出口王仁三郎 文献検索

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物語57-2-111923/03真善美愛申 鳥逃し王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
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あらすじ
三千彦、高姫と争う。
名称


 
本文    文字数=14075

第一一章 鳥逃し〔一四六一〕

 白髪交りの藁箒のやうな髪をサンバラに凩に靡かせながら夜叉のやうにペタペタと大地を鳴らせつつ四辻までやつて来た。見れば、最前きた天香教の曲冬は尻引からげトントンと大股に夜這星のやうに黒い褌を引きずりながら走つて居る。何程高姫が呼んでも叫んでも振り向かばこそ、駆け出すその勢に高姫も追つく事を得ず四辻に歯噛みをなし地団駄を踏んで、
高姫『エイ残念やなア、これシャルお前が鈍馬だから折角出てきた鳥を逃がしてしまつたのだ。なぜ知らぬ間に綱でも掛けて置かなんだのかい。「神が綱さへかけて置けば何ほどヂリヂリ悶へをしても離さんぞよ」とお筆に出て居るぢやないか』
シャル『私は人間、貴女は神様でせう。人間が綱かけたつて何になりませう。私に不足を云ふより、なぜ日の出神様が綱かけなかつたのですか。その不足は聞きませぬ』
高姫『エ、よう小理窟を云ふ男だなア。なぜ絶対服従をせないのだ。一体妾を誰人と心得て居るのだい』
シャル『ハイ、誰人さまかと思へば矢張此方さまでございました。此方さまかと思へば矢張高姫さま、高姫さまかと思へば義理天上日の出神の生宮、さうかと思へば底津岩根の大弥勒さま、大弥勒様かと思へば第一霊国の天人様、天人様かと思へば現界、幽界、神界の救主さま、救主さまかと思へば杢助さまの奥様、杢助さまの奥様かと思へば常世姫の御霊様、常世姫のお霊様かと思へば高宮姫様、高宮姫様かと思へば定子姫様、誰人が誰人やら、薩張見当がつきませぬワイ。矢張此方さまにして置きませうかい』
高姫『エ、仕様もない、何と云ふ事を云ふのだい。沢山の名を並べて、一つ云つたらよいぢやないか。繁文褥礼は流行りませぬぞや。そんな複雑な名を云はいでも、もちつと単純に生宮さまとなぜ云はんのかい。法性寺の入道が運上取りに来るぢやないか』
シャル『それでもシンプルな名称では、お前様のお気に入りますまい。些とでも長く云ふほど、貴女の御機嫌がよいのですからなア。足曳の山鳥の尾のしだり尾の長々しう云ふのが、どこともなしに価値があるやうですよ。第一雅味がありますからなア』
高姫『エエ、シンプルだの、複雑だの雅味だのと何をガミガミ云ふのだい。そんな毛唐のやうな言葉は地の高天原では用ひませぬぞや』
シャル『それでも貴女時々英語を使ふぢやありませぬか』
高姫『あれや英語ぢやない神世の生粋のお言葉ぢや、この忙しいのにさう長く名を云はれると余り気分のよいものぢやない。お前も一つ云うて上げようか、さうしたら味が分るだらう。何処の奴かと思へば此処の奴だ。バラモン教の旗持人足かと思へば小盗人だ。小盗人かと思へば川陥だ。川陥かと思へば、死損ひの八衢人足だ。八衢人足かと思へば、地獄に籍をおいた亡者の魂だ。亡者の魂かと思へば極道息子だ。極道息子かと思へば腰抜けだ。間抜けに歯抜け、魂抜け野郎だ。魂抜け野郎かと思へば高姫の尻拭きだ。尻拭きかと思へば矢張シャルだ。オツホホホホ』
シャル『どうも甚いですな、それだけよう悪口が陳列出来たものですワイ。矢張お前さまは義理天上は嘘だ、金毛九尾の容器でせう』
高姫『定つた事だよ。金毛九尾と云ふ守護神は初めは悪だつたけれど、今度、高姫の悪が善に改心して、善に立ち帰つたのだから、三千世界の事は何でも彼でも皆知つて居るのだ』
シャル『成程、どこともなしに九尾九尾して居ますワイ。しかし貴女は女だからよもやキン毛はございますまい』
高姫『コレお前は此処にすつこんで居なさい、彼方から何だか出て来るやうだ。妾が一つ説教を、捉まへてするから、お前は決して口出しをしてはならぬぞや。この枯草の中に身を隠して聞いて居なさい。少し勉強せねば今日のやうに折角出て来た鳥を逃がしては何にもならぬからなア。サア早く引込んだり引込んだり』
シャル『それではしばらく螽斯ぢやないが草の中に引込みます。長話はおいて下さい、足が痺れますからなア』
と云ひながら、ガサガサと萱草の中に潜り込んだ。幽かな声で宣伝歌を歌ひながら一人の男がやつて来る。

三千彦『神が表に現はれて  善神邪神を立て別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞き直す
 三五教の神館  総務の司と仕へたる
 東野別を慕ひつつ  自転倒島を立ち出でて
 恋に狂うた高姫が  恥も人情も知らばこそ
 眼は暗み耳は聾え  恋の悪魔に囚はれて
 所もあらうに聖場で  あらむ限りの醜態を
 暴露せしこそ果敢なけれ  心乱れし高姫は
 金毛九尾に誑られ  泣く泣く館を立ち出でて
 河鹿峠の急坂を  風に裾をば煽られつ
 太股までも放り出して  スタスタ下るスタイルは
 地獄の町を通ひ居る  夜叉の如くに見えにける
 祠の森に立ち寄りて  妖幻坊の曲者に
 霊をぬかれて愚にかへり  所在醜態演出し
 妖幻坊の杢助と  手に手をとつて小北山
 聖場に横柄面さげて  詣でたところ月の宮
 扉の中より迸る  その霊光に肝つぶし
 命辛々逃げて行く  浮木の森に立ち寄りて
 狐狸に誑られ  初稚姫やスマートの
 生言霊に怖ぢ恐れ  妖幻坊と諸共に
 心も暗き黒雲に  乗りて逃げ出すその途端
 如何はしけむ中空より  真逆様に顛落し
 行方不明となりにけり  嘸今頃は高姫は
 この世にありて尽したる  驕傲尊大脱線の
 道を辿りて中有界  どこかの野辺に潜伏し
 道行く精霊に相対し  支離滅裂の教理をば
 吹き立て居るに違ひない  吾は三千彦宣伝使
 玉国別の師の君と  別れて一人テルモンの
 神の館に立ち向ひ  悪人輩の企みをば
 暴露し館の難儀をば  助けむために来りけり
 此処はいづくぞフサの国  アンブラック川の片傍
 草茫々と生え茂る  青野ケ原と覚えたり
 小鳥は唄ひ花匂ひ  天国浄土も目の当り
 実にも愉快の心地する  ああ惟神々々
 神の御霊の幸はひて  テルモン山の神館
 一時も早く帰しませ  神のみ前に願ぎまつる』

と歌ひながらやつて来る。高姫は余り遠くて自分の事を歌つて居るのは気がつかなかつたが、小鳥は唄ひ花匂ひ、青野ケ原で云々と云ふ一句を聞いて、
高姫『これだけ霜に痛んだ枯野ケ原を、鳥が唄ふの花が咲くのと云ふのは狂人ではあるまいかな、うつかり相手になつて先方が狂人だつたら仕末がつかない。茲は一つ柔り出て様子を考へて見よう』
と四辻に立つて居る。三千彦は漸く此処に進み来り高姫を見て、よう似た顔だとは思ひながら、自分も八衢に来て居るとは気がつかず、
三千彦『モシ一寸お尋ね致しますが、波斯の国のテルモン山は、何方の方面に当りますかな』
高姫『ヘイ、あのテルモン山でございますか、此処は浮木の森でございますが、まだ随分遠いと云ふ事でございます。そして貴方、テルモン山へ何御用があつてお出になりますか』
三千彦『ハイ、私は三五教の宣伝使でございますが、テルモン山の館には大騒動が起つて居りますので、お助け申たいと思つて心を配つて居ます。しかしながら、どう道を踏み迷うたか知らないが、こんな所へ来たのですよ』
高姫『貴方は三五教でございますか、それはそれは結構でございますな。しかしテルモン山にはバラモン教の神様が祭つてあるではございませぬか』
三千彦『ハイ、さうです』
高姫『テルモン山、……テルモン山はバラモン教の、それバラモン教の神館でせう。そして小国別と云ふ、酢でも蒟蒻でもいかぬ、梃でも棒でも槍でも鉄砲でもいかぬと云ふ、誠に早狂暴無頼な、狂暴無頼な、神司が控へて居るぢやありませぬか。そんな者をお前、そんな者をお前はどうしてお前は助けにまた、どうして助けに行くのですかい』
三千彦『ハイ、つひ行がかりで後へ引くにも引かれぬ事が出来たのです。貴女は失礼ですが、高姫さまぢやございませぬか。お帰幽になつたと云ふ事を聞いて居ましたが、矢張御壮健でウラナイ教をお開きでございますか』
高姫『ハイ、そんな噂がございますかな、高姫はこんなに丈夫でビチビチして居ますから御安心下さい。これから義理天上日の出神が説教を致しますから、一寸立寄つて下さいますまいか』
 草の中からシャルは顔を出し、
シャル『駄目だ駄目だ』
と云つては顔を隠す。
三千彦『モシ高姫さま、貴方の後からデクの坊のやうな者が変現出没して居ますが、あれは何ですか』
 草の中から、
シャル『三千彦さま私も連れて行つて下さい』
と云ふ。
三千彦『ハテナ、何だか妙なものが草の中から私の名を呼んで居るやうです』
高姫『イエ、あれは九官鳥ですよ。この原野には鸚鵡や九官鳥が棲んで居ますからチヨコチヨコああ云ふ事を云ふのです』
三千彦『ヘエ妙ですなア。この九官鳥は人間の姿をして居るぢやありませぬか』
高姫『そりやさうでせうとも、化物の世の中ですもの。岩根木根立草の片葉までも言問ふ世の中ですから、些とは変化て出るのでせう。それだから日の出神が水晶の世に立直さうと思うて、高姫の肉宮を借り、御苦労遊ばすのです』
三千彦『成程妙な事もあるものです』
 草の中から、
シャル『変化の変化の変化武者、変化神社の高姫さま、変化の変化の変化武者、変化神社のシャルさま、ウツポツポー、ホーツク、ホーツクホーホー、ホホホホー、ホーホケキヨ ホーホケキヨ、ケキヨ ケキヨ、ニヤーン、モウー、ヒンヒンヒン、ワンワンワン、ウーウーウー、キヤツ キヤツ キヤツ、チウチウチウ、キユツ キユツ キユツ、ウツポツポ、アハハハハハ』
三千彦『何とマア変化れるものですなア、こんな所に居ると何が出て来るか知れませぬ。左様なら御免を蒙ります』
とスタスタ立つて行かうとする。高姫は大手を拡げて、
高姫『待つた待つた、この関所は容易に潜る事は出来ませぬぞや、潜りたくば高姫の云ふ事を一応腹へ確りと締めこんで行きなさい、後で後悔する事が出来ますぞや』
三千彦『ヤ有難う。しかし私は少し急ぎますから今度また悠くり聞かして頂きませう』
シャル『モシモシ宣伝使様、こんな婆に相手にならず、トツトと行きなさいませ。さうして私もどうぞ連れて行つて下さい。我の強い仕方のない婆さまですよ』
三千彦『アアお前が九官鳥だつたか、そんな所に何をして居るのだ』
シャル『ハイ、鷹の命令によつて九官鳥此処に新聞のきうかん(休刊)して居ました』
高姫『こりやシャル、何と云ふ事を申すか。もう了見せぬぞや』
とグツと胸倉を取り、喉元をグウグウ押へつける。シャルは目を白黒させながら苦しさに手足をバタバタと藻掻いて居る。三千彦は見るに見兼ね、高姫の頭髪をグツと握つて引き倒した。同時にシャルは起き上り、
シャル『モシ宣伝使様、サ早く参りませう。私が何処へでも案内致します。こんな婆に相手になつて居ては耐りませぬからなア』
と云ひながら、スタスタと駆け出す。三千彦は、
『高姫様左様なら、悠くり草の褥で一休みなさいませ』
と青草茂る田圃道をスタスタと進み行く。高姫は歯ぎしりしながら恨めし気に二人の姿を見送つて居た。
 シャルの目には今まで寒風吹き荒む枯野ケ原と見えて居たのに、三千彦に遇うてから其処等一面が春野のやうになり、鳥唄ひ、花匂ふ光景が目に入るやうになつた。シャルは嬉々として三千彦の後になり先になり、北へ北へと進み行く。

(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)



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