出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語57-3-191923/03真善美愛申 抱月王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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場面:

あらすじ
ケリナ姫、求道居士に求愛。
名称


 
本文    文字数=9150

第一九章 抱月〔一四六九〕

 求道居士は月夜の庭園をブラリブラリとケリナ姫に導かれ逍遥した。ケリナ姫は遥に西南方を指し、
ケリナ姫『求道さま遥向ふの方に霞の如く、鏡の如く白く光つて居る物が見えませう。あれはテルモン湖水と申してアンブラック川の水の落ち込む東西百里、南北二百里と称へらるる大湖水でございます。深さは竜宮城まで届いて居ると昔から申しますが、どうかあの湖水のやうに広く、深く、清き者となりたいものでございますなア。それに月の影が水面に浮んだ時には、得も云はれぬ絶景でございます。常磐堅磐のパインの老木は湖水の周囲に環の如く取り巻き、白砂青松の得も云はれぬ風景でございます。一度貴方が御全快遊ばしたら御案内申上たいものでございますわ』
求道居士『ハイ有難うございます。嘸景色のよい事でございませうなア』
ケリナ姫『求道様、貴方は妾を永遠に愛して下さるでせうなア』
求道居士『これはまた不思議な事を承はります。貴女に限らず、天下万民は申すに及ばず、草の片葉に至るまで神様の愛を取りつぐ私は比丘でございますから、力限り愛善の徳を施したいと願つて居ります』
ケリナ姫『貴方は広い世界の中で特別に愛を注ぐものが一人ございませう』
求道居士『神の愛は平等愛です、つまり博愛ですから愛に依怙贔屓はございませぬ。老若男女禽獣虫魚に至るまで力一杯愛する考へでございます。愛に偏頗があれば愛自体は既に不完全のものでございますからなア』
ケリナ姫『ハイ、それは分つて居ります。しかしながら貴方は、ラブ イズ ベストを何とお心得でございますか』
求道居士『今までのバラモン軍のカーネルならば盛んにラブ イズ ベストを唱へました。しかし御覧の通り円頂緇衣の修験者となり、忍辱の衣を身につけた上からは、ラブなどは夢にも思つた事はございませぬ』

ケリナ姫『思ひきやラブせし人は隼の
  羽ばたき強しパインの林に。

 常磐木の松の心のさきくあれと
  祈りし君を恨めしくぞ思ふ』

求道居士『皇神の道を畏み進む身は
  如何で女に心うつさむ』

ケリナ姫『求道様、どうしても妾の願は聞いて下さいませぬか。貴方は三千彦様とは違つて宣伝使ではございますまい。また大切な使命を帯びて征途に上らるる御身でもありますまいに、この憐な女を見殺しに遊ばす御所存でございますか。貴方のお考へ一つで妾は天国に遊び、または地獄の底に陥るのでございます。可憐な乙女を地獄に堕しても比丘のお役目が勤まりますか、それから承はりたうございます。妾のラブは九寸五分式、岩をも射貫く大決心でございます』
求道居士『アハハハハハ姫様冗談云つてはいけませぬよ。好い加減に揶揄つて置いて下さいませ』

ケリナ姫『動くこそ人の赤心動かずと
  云ひて誇らふ人は石木か

と云ふ歌がございませう、それを何と考へなさいますか。人間の身体はよもや石木ではございますまい。愛情の炎が心中に燃えて居らねば衆生済度も出来ますまい。理論のみに走つて冷やかな態度のみを保つのが決して貴方の御本心ではございますまい』
求道居士『アア、迷惑な事が出来たものだなア。また一つ煩悶の種が殖へて来たワイ』
ケリナ姫『卑ない愚な女にラブされて嘸御迷惑でございませう。貴方に愛の無いのを妾はたつてとは申しませぬ』
求道居士『姫様さう悪取をして貰つては求道も本当に困ります。貴方のやうな才媛をどうして嫌ひませうか。私だつて未だ年若い有情の男子でございますよ。しかしながら一旦神様にお任せした身でございますから、さう勝手に恋愛味を吸収する訳には参りますまい』
ケリナ姫『モシ求道様、貴方はまだ或物に捉はれて居られますなア。それでは解脱なされたとは申されますまい。況て比丘は宣伝使ではなく、半俗半聖の御身の上でございませぬか。神様のお道は総て解放的ではございませぬか。何物にも捉へらるる事なく、坦々たる大道を自由自在に進み得るのが仁慈無限の神様のお道でせう。情を知らぬは決して男子とは申されますまい』
求道居士『さう短兵急に大手搦手から追撃されてはこの円坊主も逃げ道がございませぬワイ、今日はどうぞ大目に見て許して下さいませ』
ケリナ姫『ホホホホ、貴方は比較的卑怯なお方でございますなア。そんな事でどうして衆生済度が出来ますか。貴方は平和の女神を一人堕落さす考へですか。比丘と云ふ雅号を取り除けば普通の人間ぢやございませぬか。大神様は変化の術を用ひて衆生を済度遊ばすでせう、貴方もしばらく観自在天の境地になつて憐れな女を救ふお考へはございませぬか。女に関係して行力が落ちるなぞと頑迷固陋の思想に、失礼ながら囚はれてお出なさるのではございますまいか』
求道居士『何分私の両親が一夜の間に粗製濫造してくれた代物でございますから、今時の新しい婦人方のお考へは、容易に頭に滲みませぬ。実に時代後れの骨董品でございます。何れ徴古館に陳列される代物ですからなア、アハハハハ』
ケリナ姫『エエ辛気臭い、ジレツたい、何とおつしやつても妾は初心を貫徹せなくては現代婦人に対しても妾の顔が立ちませぬ。婦人の面貌に泥を塗つては済みませぬ。妾が貴方に擯斥せられたのは決して妾一人ではございませぬ、現代婦人の代表的侮辱を受けたやうなものでございますから、そのお覚悟で居て下さい』
と自棄気味になり、猛烈な気焔を吐きかけた。
求道居士『アア夢では無からうかなア。バラモン軍に居つた時には、干瓢に目鼻をつけたやうな女にさへ嫌はれたものだが、修験者の身になつて女を断念したと思へば、生れてから無いやうな、婦人の方からラブされるとは、世の中も変つたものだ、否私の境遇も地異天変が起つたやうなものだ。エエ仕方がない、仮令神罰を蒙つて根の国底の国へ堕ちるとも貴方の熱愛に酬いませう』
ケリナ姫『求道様、決して根底の国へは妾が堕しませぬ。夜なく冬なき天国の楽しみをこの世ながらに楽しみ、大神の御用に夫婦和合して仕へませう、御安心下さいませ。それについて男の心と秋の空とか云ひますから、此処で一つ誓つて下さいませ』
求道居士『しからば大空に澄み渡る麗しき月に向つて誓ひませう』
ケリナ姫『月には盈つると虧くるの変化がございます。途中に変られては困りますから、どうぞこの庭先の千引岩に誓つて下さいませ』

求道居士『千代八千代千引の岩の動きなく
  君を愛でむと誓ふ今日かな』

ケリナ姫『千引岩押せども引けども動きなき
  吾背の君と千代を契らむ』

と歌ひ終り、求道の手を固く握り二つ三つ上下左右に強く揺つた。求道もまた姫の手を取り、頬と頬とをピタリと合し、千代の固めとした。しばらく両人はパインの蔭に直立し手を握り合つて無言のままハートに浪を打たせて居る。ヘルは退屈紛れに月を眺めながらブラリブラリとこの場に現はれ来り、
ヘル『イヤ、御両所様、お祝ひ申します』
ケリナ姫『ヤア貴方はヘルさまでございましたか。月の景色がよいので求道様とブラついて居ましたのですよ』
ヘル『どうぞ毎晩月夜でございますからお楽しみ遊ばしませ。私は気を利かして控へて居ましたのですよ、アハハハハ』
求道居士『…………』
ケリナ姫『ホホホホ、お月様が可笑しさうにニコニコと笑つてゐらつしやいますわ』
ヘル『貴女も嬉しさうに笑つてゐらつしやいましたね』

(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)



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