出口王仁三郎 文献検索

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物語56-2-61923/03真善美愛未 高圧王仁三郎参照文献検索
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第六章 高圧〔一四三六〕

 高姫に導かれて四人の男女は、細谷川の一本橋を渡り、二間造りの小さき家に導かれた。高姫の精霊は既に地獄に籍を置き、直ちに地獄に下るべき自然の資格が備はつてゐる。しかしながら仁慈無限の大神は如何にもしてその精霊を救ひやらむと三年の間、ブルガリオの修行を命じ給ふたのである。総て精霊の内分は忽ち外分に現はれるものである。外分とは概して言へば身体、動作、面貌、言語等を指すのである。内分とは善愛の想念や情動である。
 地獄界に籍を有する精霊は最も尊大自我の心強く、他に対して軽侮の念を持しこれを外部に不知不識の間に現はすものである。自分を尊敬せざるものに対しては忽ち威喝を現はし、または憎悪の相好や復讐的の相好を現はすものである。
 故に一言たりともその意に合はざる事を言ふ者は、忽ち慢心だとか悪だとか虚偽だとか、いろいろの名称を附して、これを叩きつけむとするのが地獄界に籍を置くものの情態である。
 現界における人間もまた、顕幽一致の道理によつて同様である。現界、霊界を問はず地獄にあるものは、全て世間愛と自己よりする、諸の悪と諸の虚偽に浸つてゐるが故に、その心と自己の心と相似たるものとでなければ、心の相応せないものと一緒に居る事は実に苦しく、呼吸も自由に出来ない位である。しかしながら悪即ち地獄における者は悪心を以て悪を行ひ、また悪を以て総ての真理を表明したり、説明せむとするものである。故にその説明には矛盾撞着支離滅裂の箇所ばかりで、正しき人間や精霊の眼から見れば、実に不都合極まるものである。かかる悪霊が地獄界に自ら進んで堕ちゆく時は、其処に居る数多の悪霊は、彼等の上に集まり来り、峻酷獰猛なる責罰を加へむとするものである。その有様は現界における法律組織と略類似して居る。総て悪を罰するものは悪人でなければならぬ。虚偽、譎詐、獰猛、峻酷等の悪徳無きものは到底悪人を罰することは出来得ないのである。しかしながら現界と幽界と異なる点は現界にては大悪が発見されなかつたり、また善人が悪と誤解されて責罰を受くる事が沢山にあるに反し、地獄界においては、悪その物が自ら進んで堕ち行くのであるから、恰も衡にかけた如く、少しの不平衡も無いものである。
 しかして獰猛と峻酷の内分もまた外分即ち相好の上に現はるるものである。故に地獄に墜ちて居る邪鬼及邪霊は何れもその内分相応の面貌を保ち生気無き死屍の相を現じ、疣や痣、大なる腫物等一見して実に不快な感じを与ふる者である。しかしこれは天国に到るべき天人の目よりその内分を透して見たる形相であつて、地獄の邪霊相互の間にては決して余り醜しく見えない者である。何故なれば彼等は皆虚偽を以て真と信じ、悪を以て善と感じて居るからである。時あつて天上より大神の光明、地獄界を照す時は、彼等は忽ち珍姿怪態を曝露し、恰も妖怪の如き相好を現はし、自らその姿の恐ろしきに驚くものである。しかしながら天界より光明下り来る時は、朦朧たる地獄は層一層暗黒の度を増すものである。愛善の徳と信真の光明は悪と虚偽とに充されたる地獄では益々暗黒となるものである。故に如何なる神の稜威も善徳も、信真の光明も、地獄に籍を置きたる人間より見たる時は、自分の住する世界よりは暗黒に見え、真理は虚偽と感じ、愛善の徳は憎悪と感ずるに至るものである。故に大部分地獄界に堕落せる現代人が、大本の光明を見て却てこれを暗黒となし、至善至美の教を以て至醜至悪の教理となし、或は邪教と誹るに至るは、その人の内分相応の理によつて寧ろ当然と謂ふべきものである。
 高姫は中有界に放たれ精霊の修養を積むべき期間を与へられたるにも拘らず、容易に地獄の境涯を脱する事を得ず、虚偽を以て真理となし、悪を以て善と信じ、一心不乱に善の道を拡充せむと車輪の活動を続けて居るのである。類を以て集まるとか云つて、自分の内分に相似たるものでなければ、到底相和する事は霊界においては出来ない。現界ならばいろいろと巧言令色、或は虚偽なぞに由つて内分の幾分かを包み得るが故に高姫の教を聞くものも多少はあつたけれども、最早霊界に来つては自分と相似たるものでなければ、共に共に生涯を送る事が出来なくなつてゐた。しかしながら高姫は依然として現界に居るものとのみ考へ、八衢の守衛が言葉も半信半疑の体に取扱ふてゐた。霊界へ来てから殆ど一ケ年、月日を経るに従つて守衛の言葉は少しも意に止めなくなり、益々悪化しながらも自分の教は至善である、自分の動作は神に叶ひしものである、しかして自分は義理天上日出神の生宮で、天地を総轄したる底津岩根の大弥勒の神の神柱と固く信じてゐるのだから堪らない。さて高姫は四人の男女を吾居間に導き、自分は正座に傲然としてかまへ、諄々として支離滅裂なる教を説き初めた。
高姫『皆さま、よくまア日出神の教に従つて此処へ跟いてござつた。お前は余程因縁の深いお方だぞえ。こんな結構な教は鉄の草鞋が減る所まで世界中を探し廻つても外にはありませぬぞや。そして喜びなされ、この高姫は高天原の第一霊国のエンゼルの身魂で、根本の根本の大神の生宮だから、天も構へば地も構ひ、何処も彼処も一つに握つた太柱、扇で譬へたら要だぞえ。時計で喩たら竜頭のやうな者だ。扇に要が無ければバラバラと潰れてしまふ。時計に竜頭が無ければ捻をかける事も出来ますまい。それだからこの高姫は根本の根本の世界にまたと無い如意宝珠の玉ぢやから、よく聞きなされや。お前達は泥坊をしたり、バラモンの軍人になつたり所在悪をやつて来たのだから、直様地獄へ堕すべき代物だけれども、この高姫の生宮の申す事をよく聞いて行ひを致したなれば結構な結構な第一天国へでも助けて上げますぞや』
と止め度もなく大法螺を吹き立てる。しかしながら高姫自身は決して自分の言葉は大法螺だとは思つて居ない。正真正銘一分一厘間違ひのない神の慈言だと固く信じて居るのだ。
ヘル『モシ高姫様、貴女がそれほど偉い御方なら何故天へ上つて下界を御守護遊ばさぬのですか。このやうな山のほでらに御殿を建てて吾々のやうな人間を一人や二人捉まへて説教をなさるとは、神としては余り迂濶ぢやないですか。世界中には幾億万とも知れぬ精霊があるにも拘らず、根本の大神様の生宮さまが左様な事をなさるとは、些と合点が参りませぬワ。要するに高姫さまの法螺ではございますまいかなア』
 高姫は忽ち地獄的精神になり、軽侮と威喝と憎悪の面相を表はし、且プンプンとふくれ出し言葉まで地獄の相を現はして来た。
高姫『コレお前は何といふ途方もない事を言ふのだ。ホンに虫けら同然のつまらぬ代物だな。勿体なくも神の生宮を軽蔑するとは以ての外ぢや。そんな不量見な事ではこの生宮は許しませぬぞや。直ちに地獄へ堕してやるからその積りでゐなされよ』
と獰猛なる形相に憤怒の色を現はし、歯をキリキリと噛みしめて、眼を怒らし睨めつけて居る。
 ヘルは高姫の面貌を見てギヨツとしながら、屹度胸をすゑ、肱を張りわざとに体を前の方へ突き出し、胸の動悸をかくし、
ヘル『アハハハハハ吐したりな高姫、その鬼面は何の事、仁慈無限の神様は些とばかり気に入らぬ事を云つたからとて、そんな六ケ敷い相好はなさりませぬぞや。神は愛と善と信とではござらぬか。仮にも人を威喝、軽侮、憎悪するやうな事で、どうして正しい神と云へますか。御控へ召され』
と呶鳴りつけた。
 高姫は烈火の如く憤り、相好益々獰猛となり、さも憎々しげに睨めつけながら、
高姫『コリヤ、バラモンの小盗人奴、何を云ふのだ。誠の生神は貴様のやうな盲聾に分つて堪らうか。お前は心の中に悪と云ふ地獄を築き上げてゐるから、この日出神の円満なる美貌が怖く見えたり、善言美詞が悪言暴語の如く聞ゆるのだ。身魂の階級が違ふと悪が善に見え、善が悪に見えたりするものだ』
と自分の悪と虚偽とにより地獄に堕ち居る事を知らず、無性矢鱈に他に対して悪呼はりをしてゐる。人間も精霊も此処まで暗愚になつては如何なる神の力もこれを救ふ事は出来ないものである。
 ヘルは高姫の前に首をヌツと突き出し、背水の陣を張つたつもりで、握り拳を固め、
ヘル『今一言、何なと言つて見よ。この鉄拳が貴様の脳天に障るや否や木端微塵にしてくれるぞよ』
との勢を示してゐる。流石の高姫もその権幕に辟易したか、ヘルに向つてはそれ切り相手にしなかつた。ヘルは振り上げた拳のやり所がなくなつて、首尾悪げに元へ直した。
 高姫はニヤリと笑ひながらさも横柄な面付して後の三人を見下し、
高姫『コレ六公にシャル、ケリナ、何と云つても身魂の因縁性来の事より出来ぬのだから、妾の云ふ事が耳に入らぬ人は、どうしても地獄行きぢやぞえ。皆々、どうだい、一つこの生宮の云ふ事を聞いて天国へ上る気はないか』
ケリナ『ハイ有難うございます。到底妾のやうな罪深き人間は自分の造つた罪業によつて相応の地獄へ行かねばなりますまい。何程貴女様が天国へ救ひ上げてやらうとおつしやつて下さつても、身魂不相応の所へ行くのは苦しくて堪えられませぬ。妾は現在のまま何時までもこの世に暮したいと存じます』
高姫『ハテ、さて解らぬ方だなア。神が御蔭をやらうと思ふてつき出して居るのに受取らぬと云ふ事があるものか。諺にも……天の与ふるものを取らざれば却つて災その身に及ぶ……といふ事があるぢやないか。何故この生宮がつき出した神徳を辞退するのだい』
ケリナ『ハイ、御親切は有難うございますが、神様から頂いた神徳なれば自分がお返し申さぬ限り決して取上げらるる事はございませぬ。しかしながら人間さまから頂いた神徳は、何時取返されるか知れませぬから、初めから頂かない方が、双方の利益でございませう』
高姫『コレ、ケリナ、何と云ふ解らぬ事をお前は云ふのだい。最前からも云つた通り、底津岩根の大弥勒さまの生宮ぢやないか。この生宮を人間ぢやと思ふて居るのが、テンカラ間違ひぢやぞえ。それだからお前は改心が足らぬといふのだ。お前が妾の館へ来たのも昔の昔の根本の古き神代から、身魂の因縁があつて引寄せられたのだ。お前の大先祖は大将軍様を苦しめた十悪道の身魂ぢやから、その罪が子孫に伝はり今度は世の立替立直しにつれて、大掃除が始まるのだから、悪の系統の身魂は焼き亡ぼし、天地の間に置かぬやうにするのだから、この生宮の申す間に柔順に聞く方が、お主の徳ぢやぞえ』
ケリナ『ハイ、御親切は有難うございますが、妾には大先祖がどんな事をして居つたか、中先祖がどうだつたか、そんな事はテンと解りませぬ。私は私で信ずる神様がございますから、折角ながら御辞退を致します』
高姫『ドークズの身魂といふものは上げも下しもならぬものだなア。人間の分際として根本の因縁が解るものかいなア。それだからこの高姫が身魂調べをして各自に因縁性来を表はし、因縁だけの御用を仰せつけるのだ。先祖からの因縁性来が解らぬやうな事で、どうして底津岩根の大神様の生宮の御用が勤まりますか。神の申す間に柔順に聞いて置きなさらぬと後で後悔を致しても、其処になりたらモウ神は知りませぬぞや。マア悠りと胸に手を当てて雪隠へでも入つて考へて来なさい。アーア一人の氏子を誠の道に導かうと思へば、並や大抵の事ぢやない。乃木大将が旅順口を十万の兵士を以て落したよりも難いものだ。針の穴へ駱駝を通すよりも難い。これでは神も骨が折れるワイ。盲聾に何程結構な事を噛んで含めるやうに言ひ聞かしてやつても、豚に真珠、猫に小判のやうなものだ。憐れみ玉へ助け玉へ、底津岩根の大弥勒様』
と掌を合し一生懸命にケリナ姫の改心を祈つてゐる。シャル、六造の二人はこの問答をポカンと口を開けたまま延び上つて立膝しながら聞いてゐる。しばらくは土佐犬の噛み合ひのやうな光景で沈黙の幕が下りた。其処へ銅羅声を張り上げて門の戸をブチ割れるほど叩くものがある。
 高姫はツと立上り四人を尻目にかけながら、門の戸を開くべく表を指して進み行く。

(大正一二・三・一四 旧一・二七 於竜宮館二階 外山豊二録)



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