出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-3-161923/04真善美愛戌 開窟王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
玉国別ら、ワックスらも穴に落ち込む。初稚姫が助ける。
名称


 
本文    文字数=13389

第一六章 開窟〔一五一六〕

 伊太彦は依然として、入口に坐つて居るとワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人が転げ込むだ。次に、忽ちバラスをぶち開けたやうに、ドサドサドサと十七八人のチュウリック姿の若者折り重なつて落ち込み来る。
伊太『ヤア、大勢さま、よく御下向になりました、サア此処は坂の下の小竹屋でございます。大竹屋のやうに決してお客さまを床の下から手槍でついて、命をとり着物を剥取つて樽に詰めて海へ投りに行くやうな事はありませぬ。まア安心してお泊り下さい。せいぜい勉強してお安く願ひます。昼飯もこめまして、お一人さまに三円づつで泊つて頂きます。あゝ、大繁昌だ。宿屋もこれだけ客があれば捨てたものぢやないわい。番頭さまも随分忙しい事だなア』
 一同はムクムクと起き上り、互にがやがやと呟いて居る。
甲『オイ、貴様が俺の云ふ事を聞かないから、たうとうこんな奈落へ落ちてしまつたのだ。一体どうしてくれるのだい』
乙『馬鹿云ふない。いつも目標の黒い棒杭が立つて居たぢやないか、あの脇を通ればよいのだ。誰かが、棒杭の位置を変へて置きやがつたと見えてこんな失策をしたのだ』
甲『馬鹿云ふない。ありや棒杭ぢやない、様子が違つて居るから、気をつけと云つたぢやないか、しかるに貴様が「ナニ」と云ふて我を張つたものだから、こんな所へ皆落ちてしまつたのだよ。誰か様子を知つて居るものが救ひ出してくれるより外に出る道はない。まアミイラになる所まで辛抱するのだなア』
伊太『お客様ようお出なさいました。新規開業の宿屋でございます。お安く願ひます』
甲『ヤア貴様は三五教の奴ぢやないか、どうして居るのだえ』
伊太『エイ、余り宣伝使と云ふ商売も引き合ひませぬので、俄に岩窟ホテルを開き、商売替を致しました。奥にチルテルのキャプテンも、ヘールのユゥンケルもお出です。サア御遠慮なくお通り下さい、毎度御贔屓に有難うございます』
乙『何だ、怪体な事があるものだなア。しかしながら奥へ這入つてキャプテンに遇ひ一時も早く助からねばならぬ』
と委細かまはずどやどやと奥へ進むで行く。
チルテル『ヤアお前達は大勢一度にこんな所へ落ち込むで来たのか』
甲『ハイ、旦那のお行方を探しました所、何処にもお姿が見えないので、大方岩窟ホテルに御投宿かと思ひまして、部下を引き率れ、お迎ひに参りました』
チルテル『ヤ、それは御苦労だ。よく迎へに来てくれた。関所の入口は開けて置いたらうなア。其処さへ開けてあれば出るのは甘いものだ。三千彦さま、デビスさま、もう御安心なさい。万古末代出られないかと思ひましたら入口を開けて部下が迎ひに来てくれました』
甲『ヘエ、折角ながらその入口から、開けてお迎ひに来たのなら都合がよいのですが、思はず知らず落ち込むで来たので、ヘエ、誠に困つて居ります。何処かに抜穴はございますまいかな』
チルテル『あゝもう駄目だ。一人も残らず、此処へ落ち込むでしまつた。誰一人も助けに来るものは無いではないか。残念ながら俺達一同は此処でミイラになるより仕方が無いわ。三千彦様貴方はどうお考へですか』
三千『何だか知りませぬが、私は玉国別の神司が、きつと救ひに来てくれるやうな気がします。それだから、少しも案じては居りませぬ。皆さま気を落ちつけて御休息なさいませ』
 一同はガサガサ云ふ畳に横になり、ガヤガヤと囁きながら、救ひの人の現はれ来るのを待つて居た。三千彦はデビス姫と共に拍手を打つて一生懸命―『三五教の大神、バラモン教の大神、守りたまへ救ひたまへ』と祈願し初めた。伊太彦は口の間に依然として胡床をかいて居る。
 日は暮れたと見えてまたもや燐光キラキラと閃き初めた。
伊太『何と夜になると綺麗なものだな。まるで不夜城のやうだ。燈火を点す必要も無く油も入らず、実に経済に出来て居るわい』
と相変らず阿呆口を叩いて居る。そこへドスン ドスン ドスンと雪崩の如く落ち込むだのは思ひがけなき、玉国別、真純彦、アンチー、テクの四人であつた。伊太彦はまたバラモンの連中が落ちて来たと思ひながら、宿屋の番頭気分になり、
伊太『お出やすお出やす。これはこれはお客様毎度御贔屓に有難うございます。開業間もなき岩窟ホテル、伊太屋の番頭です。一名坂の下小竹屋とも申します。サア一つ十分勉強を致しておきますから、お泊り下さいませ。その代り木賃ホテルですから食物はさし上げませぬ。エヘヽヽヽ』
玉国『何だか妙な声がするぢやないか、なア真純彦』
真純『玉国別様、偉い所へ落ち込むだものですワ。どこか出口がありさうなものですなア』
 伊太彦はこの言葉を聞いて玉国別の一行と知り嬉しげに、言葉も元気よく、
伊太『あ、先生でございましたか。私は伊太彦ですよ。たうとう陥穽へ落ち込むで出る所がないので因果腰を定めて居りましたが、貴方どうしてまア、こんな所へお出になつたのです』
玉国『あゝお前は伊太彦であつたか、妙な所で遇ふたものだなア。さうして三千彦や、デビス姫は此処に居るのかなア』
伊太『ヘエヘエ、奥に居られます。どうか早く御対面下さい。序にチルテル、ヘールを初めバラモン軍の兵士がザツと二ダースばかり詰め込むであります。お蔭でこの岩窟ホテルも賑やかになりました』
真純『オイ伊太彦、気楽な事を云つて居る時ぢやない。何とかして此処を逃れ出る工夫をせなくてはならないぢやないか』
伊太『お前は真純彦だな、ようまアおつき合に落ち込むでくれたな。しかしもうかうなれば万事窮す矣だ。焦つた所で仕方がない。万事天に任せて、騒がず、焦らず、従容として死期の至るを待つのだな』
テク『あゝもう、かうなりや仕方がない、因果腰を定めるのだな。助かるものなら皆一度に救かり、死ぬものなら皆一同に死ぬのだ。最早肉体は完全に保つ事は出来まい。此処へ落ちれば食料はなし、誰人も投り込むではくれまいし、あゝ困つた事になつたものだなア』
 玉国別は三人を従へ、伊太彦と共に奥へ進むで行く。大勢が種々と半泣き声を出して呟いて居る。玉国別は声高らかに歌ひ初めた。

玉国別『人は神の子神の宮  天地に神の在す限り
 救はせたまはぬ事やある  三千彦司を初めとし
 チルテル、ヘールその外の  天の益人村肝の
 心を安く平けく  持たせたまへよ惟神
 神の恵は草や木の  片葉の露に至るまで
 宿らせたまふものなるぞ  如何に地底の岩窟に
 落ち込み日蔭を見ぬとても  三五教を守ります
 尊き清き皇神は  必ず救ひたまふべし
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 この岩窟に集まりし  吾等一同心をば
 一つになして皇神の  その大恩を讃め称へ
 心の底から改良して  誠の道に叶ひなば
 必ず救ひたまふべし  心を労する事勿れ
 勇めよ勇めよ皆の人  勇めば勇む事が来る
 悔やめば悔やむ事が来る  仮令千尋の海底に
 身は沈むとも何かあらむ  神の守りのある中は
 死なむと思へど死に切れず  これに反して大神が
 吾等を見放したまひなば  地上に安く住むとても
 命を召させたまふべし  ただ何事も惟神
 神に任して赤心を  皇大神の御前に
 現はしまつるに如くはなし  祝へよ祝へよ神の徳
 あがめよ あがめよ 神のいづ  この世を造りし神直日
 心も広き大直日  ただ何事も人の世は
 直日に見直せ聞直せ  身の過は宣り直せ
 三五教の吾々は  如何なる難に遇ふとても
 些しも恐れぬ大和魂  生言霊を打ち出して
 これの岩窟を委曲に  開きて救ひ助くべし
 心安かれ諸人よ  皇大神の御前に
 玉国別が赤心を  現はし祈り奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』

真純彦『いや深き神の仕組に操られ
  千尋の底に天下りけり。

 黄昏て地上の世界は暗けれど
  この岩窟の光る怪しさ』

伊太彦『光明の世界に神は導きて
  心の岩戸開きたまひぬ』

玉国別『摩訶不思議暗き筈なる岩窟に
  キラキラ光るものは何ぞや』

伊太彦『この岩窟みな燐砿で固めあり
  神のまにまに光るのみなり』

テク『テクテクと闇の道をば歩みつつ
  土の底にと落ち込みにけり。

 初稚姫神の命を娶らむと
  争ひし身の恥かしきかな』

アンチー『案内を引き受けながら地の底の
  岩窟に落し吾ぞ悔やしき。

 師の君を知らず知らずに根の国へ
  導きし吾の罪の重さよ。

 如何にしてこの過を詫びむかと
  思ふも詮なき胸の闇かな』

玉国別『アンチーよテクの司よ村肝の
  心悩めな神の御業ぞ。

 打ち揃ひ神の御名を宣り上げて
  吾人共に世に暉やかむ』

三千彦『岩窟に皇大神もしばらくは
  隠れましたるためしありけり。

 尻込めの縄をおろして吾々を
  救ひ助くる人の来よかし。

 三五の皇大神は吾々が
  今の難を知ろし召すらむ』

チルテル『吾守る屋敷の中の陥穽へ
  自ら落ちし事のうたてさ。

 兵士が一人も残らず陥穽へ
  転げ込みしも不思議なるかな。

 浅からぬ神の仕組のある事と
  首を傾げて訝かり居るも』

ヘール『初稚姫司の恋を争ひし
  人の仕組の如何であるべき。

 ただ卑し心の雲に目を被はれ
  奈落に落し身の終りかも』

テク『何事の在しますかは知らねども
  苦しさ痛さに涙こぼるる。

 この穴に落ちたる人の間には
  妻もあるべし御子もあるべし。

 妻や子は云ふも更なり垂乳根の
  御親はさこそ嘆きますらむ』

 かく互ひに述懐を述べ、胸の苦しみを紛らして居る。忽ち何処ともなく、頭の上から、
『ウーウ、ウーウ、ワウワウワウ』
と猛犬の声が聞えて来た。三千彦は雀躍りしながら、

三千彦『有難や初稚姫の伴ひし
  スマートの声聞え来にけり。

 スマートが此処に現はれたる上は
  初稚姫は近く来まさむ』

デビス姫『初稚姫君の命の神人が
  現ます上は何か怖れむ。

 人々の早救はるる時は来ぬ
  彼の吠声は神の御声』

 かく歌ひ居る時しも、スマートを先に立てて初稚姫は関所の庭の錠を外し石段を下つて燈火を左手に捧ながら莞爾として現はれ来る。玉国別外一同は欣喜雀躍の余り初稚姫の傍近くよつて声を放つて泣き伏しぬ。一同期せずして両手を合せ、初稚姫の後に従つて漸く岩窟を無事に抜け出す事を得た。この初稚姫は決して白狐の化身では無かつた。神の命を受け玉国別一行が危難を救ふべく向はせたまふたのである。一同は初稚姫、スマートの後に従ひ、入口まで還つて見れば、イク、サールの両人が厳然として警固して居た。

(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
(昭和九・一一・三〇 王仁校正)



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