出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-3-131923/04真善美愛戌 案知王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
テク逃げ戻り、アンチーと先導として、玉国別、チルテルの館に向かう
名称


 
本文    文字数=12358

第一三章 案知〔一五一三〕

 キヨの関所の館をば  探らむためにテクテクと
 玉国別に暇告げ  斥候隊の心地して
 チルテル館に行てみれば  肝腎要の事務室は
 猫の子一匹居らばこそ  天井の鼠がチウチウと
 ちちくり合うてゐる声の  いと騒がしく聞ゆのみ
 遠慮会釈も荒男  裏庭潜り初稚姫が
 居間を目当に出で行けば  チルテル、ヘールの両人が
 衣脱ぎすて赤裸体  節くれだつたり気張つたり
 山門守る仁王さま  虎搏撃攘の真最中
 コラ面白い面白い  団扇はなけれど俺が今
 行司をやつてつかはそと  勇み進むで近よれば
 初稚姫は声をかけ  お前はテクさまリュウチナント
 行司は妾が致します  貴方も此処で衣を脱ぎ
 力比べの消しがかり  最後の勝利を得た方に
 妾はラブを注ぎます  力の強い男をば
 妾は夫に持つのだと  梅花のやうな唇を
 いと愛らしく動かせて  詞涼しく宣り渡す
 聞くよりテクは雀躍りし  玉国別の斥候と
 なりて来りし身を忘れ  うつつになつて衣を脱ぎ
 いざ来い勝負と待ちゐたる  時しもあれやチルテルは
 美事にヘールを投げつけて  見るも恐ろし陥穽に
 放込み了るをみるや否  よし来た勝負と手を拍つて
 獅子奮迅の猪突主義  発揮しながらくらひつく
 体の汗はぬらぬらと  鰻と鯰が組みついて
 争ふごとき為体  合うては離れ離れては
 また取組むでドスドスと  庭の小砂をへこませつ
 茲を先途と戦へば  初稚姫は手をあげて
 オホヽヽヽヽと笑ひつつ  愛嬌籠もる視線をば
 二人の頭上に浴せかけ  勝負如何と待ちゐたる
 チルテル、テクの両人は  女帝の前の晴勝負
 世界で一の色男  世界で一のナイスをば
 女房になして世の中の  有情男子の肝ひしぎ
 その成功を誇らむと  命を的に挑み合ふ
 新手のテクは漸くに  相手の褌をひき握り
 ヅドンとばかり地の上に  岩石落しに投付くる
 勢余つてコロコロと  再度三度廻転し
 汗のにじゆんだ肉体は  忽ち砂の祇園棒
 砂巻酢となり了へて  千尋の深き陥穽へ
 またたく内に落ちにけり  遉のテクも気をゆるし
 月桂冠を得たりとて  心ホクホク地の上に
 黒いお尻をドカとすゑ  ハートに波を打たせつつ
 四辺を見ればこはいかに  バラモン教のワックスや
 エキス、ヘルマン、エル四人  莞爾しながら立つてゐる
 初稚姫は嬉しげに  テクに向つて声をかけ
 リュウチナントのテクさまえ  お前は本当に強い人
 サアサアこれから約束の  私は女房になりまする
 握手を一つと言ひながら  優しき白き手を出せば
 握手所かキッスでも  何でも構はぬ致します
 エヘヽヽヽヽエヘヽヽヽ  涎をタラタラ流しつつ
 猿臂を伸ばして目を細め  白き腕を握らむと
 なしたる刹那初稚姫の  無比のナイスはテクの手を
 取るより早く白い毛を  現はし玉へばテクの奴
 ハツと呆れてその面を  見上ぐる途端にあら不思議
 目は釣上り口元は  耳までさけしその姿
 驚き後辺にドツと伏し  眼キヨロキヨロ光らせば
 初稚姫は忽ちに  白狐の姿と還元し
 箒のやうな尾をふつて  のそりのそりと歩み出す
 ワックス始め三人は  驚き狼狽逃迷ひ
 四人一度に陥穽に  バサリと墜ちてその姿
 地上に見えずなりにける  テクは再仰天し
 漸く腰を立てながら  足もヒヨロ ヒヨロ バタバタと
 勝手門をば潜り脱け  尻はし折つて一散に
 玉国別の隠れたる  タダスの森に走り行く
 日は漸くに黄昏て  月は御空に輝けど
 梢の茂みに遮られ  一寸先も見え分かぬ
 暗の帳は下りにけり  真純の彦は闇の森を
 ブラリブラリと進み来る  この時先方より駆け来る
 一人の男は忽ちに  真純の彦の胸板に
 ドンと頭を打ちつけて  アツとばかりに打倒れ
 ウンウン キヤアキヤア唸りゐる  真純の彦は怪みて
 玉国別をソツと招び  火打を取出し火を点じ
 よくよく見ればこは如何に  斥候主任のテクの奴
 ポカンと口をあけながら  空を仰いで倒れゐる
 そのスタイルは池鮒の  泥に酔ひたる如くなり
 アツパ アツパと口あけて  目をキヨロつかせ眺めゐる。

 真純彦はいろいろ介抱をし、テクを抱き起し、背中を打つたり撫でたりしながら、
真純『オイ、テク、確りせむかい。敵の様子はどうだ。三千彦の所在は分つたか。サア早く報告せよ』
 テクは息苦しげに起き上り、土の上に両手を付いて、
テク『ヘー、どうも大変でございます。それはそれは日の下開山世界一の大角力が初まつてをりました。私もその角力に参加して大勝利を得ました。そして、キヽキツネのニヨニヨ女ン房を褒美に貰いました』
真純『オイ、テク、確りせぬかい。偵察はどうだつたい。この永の日を今まで、俺達は待つてゐたのぢやないか、何をして居つたのだ。サア詳細に注進せい』
テク『イヤもう、化物屋敷の探険には、流石のテクもテクずりました。角力取が穴へおちたり、狐が現はれたり、バラモンのワックスが見物に出て来たり、それはそれは大した人気でございましたよ。折角、命カラガラ大勝利を得て、初稚姫といふ古今無双のナイスを女房に持つたと思へば、キヽ狐になつて、のそりのそりと這ひ出しました。イヤもう、怖いの怖くないのつて、口でいふやうな事ぢやありませぬワ。酒の酔も何も、一度に何処へか逐転してしまひました。あゝあ、あゝ苦しい。こんな怖ろしい苦しい事は、生れてからまだありませぬワ。モシ玉国別先生、あんな所へ行くが最後、陥穽へ堕されますよ。そして彼処の奴ア、人間と思うてたら騙されますよ。皆狐になりますよ。あんな危険な所へは行て下さりますな。御身が大切でございますから……』
真純『オイテク、一向要領を得ぬぢやないか、モツと明瞭報告せないか』
テク『ヘーヘー、要領を得ないのは当然ですよ。私も要領を得損つたのですからなア。……本当に本当に、古今独歩、珍無類の奇妙奇天烈な、目に会つて来ましたワイ』
真純『三千彦の消息は分つたか』
テク『余り怖くつて、目が眩み、みち彦も川彦も何も分りませぬ。これだけ暗いと、人に行当つても、知れないのですから、どしてみち彦が分りませうかい。あゝあ ホンニホンニうすい目に会うたものだ』
真純『困つた奴だなア。何のための使だ。チツと確りせぬかい』
玉国『オイ、テク、少し気を落付けて悠りと話してくれ。お前の言葉ではチツとも要領が分らぬからのう』
 テクはしばらく休息した上、館の表より進み入つて、裏庭を見れば角力が始まりかけてゐた事や、自分が角力を取つて勝つた事、初稚姫と思つた女は大きな白狐であつた事などを細々と復命した。そして三千彦外二人の行衛は分らなかつたが、大方陥穽へ落ちてゐるだらう……と心配相に答へた。玉国別はしばらく首を傾け思案に暮れてゐた。
真純『モシ先生、どう致しませうか、三千彦以下二人を、このまま放任する訳にも行かず、ぢやと云つて、この暗いのにうつかり行かうものなら、またもや陥穽へ突込まれちや大変ですからなア』
アンチー『モシ、先生様、そんな御心配は要りませぬ。私が御恩報じに瀬ぶみを致しますから、どうぞ後から足跡を踏んで来て下さい。もし私が落ち込むだら、そこを通らないやうにして下されば、それで安心でせう。サア参りませう。グヅグヅして居つては三千彦様御夫婦を始め伊太彦さまがどうなるか知れませぬ。あの館には沢山の兵士が居るといふ事ですからなア』
玉国『ともかく充分注意をして進む事にせう。オイ、テク、お前はモウ、バーチルさまの館へ帰り、番頭さまの役を忠実に勤めたがよからう。狼狽者を伴れて行くと、却て作戦計画の齟齬を来すからなア』
テク『滅相もない、どこまでもお伴を致します、大抵の所は勝手を知つてゐます。滅多に落ち込むやうなこた致しませぬ。何程暗くても、空さへ見れば梢の調子で、此処は何処だ位の事は分つてゐますからなア』
アンチー『しからば私が先頭を仕りませう。あの屋敷は私も、三年以前にチヨコ チヨコいつた事があります。……オイ、テクさま、お前は一番後から先生を守つてついて来い、……

 暗の帳は下されて  一寸先は見えず共
 心の空の日月は  鏡の如く輝けり
 玉国別の神司や  真純の彦に従ひて
 吾等二人は勇ましく  バラモン教の悪神の
 醜の館を指して行く  何ほど暗いと云つたとて
 元より盲でないものは  暗になれたら明くなる
 ただ恐るるは足許の  百足や蝮の類のみ
 それの危難を遁れるは  三五教の神様の
 教へ玉ひし数歌を  一二三四五つ六つ
 七八九つ十百千  万と称へ進むなら
 如何なる曲も恐るべき  却て先方が戦きて
 雲を霞と逃げるだらう  三千彦さまのお身の上
 デビスの姫や伊太彦の  悩みを案じ煩ひつ
 心の駒のはやるまに  神の光を身に浴びて
 敵の館へ進み行く  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  玉国別を始めとし
 吾等一行恙なく  三千彦様の一行を
 救はせ玉へと願ぎまつる  俄番頭のテクさまが
 真昼の内に偵察と  お出かけなされて泡をふき
 大化物や昼狐  得体の知れぬ怪物に
 肝を奪られて帰り来る  その光景の可笑しさよ
 このアンチーはどこまでも  狐や狸にや恐れない
 無人の島に三歳ぶり  大蛇や鷹と相棲居
 一旦鬼の境遇に  成さがりたる経験上
 何ほど悪魔が攻め来共  決して恐るるものでない
 玉国別の師の君よ  真純の彦の神司
 心平に安らかに  アンチーの後を目当とし
 進ませ玉へ惟神  神の守りで安全な
 場所へ案内致します』  

 かく小声で歌ひながら、チルテル館の裏門から足元に気を付けながら、アンチー、テクは後先に立つて進み入る。

(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 松村真澄録)



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