出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語59-2-121923/04真善美愛戌 狐穴王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
チルテル、ヘール、テク、初稚姫をめぐって相撲をとり、テク勝つ。二人は穴に落ち込む。その後、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人も穴に落ち込む。実は、初稚姫は旭の白狐であった。
名称


 
本文    文字数=13811

第一二章 狐穴〔一五一二〕

 妻のチルナに茶袋を  力限りに締められて
 ウンとばかりに気絶した  館の主人チルテルは
 漸く痛みも回復し  再び恋の炎をば
 燃やしてヘールのユゥンケルに  命じて姫を介抱に
 迎へ来れと命じおき  仮病を使つて奥の間に
 ウンウンウンウンと呻つつ  待てど暮せどユゥンケルは
 何の音沙汰無きのみか  耳を済まして窺へば
 肝腎要のナイスをば  横領せむと種々に
 ベストを尽すと見るよりも  羅刹の如くに怒り立ち
 髪逆だててチガチガと  片手に茶袋押へつつ
 姫の住所に来て見れば  豈計らむやユゥンケルは
 初稚姫の細腕に  取挫がれてハアハアと
 苦しみ居たる可笑しさよ  チルテル思はず吹き出し
 嫉妬の念もどこへやら  
チルテル『アハヽヽヽお姫様  実に天晴な御神力
 キャプテン感じ入りました  かく勇ましき女丈夫が
 これの館に来ませしは  全く神の賜物ぞ
 女房に離れしキャプテンの  身を憐れみて二世の妻
 共に千歳を契れよと  梵天帝釈自在天
 大国彦の御示し  実に有難き次第なり
 おのれユゥンケル姫様の  前をも恐れ憚らず
 軍の司の身を以て  無体の恋慕を致すとは
 乱暴至極の痴漢だ  もうこれからはキャプテンが
 汝に暇を出すほどに  早くこの場を立ち退いて
 風吹く野辺を彷徨ひつ  その身の果ては物貰ひ
 袖乞奴となり下り  天女のやうな姫様を
 苦しめまつりし罪咎を  天地に謝罪するがよい
 サアサア早く立ち去れよ  これの館はキャプテンが
 千代の住家であるほどに  心汚れし汝等の
 身魂の住まふ場所でない  伊吹戸主大御神
 これの館を汚したる  製糞機械を一時も
 疾く速けく科戸辺の  風に払はせたまへかし
 嗚呼惟神々々  神の使の姫様に
 かはりて願ひ奉る  アハヽヽハツハ、アハヽヽヽ
 実にも浅ましい態ぢやなア  身のほど知らぬユゥンケルが
 身の成り果てはこの通り  天罰忽ち廻り来て
 赤恥さらす憐れさよ  イヒヽヽヒツヒ イヒヽヽヽ』

初稚姫『この男余り憎しと思はねど
  力ためさむためにかくしぬ。

 さりながらどことはなしに益良夫の
  息かようこそ嬉しかりけり』

チルテルはこの歌を聞いて意外の面持しながら、

チルテル『これはしたり曲津の神の容器を
  憐れみ給ふか心もとなや』

初稚姫『二世の妻縛りて暗き倉の内へ
  投げ込みたりし人ぞ憎らし。

 吾もまた女房となりて倉の中へ
  繋がれむかと怖ろしくなりぬ。

 心荒き男子に身をば任すより
  心やさしき人を求めむ』

 ヘールは初稚姫がパツと放した手の下から漸う顔を上げ、

ヘール『これはしたり初稚姫の御心
  知らず恨みし事のくやしさ。

 ユゥンケルの軍の司を棒にふり
  親しく添はむ姫の御傍に』

初稚姫『ユゥンケルよりも尊きキャプテンを
  いとなつかしく慕ひけるかな』

チルテル『初稚姫神の心を今ぞ知る
  恨み歎ちし事の悔しさ。

 ユゥンケル今のお言葉何と聞く
  とても及ばぬ恋とあきらめよ』

ヘール『口先でかく宣らすとも村肝の
  心の奥にヘール通へる。

 キャプテンが鬼の念仏如何ほどに
  巧なりとも誰か聞くべき。

 こと更に神に等しき姫君は
  汝が心の汚きを知る』

初稚姫『妾はキャプテンだのユゥンケルだのと、そんな人為的階級には少しも望を嘱して居りませぬ。ただ男らしい男を望むで居ます。女と云ふものは繊弱いものでございますから、仮令色は黒うても跛でも片目でも出歯でも鳩胸でも構ひませぬ、力の強いお方を夫に持ちたうございます』
ヘール『イヤ、それで分りました。私はこの関所の中でも仁王のヘールと云はれた位ですから、腕力にかけたら私に勝るものはありませぬ。成程姫様も先見の明がございますワイ。鬼や大蛇の猛り狂ふ世の中、矢張強いものでなくては世に立つ事が出来ませぬからなア』
チルテル『姫様、この男は口ばかり強いのですよ。一束の藁なら力持、三升の飯なら一度饌、その癖夏瘠せ寒細り、偶々肥満たら脹れ病、一里の道なら泊りがけ、雪隠行なら腰弁当と云ふ厄介者です。口は何ほど達者でも実力でなければ駄目ですよ』
初稚『そりやさうでございます。妾は実際のお力を存じませぬから、どうぞあの陥穽の傍で角力を取つて見て下さい。そして強いお方の御世話になりますから、それが一番不公平が無くていいでせう』
チルテル『イヤ至極名案だ、サ、ヘール一つ勝負だ、赤裸々となつての勝負ぢや。一文の掛け引きもない。初稚姫様に検査を願つて勝つたものが姫様の夫になるのだから、その覚悟で貴様も十分の力を出したらよからうぞ』
ヘール『アハヽヽヽ、面白し面白し、天王山の晴軍、勝敗の決、瞬間に迫れり。姫様、天晴某の力を御覧下さいませ』
初稚『面白うございませう。勝つたお方の女房にして頂きます。どうぞ何方も負ぬやうにして下されや』
 二人は真裸となり、ドンドンと四股踏ならし、陥穽の傍で今や勝負を初めむとする時、慌しく走つて来たのは、スパイのテクであつた。テクはこの態を見て合点ゆかず、直立不動の姿勢を取つて、
テク『僕はバラモン軍のリゥチナント、テクであります。キャプテン様、ユゥンケルの御両人、奉納角力を取り組まれると見えますが、行司がなくてはかなはぬ事、サア拙者が行司を致しませう』
チルテル『ヨウ、お前はテクか、好い所へ来てくれた、一つ行司を願はう』
テク『ヘエ、よろしやす、宜敷うあります。なるべくはキャプテンが負るといいのだがなア、イヒヽヽヽ』
初稚『其方は夜前妾の居間へお使に見えた、リゥチナントさまぢやありませぬか。何とまあ、四角いスタイルだこと、ホヽヽヽヽ』
テク『これはこれは姫様、久し振にお目に懸ります。先づ御壮健でお目出度うあります』
初稚『昨日御目にかかつたばかり、久し振とは可笑しいワ。そして行司は妾が致します、貴方も勝負をして下さい。勝たお方の妾は女房になる決心でございますから、先づ第一にチルテル様とヘール様との勝負のついた上、勝つた方と貴方と勝負をして頂き、もしもお勝なれば妾は貴方の女房にして貰ひます。オヽ恥づかしやのう、オホヽヽヽ』
テク『これはよい所へやつて来て、お仲間入をさして頂くとは何と云ふ仕合せの事だらう。力にかけたら滅多に後へはひかぬこのテクさまだ。きつと勝つてお目にかけませう』
チルテル『初稚さま、さう新手が殖へては困るぢやありませぬか。お約束が違ふでせう』
ヘール『何、何人なりと新手が現はれた方が面白い、負けさへせねばよいのだ。サア三人消しがかりだ』
と矢庭にチルテルに喰ひつく。チルテルは『何猪口才な』と忽ち四つに組むで揉み合ひ蹴り合ふ。二人の裸体は滝の如く汗が滲み出し、ヌルリヌルリと体辷りがして、二人はパツと左右に別れた。押す、突く、突張る、必死の活動、此処を先途と挑み戦ふその勢ひ竜虎の争ふ如く見えたるが、チルテルの力や勝りけむ、ヘールはたうとう押し倒されて、深い陥穽へ投げ込まれてしまつた。忽ちテクは真裸体となりチルテルに突つかかる。チルテルは『何猪口才な木つ端武者』と高を括つて組みついた。大地をドンドンと威喝させながら、土佐犬の噛み合ひの如く、但馬牛の突き合の如く、千変万化の秘術を尽して汗塗となり、半時ばかり、命辛々、いがみ合うた。初稚姫は『オホヽヽヽ。オホヽヽヽ』と愉快気に二人の勝負を眺めて笑つて居る。たうとうチルテルはテクに捩伏せられ陥穽の中へ無残にも投げ込まれてしまつた。この陥穽は四五間ばかりの深さで、底には深い地下室が築かれてあつた、さうして落ちても怪我をしないやうの装置がしてあつた。テクはやれ安心と張り詰めし心もグツタリと緩み、ヘトヘトになつてその場に倒れた。これより先、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音がするので走り来て見れば、二人の男が真裸体で角力を取つて居るので、チクチク傍により勝負如何にと眺めて居た。テクは漸くにして起き上り、さも嬉しさうな顔付にて、
テク『サア姫様お約束通り、リゥチナントのテクが女房になつて頂きませう。もはやキャプテンはかくの如く失脚致しました以上は、リゥチナントがこの関守を勤めるのは当然、余り憎うはございますまいな、エヘヽヽヽ』
 ワックス外三人は初稚姫の美貌に見惚れて、首を傾げ、食指を咬へて、ポカンとして居る。
初稚『テクさま、本当に貴方、力の強い方ですな。お約束通り女房にして頂きませう。しかしながらあの通りバラモン信者のワックスさま外三人が、テルモン山の神館から叩き払ひに遇ふて玉国別様一行の後をつけ狙ひ此処に見えて居りますから、貴方の勝負にお勝ちなさつたお祝に、この方々をお招き申てお神酒なとお上げなさいませ。乞食も身の祝ひと云ふ事がございますからな』
テク『ウン ヨシ、女房の云ふ事なら、何でも聞いてやる。女房に対して忠実な、親切な、慇懃な、それはそれは柔しい、同情の深い、誠に結構なテクさまだ。こんな亭主をもつた女房も世界一の幸福ものだ。お前は幸運の神に見舞はれたものだ。俺もまたその通りだ。「よい嬶持つたら一生の徳だよ、近所も喜ぶ、テクさまも喜ぶ、テクさま所か悴も喜ぶ」。オイ、バラモン信者のワックス以下外三人、恋の勝利者のテクさまがこの館の関守だ。さうしてこのナイスが内事一切を構ふのだ。貴様もよい所へ来てくれた。今日から俺の家来にしてやらう、サア此方へ来て一杯飲め』
ワックス『有難うございます……エキス、ヘルマン、エルどうだ、矢張り私の予言は違ふまいがな。キヨの港に着いたら意外の喜びが湧いて来ると云つたらうがな』
エル『そりやさうだ。尻の千も叩かれて苦労した苦労の塊の花が咲いたのだからなア』
ワックス『シー、尻の話はもうやめてくれ、馬鹿だな。こんな所まで来て恥を曝す奴があらうかい』
テク『こりや こりや四人の家来共、何を云つて居るのだ。新夫婦のお祝ひ酒でも呑まないか。この館には確り仕込むであるから幾ら呑みても大丈夫だ。十日や二十日飲み続けても少しも構はぬのだ。親方が大黒主だから太いものだぞ』
ワックス『ヤ有難い、お目出たう、それなら御言葉に甘へて頂きます』
初稚『モシ、貴方こちの人、テクさま、妾のお手々を握つて頂戴、握手しませうか』
テク『ヨシ、お出た。握手だらうがキッスだらうが些とも遠慮は入らぬ』
と猿臂を伸ばして柔かい初稚姫の手を握つた。忽ちその手から白い毛がモジャモジャと生え出した。ハツと驚いた途端に驢馬のやうな大きな白狐となつて竹箒のやうな太い尻尾をブラリブラリと振つて居る。テクは「こいつは耐らぬ」と一生懸命裏門より、命辛々逃げ出した。ワックス外三人は呆気に取られ、逃げ行く途端以前の陥穽に一蓮托生、四人ともにバサバサと落ち込むでしまつた。
 初稚姫に変化て居た怪物は、三五教を守護する、旭の白狐であつた。旭はノソリノソリと庭園の木の茂みを潜つて何処ともなく、その姿をかくした。

(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)



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