出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=58&HEN=2&SYOU=6&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語58-2-61923/03真善美愛酉 茶袋王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
玉国別一行テルモン湖畔に到着
名称


 
本文    文字数=10171

第六章 茶袋〔一四八一〕

 三千彦は先に立ちテルモン山の中腹を南へ南へと下り行く。比較的嶮峻な坂道で足許に少しも目放しが出来ぬ。金剛杖を力に指の先に全身の重味を集中しながら拍子をとつて下り行く。

三千彦『三五教の宣伝使  如何なる敵も恐れねど
 板を立てたる坂道の  ヌルリヌルリと辷るのは
 誠に閉口仕る  玉国別の師の君よ
 デビスの姫よ気をつけて  転倒せぬやうになされませ
 月の都に立向ふ  神力無双の宣伝使
 その首途に過つて  もしも転倒したならば
 それこそ前途が気にかかる  御幣を担ぐぢやなけれども
 今日は大切の出陣も  変らぬやうな旅の空
 天津御空に目をやらず  しばらく足の爪先に
 眼を注ぎ気を配り  ウントコドツコイ、ズウズウズウ
 云ふより早く足滑り  ドスンと搗いた尻餅は
 吾等が前途を祝すべく  空に輝く望月の
 瑞の御霊の御守り  前途必ず吉祥と
 直日に見直し宣り直し  足もワナワナ下り坂
 面白をかしく脛笑ふ  今日の旅出の勇ましさ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 梢に蝉は吠るとも  汗は何程出るとても
 頭の上からカンカンと  日の大神が照らすとも
 神に任せしこの体  岩より固い魂は
 常磐の松の岩の上に  生茂りたる如くなり
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  よくまあ辷る坂だなア
 赭土ばかりがピカピカと  光つた上に湿りをば
 帯て居るのでよく辷る  誰が通つたか知らないが
 こりやまたえらい磨けよう  流石のスマートさまでさへ
 四つの足を持ちながら  あれ、あの通りチガチガと
 体を斜に構へつつ  下つて行くのを眺むれば
 余程きつい坂道だ  これから先はテルモンの
 音に名高き湖だ  吾等一行宣伝使
 この湖を渡らねば  月の御国にや行かれない
 ウントコドツコイ、ズウズウズウ  ほんに危険な辷り坂
 坊主頭を瓢箪で  撫でてるやうな足具合
 うつかりすると転倒し  天狗の面やお多福の
 玉の御舟を雨曝し  せなくちやならぬ恐い道
 気をつけなされ皆さまよ  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 どうやら坂が緩うなつた  ここで油断をしちやならぬ
 バラモン教の悪神が  吾等一行の前途をば
 擁して待ちさうな処だぞ  何程敵が来るとも
 腕に覚えのある上は  決して怯まぬ大和魂
 ああ惟神々々  神のまにまに下り行く』

 真純彦はまた歌ふ。

『テルモン山の南坂  鰻のやうに辷る道
 三千彦さまが先に立ち  吾師の君と若草の
 妻の命のデビス姫  二人の名をば呼びながら
 真純彦とも伊太公とも  おつしやらないのは何事だ
 ほんにお前は水臭い  玉国別の師の君の
 御名を呼んで親切に  注意をしたのは表向き
 実地誠の腹の中  新婚旅行のデビス姫
 その身の上が気にかかり  義理か妬くかで師の君の
 お名を呼んだに違ひない  アハハハハツハ、アハハハハ
 現銀至極の男だな  それだによつて宣伝の
 途中において若者に  女房を持たすと魂が
 砕けて誠の間に合はぬ  女に心引かされて
 大切の大切の使命をば  怠る事があるものだ
 さはさりながら三千彦の  神の使は格別だ
 案ずる事はなけれども  第一女に気をとられ
 魂は中有に飛び散りて  肝腎要の足許が
 目につかないか二度三度  スウ スウ スウと辷りよつた
 肝腎要の先に立つ  道案内の三千彦が
 辷つて転けて吾々が  無事にこの坂下るのは
 何か一つの原因が  なければならぬ道理ぞや
 省み玉へ三千彦よ  ああ惟神々々
 神に代りて気をつける』  

 伊太彦はまた歌ふ。

伊太彦『ウントコドツコイ ドツコイシヨ  悪魔は出るとも逃ぐるとも
 憑物皆駆け出すも  この坂道になつたなら
 どうしても体が草臥る  さはさりながら最愛の
 女房を連れた三千彦は  嘸や楽しい事だらう
 元気日頃に百倍し  意気揚々と肱を張り
 六方を踏んで坂道を  八王神歩みそのままに
 エンヤラ エンヤラ エンヤラと  そのスタイルは蟷螂か
 但は蛙の手踊か  またも違ふたら山猿の
 ステテコ踊りと云ふやうな  さても怪しきスタイルだ
 アハハハハツハ、ズウズウズウ  オツトドツコイ足辷り
 お尻をドンと打ちました  天狗の面も茶袋も
 神の御蔭で御安全  二つの玉は完全に
 お腹の中へ舞ひ上り  大急行で洋行した
 ああ惟神々々  目玉のとび出るきつい坂
 土蟹ぢやないが横歩き  正面に足が運べない
 三千彦さまの御夫婦は  転けよと倒れよと構はぬが
 吾師の君よ真純彦よ  何卒用心遊ばして
 この坂無事に下りませ  夏の木立に鳴く蝉の
 声はミンミン眠たげに  寝言交りに歌ふて居る
 そんな陽気な事かいな  この坂道は命懸け
 どうしてこれが眠られよか  足のこぶらがブクブクと
 酒徳利のやうになつた  ズウズウズウズウ アイタタツタ
 ヤツパリ坂を下るのは  口を噤へて俯向いて
 下らにやならぬと云ふ事を  初めて体得致しました
 三千彦司が先に立ち  くだらぬ歌を喋る故
 真純の彦も伊太彦も  つひ釣り出されウツカリと
 退屈紛れに喋つたが  それが吾身の仇となり
 デツカイお尻を打ちました  ああ惟神々々
 こんな事だと知つたなら  ワックスさまが馬場にて
 笞刑を受けた時のやうに  銅盥を尻につけ
 下つて来ればよかつたに  下司の知識は後からと
 人が云ふのも無理は無い  ああ惟神々々
 これこれデビスのお姫さま  お前も一つ附合ひに
 この坂道を下りつつ  下坂の歌を歌ひませ
 三千彦さまの機嫌のみ  とらず吾々一行の
 チツとは心を慰めて  平和の女神の本領を
 発揮し玉へ惟神  神の使の宣伝使
 伊太彦さまが頼みます  ああ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

デビス姫『妾は三千彦宣伝使  夫に持つたデビス姫
 神のお道に仕ふ身は  夫婦ありては肝腎の
 御用が出来ぬと聞きました  とは云ふものの玉の緒の
 命を助け下さつた  大恩深き神司
 悪魔の猛り狂ふなる  荒野ケ原を打渉り
 雲霞の如き敵軍の  中に向つて進み行く
 その雄々しさを思ひ出し  女ながらもジツとして
 どうして館に居られませう  婦は夫に従ひて
 力を尽し身を庇ひ  マサカの時が出て来たら
 命を的に吾夫の  使命を全く遂げさせて
 女の道を尽さねば  済まぬ事だと覚悟して
 住み心地よき吾館  後に眺めて遥々と
 踏みも習はぬ旅枕  苦労を覚悟で行きまする
 陽気浮気でこんな事  どうして繊弱き女の身
 出来そな事がありませうか  揶揄ひなさるもほどがある
 妾の心は真剣だ  人が笑ふが譏らうが
 一旦夫に魂も  体も共に任したら
 決して中途に怯まない  女ながらも天晴と
 貴方に劣らぬ功績を  立てて御目にかけまする
 玉国別の師の君よ  真純の彦の神司
 伊太彦司も諸共に  妾の心の清きをば
 真面目に覚らせ玉へかし  決して色や恋のため
 菊石の出来た宣伝使  三千彦さまに惚れませう
 何程顔は醜ても  肝腎要の魂は
 三五の月の姿より  百倍増して美しく
 心の鏡に映りしゆ  神の御為世のために
 かかる健気な武士と  一度腕に撚かけて
 世界のために尽さむと  思ふばかりの真心が
 凝り固まりし今日の旅  笑はせ玉ふ事もなく
 繊弱き女の身なれども  許させ玉へ何処までも
 吾等夫婦を従へて  進ませ玉へ惟神
 神の御前に誠心を  誓ひて告白仕る
 ああ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

と歌ひ了り流石の坂道も賑々しく笑ひ興じながら、揶揄ひ半分に下り行く。漸くにして下り三里の急坂を越えテルモン湖の辺に着いた。坂道で絞つた汗は湖面を吹く涼風に吹き払はれ、得も云はれぬ爽快の気分に漂ふた。東西百里南北二百里の大湖水は金銀色の魚鱗の波を湛へ、洋々として静かに横たはつて居る。

(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web