出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語56-4-181923/03真善美愛未 寛恕王仁三郎参照文献検索
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第一八章 寛恕〔一四四八〕

 小国姫は三千彦と共に一間に入つて心配らし相に、密々と話をしてゐる。
姫『モシ、アンブラツク様、家令の態度がどうも貴方が御出になつてから、何だかソワソワしてゐるやうですから、彼の悴でももしや玉を隠したのではございますまいか。吾々夫婦を困らせ窮地に陥れ、娘のデビス姫を女房に致し、良からぬ思惑を立てようとしてゐるのではございますまいか。どうも常から怪しいと思つてゐますが、何を云つても家令の悴ではあり、言ひ出しかねて誠に困つて居ります。貴方の御考へはどうでございますな』
三千『モシ貴方、家令の悴が如意宝珠の玉を隠して居つたとすれば、どうなさる考へでございますか』
姫『左様な事が判れば、何程家令の息子と云つても許す事は出来ますまい』
三千『ここはともかく円満に事を済まさなくてはなりますまい。第一お館の恥になりますから……、そして世間へパツとしてからは仕方がありませぬから、成るべくは内証で済ましてやつたらどうでございませう』
姫『玉さへ還つて参りますれば、吾々夫婦の不調法にもならず、皆が助かる事ならば余り表へ出したくはございませぬ。しかしながらこれも明瞭した事は判りませぬから貴方様に伺つて頂きたいと思つて、主人の病気の看護の隙に御居間まで参りました』
三千『貴方が如何なる罪も内済にしてやると云ふ御考へならば申しませう。実は御察しの通り家令の悴ワツクス、並にエキス、ヘルマンと云ふ三人の若い者がある目的のため宝珠を盗んで隠してゐるのです』
姫『ああ、それで合点が行きました。どうもワツクスの態度がソワソワして居ると思ふて居りました。家令のオールスチンは極めて忠実な正直な者でございますから、彼に限つてそんな事をする気遣はございませぬが、体は生みつけても、魂は生みつけぬとか申しまして、英雄豪傑の悴に馬鹿が生れたり、忠臣義士の子に叛逆人の生れるのは世間に沢山ある習ひでございますから、家令が貴方の話を聞いて慌てて帰りましたのも、何か心に当る事があつたのでございませう。それに就て僕のエルをして様子を考へにやらせましたがどうしたものか未だ帰つて来ませぬ』
三千『ヤ、今に帰られます。さうすれば真相が解ります。成るべくこれは大業にしては成りますまい』
と話す処へ、僕のエルは慌ただしく帰り来り、息を喘ませながら、
エル『モシ奥様、タタ大変でございます。殺し合ひが始まりました』
姫『ナニ、殺し合が始まつたと……どこかに喧嘩をして居つたのかい』
エル『メメ滅相な、殺し合といつたら喧嘩ぢやありませぬがなア。喧嘩のモ一つ毛の生えた事ですがなア。ソレ生命の取合の事ですがなア。怖ろしや怖ろしや、地異天変地異天変、喉を締める、置物をブツつける、喚く、裏口から山越しに逃げ出す、庫へスツ込む、ソレはソレは偉い事でございました』
姫『エル、そんな事云つて解るかい。そら一体何処の事だい』
エル『ヘイ、定つて居りますがなア。家の中の事ですがなア』
姫『誰と誰とが喧嘩をしたと云ふのだ』
エル『男と男が命の奪り合をしたのです。エー、解らぬ御方ですなア』
姫『何処の何兵衛だと問ふてゐるのぢや』
エル『エー辛気臭い、何兵衛も彼兵衛もありますかい。愚図々々して居ると生命が失くなりますがなア。アアもどかしい事だワイ』
姫『そんな解らぬ事を何時までも云つて居つても埒があかぬぢやないか。此方がもどかしいワ。家令の館へ未だ行かぬのか。大方犬の喧嘩でも見て居つたのだらう』
エル『ハイ、その家令ですがなア。それはそれは偉い事怒つてましたよ。大きな額口に青筋を立てましてね……』
三千『アハハハハ、イヤもうエルさまとやら、分つて居ります。お前さまは随分慌てて居るから、云ふ事がシドロモドロになつて解り憎いが、お前は家令の宅へ行つて四人の喧嘩を見て来たのだらう』
エル『ハイその通りでございます。サアこれから村中を布令て来ます。大変ぢや大変ぢや』
と飛び出さうとするのを、小国姫は襟髪掴んでグツと引戻し、
姫『コリヤ、エル、何処へも行く事はならぬ。そして何も喋る事はならぬぞ』
エル『ソソそんな事おつしやつても、これが黙つて居られませうか。愚図々々して居ると家令の生命が失くなるか知れませぬぞや』
三千『エルさま、まア落付いて下さい。家令は大丈夫だから、そして何も云つちやなりませぬよ』
 エルは『ハイ』と云ひながら、縮んでしまつた。
三千『奥さま、どうやらワツクスが隠してゐたところ、家令殿に看破されて一悶着が起つたと見えます。これは私に任して下さい。キツト如意宝珠を持つて帰り御目にかけます。そして家令の親子を私に任して下さいませ。かうして発見したのも矢張神様の御蔭でございますからなア』
姫『何事も神徳高き貴方様の仰せ、御任せ申します』
と話して居る処へ、家令のオールスチンは、吾子のワツクスを引立てながら、如意宝珠の玉を幾重にも厳重に包み、この場に現はれ来り、パツと両手をつき、
オールス『奥様、誠に申訳の無い事を致しました。悴の馬鹿者が悪い友達に唆され、種々の謀叛を企み、隠して居りましたのを漸く覚り、悴に腰縄をつけて、此処迄お詫に参りました。何れ倅は生命の大罪人でございますから、思ふ存分にしてやつて下さいませ。私の倅に斯様な者が出来たと思へば旦那様へも、世間へも申訳が立ちませぬから……』
と云ふより早く懐剣を引抜き、矢庭に吾腹に突立てようとする一刹那、三千彦は飛び下りて懐剣をもぎとり、声を励まして、
三千『オールスチン殿、心を落付けなされ。何事も皆神様の摂理でございませう。この問題は奥様より私が一任されて居りますから、先づ御急きなさるには及びませぬ。今死ぬる命を長らへて御主人様へ忠義を御尽しなさる方が、何程誠が通るか知れませぬよ。そして貴方の息子、ワツクス殿も三千彦が預かつて居りますれば安心なさるがよろしい。実の処私はアンブラツクとは仮の名、実は三五教の宣伝使三千彦と申す者、当館はバラモン教だと知つた故に、故意とバラモン教の宣伝使と化け込んで御救ひに参つたのです。今まで吾名を詐つた罪は奥様を始め御一同様御許しを願ひます』
姫『エー何とおつしやいます。貴方は三五教の宣伝使様でございましたか。これはイカイ御無礼を致しました。しかしながらよくまア急場を助けて下さいました。有難う存じます。貴方の御神徳によつて玉の所在が分り、こんな嬉しい事はございませぬ』
三千『三五教と云ひ、バラモン教と云ふも元を正せば一つの神様でございますから、教に勝劣はございますまい。ただ道を奉ずるものの心によつて御神徳の現はれに大小高下の区別がつくだけのものです』
オールス『貴方は初めて御目にかかつた時から、何処とはなしに変つた御方と思つて居りましたが、三五教の宣伝使でございましたか。誠に失礼致しました。斯様な乱痴気騒ぎを御目に掛け、誠に御恥かしうございます。吾々親子はバラモンの顔に泥を塗つたものですから、どうぞ死なして下さいませ。こればかりがお願でございます。そして私の自殺によつて倅の罪を幾分軽くして下さる事ならば、それを冥途の御土産として、勇んで死に就きます。南無大自在天大国彦命様……』
と合掌し、決死の覚悟を示して居る。
 三千彦は立上り宣伝歌を歌ひ始めたり。

『三五教の宣伝使  吾は三千彦神司
 神の御綱に操られ  不知々々にテルモンの
 山の麓に現はれて  清き流れを打ち渡り
 此方に向つて進む折  小国姫の神司
 二人の侍女を伴ひて  いと懇に吾が身をば
 館に誘ひ帰りまし  種々雑多の御悩み
 包まず隠さず宣り玉ひ  はからせ玉ふを聞くよりも
 同情の涙に堪えかねて  皇大神の御前に
 真心籠めて祈る折  神の化身のスマートが
 吾が耳近く声をかけ  如意の宝珠の行衛をば
 完全に委曲に相示し  ケリナの姫やその外の
 数多の託宣下しつつ  雲路を分けて帰ります
 吾れは心も勇み立ち  小国姫に打ち向ひ
 天地の道理を説き諭し  ただ何事も神直日
 心も広き大直日  見直しませと勧めつつ
 神の御前に平伏して  この難局をいと安く
 結ばむために村肝の  心を千々に配りけり
 時しもあれやエルさまは  慌ただしくも入り来り
 家令の館に人殺  大騒動が突発し
 居たりと報告聞くよりも  外へ洩れては一大事
 如何はせむと思ふ折  オールスチンの御入来
 珍の宝を芽出度も  此処に運ばせ玉ひたる
 この瑞祥はテルモンの  館の万代不易なる
 瑞祥なりと祝ひつつ  凡ての曲を宣り直し
 ただ何事も大神の  さばきに任せ奉るべし
 人は神の子神の宮  元より悪しきものならず
 八岐大蛇や醜神の  曲津霊に曇らされ
 不知々々に悪魔道へ  堕ち行きたりしものなれば
 皇大神に賜ひたる  厳の言霊宣り上げて
 いろいろ雑多の罪科を  科戸の風に吹払ひ
 払ひ清めて速川の  流れの如く身体や
 霊に塵も止めざれと  皇大神の御前に
 三千彦祈り奉る  小国姫よオールスチンよ
 ワツクス司よ心安く  思召されよ三千彦が
 ここに現はれ来し上は  如何でか罪人造らむや
 心安かれ惟神  神に誓ひて宣り伝ふ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠一つの三五の
 教に身をば任しなば  如何なる曲の猛びをも
 決して怖るる事は無し  尊み敬へ三五の
 皇大神の御神徳  バラモン教を守ります
 大国彦の御稜威  ああ惟神々々
 霊幸はひましませよ』  

 三千彦の歌にて家令のオールスチン及ワツクスはヤツと安心し、涙を流して神恩を感謝し、如意宝珠を奉持して小国別の病室に罪を陳謝すべく、小国姫、三千彦と共にシトシトと進み行く。

(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 外山豊二録)



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