出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=58&HEN=1&SYOU=2&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語58-1-21923/03真善美愛酉 多数尻王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
ワックス失脚。トンク、タンク金権で悪粋会の会長・副会長となる。悪粋会、三五教を強者と認め帰順。
名称


 
本文    文字数=14231

第二章 多数尻〔一四七七〕

 奥の一間には小国姫、ニコラス、三千彦、その外一同が打解けて神徳話に余念なく、茶を啜りながら懇親を結んでゐる。
 かかる処へ門前俄に騒がしく猛犬の叫び声、合点行かぬと何れも耳を欹てたが、三千彦は一同に向ひ、
三千『皆さま、どうやら悪酔怪員の暴動と見えます。私が一寸調べて参りますから御休息して居て下さいませ』
といひ捨てて表に駆け出す。
 ニコラスはハンナに命じ三千彦と共に表門に向はしめた。表門に行つて見れば三千彦が昼夜念頭を離れざりし恋しき師の君玉国別、良友の真純彦、伊太彦が莞爾として門内に潜り来るにパツと出会した。三千彦は倒れぬばかりにかつ驚きかつ喜び、アツと云つたきりしばらくは言葉も出なかつた。
伊太『やア、お前は三千彦ぢやないか。俺等はお師匠様と共に、どれだけお前を探して居つたか知れないのだ。処もあらうにバラモン教の聖場に納まりかへつて居るとは合点が行かぬ。これは何か様子があるのだらう。さア早くお師匠様に申上げぬか』
 三千彦は胸撫で下し、涙を流しながら、
三千『御師匠様、よう無事で居て下さいました。貴方の所在を尋ねむものと、バラモン教の聖場に入り込み、種々雑多と苦労を致しました。斯様な所でお目にかかるとは全く神様の御引合せでございます。さア奥へお通り下さいませ』
玉国『あ、三千彦殿、まア結構だつたな。随分吾々三人はお前の身の上を案じて居たのだ。只今無事な顔を見て、こんな嬉しい事はない。しかしこの通りバラモン軍と無頼漢との同士打ちが初まつてるが、もとは吾々一行に対しての挑戦であつたが、何時の間にか相手が変つて味方の同士打ちとなつた。実に気の毒だからこれを一先づ鎮撫せなくてはなるまい。緩り奥で休息する訳にも行かぬぢやないか』
三千『決して御心配なさいますな。スマートさまに一任して置けば大丈夫ですよ。アハハハハ』
真純『うん、そらさうだ。吾々四人の宣伝使よりも余程神力が備はつて居るのだからな、四足だつて余り馬鹿に出来ぬぢやないか。吾々はスマート大明神のお蔭で命が助かつたのだ。アハハハハハ』
と笑ひながら三千彦に案内されて奥の間を指して進み入る。
 ハンナは部下の兵士が無頼漢と入り乱れて戦つて居るのを見逃す訳にも行かず、直ちに驢馬に跨り両方混戦の中に駆け入つて声を嗄らし『鎮まれ鎮まれ』と厳しき下知を伝へた。
 この声を聞くより敵味方ともに水を打つたる如くピタンと戦闘は停止された。スマートは忽ち駆け来り、ワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人を探し索めて引倒し、ハンナの前に一々引き来りワンワンと叫んで、これを縛れよとの意を示した。ハンナは四人を手早く縛し上げ、馬場の前の大杭にシカと縛りつけた。弱きを挫き強きに従ふ悪酔怪員は、会則を遵守して一人も残さず、コソコソと己が家路に帰り行く。トンクは驢馬に跨つたまま、十字街頭の鐘路に現はれ、臆病風に誘はれた数多の老若男女を集めて一場の訓戒演説をはじめて居る。
トンク『御一同様の中には悪酔怪員も水平怪員も、その他町内有志諸君も居られますが、よくまア会則を遵守し、一人も残らず退却して下さいました。実に幹部たる吾々は、諸君の行動に対し、欣幸措く能はざる所でございます。今日までは神館にはただ一人の魔法使三千彦と云ふ大先生、並びに求道居士の二人の魔法使、それ故吾々一同に比較すれば先方は弱者でございました。しかしながらもはや今日は新に三人の魔法使の大先生が御出現遊ばされ、また武器を携へたニコラスキャプテンが五十の兵士を引率して館を固くお守りになり、三五教の魔法使と同盟遊ばした上は、忽ち地位転倒して先方は強者となり、吾々は弱者の地位に立たねばならなくなりました。加ふるにスマートと云ふ、あの猛犬大明神は中々の強者でございます。しかしながら弱者は弱者として独立する訳にはゆきませぬ。会則にある通り、弱きを挫き、強きに従ふのが吾々の本領でございます。それ故吾々一同は神館に至り心から帰順致し、馬場に繋ぎあるワックス等に大痛棒を加へ天晴融通を利かし、三五教及びバラモン軍に帰順の誠を現はし、身の安全を図るを以て第一と心得ます。皆さまの御意見は如何でございますか』
と呼はつた。悪酔怪員を初め、その他の連中はトンクの詭弁に何れも感心し、一も二もなく手を拍つて賛意を表した。トンクはこの態を見て威猛高になり、
トンク『皆さま、早速の御承知、トンク身にとり満足に存じます。就てはワックスの会長を皆様より免じ、新に強者を会長に任命されむ事を希望致します。その強者とは申すまでもなく私はトンクだと思ひます。トンクに御賛成の方は手を拍つて下さい。不賛成の方は背を向けて尻を捲つて下さい。何事も多数決でございますから』
 手を拍つもの半分、尻を捲つて背をそむけるもの半分、トンクは馬上よりこれを眺めて、
トンク『皆さま、手を拍つて下さる方が半分、尻を捲つて反対を表する方が半分と見えます。これではハンケツがつきませぬ。何とか、も一度考へ直して頂きたうございます』
 この声と共に今度は一人も残らず黒い尻を捲つてトンクの方に向けた。さうして群集の中より『即ケツ否ケツ』と叫ぶものがある。トンクは馬上より歯ぎしりをしながら、
トンク『エー、尻太異な事だな』
 かかる所へ驢馬に跨りチヨク チヨクとこの場に現はれ来たのはタンクであつた。タンクはトランクの口を開き、金銀の小玉を掴んでは投げ、掴んでは投げ、
タンク『皆さま、私が悪酔怪の怪長の候補者でございます。今黄白をかくの通り撒き散らしますから十分拾得競争をやつて下さい。拾得された方はその方の所有でございます。その代り神聖なる一票をこのタンクにお与へ下されむ事を希望致します』
と掴んでは投げ、掴んでは投げ、前後左右に駒を進めて残らず万遍なく撒き散らしてしまつた。トンクも手早く馬から下り、矢庭に金銀の小玉をを拾つては懐中につつ込み、再び馬上につつ立ち選挙の様子を観望して居る。タンクは全部黄白を撒き散らし、もはや欠けたカンツも無くなつて居た。タンクは馬上より雷声を張り上げ、
タンク『皆さま、私を怪長に選挙して下さいますまいか。賛成の方は手を拍つて下さい。万一不賛成のお方は尻を捲つて屁を一発手向けて頂きたい。何程お尻を捲られても、屁の出ない方は賛成と認めます』
とうまく孫呉の屁法で予防線を張つてしまつた。ここに半分は手を拍ち半分は尻を捲らず、手も拍たず、茫然として控へて居る。タンクは怪訝な顔して馬上より様子を窺つて居た。この時トンクはタンクの撒いた金銀を馬上より見せびらかしながら、
トンク『皆さま、最前手を拍つて下さつたお方は私の賛成者と認めます。今タンクさまに対して手を拍たず、尻を向けない方は中立者と認めます。その方に対してこの黄白を撒ずる考へですから賛成の方は手を拍つて下さい。今ここで撒き散らしますと、二重取りされると折角の賛成者の手に入りませぬから、私の宅でお渡ししませう。少くとも千両の金はありますから百人に分配しても十両づつは確でございます。さア一、二、三で願ひます』
 今度はどうしたものか、一人も残らず尻を捲つて口屁をプウプウと鳴らして居る。中には尻から黒い湿つぽい輪廓の不完全な煙を吐き出す奴も少しはあつた。
トンク『しからば拙者が副怪長となり、タンクさまを怪長に選んで下さい。さうすれば双方共顔が立ちますから』
 大勢の中から、
『オーイ、トンク、貴様の今持つてる金は皆タンクさまの撒いた金だ。副怪長に任じて欲しけりや皆バラ撒くのだ。そしたら副怪長にしてやろう』
トンク『成程しからば皆さまに撒き散らしますから、よう拾はない人は運命だと締めて下さい。ともかく半数者以上の賛成があればいいのです』
と懐より一つも残らず取り出し、前後左右にまき散らしてしまつた。この潮時を見済まし、タンクは大音声、
タンク『皆さま、私を怪長に選んで下さつた事を有難く感謝します。何と云つても運動費が無くては今日の世の中は駄目です。墓標議員の事故議員、妥協議員にならうと思つても、五万や十万の金が入る時節ですから、無一文で議員にならう等とは余り虫が良すぎます。私は副怪長なんかは必要はないと思ひます。官のため人を選むのではなく、人のために官を作ると云ふ事は最も不利益かつ不経済、秩序紊乱の端緒を開くもの私は副怪長の必要はないと思ひます。皆さま、必要と認めた方は手を拍つて下さい、不必要と認めた方は、も一度尻を捲つてトンクさまの方へ見せて下さい。それを以て貴方等の意志を明かに致します』
 一同は一人も残らず真黒の尻を捲つてトンクの方へ尻をさし向け、御叮嚀にピシヤ ピシヤと黒い臀肉を叩いて見せた。トンクはスゴスゴと驢馬の尻を無性矢鱈に叩き、業腹煮やして何処ともなく姿を隠した。
 これよりタンクは大勢の前に立ち凱旋歌を歌ひながら神館をさして練り込んで行く。大勢は擦鉦を叩き、歌に合せて拍子をとり跟いて行く。

『さても悪酔怪員は  弱きを挫き強者には
 恐れて従ふ卑怯者  平安無事が第一だ
 強い奴にはドツと逃げ  弱い奴にはドツと行け
 これが軍の駆引だ  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 いやいや軍のみでない  万事万端その通り
 どんな商売致しても  小さい店を踏み倒し
 小さい資本の会社をば  片ツ端から押し倒し
 大きな奴には尾を巻いて  しばらく忍び時を待ち
 いつとはなしに強くなり  大きくなつたその時に
 己が所信を貫徹し  世界の強者と崇められ
 優勝劣敗経となし  弱肉強食緯として
 この世を渡るが利口者  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 神の館に現ませる  三五教の魔法使
 三千彦さまは弱いとは  云へどその実強い人
 神変不思議の魔法をば  使つて吾等を苦しめつ
 何処々々までもやり通す  こんなお方に逆らうて
 どうして吾身が立つものか  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 弱きを挫き強きをば  助ける吾々怪員は
 ワックス、エキス、ヘルマンや  エルの司を虐げて
 悪酔怪の至誠をば  現はし館に立向ひ
 そこはそれそれ都合よく  頭を下げて胡麻を摺り
 身の安全を図るのだ  こんな神謀鬼策をば
 もしもトンクが怪長なら  どうして捻り出されよか
 智慧の袋のタンクさま  神謀鬼策の妙案は
 胸の袋にタンク山に  蔵つてござるぞ皆さまよ
 心を丈夫に持つが良い  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 早くも馬場に近づいた  皆さま声を打揃へ
 三五教やバラモンの  神の司の万歳を
 ここから唱へ上げませう  それに続いてスマートの
 犬大明神の万歳を  三唱しながら進みませう
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン  ああ惟神々々
 叶はぬから叶はぬから  目玉飛び出しましませよ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  強きを助け弱きをば
 挫くが天地の道理ぞや  大魚は小魚を呑み喰ひ
 大獣は小獣を噛み喰ひ  強者は弱者を虐げる
 富者は貧者をこき使ひ  役人さまは平民を
 奴隷の如く足にかけ  腮をしやくつて使ふのだ
 これが天地の道理ぞや  必ず迷ふちやならないぞ
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン』  

と勝手な熱を吹き悠々として驢馬に跨り、先頭に立ち早くも門内に進み入る。

(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web