出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-2-61923/04真善美愛戌 雲隠王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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場面:

あらすじ
デビス姫、チルテルの部下にさらわれる。
名称


 
本文    文字数=8003

第六章 雲隠〔一五〇六〕

 アキスは、大柄杓を振り翳しながら群衆の中を前後左右に駆け廻り、数多の来客を十二分に喜ばせむと所在力を尽し、歌を歌つて酒の座の興を添へたり。

アキス『アヅモス山の森林に  鷲が巣を組む鷹が棲む
 それ故スマの里人は  雀や百舌鳥の顔見ない
 声さへ聞いた事はない  猩々さまもいつしかに
 一つも残らず逃げ去つて  鷲と鷹との世の中だ
 さはさりながら今日こそは  百舌鳥も雀もみそさぎも
 千鳥万鳥やつて来て  チイチイ パーパー、パタパタと
 お酒に酔ふて舞ひ狂ふ  こんな目出度い事あろか
 皆さま遠慮は要らないで  堤を切らして呑みなさい
 あれあの通りバラモンの  キヨの関所のキャプテンが
 お出なさつて吾々と  一緒に酒の座について
 面白さうに歌ひつつ  勇むでござる気の軽さ
 スマの里にて随一の  富豪の首陀と聞えたる
 バーチルさまのお館に  官民一致の瑞象を
 現はしたるは昔から  例も知らぬ出来事だ
 三五教の宣伝使  玉国別の神司
 真純の彦や伊太彦や  三千彦司デビス姫
 音に名高き人びとが  これの館に出でまして
 三五教やバラモンの  隔てを全く取除き
 和気靄々と酒宴の  席に連なり給ひしは
 四海同胞の真相を  現はし給ひし神の旨
 皆様喜びなされませ  イヅミの国のスマの里
 アヅモス山の猩々は  今は姿も見えねども
 御魂は吾等の魂に  いつの間にかは憑りまし
 老若男女の嫌ひなく  一人も残らず酒に酔ひ
 下戸の病は何処へやら  上戸ばかりに成り果てて
 泣くやら笑ふやら怒るやら  千姿万態八衢の
 その有様を委曲に  現はしたるぞ面白き
 飲めよ騒げよ踊れよ狂へ  舞へよ唄へよいつまでも
 二十戸前の酒の倉  一つも残らず呑み乾して
 猩々の神へ御奉納  猩々彦や猩々姫
 親方さまに持つた私  お酒を呑まねば努まらぬ
 あゝ面白い面白い  これも全くバラモンの
 尊き神の御恵  祝へよ祝へよ勇めよ勇めよ
 バーチルさまの万歳を  皆さまお声を揃へつつ
 称へて下さい頼みます  万歳、万歳、万々歳
 鶴は千歳の春を舞ひ  亀万歳の夏謳ふ
 春と夏とは万物の  茂り栄ゆるシーズンだ
 あゝ惟神々々  燗酒なりと冷なりと
 思ひ思ひにドツサリと  飲んで巻け巻け皆の人
 猩々の姫の御心を  慰めまする方法は
 お酒を呑むより外は無い  あゝ惟神々々
 神のお神酒を頂きて  皆さまこれから確りと
 心を協せ力をば  一つになしてバーチルの
 里庄の君を親となし  スマの里をば平けく
 いと安らけく賑しく  富みて栄えていつまでも
 天国浄土を築き上げ  神の恵を蒙りて
 人の人たる本分を  尽さにやならぬスマの里
 祝ふ時にはよく祝ひ  遊ぶ時にはよく遊び
 呑んで食ふて働いて  面白可笑しくこの世をば
 上下揃ふて暮しませう  これが第一神様に
 対し奉りて孝行だ  サアサア飲んだサア飲んだ
 踊れよ踊れよ舞へよ舞へ  何程踊り舞ふたとて
 金輪奈落の地底より  築き上げたるこの床は
 滅多に落ちる事はない  土で固めたこの庭は
 金剛不壊の如意宝珠  案じも入らぬ法の船
 あゝ惟神々々  私はこれで休みます
 皆さま代つて歌つておくれ  飲み食ふばかりが芸でない
 こんな所で隠し芸を  天晴出して皆さまに
 アフンとさして腮を解き  お臍の宿換さすがよい
 天下御免のこの酒宴  行儀も糞も要るものか
 皆各自に無礼講  これが誠の天国だ』

 チルテルは何時の間にか十数人の部下を引き率れ奥の間に闖入し、酒を呑み草臥れて睡つて居るデビス姫を、引つ担たげ、猿轡をはめ館の裏門よりソツと抜け出で、吾館へ帰り倉の中へソツと入れて置いた。三千彦はフト目を醒まし傍を見ればデビス姫の姿が見えなくなつて居る。しかしながら三千彦はデビスが便所へでも行つたのかと、余り気にも留ず、また眠つてしまつた。伊太彦は群衆の広庭で夜露を浴びて泣いたり笑つたり小競合をして居る有様を眺めて興がりながら、ブラリブラリと裏門の方へ廻つて行く。
 十数人の男が、夜目に確り分らねど、女らしきものを担いでソツと逃げ出すのを眺めながら、しばらく腕を組んで考へ込んだ。『あれはもしや、デビス姫では無からうかな、何とはなしによく似て居るやうだ。しかしながら迂つかりした事を云ふてドンをつかれちや大変だ。ともかくもデビス姫の寝室を調べて見む』と一人諾きながら幾つかの間を潜つていつて見ると行燈のほの暗きもとに三千彦がただ一人睡つて居る。伊太彦は矢庭に座敷に駆け入り、三千彦を揺り起しながら、
伊太『オイオイ三千彦さま、デビス姫さまはどうしたのだ』
三千『アー吃驚した。よく睡入つて居る所を揺り起されて魂の入り損いをする所だつた。大変な夢を見て居たのだよ』
伊太『オイ夢どころかい。デビス姫さまはどうなつたかと思ふか、確りせぬかい』
三千『実は今デビスが、バラモンの連中に何処かへ連れて行かれた夢を見て居たのだ。ハテ不思議な事があるものだ。姫は何処へ行つたのだらうなア』
伊太『お前の夢はテツキリ正夢だ。俺は睡れぬままに大勢の酒酔ひを見物しながら裏門へ廻つて見ると、十五六人の荒男が一人の女を担いで逃げて行きよつたが、夜のことで明瞭り分らぬので、もしデビス姫さまぢやないかと此処へ調べに来た所だ。やや、これはかうしては居られない。何とか工夫をせなくてはならない』
三千『オイ伊太彦、余り騒がないやうにしてくれよ。却て敵に姫を殺されるやうな事があつては詮らないから、とに角分る所まで黙つて居るに限るからなア。しかしながらお前はあの姫を攫つて行つた奴は誰かと思ふ』
伊太『俺の考へではバラモン軍のチルテルが部下だと思ふよ。今迄一生懸命に酒を飲つて居たが、俄に影が見えなくなつたので裏門へ廻つた所、女を担いで逃げよつたのだからテツキリあれに定つて居る。俺が応援してやるから今からチルテルの館へ忍び込んで様子を考へ、取り返して来ようぢやないか』
三千『ヤアそいつは有難い。御苦労だがお世話にならうかなア。しかし玉国別さまには今少時内証だよ』
伊太『ウン承知だ。サア裏門からソツと偵察に行かう』
と寝衣のまま二人は裏門より飛び出し、関守の館をさして進み行く。

(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)



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