出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語58-3-101923/03真善美愛酉 報恩王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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場面:

あらすじ
ヤッコス改心して海賊デブ他を追い払う
名称


 
本文    文字数=8966

第一〇章 報恩〔一四八五〕

 玉国別一行の搭乗した船は仮に初稚丸と命名された。その理由は初稚姫に危急の場合この堅牢なる船を与へられたからである。月照る湖面を白帆をかかげ南へ南へと急速力にて翔つて行く。前方に当り七八艘の船が単梯陣を張つて初稚丸目蒐けて押し寄せ来る形勢が見えて居た。ヤッコスはこれを見るより早く、
ヤッコス『もし、御一同様、あの前方に並んでゐます七八艘の船はこの湖に陰顕出没して南北往来の船を掠める賊船でございます。捉まつては一大事ですから何とか工夫をせなくてはなりますまい。私はこれから舳を少しく西南に向けやうと思ひますからその覚悟で居て下さい。西南へ向ひますれば暗礁点綴して容易に賊船は追つ駆ける事は出来ませぬ。しかし私も表面バラモン軍に仕へ目付頭を致して居りますが海賊の大親分です。船路の様子を知つてるのは私ばかりです。もしも強敵に出会つた時は、何時もこの航路をとり逃げます。追駆けて来た船は必ずその辺で難船し、或は沈没するものです。左様さして頂いてもよろしいか』
玉国『船路の勝手を知つてるお前に何事も一任する。さア早くその用意をしてくれ』
ヤッコス『はい、御恩の報じ時でございます。しからばこれから私が船を操ります』
と櫓を握り八人の水夫に一生懸命に櫂を漕がせ矢を射る如く走り出した。賊船は一生懸命に舳を転じ初稚丸の後を追ふて追駆け来る。
 ヤッコスは一生懸命に水夫を励まし、櫓を漕ぐ。漸く危険区域に船が差蒐つた時、賊船の二三艘は早くも舷々相摩する処まで、近づいて来た。さうして錨を初稚丸に投げつけた。初稚丸は到頭おつつかれてしまつた。グヅグヅして居る間に八艘の船は初稚丸の周囲に船垣を作り、各自に弓を満月に絞つて威喝を試みて居る。ヤッコスは大声をあげ、
ヤッコス『オイ、貴様等は賊船ではないか。俺を誰と心得てる。賊船頭のヤッコスだぞ。俺は今大黒主の命令によつて三五教の宣伝使を捕縛し、キヨの港の関所に送る途中だ邪魔をひろぐと容赦は致さぬぞ』
 八艘の船を統率して居た海賊のデブは舷頭に立ち、
デブ『あ、親方でございましたか。えらい失礼を致しました。貴方のお乗込の御用船とは知らず、よい獲物が現はれたと、全隊を引率れて、ここまでおつ駆けて来ました。誠に済まない事を致しました。どうぞお許しを願ひます』
ヤッコス『今後は必ず心得たがよからう。その方が安閑としてこの湖上に悪性商売が出来るのも皆このヤッコスがバラモン軍の目付頭になつてる余徳ぢやないか。俺が一つ首を振らうものなら、忽ち数千人の軍隊を以て貴様達を捕縛し、且貴様等の住宅を皆知つてるから、妻子眷族も召捕つて重い成敗に会はされるのだ。それよりもこれから北へ北へと進んで、三五教の宣伝使が七八十人やつて来るから、それを捕縛すべく進んだがよからう。それを巧くやつたならば、その方に望み次第の褒美を、関所の役人に執持つて貰つてやらう。さア行け。後に居る奴は皆弱虫ばかりだ。一番強い奴はここに五六人ふん縛つて連れて来たのだ。グヅグヅしてゐると影を見失ふかも知れぬぞ。早く船を引返し、真北に向つて進んだがよからう』
デブ『はい、承知致しました。何分よろしう願ひます。さア皆の者、舳を北に向け、急速力で漕ぎ出せ』
と命令した。忽ち八艘の船は船首を北に向け一生懸命にグイグイと櫂の音賑しく鳥の飛つ如き勢で遠ざかり行く。
ヤッコス『アハハハハハ、もし、玉国別の宣伝使様、悪人もこんな時には間に合ふものでございませうがな。私も昨日までのヤッコスであればここで怎んな謀反を起すか分らないのですが、貴方等の仁慈無限のお心に感じ、今までやつて来た事が恐ろしくなりまして、今日は漸く人間らしい気分になりました。神様の教を聞いたものが嘘偽りを申すのは誠に済まぬ事とは存じながら、この場合臨機応変の処置を採らなくてはならぬと存じ、心にもなき偽りを申しました。何卒神様にお詫を貴方様からして下さいますやうお願致します』
と真心を面に現はして頼み入る。
玉国『ハハハハハやア感心だ。人喰人種が俄に如来様になつたのだな。それではダル、メート様も、もはや喰はれる心配もないから今までの怨みをスツクリ湖に流して同じ船の一蓮托生、和気靄々と打解てこの湖を渡らうぢやないか』
 バラモン組、並にメート、ダルの両人は『ハイ』と嬉しげに差俯向き涙さへ滲ませて居る。
 ヤッコスは櫓を操りながら歌ひ初めた。一同は舷を叩いて賑々しくこれに和した。その声は水面に響き渡り海底の竜神を驚かすばかりに思はれた。

ヤッコス『テルモン湖水に昔から  鬼よ悪魔と呼ばれつつ
 往来の船を引捕らへ  宝を奪ひ衣を剥ぎ
 尊き人の命まで  とりてその日を送りたる
 悪逆無道のヤッコスも  バラモン軍の勢に
 辟易してゆ黄白を  数多散じて賄賂とし
 キヨの港の関守に  うまく取入りバラモンの
 目付頭と選まれて  密かに海賊使役しつ
 悪と虚偽とに日を送る  このヤッコスも天命尽き
 勝手覚えし海原も  俄の暴風に進路をば
 謬り暗礁に乗り上げ  木端微塵に船砕き
 ここに五人は真裸体  波を潜りて漸くに
 水泳に長けた三人は  人の恐れて寄りつかぬ
 荒波狂ふツミ島へ  命からがら泳ぎつき
 飢に迫りて罪人を  屠り殺して喰はむと
 力限りに格闘し  互に体は疲れ果て
 息も絶えむとする時に  仁慈無限の三五の
 教の道の宣伝使  現はれまして吾々が
 危き命を救ひまし  清き教を諄々と
 説き玉ひたる有難さ  流石無道の吾々も
 神の御声に目を覚まし  有難涙にくれながら
 初稚丸に乗せられて  キヨの港に帰らむと
 波に漂ふ折もあれ  前方に浮ぶ八艘の
 船は正しく吾部下の  デブの率ゆる賊船と
 見るより早く進路をば  転じて湖中の危険地と
 聞えし灘に駆け向ふ  湖に慣れたる賊船は
 矢を射る如くおツついて  思ひも寄らぬ獲物ぞと
 四方八方取囲む  海より深き恩人の
 命を救ひ高恩に  報ひまつるはこの時と
 幸ひ部下のデブ以下に  嚇し文句や偽を
 並べて漸く追ひ散らし  初めて胸もサヤサヤと
 晴れ渡りたる月の空  実にも芽出度き次第なり
 ああ惟神々々  御霊幸倍ましまして
 暗礁点綴する湖を  無事に彼岸に達せしめ
 吾等一行をやすやすと  キヨの港へ着かしめよ
 思へば思へば昔より  神の心は露知らず
 善と真とに背を向け  悪と虚偽とに一心に
 心を曇らせ居たるこそ  実にも愚の至りぞと
 省みすれば後の世が  いと恐ろしくなりにけり
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞き直す
 三五教の大御神  今まで犯せし身の罪を
 赦させ玉へと願ぎ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  これの湖水は乾くとも
 仮令命は失するとも  一旦神に真心を
 捧げ奉りしヤッコスは  如何でか曲に溺れむや
 憐れみ玉へ惟神  皇大神の御前に
 畏み畏み願ぎ奉る』  

 かく歌ひながら漸くに船首を再び西南に転じ潮流にのつて月の海面を辷り行く。

(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



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