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物語56-3-121923/03真善美愛未 照門颪王仁三郎参照文献検索
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第一二章 照門颪〔一四四二〕

 求道居士はケリナ姫を伴ひながら、テルモン山の小国別の館を指して送り行く途々歌ひ出したり。

求道『有為転変は世の習ひ  とは云ふものの人の身の
 行末こそは不思議なれ  三国一の月の国
 ハルナの都に程近き  大国彦の現れませる
 大雲山に立籠り  バラモン教の御教を
 朝な夕なに信仰し  抜擢されてバラモンの
 教司と任けられつ  追々功績を現はして
 大黒主の御見出しに  あづかり遂にカーネルの
 尊き職を授けられ  神素盞嗚の現れませる
 斎苑の館を屠らむと  大黒主の命を受け
 鬼春別や久米彦の  両将軍に扈従して
 旗鼓堂々と月の国  後に眺めて進み行く
 万里の山野を跋渉し  蹄の音も勇ましく
 浮木の森まで進軍し  片彦、久米彦将軍と
 隊伍を整へ河鹿山  進む折しも三五の
 治国別の言霊に  打破られて敗走し
 浮木の陣屋へ引返し  またもや茲に全軍を
 二つに分けてライオンの  広き流れを相渡り
 ビクトル山の袂にて  仮の陣屋を造りつつ
 ビクトリア城を脅かし  味方の軍勢に驚いて
 ゼネラル様と諸共に  総隊崩れ逃げ出す
 戦の庭に出でながら  薄の穂にも怖ぢ恐れ
 慄ひ慄ひて広野原  漸く渡りシメヂ坂
 壁立つ如き坂道を  漸く下り猪倉の
 難攻不落の山寨に  永久的の陣営を
 構へて時を待つ内に  またも聞ゆる宣伝歌
 三五教に名も高き  神将軍と聞えたる
 治国別の一行に  またも攻められゼネラルは
 脆くも茲に兜脱ぎ  バラモン教の軍職を
 捨て忽ち三五の  教の道のピユリタンと
 変らせ玉ふ果敢なさよ  吾等も共に進退を
 同じうせむとカーネルの  職をば止めて修験者
 名も求道と改めて  ビクの御国の清滝に
 霊を洗ひビクトルの  下津岩根に宮柱
 太しく立てて永久に  鎮まり居ます大神の
 御前に日毎詣でつつ  治道、道貫、素道居士
 三人の許しを受けながら  フサの国をば横断し
 猛獣毒蛇の荒ぶ野を  神の光を杖となし
 夜路の露をば浴びながら  エルシナ川の麓まで
 来る折しも大空の  月は漸く薄らぎて
 忽ち聞ゆる鳥の声  川の水瀬のはやる音
 たよりに伝ひ下る折  淵に浮かんだ四人の姿
 見逃がしならずと衣を脱ぎ  法螺を口に喰へつつ
 ザンブとばかり飛込んで  四人の男女を空砂の
 上に救ひて耳元に  大法螺貝を吹立つる
 神の恵は忽ちに  シヤール一人を除く外
 三人は息を吹き返し  やつと胸をば撫で下し
 三人の男女に皇神の  御教を完全に諭しつつ
 大岩谷の麓まで  来りて息を休めつつ
 十字の秘法や数歌の  功力を伝へゐたる折
 悪逆無道のベルの奴  わが懐に金子ありと
 早くも悟り悪心を  起して奪らむと攻め来る
 ヘルとベルとは初めより  わが懐を狙ひつつ
 八百長喧嘩を徐々と  真面目にやり出し
 ベルの司は逸早く  この場を後に逃げて行く
 さはさりながらヘルの奴  色と欲とに心をば
 曇らせ吾等の後を追ひ  ケリナの姫を送らむと
 草野を別けて進み来る  日も黄昏になりぬれば
 ポプラの蔭に立寄りて  息を休むる折もあれ
 またもや来る黒い影  これぞ正しくベルの奴
 ヘルと二人が言ひ合せ  吾が懐を狙はむと
 来りしものと悟りしゆ  いろいろ雑多と真道を
 説き諭せども如何にせむ  地獄の境に堕ち果てし
 二人の霊は飽くまでも  悪の企みを遂げなむと
 忽ち棍棒振り翳し  吾が脳天を打すゑぬ
 何かは以て耐るべき  忽ちウンと昏倒し
 夢路を辿る折もあれ  高天原の霊国を
 領有ぎ玉ふエンゼルが  鳩の如くに下りまし
 吾等二人の危難をば  救ひ玉ひし有難さ
 ああ惟神々々  神の恵を目の当り
 受けたる吾々両人は  仮令如何なる悩みにも
 撓まず屈せず道のため  世人のために真心の
 有らむ限りを尽しつつ  進まにやならぬ両人を
 守らせ玉へ惟神  皇大神の御前に
 畏み畏み願ぎ奉る  旭は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  星は天より落つるとも
 印度の海はあするとも  この大恩は何時の世か
 報い奉らで置くべきぞ  思へば思へば有難き
 恵の露の天地に  充ち足ひたる神の世は
 草野の末に置く露も  一々月の御光を
 宿し玉ひて瑠璃光の  如く光らせ玉ふなり
 ああ天国か楽園か  際限もなき広野原
 進み行く身ぞ楽しけれ』  

ケリナ『わが足乳根の父母は  月の都に現れませる
 バラモン教の太柱  大黒主の部下となり
 仁慈無限の御教を  テルモン山の山腹に
 大宮柱太知りて  鎮まりゐます皇神に
 朝な夕なに仕へつつ  四方の国人悉く
 神の教に靡かせつ  教を開き玉ひしが
 ウラルの教の神司  数多の手下を引率れて
 得物を携さへ堂々と  勢猛く迫り来る
 その勢に辟易し  吾が足乳根は逸早く
 館を捨ててテルモンの  高嶺を渡り森林に
 しばし難をば避け玉ふ  この時信者と現れませる
 鎌彦司が現はれて  神変不思議の神力を
 現はし玉ひ攻め来る  ウラルの教の司等を
 一人も残らず退けて  難をば救ひ玉ひしゆ
 吾が足乳根は漸くに  元の館に帰りまし
 神の教を詳細に  開かせ玉ふ折もあれ
 館の難を救ひたる  鎌彦司は妾をば
 ラブし給ひて朝夕に  言ひよりたまひし果敢さよ
 妾は素より鎌彦に  少しも心はなけれ共
 度重なれば何時となく  男の情けを慕ひ出し
 遂には割なき仲となり  父と母との目を忍び
 月夜を恨み暗の夜を  指折り数へ待ち暮す
 怪しき仲とはなりにけり  さはさりながら足乳根の
 吾が両親は頭をば  左右にふりて両人が
 恋を許させ玉ふべき  気色なければ止むを得ず
 夜陰に紛れて両人は  手に手をとつて逃げ出し
 エリシナ谷の山奥に  形ばかりの草庵を
 結びて暮す折もあれ  吾が背の君の鎌彦は
 俄に駱駝を引つれて  妾を家に残しつつ
 何処ともなく出でましぬ  深山の奥にただ一人
 果実を喰ひ芋を掘り  漸く餓を凌ぎつつ
 悲しき月日を送ること  早一年に及べども
 夫の便りは泣くばかり  袖をば濡らす草の露
 衣は破れ肉は痩せ  見る影も無き状となり
 淋しき浮世を果敢みて  冥途の旅をなさむかと
 庵を後に夜の道  エルシナ川の川岸に
 佇み胸を押へつつ  少時思案に暮れけるが
 何処ともなく吾が耳に  死ねよ死ねよと教へ来る
 醜の曲津か知らね共  切迫詰つたこの場合
 死ぬより外に途無しと  心を定めて飛び込めば
 千尋の底の青い淵  息も苦しくなりければ
 再び娑婆が恋しうなり  ま一度生命を保たむと
 焦れど詮なし女の身  弊衣に水を含みしゆ
 身もままならず悶え居る  時しもあれや何物か
 吾が身に触るる物ありと  矢庭にしかと抱き付き
 浮つ沈みつ争へば  何時しか息は絶え果てて
 前後不覚となりにけり  かかる処へヘル司
 現はれ来り両人を  救ひ助けて森林の
 中に伴ひ労りつ  種々雑多の介抱に
 再び正気に復しける  悪逆非道の一人は
 妾の姿見るよりも  あやしき眼を光らせて
 耳も汚るる口説言  三人の男は吾が身をば
 妻になさむと争ひつ  パインの蔭に組みついて
 組んづ転んづまた元の  青淵目蒐けて落ち込みぬ
 妾を救けし恩人の  生命を助けにやなるまいと
 吾が身を忘れて飛び込めば  またもや溺れて人心
 無き身とこそはなりにけり  これより一行四人連れ
 青野ケ原を打渡り  当途もなしに進み行く
 忽ち関所に突き当り  容子を聞けば霊界の
 八衢関所と聞きしより  吾等が一行驚いて
 再び元の道をとり  帰らむとする折もあれ
 酒に酔ふたる六造が  またもや途中に塞がりて
 何ぢやかんぢやと口説出す  こりや怺らんと思ふ折
 向ふの方より足早に  走り来れる婆々あり
 一行五人は怪しみて  道の側への草原に
 身を隠したる時もあれ  婆々はツツと立止り
 不思議な手つきで招きつつ  日出神の義理天上
 底津岩根の太柱  みろくの神の生宮だ
 これからお前等一同に  天国浄土の真相を
 諭してやるから跟いて来い  なぞと言葉も滑らかに
 いと熱心に説きつける  何はともあれ行き見むと
 婆々の後に従ひて  川を隔てて岩山の
 賤が伏屋に跟いて行く  ウラナイ教の旗頭
 高姫さまが住家ぞと  聞いて驚く胸の内
 さあらぬ顔を装ひて  様子を伺ひ居たりしが
 忽ち聞ゆる法螺の声  三五教の修験者
 求道居士が現はれて  吾等一同の危難をば
 救はせ玉ふと見る内に  俄に聞ゆる水の音
 小鳥の声も爽かに  耳に入るよと見るうちに
 再び息を吹返し  またもや救ひ上げられて
 漸う此処まで帰りけり  ああ惟神々々
 尊き神の御恵に  守らせ玉ひて道の上
 包む隈なく足乳根の  居ますわが家へ速に
 帰させ玉へ惟神  神の御前に願ぎ奉る』

と歌ひつつ求道居士の後に従つて、夜道を辿るのは、ケリナ姫であつた。
 忽ち聞ゆる猛獣の唸り声、前後左右より一斉に山彦を轟かして聞え来る。求道居士は天の数歌を歌ひ上げ、

『真観清浄観  広大智慧観
 悲観及慈観  常願常瞻仰
 無垢清浄光  慧日破諸闇
 能伏災風火  普明照世間
 悲体戒雷震  慈意妙大雲
 澍甘露法雨  滅除煩悩炎
 諍訟経官処  怖畏軍陣中
 念彼観音力  衆怨悉退散
 妙音観世音  梵音海潮音
 勝彼世間音  是故須常念
 念々勿生疑  観世音浄聖
 於苦悩死厄  能為作依怙
 具一切功徳  慈眼視衆生
 福聚海無量  是故応頂礼』

と念じながら、負ず劣らず、力一杯法螺貝を吹き立てた。法螺貝の声は山野の邪気を払ふものである。ケリナ姫は猛獣の声に戦慄し、求道居士の腰に喰ひつき、泣き声になつて居士に従ひ経文を誦唱して居る。しばらくにしてさしも激しき猛獣の唸り声はピタリと止まつた。天を封じて居た雲は俄に散つて夏の月は洗ひ出したやうに、中天低く輝き始めた。これよりケリナ姫は何となく求道居士を尊信愛慕するの念益々深くなり、ハートに折々波を打たせ胸を焦がすに至りたり。

(大正一二・三・一六 旧一・二九 於竜宮館二階 外山豊二録)



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