ等と云ふ名で其処辺りを歩き廻つて居るのだから、臍茶の至りだ。オツホヽヽヽ、何とまア三五教も人物払底だな。これでは瑞の御霊が何ほどシヤチになつても駄目だわい。それだから底津岩根の大弥勒さまの肝腎の事が分らぬと申すのだ。さア伊太彦さま、ここがよい見切り時だ。天国に上るがよいか、地獄に落ちるがよいか、一つ思案をしなされや。チツとばかり耳が伊太彦でも辛抱して聞いて見なさい、利益になりますよ』
伊太『高姫さま、もうお暇致します。私は玉国別様が大切なお師匠様、そのお師匠様の悪口を云はれて、どうして黙つて居られませう。さア皆さま、帰りませう』
カークス『万歳々々、始終臭ひの婆々万歳』
ベース『退却々々本当に誠に退屈々々』
高姫『これお前は三五教の宣伝使ぢやないか。怒る勿れと云ふ掟を知つてをるか。さう二つ目には腹を立てて帰るとは何の事だい。それで宣伝使と云はれますか。お前のやうな無腸漢が居るから三五教の名が日に月に落ちるのだ。よい加減に馬鹿を尽して置きなさい』

ブラヷーダ『思ひきや高姫様に廻り会ひ
  醜の教を授からむとは』

高姫『思ひきや三五教の神司
  闇と枉とに包まれしとは』

伊太彦『思ひきや斯程に自我の強烈な
  ウラナイ教の高姫婆さまとは』

アスマガルダ『思ひきやこんな処にウラナイの
  醜の婆々アが構へゐるとは』

ベース『思ひきやウラナイ教の高姫の
  減らず口でもこれほどまでとは』

カークス『とはとはと問はず語りに高姫が
  囀る言葉ここで聞くとは』

伊太『高姫さま、お邪魔を致しました。さアこれでお暇を致します。どうかトワに御鎮座遊ばしませ』
カークス『まアゆつくりとこの破れ家で一人居りなさい。よく宣伝が出来る事でせう。イツヒヽヽヽ』
高姫『こりやカークス、何と云ふ無礼な事を申すのだ。貴様の骨を叩き割つてカークスにしてやらうか』
カークス『そんならカークスベース(蚊燻べ)にして貰はうかい。たかと云ふ蚊が居るのだから面白からうよ。ヒヽヽヽヽメヽヽヽヽ』
高姫『伊太彦の鼬見たやうな奴についてる者は碌な奴はありやせないわ。ブラヷーダだのアスマガルダだのと、曲つた腰付でブラブラと迂路付きやがつて鼬に屁をかまされたやうな顔付してイツヒヽヽヽ、あゝ衆生済度も並大抵ぢやないわい』
アスマガルダ『高姫さま、お前さまは何時の間に、スーラヤの死線を越へてこの岩窟に来たのだい』
高姫『オツホヽヽヽ馬鹿だな。一つ手洗を使ふて来なさい。ここは岩窟の中ぢやありませぬよ。フサの国テルモン山の麓、高姫高原の神館だ。夜中の夢を見て世の中をぶらついて居るのだな。妹の婿の尻を追ふて歩く代物だから、どうせ碌な奴ぢやないと思つたが、矢張日出神が一目見たら違はんわい。何と云ふても金挺聾だから何にも分らぬ、困つた人足だな』
アスマガルダ『何、言はして置けば際限もなき雑言無礼、かう見えても俺はスーラヤの海で鍛へた腕だ。覚悟せい』
と鉄拳を揮つて殴りつけむとする。伊太彦は早くもその腕を掴んで、
伊太『待つた待つた、三五教は無抵抗主義だ。さう乱暴な事をしちやいけませぬ』
アスマガルダ『それだと云つて余りぢやありませぬか』
伊太『そこを辛抱するのが誠の道です。堪忍五万歳と云つて堪忍は無事長久の基ですからな』
アスマガルダ『そんなら伊太彦さまの命令に従ひませう。エー残念な……』
 高姫は腮をしやくりながら、
高姫『イツヒヽヽヽ無抵抗主義の三五教、お気の毒様』
と大きな尻をプリンプリンと振りながら、裏の柴山を獅子の如くに駆け上り、何処ともなく姿を隠してしまつた。五人はまたもや宣伝歌を謡ひながら露おく野辺を悠々と進み行く。

(大正一二・五・二四 旧四・九 於竜宮館 北村隆光録)



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