出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語56-4-191923/03真善美愛未 痴漢王仁三郎参照文献検索
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第一九章 痴漢〔一四四九〕

 館の主人、小国別はソフアーの上に横はり息も絶え絶えに苦しんでゐる。二人の看護手は寝食を忘れて介抱に余念なかつた。小国姫はオールスチン、三千彦、ワツクスを伴ひ入り来り、
姫『旦那様、喜んで下さいませ。三五教の宣伝使三千彦様のお蔭によりまして如意宝珠の神宝が帰りましてございます。これを御覧なさいませ』
と包みを解いて目の前につきつけた。小国別は病み疲れ、衰へたる目の光りに玉を眺めてニヤリと笑ひ双手を合せて感涙に咽んでゐる。そしてただ「有難う」と一言云つたきり後の語を次ぐ事は出来なかつた。これは衰弱の甚だしき上に、余りの喜びに打たれたからである。三千彦は病人の側近く寄り、
三千『この通り御神宝が帰りました上は、またもや神様の御恵によりまして、屹度ケリナ姫様も近い中にお帰りになるでせう。御安心なさいませ』
と詞優しく慰むれば小国別は掌を合せ、娘の近い中に帰ると云ふ証言を聞くより、稍元気づき、
小国『娘が帰りますか。それは有難うございます。到底私は今度は、もう旅立をせなくてはなりませぬ。せめてそれまでに紛失した如意宝珠を、もとに還し、娘の顔を生前に一目なりと見てこの世を去りたいと思うて居りましたが、かう弱りきつては、もう三日も命が続きますまい。成る事ならば一時も早う引寄せて頂きたうございます』
三千『もう間もなくお帰りになりませう。私の耳の側で神様がさう仰せになりました。しかしながら御病気に障るとなりませぬから、吾々は控へさして頂きませう』
小国『どうぞ御自由にお休み下さいませ』
と微の声で挨拶する。家令のオールスチンは病人の側近くより、
オールス『旦那様、どうぞ気を確りして下さいませ。そして如意宝珠の玉を盗んで匿して居つたのは私の悴ワツクスでござりました。誠に偉い御心配をかけまして申訳がございませぬ。この皺腹を切つて申訳を致さむと覚悟を定めた所を奥様に止められ、惜からぬ命を少時延ばしましたが、どうぞ貴方が命数尽きてお国替遊ばすやうの事あれば屹度私もお伴致します。どうぞ何処までも主従の縁を断らぬやうにして下さいませ』
 小国別は微に首肯いた。三千彦はワツクスの手を曳いて自分の居間へと帰つて行く。二人の看護人とオールスチンに小国別の介抱を頼み置き、小国姫はまたもや三千彦の居間に来り心配さうな顔をして、
姫『三千彦様、誠に御心配ばかりかけまして申訳がございませぬが、主人は到底あきますまいかな』
三千『お気の毒ながら到底駄目でございませう。しかしながら仮令肉体はなくなつても精霊は活々として若やぎ、霊界において神様のために大活動を成されますから、御心配なさいますな。人は諦めが肝腎でございますからな』
姫『ハイ、有難うございます。最早覚悟は致して居ります。しかしながら、も一つ心配な事がございますが一寸伺つて貰ふ訳には行きませぬか』
三千『何事か存じませぬが一寸云つて御覧なさいませ』
姫『実の所は私の娘デビス姫と申すのが、今日で三七二十一日の間、昼さへ人のよう行かぬアンブラツクの滝へ、玉の所在を知らして下さるやう、父の病気が癒るやう、も一つは妹の所在が判るやうと、繊弱き女の身を以て毎晩二里の道を往復致し、何時も夜明け方に帰つて参りますが、今日はどうしたものかまだ帰つて参りませぬ。大方滝壺に落ちて命を捨てたのではございますまいか。但しは猛獣に殺されたのではありますまいか。俄に胸騒ぎがして気が気ぢやありませぬ』
三千『決して御心配なさいますな。半時経たない間に御姉妹打揃ふて、一人の修験者に送られて無事に帰られます。間違ひはございませぬからな』
姫『左様でございますかな。娘二人が帰つてくれたならば、最早心配事はございませぬ。ああ南無大慈大自在天様、何卒々々一時も早く娘二人の顔を夫の命のある間に見せて下さいますやうお願ひ致します』
と涙を流して祈り入る。
三千『これ、ワツクスさま、お前は大それた悪い事を成さつたが、これと云ふのもお前の副守護神がやつたのだから、茲に神直日大直日に見直し聞直して頂き、内分で済ます事になつてゐますから、これから心得て貰はねばなりませぬぞ』
ワツクス『ハイ、有難うござります。誠に申訳のない不調法を致しました。今度私の罪をお助け下さいますならば、無い命と心得て如何やうなる働きも致し、屹度御恩返しを致します。モシ奥様、屹度お赦し下さいますか』
姫『赦し難い罪人なれど三千彦様のお計らひにより内証で済ます事にして上げよう。これからキツと心得たがよいぞや。年寄つた一人の親に心配をかけ、本当にお前は不孝な者だ。親ばかりか、吾々夫婦や娘にまでも心配苦労をかけて困らしたのだから、今後は屹度慎んで貰はねばならぬぞや』
ワツクス『ハイ、有難うございます。これから貴方様を親様として真心を尽しお仕へ申します』
姫『これ、ワツクス、お前は親があるぢやないか、妾を主人として仕へるべきものだ。親として仕へる等とはチツと可笑しいぢやないか』
ワツクス『義においては御主人でござります。しかし情においては親様と存じてツヒ不都合な事を申しました。しかしお赦し下さつた以上は私を子として下さいませうな。実の所はエキス、ヘルマンの両人が盗み出したのでございますが、私が種々と苦心をして玉の所在を白状させ、お家のために働いたのでございます。二人の者を助けたさに私が盗つたと父に申しましたが、その実はヘルマン、エキスの両人が盗み出したのでございます。それをば父に匿して金をやり、酒を飲まして白状させ、ヤツとの事で如意宝珠を手に入れたのでございます。貴女はお忘れでもございますまいが家中一般に如意宝珠の玉の所在を探し、持つて来たものはデビス姫の養子にするとおつしやつたぢやございませぬか、さすれば仰せの通り私は御養子にして頂くべき資格があらうと存じます』
姫『そりや、お前の云ふ通り、如意宝珠の玉を探し、持つて来たものは養子にすると云ふて置いた。しかしお前は親一人、子一人、家令の家を継がねばならぬ身の上だから、それは出来ますまい。先祖の家を忽かにする訳には行くまいからな』
ワツクス『いえ、そんな心配は要りませぬ。私が養子になり、デビスさまとの間に三人や五人は子が出来ませうから、その中の一人を頂いて、私の家を継がせばよろしいぢやありませぬか』
姫『もし三千彦様、あんな事を申しますが如何したらよろしうございませうかな』
 三千彦はワツクスの顔をギユツと睨みつけ口をヘの字に結んでゐる。ワツクスは怖相に少しばかり声を慄はしながら、
ワツクス『モシ、宣伝使様、どうぞ私を約束通り、玉の発見人ですから養子にして下さるやう御とり成しを願ひます』
三千『これ、ワツクス、お前は吾々を盲にするのか、否御夫婦を騙る積りか。今云つた言葉は皆詐りだらうがな。お前はお家の重宝を匿し、御夫婦を困らし、往生づくめでデビス姫様の夫にならうとの計略をやつたのであらう。そんな事に誤魔化される三千彦ぢやありませぬぞ』
ワツクス『メメメ滅相な。さう誤解をされては困ります。あれだけ苦心してお家のためになる宝を手に入れたこの忠臣を、悪人扱ひにされては根つから勘定が合ひませぬ。どうぞも一度お考へ直しを願ひます』
三千『お黙りなさい。左様の事をおつしやると最早容赦はしませぬぞ。高手小手に縛め唐丸籠に乗せてハルナの都へ送り届けませうか。また何程お前がデビス姫様に恋慕して居つても、肝腎の姫様がお嫌ひ遊ばしたらどうする積りだ。愛なき結婚でもお前は快う思ふのか。家令の悴にも似ず、訳の分らぬ事をおつしやるぢやないか』
ワツクス『吾々を威喝して二人の恋仲を遮り後にヌツケリコとお前さまが養子に這入りこむ考へだらう。そんな事あチヤーンとこのワツクスは腹の底まで読んで居りますぞ』
三千『これはしたり、迷惑千万、何と云ふ失礼な事を仰せられるか。吾々は三五教の宣伝使、大切なるメツセージを受けてある所まで進まねばならぬ身の上、女を連れるなどとは思ひも寄らぬ事。お前の心を以て吾々の心を測量するとは些と失礼ではござらぬか』
ワツクス『宣伝使と云ふものは、そんな事をよく云ふものです。口でこそ立派に女嫌ひのやうな事を云つて居ますが蔭に廻ると、もとが人間ですから駄目ですわい。デビス姫様が欲しけりや欲しいとハツキリ云ひなさい』
姫『これ、ワツクス、何と云ふ失礼な事を申すのだ。玉盗人はお前に違ひない。現在お前の親が証明して居るのぢやないか』
 ワツクスは自棄糞になり、尻をクレツと捲つてこの場を後に、一目散に表門を潜つて駆け出した。小国姫は手を拍つてエルを招きワツクスの後を追跡せよと命じた。狼狽者のエルは皆まで聞かず、『ハイ、承知しました』とまたもや此処を飛び出し地響きさせながらドンドンドンと門外へ駆け出し、道の鍵の手になつた所を、頭を先につき出し体を横にして走る途端に、あまり広くもない道端の柿の木に大牛が繋いであつた。その牛の尻にドンと、頭突をかました。牛は驚いてポンと蹴つた拍子にエルはウンとばかり倒れた。牛は二つ三つ尻を振つて再びエルの睾丸の端をグツと踏み、力を入れてグーツと捻た。エルはキヤツキヤツと悲鳴を挙げてゐる。通りかかつた旅人や近所の家からドヤドヤと集まつて来てエルを助け、傍のある家に担ぎ込み、様子を聞けばエルは顔を顰めながら、
エル『皆さま、如意宝珠のお宝が手に入りました。そして様子を聞けばワツクスが玉の所在を探した御褒美に、デビス姫さまの婿になると云ふ事ですよ。それから小国別様は御危篤で何時息を引きとられるか分りませぬ。大方今頃は絶命れたかも知れませぬ、大変でございます。何皆さま、一時も早う各自に町内を触れまはり城内に悔みに行つて下さい』
とまだ死んでも居ないのに、手まはしよく死んだものと仮定して吹聴した。これを聞いた老若男女は次から次へと、尻はし折り駄賃とらずの郵便配達となつて、
『如意宝珠の玉が手に入つた。そして小国別が国替へをなさつて、ワツクスがデビス姫様の婿にきまつた』
と一軒も残らず、御丁寧に布令まはつた。
 テルモン山の麓の町は俄にガヤガヤと騒ぎ出し、衣裳を着替へて館へ悔みに行くもの引きもきらず、俄に大騒動が起つたやうになつて来た。エルは睾丸の端を牛の爪にむしりとられ、益々体中に熱が高まつて『死んだ死んだ』と囈言ばかり囀つて居る。
 俄に小国別の訃を聞いて泣く老若男女もあれば、馬鹿息子のワツクスがデビス姫の婿になるげなと驚いて触れる奴もあり、如意宝珠の玉が帰つたと喜ぶものもあり、テルモン山の麓の宮町はこの噂で持ちきりとなつた。気の早い男は早くも幟を立て「神司小国別の御他界を弔ふ」とか、「如意宝珠再出現」とか、「デビス姫ワツクスとの御結婚を祝す」とか云ふ長い幟を立てて、ワツシヨ ワツシヨと辻々を廻り初めた。
 かかる所へ宣伝歌の声涼しく町外れの方から聞えて来た。この声は求道居士がデビス姫、ケリナ姫を助けて帰り来るにぞありける。

(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 北村隆光録)



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