出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-2-91923/04真善美愛戌 暗内王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
玉国別、三千彦らを救いにチルテルの館に向かう
名称


 
本文    文字数=14781

第九章 暗内〔一五〇九〕

 玉国別、真純彦は長途の海路に草臥れきつた上、振舞酒にグツタリ酔ふてその夜は潰れたやうに熟睡してしまつた。先づ手洗を使ひ口をすすぎ、東天を拝し、次いで神殿に進み祝詞を奏上し、しばらく休息して居る。そこへバーチルは顔色を変へて出で来り、
バーチル『もし先生様、大変な事が出来致しました。誠に申訳のない事でございます』
玉国『大変とは何事でございますか』
バーチル『はい、私もグツタリと草臥れて、よく寝込んでしまひましたので、夜中の出来事は少しも存じませぬが、三千彦様、伊太彦様、デビス姫様のお三方が、何程そこらを探しても行衛が分りませぬ。里人の話によりますと裏門口を開いてバラモンの軍人が三人様をフン縛り帰つたとの事、実に申訳のない事を致しました』
玉国『何、三人がバラモン軍に誘はれたと、やア、それは大変だ。真純彦、こりやかうしては居られまい。これから両人がバラモンの関所に押掛けて行つて様子を探つて見ようぢやないか』
真純『如何にも大変な事が出来致しました。さア参りませう』
バーチル『もし先生様、一寸お待ち下さいませ。バラモンの関所には一中隊の勇猛なる兵士が抱へてございますから、お二人様では険難でございませう。幸ひかうして村中の者が昼夜の別なく、祝に来て居りますからこの中から強い者を選むで数十人お連れになつてはどうでせう。私も命を助けて貰つた御恩返しに今度は命を捨てます。どうぞさうなすつて下さいませぬか』
玉国『いや、決して御心配下さいますな。また宣伝使が貴方等の助力によつて多数を恃むで押掛けたと云はれては済みませぬ。また一方は武器を持つたもの、里人に怪我でもあつては済みませぬから吾々両人が直接に出掛けませう』
バーチル『さうおつしやれば是非がございませぬ。代りに私がお伴を致しませう』
玉国『いや、それには及びませぬ。しかしながら僅かに二人、敵の中へ参るのでございますからこれがお顔の見納めになるかも知れませぬ。どうぞ貴方は神様の御心をよくお覚りなさつて、この里人を導き可愛がつておやりなさいませ』
 かかる所へサーベル姫は襖をソツと押開き涙と共に転げるやうにして入り来り、
サーベル『玉国別様、真純彦様、大変な事が出来致しました。どうぞ神様の御神徳によつて御三方を救ひ出し、無事にお帰り下さいませ。妾は神様を念じ無事の成功を祈ります』

玉国別『有難し君が情の厚衣
  身に纒ひつつ進み行くべし。

 真心を深く包みし衣手に
  薙ぎて屠らむ醜の輩を』

真純彦『曲神に苦しめられし吾友を
  助けに行かむ神のまにまに。

 大神の御前に額き願ぎ申す
  この首途を真幸くあれよと』

バーチル『真心を籠めて打出す言霊に
  刃向ふ仇の如何であるべき。

 さりながら心配りて出でませよ
  企みも深き陥穽あれば』

サーベル姫『玉国別神の命よ真純彦よ
  仇の館に気を配りませ』

玉国別『有難し神に捧げし吾命
  よし捨つるとも如何で恐れむ』

真純彦『皇神の縁の糸に結ばれし
  身ながら今は解けむとぞする』

バーチル『吾僕アンチー連れて出でませよ
  彼は力の強き益良夫』

玉国別『吾道は人を頼らず杖につかず
  ただ真心に進むのみなり。

 折角の思召をば無みするは
  心済まねど許し玉はれ。

 三千彦は嘸今頃は仇人と
  厳の言霊打ち合ひ居るらむ』

真純彦『言霊の戦ひなれば恐れまじ
  兇器を持ちし敵の陣中も。

 曲神の憑りきつたる仇人を
  言向和す日とはなりぬる』

アンチー『神司吾れを召し連れ出でまして
  真心の限りを尽させ玉へ。

 よしやよし命を敵に渡すとも
  いかで悔いなむ捨てしこの身は』

玉国別『玉の緒の命に代へて嬉しきは
  汝が心の誠なりけり』

 かく互に歌を取交し、玉国別、真純彦は今や宣伝使の服を脱ぎ、バーチルの与へたる衣服と着替へながら立出でむとする所へ、泥酔者のテクはツカツカと現はれ来り、
テク『ヘー、御免なさいませ。私は今日まではバラモン教の目付役の下を働くスパイでございました。一方には海賊の張本人ヤッコスと兄弟分となり、種々雑多と、よくない事ばかりやつて居ましたが、玉国別様に何とも知れぬ般若湯を頂き、それから心に潜む鬼が私の身内から逐転しまして、今は全く人間心に立帰りました。就きましてはチルテルの邸には沢山の陥穽がございますればこのテクが御案内を致しませう。うつかり行かうものならえらい目に会ひます。その秘密を知つてるのは外にはございませぬ。関所を守つてる軍人の外は誰も知りませぬからお危うございます』
玉国『おう、お前はテクさまだつたな。や、有難う、それほど沢山に陥穽が拵へてあるかな』
テク『ヘーヘー、彼方にも此方にも陥穽ばかりでございます。あんな所へ落ちたが最後、上る事は出来ませぬ。さうして此頃は何とも知れぬ美しい女の方が離家にただ一人居られます。さうしてそのお名は初稚姫様だとか云ふ事でございます。関守のキャプテンがその女に現を抜かし、それがために夫婦喧嘩がおつ初まり、いや、もう内部の醜態と云つたら話になりませぬ』
玉国『なに、初稚姫様がござると云ふのか。どんな年格好なお方だ』
テク『はい、明瞭は分りませぬが一寸見た所では十七八才かと思ひます。しかし何処ともなく十五六才の幼い所もございますし、体中宝石を以て飾つて居られます。それはそれは綺麗なお方ですよ』
玉国『はてな、初稚姫様は、そんな宝石等を身に飾るやうなお方ぢやないと聞いて居る。大方同名異人だらう。なア真純彦』
真純『そら、さうでございませう。世間に同じ名は何程もございますからな』
玉国『あ、そんなら屋敷の案内をお願ひしようかな』
テク『いや早速の御承知、有難うございます。大抵の所は皆私が知つて居りますから、私の後に跟いて来て下さいますればメツタに不調法はさせませぬ。そして彼の女に一度お会ひになれば真偽が分るでせう。大方貴方のお弟子は陥穽に落ち込みなさつたかも知れませぬ。うつかりして居ると命が怪しうございます。沢山な兵士が寄つて上から石を投げ込むのですから、堪つたものぢやありませぬわ』
バーチル『テクさま、お前さまはアキスから聞けば宅の番頭になつたと云つて居られたさうだが本当に番頭になつてくれますか。アンチーもしばらく休まして下さいと云つてるから、お前さまが番頭頭になつて下さらば大変都合がよろしいがな』
テク『承知致しやした。貴方からお言葉のかからぬ中から已に番頭と一人で定て居りますから何の異議がございませう。もとは悪人でござりましたが神様の光に照らされて最早悪が恐しくなり、その罪亡しに一つでも善事を行ひたいと決心をして居りますからどうぞよろしくお願ひ申します。サア玉国別様、真純彦様、参りませう』
アンチー『是非とも私をお伴に願ひます』
玉国『それほど仰せらるるなれば御同行を願ひませう』
とバーチル夫婦に暇を告げ、裏口より一行四人キヨの関守チルテルが館を指して進み行く。テクは先頭に立ちヤッコス踊をしながら心イソイソ歌ひ初めた。

テク『バラモン教のキャプテンが  部下に使はれ犬となり
 彼方此方と湖辺をば  尋ねまはりて三五の
 神の司や信徒を  一人も残さずフン縛り
 キヨの関所へ連れ行きて  褒美の金を沢山と
 頂き好きなお酒をば  飲んで浮世を面白く
 暮さむものと心をば  鬼や大蛇と変化させ
 悪の道のみ辿りたる  悪党無頼のこのテクも
 玉国別の神様の  厚き心に感服し
 迷ひの夢も覚め果てて  バーチルさまの家の子と
 仕ふる身とはなりにけり  バラモン教の関守が
 如何ほど神力あるとても  如何で及ばむ三五の
 誠一つの言霊に  敵する事は出来よまい
 屋敷の中に沢山の  陥穽をば穿ちつつ
 三五教やウラル教  道の教のピュリタンを
 否応云はさずフン縛り  皆悉く陥穽に
 落して喜ぶ悪神の  醜の器となり果てし
 チルテル司は魔か鬼か  思ひ廻せば恐しや
 かかる悪魔を逸早く  亡ぼし尽し世の人の
 災難を早く救はねば  イヅミの国の人々は
 枕も高く眠れない  吾も元より悪人の
 種ではなけれど止むを得ず  バラモン教の勢力に
 刃向ひその身の不幸をば  招かむ事を恐れてゆ
 心にもなき間諜となり  吾良心に責られて
 苦しき月日を送りつつ  せつなき思ひを消さむとて
 朝から晩まで酒を飲み  浮世の中を夢現
 三分五厘に暮さむと  金さへあれば自棄酒を
 呻つて過す浅間しさ  あゝ惟神々々
 神の恵みの幸ひて  愈今日は三五の
 貴の司の先走り  今まで犯せし罪科を
 償ひまつる今や時  皇大神よ大神よ
 テクの心を憐れみて  今度の御用を恙なく
 遂げさせ玉へ惟神  仮令天地は変るとも
 一旦神の御前に  罪を悔いたるこのテクは
 汚き心を露持たじ  敵は如何なる謀計を
 廻らし吾等を攻むるとも  何か恐れむ神心
 振ひ起して何処までも  神の御為世のために
 悪魔の棲ひしチルテルの  醜の司を懲しめて
 世人のために災を  除かせ玉へ惟神
 御伴に仕へしこのテクが  真心捧げて願ぎ奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』

 アンチーはまた歌ふ。

アンチー『三年振りに吾主人  バーチルさまに廻り会ひ
 喜び勇む間もあらず  命の親の神司
 危き敵の館へと  出でます君を案じつつ
 主人の君の許し受け  お伴に仕へ進む身は
 如何なる曲の企みをも  如何で恐れむ敷島の
 大和男子の魂を  現はしまつりて高恩の
 万分一に報ふべし  キヨの港は遠けれど
 勝手覚えし抜け道を  進むで行けば一時の
 間には容易く達すべし  さはさりながら真昼中
 敵の館へ進み行く  これが第一険難だ
 日暮れを待つてボツボツと  隅から隅まで探索し
 三千彦さまの所在をば  探し求めたその上で
 あらむ限りのベストをば  尽すもあまり遅からじ
 玉国別の宣伝使  真純の彦の神司
 新番頭のテクさまよ  貴方の御意見詳細さに
 お知らせなさつて下されや  敵にも深い企みあり
 軽々しくも進みなば  臍を噛むとも及ぶなき
 大失敗を招くべし  省み玉へ神司
 このアンチーは意外にも  卑怯な男と皆さまは
 思召すかは知らねども  注意の上に注意して
 行かねばならぬ敵の中  あゝ惟神々々
 何れにしても大神の  力に頼り進むべし
 玉国別の御前に  更め伺ひ奉る』

と歌ひ終り、玉国別の意見を求めた。玉国別はアンチーの言葉に一理ありとなし、途上に佇みてしばし思案を廻らして居る。テクは無雑作に口を開いて、
テク『もし、皆様、私は幸い種々の関係上チルテルに接近せなくてはなりませぬ。それについては色々とチルテルの腹を探り、また敵の様子や三千彦様以下の所在を探索するに余程便宜を持つて居りますから、貴方はしばらくこの密林に日の暮るるまで御休息を願ひ、私が一応取調べた上、日が暮れてからお出掛けになつた方がよからうと在じますが貴方等のお考は如何でございませうか』
玉国『成程、却つて夜分の方がよいかも知れない。御神諭にも「今までは日の暮が悪いと申したがこれからは日の暮に初めた事は何事もよい」とお示しになつて居る。そんならテクさま、御苦労ながらチルテルの館に罷越し、能ふ限りの偵察をして下さい。それまでこの森蔭に祈願をして待つて居りませう』
テク『いや、早速の御同意、有難うございます。それならこのテクがうまく様子を探つて参ります。どうぞこの森の奥で悠りと休息をして待つて居て下さい。左様なら』
と云ひながら尻引紮げトントントンと夏草茂る細い野道を駆け出した。三人は森の木蔭に腰を下し、時の至るを待つて居る。

(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



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