出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-3-151923/04真善美愛戌 和歌意王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
穴に落ちた一同和解する
名称


 
本文    文字数=8428

第一五章 和歌意〔一五一五〕

 三千彦伊太彦デビス姫  三人は館の広庭を
 暗に紛れて駆け出す  途端に地底の岩窟に
 スツテンコロリと辷り落ち  此処に一夜を明かしつつ
 無聊を慰むそのために  伊太彦司は口の間に
 出でて胡床をかきながら  思案に暮るる折もあれ
 ツルツルツルと落来る  一人の男を見るよりも
 驚きながら胸を据ゑ  新規開業の旅人宿
 気転を利かす面白さ  恋を争い陥穽に
 投げ落されたヘール司  一目見るより仰天し
 お前はいづくの何者か  訝かしさよと訊ぬれば
 伊太彦頭をかきながら  私は伊太屋の番頭です
 何卒一夜を吾宅で  お泊りなされて下さんせ
 一等二等三等と  区別がついて居りますが
 貴方の人格調ぶれば  金も持たない真裸体
 一等旅館に限ります  開業早々で何事も
 準備が整ひおりませぬ  鬼の蕨か鉄拳か
 捻り餅など沢山に  お食りなさつて下されや
 お茶は熱うなし微温うなし  魔法瓶から天然に
 ちつと臭いが幾何でも  ついで上げますサア早う
 足を洗つて奥の間へ  お通りなされサア早う
 今日は目出度き開業日  ようまア泊つて下さつた
 何ぢやかんぢやと揶揄へば  遉のヘールも呆れはて
 そんならお世話になりませう  何分宜敷く頼むぞや
 始終食円の宿料を  約束しながら奥の間へ
 通れば下女のデビスさま  料理人擬ひの三千彦が
 一間ばかり相隔て  行儀正しく坐り居る
 ヘールは二人に声をかけ  一等客が参りました
 早くお茶でも汲みなされ  料理人と下女が奥の間で
 昼の最中にぬつけりと  内証話をすると云ふ
 不都合な事があるものか  アハヽヽハツハ、アハヽヽヽ
 三人一度に声を上げ  笑ひ興ずる時もあれ
 またもや入り来る荒男  よくよく見ればチルテルの
 この家の主キャプテンが  眼怒らし睨み入る
 その面貌の凄じさ。  

ヘール『ヤア、チルテルさま、私の後を追つかけて、よう来て下さいました。これが女だと、誠に都合がよからうになア、エヘヽヽヽ』
チルテル『そこに居る女はデビスぢやないか、あれほど厳しく縛り上げて、土蔵の中に繋いでおいたに、どうして此処へ出て来たのか』
デビス『オホヽヽヽヽ。貴方は関守のキャプテンさまぢやありませぬか。この間は甚いお世話になりましたなア。妾の寝床にわざわざお出下さいまして神輿か何かのやうにワツシヨ ワツシヨと舁つぎ御丁寧にお倉の中にお入れ下さいまして有難うございます。しかしリュウチナントのカンナ様がお出下さいまして、「どうかこの倉は私が住宅にしたいから早く退いて下さい」と家主から追つ立てを喰ひましたので止むを得ず、この岩窟ホテルに移転し、やつと開業した所です』
チルテル『ナニ、カンナと入れ替はつた。ハテ合点の行かぬ事を云ふものぢやなア。イヤ三千彦もそこに居るぢやないか、この方の家敷へ夜中に忍び込み、何か好からぬ事を企みその天罰でこの陥穽へ辷り落ちたのだらうがな』
三千彦『アハヽヽヽ、オイ、チルテルさま、女房が甚いお世話になりました。有難うございます。しかし貴方はどうして此処へお出になりました』
チルテル『これは拙者の管轄内だから、一寸巡検に来たのだ。それが何と致した』
ヘール『ハヽヽヽヽ。甘い事おつしやいますわい、これ三千彦さま、実は初稚姫さまの色香に迷ひ、鼻の下を長うして吾々両人が口説き立てた所、初稚姫さまは、角力をとつて勝た人の女房にならうと云つたのです。さうした所、運悪くも足踏み外し真先に私が落ち込むでしまつたのです。後ではテクとこの大将が勝負する事になつて居ましたが矢張負たと見えてこの岩窟に落ちて来たのです。このキヨの関所守はこの岩窟に一度でもおち込むで来たら免職になるのですから今日のチルテルは最早、キャプテンではありませぬ。ユゥンケル位なら棒に振つても宜敷いが、折角茲まで捏ね上げたキャプテンの職名を棒に振るのは聊かお気の毒ですわい、ウフヽヽヽ。もし三千彦さま、もうかうなれば、吾々はバラモンの軍人でも何でもありませぬ、どうぞ四海同胞の精神をもつて可愛がつて下さい。貴方の奥さまを担ぎ出したのは吾々ぢやありませぬ。皆このチルテルが兵士を連れて行つて盗み出したのですよ。さうして初稚姫様を自分の妻となし、リュウチナントのカンナさまに口ふさぎのため、デビスさまを宛がうためにあんな事をやつたのですよ。御迷惑はお察し致します』

デビス姫『吾身をば担ぎ出したるその人と
  今打ち解て向い合ふかな。

 何事も皆神様のお仕組と
  悟れる身には恨だになし』

チルテル『恋と云ふ醜の魔神に眩まされ
  思はぬ罪を重ねけるかな。

 この上は心の罪を委細に
  君の御前にさらけて詫む』

デビス姫『赤心の未だ失せざる君こそは
  神の救ひの門口に入るなり』

チルテル『有難し汝が言葉は皇神の
  深き情と涙ぐまるる。

 仇人を憎みたまはず懇に
  いたはりたまふ君は神なり』

ヘール『キャプテンの口の車に乗せられな
  苦しさ故の吟みなりせば。

 またしても十八番の奥の手を
  出した男の憎らしきかな。

 チルテルはいとしき妻を追ひ出し
  仇し女を娶らむとせり。

 吾は未だ妻を持たざるセリバシー
  憐れみたまへ無垢の体を』

チルテル『横町の床屋の嬶に眦さげ
  はぢかれたりし時のをかしさ。

 お多福に肱鉄砲を食はされて
  めそめそ泣きしヘールぞ可笑しき』

ヘール『人の非を大勢の前に素破抜く
  汝は曲神の器なるらむ』

チルテル『曲神か誠の神か知らねども
  ありし誠を吾は云ふなり』

三千彦『面白し人の情は唐日本
  いづくの果も変らざりけり。

 伊太彦は如何になしけむ姿をも
  今だにみせず心もとなや』

ヘール『口の間に伊太屋の番頭と納まりて
  帳面片手に算盤持たせり。

 面白い男もあればあるものよ
  岩窟におちて宿屋気取れる』

三千彦『この上は心の垣を取り払ひ
  助け合ひつつ神の道行かむ』

チルテル『有難し誠の道を宣り伝ふ
  君の心の分けへだてなき』

ヘール『バラモンのこれが司であつたなら
  こんな訳にはとても行くまい』

デビス姫『古ゆ縁の糸に繋がれて
  睦び合ふたる今日ぞ床しき』

チルテル『この上は心清めて三五の
  神の大道に進み行くべし』

三千彦『バラモンの神の教を捨てずして
  我三五の道を守れよ』

 かく四人は打ち解け、互に意見を交換して兄弟の如く、睦び合ふ事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
(昭和九・一一・三〇 王仁校正)



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