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原著名出版年月表題作者その他
物語59-3-171923/04真善美愛戌 倉明王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
大団円。全員が救われる。
名称


 
本文    文字数=10103

第一七章 倉明〔一五一七〕

 第一倉庫の中にはカンナ、チルナの両人が互に悲歎の涙に暮れながら世を果敢なみて述懐を歌つて居る。

チルナ姫『恋ひ慕ふ吾背の君は曲神に
カンナ…………『襲はれ玉ひし事の悲しさ。
チルナ姫『暗がりの倉に情なく投げ込まれ
カンナ…………『乾く由なき吾涙かな。
チルナ姫『初稚の姫と称ふる曲神は
カンナ…………『この世を乱す人鬼ならめ。
チルナ姫『何時の日かこれの鉄門や開かれむ
カンナ…………『頼り無き身を悶え苦しむ。
チルナ姫『飢ゑ喝くこの苦しみを如何にせむ
カンナ…………『唾さへ出ぬ二人の身の上。
チルナ姫『悲しさは涙となりて溢れけり
カンナ…………『世の荒波に揉まれし身には。
チルナ姫『大空に月日は清く輝けど
カンナ…………『心の空を黒雲包めり。
チルナ姫『如何にしてこれの鉄門を開かむと
カンナ…………『あせれど最早力尽きぬる。
チルナ姫『この上はただ大神に願ぎ奉り
カンナ…………『救はるる時を待つばかりなり。
チルナ姫『恋雲に深く包まれ身の光
カンナ…………『隠して一人吾は苦しむ。
チルナ姫『背の君は女に心とられましぬ
カンナ…………『吾も変らず迷ひ苦しむ。
カンナ『デビス姫娶らむものと村肝の
チルナ姫………『心砕きし人の憐れさ。
カンナ『太腿に噛りつかれた苦しさを
チルナ姫………『思ひやるだに涙ぐまるる。
カンナ『チルナ姫暗に紛れて吾腿に
チルナ姫………『獅噛みついたる事の悔しさ。
カンナ『惟神神の御前に罪を悔い
チルナ姫………『詫びつ恨みつ泣き渡るかな。
カンナ『バラモンの皇大神は吾身をば
チルナ姫………『救ひまさずやいとど悲しき。

チルナ姫『月に村雲花には嵐  吹き荒むなる世の中に
 花を翳して永久に  この世を安く渡らむと
 祈りし事も水の泡  初稚姫と云ふナイス
 現はれ来りて吾夫の  清き心を濁らせつ
 心にもなき枉業を  尽させ玉ふ恨めしさ
 吾背の君はバラモンの  キヨの関所を預りて
 ハルナの都へ攻め寄する  三五教の宣伝使
 一人も残さず引捕らへ  地底に深く穿ちたる
 その岩窟に投げ込みて  この世の災払はむと
 誠心を捧げつつ  朝な夕なに大神に
 感謝祈願の太祝詞  宣らせ玉ひし折もあれ
 木花散らす夜嵐に  吹き捲られて妹と背の
 道を誤り玉ひつつ  妾の身をば館より
 追放せむとなし玉ふ  その曲業ぞ悲しけれ
 吾背の君の迷ひをば  覚ましくれむと心にも
 なき偽りを構へつつ  半狂乱を装ひて
 戸障子手道具悉く  打折り砕き警告を
 与へし事の仇となり  忽ち手足を縛られて
 無慙や暗き倉の中  投げ入れられし悲しさよ
 これも全くリュウチナント  カンナの司の待遇しが
 面白なかりしそのためと  一度は怨み居たりしが
 カンナの司も今ここに  吾等と共に苦しめる
 姿を見るより同情の  涙に濡れて吾怨み
 春野の雪と消えにけり  あゝ惟神々々
 神の恵みの幸はひて  一日も早く片時も
 吾等二人の身魂をば  広きに救ひ玉へかし
 偏に願ひ奉る  梵天帝釈自在天
 大国彦の大御神  大国彦の神柱
 御前に慎み鹿児自物  膝折伏せて願ぎ奉る。

 天地に神は在さずや居まさずや
  この願ぎ事も聞し召さずや。

 村肝の心の暗の戸打開けて
  救はせ玉へ大御神等』

カンナ『バラモン教の神柱  ハルナの都に在れませる
 大黒主の命令もて  リュウチナントに任ぜられ
 チルテル司に従ひて  己が務めを忠実に
 仕へまつりしこのカンナ  如何なる悪魔の魅りしか
 思ひも寄らぬ災難に  不遇を喞つ今日の身は
 あるにあられぬ悩みなり  チルテルキャプテンに頼まれて
 チルナの姫の御前に  心にあらぬ偽りを
 図う図うしくも並べ立て  清き心を曇らせて
 姫の災招きたる  その罪悪を省みて
 いと恐ろしくなりにけり  暗の中とは云ひながら
 吾太腿を峻烈に  噛み切り玉ひしその痛さ
 無念の歯噛みなしながら  怨みを晴らしくれむずと
 拳を固めて二つ三つ  尊き面を殴りしは
 悔むで返らぬ過失ぞ  事の起りはこのカンナ
 物の黒白も分らずに  欲に迷ひしそのためぞ
 許させ玉へチルナ姫  人は神の子神の宮
 もとより鬼の子でもない  大蛇の腹に生れたる
 蛇でもなければ曲でない  何れも神の分霊
 水晶魂の持主よ  さはさりながら大空の
 月日もしばし黒雲に  包まれ姿を隠す如
 吾魂も何時しかに  悪魔の虜となり果てて
 思はぬ不覚をとりました  かうなり行くも己が身の
 犯せし罪の報ひぞや  チルテルさまや姫様を
 最早や少しも怨まない  梵天帝釈自在天
 二人の悩みを逸早く  救はせ玉へ惟神
 黒白も分かぬ暗の中  双手を合せ真心を
 捧げて祈り奉る』  

 かく歌ふ折しも俄に四辺騒がしく、数十人の足音が聞えて来た。二人は耳をすまして何者の襲来なるかとしばし様子を窺つて居た。忽ち、ガチヤリと戸を開く音、見れば初稚姫初めチルテルその外沢山な宣伝使や兵士が立つて居る。チルナ姫は矢庭に倉を飛び出し、初稚姫目蒐けて夜叉の如く飛びついた。初稚姫はヒラリと体を躱し、

初稚姫『三五の誠の道を伝へ行く
  吾は初稚姫の神ぞや。

 チルナ姫妾の姿を見誤り
  怨み玉ふか心もとなや』

チルナ姫『よく見れば何処とはなしに御姿
  変らせ玉ひぬ許させ玉へ』

チルテル『いと恋やの妻の命よ心せよ
  吾も初稚姫に救はれしぞや』

チルナ姫『背の君に刃向ひまつりし吾罪を
  赦し玉はれ神の心に』

チルテル『吾胸に巣へる曲に誘はれ
  思はぬ罪を犯しけるかな。

 今日よりは心の駒を立て直し
  チルナの姫を厚く愛なむ』

チルナ姫『有難しその宣り言を聞く上は
  仮令死すとも怨まざらまし』

カンナ『チルテルの司よ清く許しませ
  罪に溺れし吾魂を』

玉国別『皇神の恵みの露に霑ひて
  吾人ともに勇みけるかな』

三千彦『日影なき地底の洞に落されて
  心砕きし事の果敢なさ。

 初稚姫神の命があれまして
  吾等が命を救ひ玉ひぬ。

 何時の世かこの御恵を忘るべき
  弥勒の御世の末の末まで』

ワックス『テルモンの神の館に色々の
  枉企みたる吾はワックス。

 今こそは誠心に帰りけり
  許させ玉へ三千彦の君』

三千彦『村肝の心の花の咲きぬれば
  世に憎むべき人はあらまし』

ヘルマン『如何にして己が犯せし罪科を
  詫びむと思ふ心苦しさ。

 デビス姫の清き身魂を曇らせし
  吾はこの世の魔神なりしか』

エキス『五百笞の戒め受けて遙々と
  来りて此処に夢は覚めけり』

エル『三千彦の厚き情の御計らひ
  仇に返せし吾身の嘆てさ。

 三千彦の情けの盥なかりせば
  吾身体の如何で保たむ。

 海山の恵みを受けし身ながらに
  仇と狙ひし事の苦しさ』

イク『初稚姫神の命の後になり
  前になりつつ進み来にけり』

サール『キヨ港関守館に尋ね来て
  思はぬ人に巡り合ひしよ』

テク『いざさらばバーチル主の館へと
  急いで行かむ皆の人等』

チルテル『今しばし館の中を片づけて
  後に行くべし先に出でませ』

初稚姫『いざさらば吾はこれより皇神の
  宣りのまにまに別れ行かなむ』

玉国別『今しばし待たせ玉へよ初稚姫
  君の恵みに報ゆ術なき』

初稚姫『玉国別神の命の真心を
  力となして進み行くべし』

 かく歌ひながら一同に目礼し、スマートを従へ足許早く館の門を出づるや、忽ち姿は霞と消えさせ玉ふた。初稚姫はスマートの背に跨り木の間を潜つてハルナの都へと急がれたのである。イク、サールの両人は折角追つついた姫様に見捨てられては大変と、両人は取る物も取り敢ず、トントントンと地響き打たせ水晶の宝玉を片手に固く握りながら追つて行く。

(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
(昭和九・一二・一 王仁校正)



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