出口王仁三郎 文献検索

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物語59-2-81923/04真善美愛戌 暗傷王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
デビス姫救われる。チルナ姫、牢屋にカンナと一緒に入れられる
名称


 
本文    文字数=13778

第八章 暗傷〔一五〇八〕

 夫婦の中に咲き匂ふ  花は何時までチルナ姫
 家庭平和の実を結び  千代も八千代も偕老の
 その楽しみを共になし  この世を安く渡らむと
 神に願を掛巻も  心許さぬチルナ姫
 思はぬ風の吹廻し  二世を契つた吾夫の
 チルテル司は醜神に  清き霊も曇らされ
 恋の膚となりはてて  彼方此方の女をば
 弄びしと聞くよりも  チルナの姫は驚きて
 忽ち悋気の角はやし  所在手道具打くだき
 障子や襖をかき破り  半狂乱の為体
 チルテル、カンナの企みたる  焚付薬が利きすぎて
 思ひもよらぬ失態を  演出したりと驚きて
 初稚姫の居間を去り  矢庭に此処へ飛込みて
 チルナの姫の髻をば  左手にグツとわし掴み
 蠑螺のやうな拳をば  固めて振上げクワン クワンと
 三つ四つ打てばチルナ姫  怒り狂ひてしがみ付き
 チルテル司の股くらに  ブラブラさがる茶袋を
 一生懸命に握りしめ  力をこめて引たくる
 何条以て堪るべき  アツと一声悶絶し
 泡をふきつつ大の字に  倒れて身体をビリビリと
 慄はせ居たる可笑しさよ  流石のチルナも驚いて
 水よ薬と気を焦ち  カンナの司を叱り付け
 泣声絞り狼狽へる  デビスの姫の後逐うて
 伺ひ来りし三千彦や  伊太彦二人はこの態を
 遥に眺めて飛来り  矢庭に座敷へ這ひ上り
 双手を組んで一二三四  五六つ七八九十
 百千万と数歌を  歌ひ上ぐればウンウンと
 苦しき声を張上げて  面を顰めて起き上り
 四辺をキヨロキヨロ見廻して  アフンとばかり呆れゐる
 チルナの姫は両人を  見るより早く怒り立ち
 夫婦喧嘩の最中へ  断りもなく飛込むで
 構立する奴は誰  了見ならぬ一時も
 早くこの場を立去れと  悋気の怒りの矛先を
 夫の危急を救ひたる  二人の司にふり向ける
 心紊れしチルナ姫  見る人ごとに吾敵と
 心をひがむぞ是非なけれ  チルテル、カンナは三千彦の
 姿見るより手を合せ  危急の場合よくもマア
 御助けなさつて下さつた  先づ先づ奥で御休息
 遊ばしませと言ひながら  心汚きチルテルは
 カンナに向かつて目配せし  この両人を逸早く
 捉へて庫につき込めと  眼で知らす厭らしさ
 三千彦伊太彦両人は  二人の心を察すれど
 デビスの姫の所在をば  探らむものと思ふより
 素知らぬ面を装ひつ  カンナの後に従ひて
 暗の庭先トボトボと  隙を窺ひ跟いて行く
 三千彦つつと立止まり  カンナの腕をグツと取り
 汝はこの家の使人  バラモン教のリューチナント
 カンナと申す奴であらう  デビスの姫を隠したは
 この家の主チルテルの  全く指図によるものと
 早くも吾は悟りしぞ  いと速に所在をば
 完全に委曲に告げまつれ  違背に及ばば玉の緒の
 汝が命を奪ふべし  返答如何にとせめかくる
 流石のカンナも困りはて  身をブルブルと慄はせて
 ハイハイ白状致します  命ばかりはお助けと
 両手を合せて涙ぐみ  二人を伴ひ第一の
 倉庫の表を押開けて  中に立入りデビス姫
 厳しき縄を解きながら  二人に向ひ丁寧に
 モウシ モウシ宣伝使  此処に居られる御婦人は
 貴方のお尋ね遊ばした  デビス姫でござりませう
 私は宅に不在番を  致して居つたそのために
 その経緯は知りませぬ  先づ先づお査べなさりませ
 云へば三千彦伊太彦は  四辺に心を配りつつ
 伊太彦外に待たせおき  三千彦一人倉の中
 明りを灯して入見れば  口にははます猿轡
 手足を縛り土の上に  いとも無残に寝させける
 三千彦見るより腹を立て  姫の縛解きながら
 直にカンナを縛り上げ  その場に倒しデビス姫を
 労はりながら倉の外へ  漸く救ひ出しけり
 茲に三千彦倉の戸を  ピシヤリと閉めて錠おろし
 姫を労り慰めつ  闇に紛れてスタスタと
 この場を後に出でて行く。  

 ヘールは夜の巡視を了へて館へ帰つて見ると、チルナ姫は髪ふり乱し、血相変へて坐つてゐる。チルテルは真青な面して睾丸を押へ、ウンウンと唸つてゐる。ヘールはつかつかと傍に近付き、
ヘール『ヤア、貴方はキャプテンの旦那様、奥様、啻ならぬこの御様子、何者が襲来致しましたか』
チルナ『お前はヘール、よう来て下さつた。チルテルさまは本当に毒性な人だよ。私を放り出して、裏の離室に居る女性や、その他沢山の女を引入れ、勝手気儘の生活を送らうとなさるのだから、こんなことがハルナの都へ聞えやうものなら、それこそ御身の終り、妾は最早覚悟を定ました。この家を追出される代りに、ハルナの都へ帰つて一伍一什を申上げ、主人の目を覚さねばおきませぬ。ヘール殿、後を確り頼みますよ。妾はこれからお暇を致します』
ヘール『モシモシ一寸お待ち下さい。余り仲が良すぎるので、そんな喧嘩が始まるのです。旦那様は何時も貴女を偉い女房だ、美しい者だ、優しい者だと褒めて居られますよ』
チルナ『エーお前は旦那様と肚を合し、妾を追出す所存であらうがな。何もかもカンナから聞いてあるのだよ。そんな一時逃れの追従を食ふやうなチルナぢやございませぬ。左様なら、旦那様、スベタ女とお楽しみなさい』
と血相かへて飛出さうとする。飛出て欲しかつたチルテルも、こんなことをハルナの都に報告されては大変だ、一層のこと永久に庫の中へ放り込んでおくに限ると決心し、痛さを堪へて、
チルテル『ヤア、ヘール、女房は発狂致し、この俺の睾丸を握つて殺さうと致した謀殺未遂犯人だ。サア早くふん縛つて、第一号の倉庫へ放り込むでくれ。これはチルテルの命令ぢやない、キャプテンの申付だぞ』
ヘール『ハア』
とゐずまゐを直し、矢庭にチルナ姫の後にまはり、
ヘール『謀殺未遂の大罪人、バラモン軍の関守兼キャプテンの命によつて捕縛する。神妙に縄にかかれ』
と云ひ放ち、チルナ姫の細腕をグツと後へ廻し、捕縄を以て縛り上げ、
ヘール『きりきり歩め』
と云ひながら第一倉庫を指して引摺り行く。
ヘール『ハハア、此処はデビス姫とか云ふ奴が、放り込んである倉庫だ。女同志二人放り込みておけば、随分悋気の花が咲くことだらう。イヤ面白い喧嘩が始まるだらう』
と呟きながら、ガラガラと戸を開け無理に押込み、ピシヤリと戸を締め錠をおろしておく。この錠は小さい穴に一寸した石を放り込めば、それで中から何ほど焦つても開かない。外からは自由自在に開くやうになつてゐる。つまり倉庫とは云ふものの、監禁室である。
 チルナ姫はヘールに押込まれた途端にヒヨロ ヒヨロとして、カンナがふん縛られて倒れてゐる上にパツタリとこけ込むだ。真暗がりである。何人か見当がつかぬ。しかしながら今ヘールが独言にデビス姫だとか云ひよつた。大方その女であらう、此奴もヤツパリ仇の片割れだ、斯様な女をチルテルの爺が隠まひおき、チヨコ チヨコ密会をして居るのだらう、エー残念だ、何とかして懲してやりたいが、かう手を縛られてはどうすることも出来ない……と小声で呟きながら、カンナの太腿にガブリとかぶり付いた。カンナは吃驚して、
『アイタヽ、痛い痛い』
チルナ『エー、極道女奴、チツとは痛いぞ、モツとかぶつてやらうか』
とまたかぶりつく。
カンナ『モシモシ私は女ぢやございませぬ。カンナといふ男でございます。どうぞ怺へて下さいませ。かう手足を縛られては動くことも出来ませぬ』
チルナ『エー、図々しい、男の声色を使つたつて、そんなことに誤魔化されるチルナ姫ぢやございませぬぞえ。大化者奴、ようマア旦那様に悪知恵をつけ、妾をこんな目に会はしよつたナ。妾は死物狂、汝の肉を皆咬み切つてやらねば了見ならぬ、覚悟しや』
カンナ『モシモシ貴女は奥様ぢやございませぬか。私はカンナでございますよ』
チルナ『エー、そんな嘘を言つても承知を致さぬぞや。カンナはこんな所に居る筈がない。お前はデビスに間違ひなからうがな』
カンナ『滅相な、私の声をお聞になつても分るぢやありませぬか』
チルナ『エー、何をツベコベと云ふのだい。耳がワンワンして、声が聞分られるやうな場合かい、何と云つても、お前はデビスに違ひない。思ひ知つたがよからうぞや』
とまたかぶる。カンナは、
カンナ『痛い! 痛い痛い痛い』
と悲鳴をあげる。その勢に手をくくつた綱はプツリと切れた。カンナは直様かぶりついてゐる女の髻を片手に持ち、片手に拳骨を固めて、力の限り殴りつけた。キヤツと一声、後は何も聞えなくなり、かぶりついても来ぬ。カンナは直に足の縛を解き、暗がりを探つて、チルナの縛を解き背中を三つ四つ殴りつけた。「ウーン」と息吹返した。されど真暗がりで互の顔は鼻を摘まんでも分らない。チルナは死武者になつて、這ひまはり、カンナが面を顰めて傷所を撫でてゐるその手がフツと触つたので、
チルナ『エーこのスベタ女奴』
と言ひながら、グツと太腿を掻きむしつてやらうと、手を差伸べた途端に、種茄子のやうな形した物が手に触つた。
チルナ『あゝヤツパリお前は男であつたか、何者ぢや』
カンナ『私はカンナでございます。奥様に暗がりで、三四ケ所も太腿の肉を咬とられ、どうも痛くて辛抱が出来ませぬ。酷いことをなされますなア』
チルナ『そりやお前、時の災難と諦めるより仕方がないぢやないか。妾の横面を大変、お前も殴りつけたのだから、互に恨は帳消しとして、一時も早く此処を逃出す工夫をしようぢやないか』
カンナ『逃出さうと云つても、かう足に重傷を負うては動きが取れませぬ。そしてこの錠前は中からはどうしても開けられないのです。壁には太い鉄線が碁盤の目の如く張つてありますから、到底駄目でせう』
チルナ『ここにデビス姫とかが縛つて投げ込むであるといふことだから、一つ探つてみて仇を討つから、お前さまそれなつと見て、気を慰めなされ。あゝ腹立たしい、どこにすつ込んでゐるのだな。オイ、デビス、声を立てぬか。何程黙つて居つても昼になればチツと明くなるから、所在を見付け、成敗を致すぞや。今素直に此処に居りますと申せば腕の一本位で堪へてやる』
カンナ『モシ、奥さま、そのデビスは私と入替に旦那様のお使が出て来て連れ出してしまひました。大方今頃はその女を看護婦代用にしてゐられるでせうよ。アイタヽヽ、あゝ痛い痛い、本当にエライことかぶられて、太腿が三所も四所も赤い口をあけて欠伸をしてゐるやうだ。本当に酷い目に会はしましたなア』
チルナ『ホツホヽヽヽ、常平生から旦那さまを咬かし、初稚などと云ふ女を連れて来たのも、元を糺せばお前ぢやないか。つまり云へば自業自得だよ。マア天罰が当つたと思うて辛抱しなさい。お前は太腿の三片や四片取られたとてそれほど苦しいのか。妾は大事の大事の夫の身体を全体取られたでないか、あゝ残念やなア、ウンウンウンウン』
 倉の隅から猫のやうな劫経た大きい鼠が、
『クウクウクウクウ、チウチウチウチウ、ガタガタガタガタ、ゴトゴトゴトゴトゴト』
と厭らしい音を立ててゐる。

(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 松村真澄録)



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