出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語57-3-211923/03真善美愛申 言触王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
オースチン死ぬ。オークス他が、オースチンの遺産を奪う。
名称


 
本文    文字数=7537

第二一章 言触〔一四七一〕

 ワックスは驚き吾家に馳帰り見れば父のオールスチンは病益々重く、殆ど虫の息になつて居た。流石のワックスも驚いて父の病床に駆け寄り、涙の声を絞りながら、
ワックス『お父様、如何でございます。お苦しうございますか』
とツヒになく優しく尋ねる。オールスチンはクワツと目を瞠き、ニタリと笑つたまま瞑目してしまつた。
ワックス『アーア到頭大切の大切のお父さまはなくなつてしまつた。アアどうしようかな。おい、オークス、ビルマ、も一度どうかして甦つて貰ふ道はあるまいかな。コラ看護婦、貴様達二人も附いて居つて何して居た。親爺が死ぬやうな看護を頼みはせぬぞ、病気が癒るため、高い金を出して雇うて居たのだ。俺の不在の間に何か悪い事したのだらう。トツトと出て行け』
とソロソロ地金を出しワヤな事を云ひ出した。看護婦は呆れて返す言葉もなく、面を膨らしながら自分の持物を取りまつべて逃げ帰らうとする。
ワックス『コリヤ一寸待て、その荷物を税関で調べてやらう。親爺の小判をソファーの下から引張り出して詰めて居るのだらう』
看護婦『ホホホそんな安い人間と思つて貰ひますと片腹痛うございます。しかしこのトランクは私の物ですから指一本触へるなら触へて御覧なさい』
ワックス『ヨシ、みん事調べてやらう。大泥棒奴が』
と云ひながら二人の看護婦のトランクを無理に捻開けた。忽ち白き煙シユーシユーと音を立てて立あがり、中よりデビス姫、ケリナ姫の二人がニコニコしながら立ち現はれた。ワックスはアツと驚き腰を抜かし『バ……化物』と呼んだきり、喉がつまり口をワナワナさせ慄うて居る。オークス、ビルマはその間にソファーを取り除け、畳をめくり、オールスチンの隠して置いた金銀の小玉を引張出し、看護婦のトランクに詰め込み、倒れて居るワックスの前に見せびらかし、
オークス『もし、ワックス様、これだけの戦利品がございましたよ。後にはもう一つも残つて居りませぬ。ビルマと両人が有難く頂戴致します。お前さまはお化の姫様と仲良う暮しなさい。お前さまの腰は三日や四日にや立ちますまいから、これから両人が聖地を逐電致し、ハルナの都に行つて栄耀栄華に暮します、アバよ、ウツフフフフフフ』
と腮をしやくり嘲笑しながらスタスタと表へ駆け出す。二人の看護婦の姿は何処へ行つたか皆目見えなかつた。ワックスは無念をこらへ歯切りを噛んで逃げ行く二人の後を怨めしげに見送つて居た。狼狽者のエルはトランクの中から美人が出たのと、オールスチンの絶命れたのを見て逸早く飛び出し、再び十字街頭に立ち現はれ、大音声を張り上げて言触を始め出した。

エル『ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  ヤア大変ぢやア大変ぢやア
 天が地となり地が天となる  ドンドコ ドンドコ ドンドコドン
 ワックスさまの親爺さま  神の館の家老職
 オールスチンが命尽きて  極楽参りを致したぞ
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  皆さま早う駆けつけて
 葬式万端手伝うて  野辺の送りをするがよい
 悪酔怪の会長さま  ワックスさまは腰抜かし
 アフンとばかり口開けて  ものをも言はず倒れてる
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  それにまだまだ不思議なは
 二人の看護婦忽ちに  雲を霞と消え失せた
 不思議と思ふ最中に  ワックスさまがパツと開けた
 トランクの中からシユーシユーと  白い煙が立ち昇り
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  あらマア不思議摩訶不思議
 神の館にあれませる  デビスの姫やケリナ姫
 ニコニコしながら現はれた  ドンドコ ドンドコ ドンドコドン
 これもヤツパリ三五の  魔法使の仕業だと
 思へば俄に怖くなり  家令の死んだ報告や
 ワックスさまの腰抜かし  お化女の出現を
 報告がてらにやつて来た  ドンドコ ドンドコ ドンドコドン
 今度は嘘では無いほどに  本真に本真に死んだのだ
 ソファーの下にドツサリと  金と銀との小玉奴が
 目玉を剥いて唸つてる  手に入れるなら今だぞや
 凡てこの世の財産は  人一代と云ふ事だ
 親爺が悴に渡さずに  残して死んだ宝なら
 誰が拾うても同じ事  これは天下の所有品
 お金の欲しい代物は  一時も早く飛んで出て
 思ふ存分引掴み  栄耀栄華に暮らさんせ
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  執念かかつた金銀を
 俺は拾はうと思はない  さはさりながら黄金が
 もの云ふ時節だ皆さまよ  ドンドコ ドンドコ ドンドコドン
 強欲爺の葬礼を  表にかこつけドシドシと
 遠慮会釈も要らぬ故  押しかけ行きて宝をば
 各自にせしめた方がよい  ワックスさまの腰抜けが
 もとへ戻らぬその先に  早く行つたら行き得ぢや
 一歩先へ行く者が  どうしてもお神徳が多いぞや
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  ア、エーエエエ エーエエエ
 さても果敢ない人間の命  欲の皮をば引張つて
 小国別のお館の  家令の勤めチヨコ チヨコと
 上前はねて貯め置いた  罪と穢の凝固つた
 金と銀とを沢山に  残して死んだ気味の良さ
 悪はどうしても長つづき  致さぬものだと今更に
 このエルさまは悟りました  オールスチンの親爺奴が
 何時も偉さうに俺様を  エルよエルよと呼び棄てに
 こき使ひやがつたその酬い  今目のあたり面白や
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  人はどうしても生前に
 善を行ひ施しを  やつて置かねば詰らない
 今度の家令が好い手本  皆さま確りなさいませ
 ドンドコ ドンドコ ドンドコドン  サアサア私が御案内
 皆さま跟いてございませ  ドンドコ ドンドコ ドンドコドン』

と豆太鼓を叩きながら駆け出した。欲に目の無い群衆は先づ第一に金銀の小玉を一つなりとも拾得し、その葬式に加はり、故人の霊を慰めむものと、蒸し暑い夏の日を欲の皮を引張つて、汗をタラタラ絞りながら走り行く。

(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)



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