出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=58&HEN=4&SYOU=22&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語58-4-221923/03真善美愛酉 獣婚王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
実は、サーベル姫には猩々姫がかかり、バーチルには猩々彦が懸かっていた。お互いに昔から夫婦だった。
人間は全て精霊の宿泊所のようなものだ。そして、その精霊は一方は愛善の徳を受けて天国へ向かい、一方は悪と虚偽のために地獄へ向かっている。
名称


 
本文    文字数=11656

第二二章 獣婚〔一四九七〕

 玉国別を先頭にバーチルは三年振りに恋しき吾家の表門を潜つた。四辺の光景は自分の不在にも似合はず、極めて生々として居る。庭の手入れも殊更行届き、牡丹、芍薬、燕子花、日和草、その外鳳仙花、鶏頭等が、広庭の彼方此方に主人の不在を知らず顔に、艶を競ふて咲き誇つて居る。雀や燕は主人の帰りを祝するものの如く、殊更高い声をして囀り出した。バーチルは感慨無量の面持にて表玄関より玉国別に従ひ、奥の間深く進み入る。
 自分が久し振りに帰つて来たのだから女房のサーベルは道の四五丁も喜んで迎へに来て居さうなものだのに、どうしたものか、玄関口までも迎へに来ないのは、何か大病でも患つて居るのではあるまいかと案じながら、吾居間に宣伝使と共に進み見れば、サーベル姫は床の間に儼然として胡座をかき、両手をキチンと合して、莞爾しながら控へて居る。
 バーチルの姿を見るより床の間をヒラリと飛び下り、『キャッキャッ』と怪しき声を張り上げながら、
サーベル『ホホホホホこれはこれはお旦那様、えらう遅い事でございましたね。妾は一歩お先へ参りまして僕に準備をさせ、待つてゐましたのよ。貴方も妾と三年が間、あの離れ島に御苦労なさいましたね。もう此処へお帰りになれば何かにつけて便利もよく、どうぞ幾久敷く偕老同穴の契を結んで下さいますやうにお願ひ申します。宣伝使様も妾の肉体を連れて帰つてやらうかと親切におつしやつて下さいましたが、何と云つても畜生の肉体、到底立派な貴方様のお側に仕へる事は出来ぬと存じまして海中に身を投じ、性を変じて奥様の肉体に憑りました。妾は貴方の愛して下さつた猩々夫人でございます。第二夫人として使つて下さいませ』
バーチル『はて、合点のゆかぬ事だな。もし先生様、奥は発狂したのではありますまいか。怪体な事を申すぢやございませぬか』
玉国『いや決して発狂でも何でもありませぬ。精神清浄潔白にして純朴無垢な猩々姫様が、貴方を慕つて精霊となり、奥様の肉体にお宿りなさつたのですよ。これも因縁でございますから仲良うお暮し下さいませ』
バーチル『何だか化物のやうな感じが致します。嫌らしい者ですな。さうして奥の魂はどうなつたでせうか』
玉国『奥様とお二人ですよ。つまり一体二霊ですからこれも因縁と締めて仲良くお暮しなさるがよろしい。これには何か深い因縁がこの家に絡つてあるに違ひありませぬ』
バーチル『へー………』
サーベル『妾の夫はアヅモス山の天王の森を守護して居る猩々でございましたが、バーチルさまの父上バークスさまが妾の夫を罠にかけ命を奪られました。それ故精霊の行く処がありませぬので、バークス様の御息子、即ちこの夫バーチルさまの肉体に納まりましたのでございます。云はばバーチルさまの精霊は妾の夫でございます。妾は眷族を引き連れ、アヅモス山の森を逃げ出し、磯辺に繋いであつた船に眷族を乗せ、漸く猩々の島に渡つて夫の来るのを待つて居りました。それ故妾の精霊が夫の精霊と通ひしためバーチルさまは海を見るのが好きになり、漁を遊ばし到頭漁船は難破して妾の島へ漂着遊ばすやうに夫の精霊が致したのでございます。決して三年前から夫婦になつたのではございませぬ』
バーチル『はてな、さうすると私は矢張り二人暮しであつたのか。何とまア合点のいかぬものだな。いつの間にか猩々彦の生宮となつてゐたものと見える。さてもさても合点のゆかぬ事だな』
玉国『霊魂の力と云ふものは恐ろしいものでございますよ。云はば貴方の肉体はバーチルさまと猩々彦の合体、奥様の肉体はサーベル姫と猩々姫の合体ですから一夫婦で二夫婦の生活を営んでゐるやうなものです』

バーチル『思ひきや猩々彦の肉宮と
  知らず知らずに世を過ごしける。

 夜も昼も湖の上のみ憧憬れて
  漁りせしも仇事でなし』

サーベル『心なき人の矛をば避けながら
  猩々ケ島より魂通はせつ。

 猩々の果敢なき身をば持ちながら
  物云ふ人に宿る嬉しさ』

伊太彦『これはしたり思ひも寄らぬローマンスを
  目のあたり見る訝かしさかな。

 三千彦の神の司よ心せよ
  汝も猩々の身霊ならずや』

三千彦『バーチルは宝に富める人なれば
  二重生活苦しからまじ。

 さりながら宝貧しき三千彦は
  二重生活する術もなし』

デビス姫『吾とても矢張二重生活よ
  神の任さしの正守護神在す』

伊太彦『それならば俺も矢張同じ事
  本正副の三重生活』

真純彦『世の中の人は何れも同じ事
  善と悪との魂の容物』

玉国別『天地の誠の道を悟りけり
  心より来る人の生涯。

 猩々も皆天地の生神の
  尊き霊の分れなりけり。

 猩々姫主人に尽す誠心を
  見るにつけても涙こぼるる』

三千彦『人の皮着た獣の多き世に
  獣の皮を着たる人あり。

 毛衣を脱いで芽出たく猩々姫
  今更めて人の皮着る。

 つまを持つ二人の中にまた二人
  つま持つ人を獣婚(重婚)と謂ふ』

サーベル『有難し神の大路に目覚めたる
  道の司の厳の言霊』

バーチル『かうならばただ何事も神様に
  任せて世をば安く渡らむ。

 猩々姫妻の体を宿として
  吾に仕へよ千代に八千代に』

アンチー『これはまた思ひもよらぬ出来事よ
  呆れ果てたる吾心かな。

 さりながら情の道は同じ事
  殊更清き姫の御心』

アキス『奥様とただ一心に思ひつめ
  猩々の姫に仕へけるかな』

カール『肉体はよし猩々に在すとても
  心の清き姫ぞ尊き』

玉国別『霊界のその消息を詳細に
  教へ玉ひぬ厳の大神。

 鳥獣虫族草木に至るまで
  皇大神の珍の霊よ。

 立ちて行くばかりが人の所作でなし
  誠を立つる人ぞ人なれ。

 人多き人の中にも人ぞなき
  あらぬ獣が人の皮着て。

 表面こそ人と見ゆれど魂は
  獣の多き今の世の中』

サーベル『猩々姫しばらく控へ奉る
  サーベル姫に口を譲りて』

サーベル『背の君の帰りまししと聞きしより
  心勇みぬ身もたなしらに。

 背の君を庇ひ玉ひし猩々姫
  吾身を宿と定めましける。

 何となく身も健かになりにけり
  腹に力の充ち満ちしより。

 猩々の姫の命の生身霊
  吾身を強く守りますらむ』

伊太彦『何事も神のまにまに人の身は
  仕ふべき由今や悟りぬ』

サーベル姫『これは これは旦那様、お懐しうございます。ようまア無事でお帰り下さいました。貴方の行衛が分らなくなつてからと云ふものは朝夕アヅモス山の天王の森へ参拝致し、種々と御祈願を籠めましたが、どうしても御所在が分りませぬので、荒波に呑まれて魚腹に葬られた事と観念しまして、形ばかりの野辺の送りを済ませ、朝は天王の森に夫の冥福を祈り、夕はアヅモス山の山腹の墓に参詣し、悲しき光陰を今日まで送つて参りました。さうした所、二三日以前より俄に妾の体が重くなり、腹の中から種々の事を囁き出し、貴方が近い中に無事にお帰りになるとの知らせ、それ故二人の僕を浜辺に出し、お帰りを待たせて居りました。妾の肉体には猩々姫とやら云ふ精霊が宿つてるやうでございますが、最前からの猩々姫の歌を聞きまして、最早覚悟は致しました。どうぞ仲良くして添ふて下さいませ。お願ひでございます』
バーチル『ああ女房、どうやら本性になつたらしい。実の所はお前の本当の声が聞きたかつたのだ。今詠んだ歌はお前覚えて居るかな』
サーベル『はい、妾は貴方の御存じの通り歌なんか一つも出来ませぬ。猩々姫様が妾に代つて歌を詠んでやらうと腹の中でおつしやいまして、あの通り珍らしい歌を詠めたのでございます』
バーチル『うん、さうに違ひない。到底お前の考へではあんな詩才があるとは思はなかつた。ほんに不思議なものだな』
伊太彦『さうすると奥様よりも猩々姫さまの方が余程詩才に富んでゐられると見えますな。いや恐れ入つた。これでは人間も廃業したくなつて来る』
玉国別『伊太彦さま、お前だつてチヨコチヨコ妙な歌を歌ふが決してお前の知識の産物ぢやないよ。皆副守先生がお前の口を借つてござるだけだよ。人は精霊のサツクのやうな者だからな。アハハハハ』
伊太『精霊のサツク、ヘー、つまらぬものですな。さう考へて見ると別に歌を稽古したでもなし、直に当意即妙の名歌が浮んで来ると思つたら、矢張守護神さまがおつしやつたのですかな。さうすると私の御本体は何処にあるのでせうかな』
玉国『人間は凡て精霊の宿泊所のやうなものだ。そしてその精霊は一方は愛善の徳を受けて天国に向ひ、一方は悪と虚偽との愛のために地獄に向つて居る。善悪混淆の中間状態にゐるのが所謂人間だ。それだから八衢人足と神様がおつしやるのも決して誣言ではないよ。どうしても人間は愛の善と信の真によつて所在徳を積み天国天人の班に加はらなねばならないのだ。生きながら天人の列に加はつてござるのは、あの初稚姫様だ。あのやうな立派な御精神にならなくては到底人間として生れて来た功能がないのだ。それで私等も早くその域に達したいと思つて神様の御用を勤めて居るのだよ』
 かく話す所へ下女は沢山な馳走を拵へ、
下女『さア皆さま、御飯が出来ました。悠くりお食り下さいませ』
と云ひながら膳部を運び来る。

(大正一二・三・三〇 旧二・一四 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web