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物語56-1-51923/03真善美愛未 鷹魅王仁三郎参照文献検索
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第五章 鷹魅〔一四三五〕

 この世を造りし元津祖  弥勒の神は高姫が
 肉のお宮に憑りたる  日の出神とこじつけて
 金剛不壊の如意宝珠  その外百の神宝に
 執着強く四方の国  海洋万里の波渡り
 騒ぎまはりしその結果  仁慈無限の瑞御霊
 神素盞嗚の大神の  水も洩らさぬ執成に
 心の底から悔悟して  誠の道に生き復り
 しばらく聖地に現はれて  教を伝へ居たりしが
 淡路の里の東助が  昔馴染と聞きしより
 再び狂ふ心猿意馬の  止め度もなしに躍動し
 生田の森を後にして  長の海山打渡り
 心いそいそ斎苑館  ウブスナ山の聖場に
 詣で来りて東助に  過ぎし昔の物語
 シツポリなして旧交を  回復せむと恋愛の
 雲に包まれ村肝の  心は暗となりにけり
 信心堅固の東助は  恋に狂へる高姫に
 ただ一瞥もくれずして  いと素気なくも刎ねつける
 心曇りし高姫も  愈自暴自棄となり
 またもやもとの悪身魂  再発なして河鹿山
 嵐に面を曝しつつ  恥も名誉も知らばこそ
 玉国別の築きたる  祠の森に立寄りて
 ここに教主となりすまし  館の主人珍彦を
 眼下に見下し居たる折  大雲山に蟠まる
 八岐大蛇の片腕と  兇党界にて名も高き
 妖幻坊に操られ  斎苑の館の時置師
 杢助総務と誤解して  うまく抱き込み一旗を
 挙げて聖地に立籠もる  東野別の向ふ張り
 恋の意趣を晴らさむと  企み居たりし折もあれ
 初稚姫が現はれて  千変万化の活動に
 居堪りかねて妖幻坊  高姫諸共森林を
 潜つてスタスタ逃げ出し  小北の山の神殿に
 夫婦気取で進み入り  神の光に照らされて
 曲輪の玉を落しつつ  高姫諸共逃げ出す
 妖幻坊の杢助は  高姫司と諸共に
 バラモン軍の屯せし  浮木の森に現はれて
 あらゆる魔法を行ひつ  世人を悩め居たる折
 三五教に名も高き  天女に等しき神司
 初稚姫やスマートの  声に驚き妖幻坊
 黒雲起し高姫を  小脇に抱へ空中を
 逃げ行く折しもデカタンの  大高原の中央に
 高姫司を遺失して  雲を霞と逃げて行く
 高姫空より墜落し  人事不省に陥りて
 霊肉脱離の関門を  漸く越えて遥々と
 八衢関所に来て見れば  さも勇ましき赤白の
 守衛に行途を遮られ  三歳の間中有の
 世界に有りて精霊を  研き清むる身となりぬ
 さは去りながら高姫の  身魂は地獄に籍を置き
 高天原の霊光を  畏れ戦き忌み嫌ひ
 一歳経ちし今日の日も  中有界をブラブラと
 彷徨ひ巡り迷ひ来る  百の精霊に相対し
 現実界にありし如  脱線だらけの宣伝を
 つづけ居たるぞ愚なれ  エリシナ谷に隠れたる
 ケリナの姫やバラモンの  軍人なるヘル、シャルや
 六造の四人が道の辺の  草に隠るる姿をば
 目敏く眺め立止まり  皺枯声を張上げて
 日出神の義理天上  弥勒の神の御先達
 高姫司の生宮が  汝等四人に気をつける
 早く草原飛び出して  吾生宮の前に出よ
 如何に如何にと呼び立てる  そのスタイルぞ可笑しけれ
 ああ惟神々々  迷ひ切つたる霊魂は
 神の力も如何とも  救はむ手段もなかりけり。

 高姫は道の辺の長い草の中に隠れてゐる四人の男女に向ひ声を尖らしながら、言葉の尻口をピンとあげて口角泡を飛ばし、アトラスのやうな顔を前にニユツと出し二つ三ツつ腮をしやくり肩を揺り、招き猫のやうな手つきをして二つ三ツつ空を掻きながら、
高姫『これこれ、何処の方か知らぬがこの原野はこの高姫の管轄区域だ。何故こんな処まで黙つて来たのだい。まア、ちつと此方へ来なさい。結構な話をしてやらう。エーエー、辛気臭い。早う出なさらんかいな。蟋蟀か螽斯のやうに草の中に何時まですつこんで居つても埒は明きませぬぞや』
 四人は怖々草を分けガサガサと高姫の二三間手前まで現はれて来た。さうして不思議相に稍俯向気味になつて高姫の顔をチラチラと偸むやうに見てゐた。
高姫『これ皆さま、お前がここへ来る途中に一つの家があつただらう。何故そこを黙つて通つて来たのだい。この高姫はもとは三五教の宣伝使、今はウラナイ教のエンゼルだぞえ。天の弥勒様の根本の根本の大柱の大弥勒様で、義理天上日出神の生宮でござるぞや。あんまり現界の人間が身魂が曇つてゐるので、どうぞ助けて天国へやつてやりたいと思つて化身の法を使ひ、高姫の肉宮を使つてこの大野ケ原を往来する人民を片端から取ツ捉まへて、誠の教を聞かしてゐるのだ。さア早く出て来なさい』
六造『お前さまは音に名高い高姫さまでございましたか。お名は承はつてゐましたが、お目にかかるのは初めてです』
高姫『うん、さうかな。妾の名は何と云つても宇宙根本の大神様の生宮だから津々浦々まで響いてゐる筈だ。三人のお方、お前等も妾の名を聞いて居つただらうな』
ヘル『ハイ、根つから聞いた事はございませぬ。私は初稚姫さまだとか、清照姫とか云ふ立派な方の名は聞いて居ますが、高姫さまと云ふ名は今日が初めてです』
高姫『さうかいな。何とまア遅れ耳だこと。天地の間に義理天上日出神の生宮の名を知らぬものは一人も無い筈だが、矢張身魂の因縁がないと、雷のやうな声で呼ばつても耳に這入らぬと見えるわい。さア此処で会ふたを幸ひ、高姫の姿を拝見しお声をよく聞いておきなさい。決して高姫が云ふのぢやありませぬぞや。底津磐根の根本の大弥勒様がおつしやるのだから仇に聞いては罰が当りますぞえ』
ヘル『何だか知りませぬが、貴方のお声を聞くと頭が痛くなりますわ。お顔を見ても気分がよくございませぬわい』
高姫『そら、さうだらう。霊国天国を兼ねた天人の身魂だから、身魂の曇つた悪の守護神は高姫の光明に照らされて、目が眩み善言美詞の言霊にあてられて、耳が鳴り頭が痛むのだよ。チツと確りしなさらんか。今ここで取違ひしたら、万劫末代浮ばれませぬぞや』
ヘル『ヘイヘイ、畏まりました。また御縁がございましたらお世話になりやせう』
高姫『ホホホホホ訳の分らぬ癲狂痴呆だこと。あああ大慈大悲の根本の大弥勒さまも、こんな没分暁漢を済度なさらなならぬのか、ホンにおいとしいわいのう、オーンオーンオーン、しかしながらこの男はヘルとか聞いたが、余程馬鹿な奴と見える。おい、そこに居る、も一人の男、お前は高姫の名位は聞いてゐるだらうな』
シャル『ハイ、聞いて居りますが、私の聞いてる高姫は貴女ではございますまい。世界に同じ名は沢山ございますからな』
高姫『お前の聞いてる高姫と云ふのは如何な性質の人だ。一寸云つて御覧なさい』
シャル『ヘイ、吾々の親方にしてよいやうなお方ですわ。何でも三五教とやらに這入つて金剛不壊の如意宝珠に現を抜かし大勢の者に嫌はれ、屁の出の神とか糞出の神とか云つて自ら触れ歩き、終ひの果には婆の癖に恋に落ち、妖幻坊と云ふ古狸につままれて何処かへ攫はれて行つたと云ふ事です。その高姫なら聞いてゐますが随分私の村では悪い婆だと云ふ評判が立つて居りますよ』
高姫『さうかな。矢張妾の名に似た婆があると見えるワイ。余り妾の名が高いものだから悪神が現はれて高姫の名を騙り、三五教へ這入つて、またもや日出神の名を騙り、色々の事を致したのだらう。どうも油断のならぬ時節だ。しかし妾は同じ高姫でも、そんな者とは違ひますぞや。月と鼈、雪と墨、同じものと見られましては……ヘン……この高姫も根つから引合ひませんわい。オホホホホホ』
シャル『私は今はかうして泥坊商売に変りましたが、今まではバラモン教の軍人で鬼春別の部下に仕へたものです。その時に三五教の幹部連の人相書や絵姿が廻つて来ましたが、妖幻坊に騙されたと云ふ高姫に、お前さまそつくりですよ。よもやその高姫ではございますまいな。彼奴の云ふ事なら口と心が裏表だから決して聞いてはならないと、バラモン教は云ふに及ばず三五教のピユリタンでさへも云つて居ますよ』
高姫『ホホホホホ、盗人の分際として高姫の真偽が判つて堪らうか。あの高姫と云ふ奴は実の所はバラモン教に居つた蜈蚣姫と云ふのだよ。それが妾の名を騙つて、あんな事をやつたのだ。三五教の奴は馬鹿だから、あまり御光が強いので見分けがつかず贋者を掴んで居つたのだ。何はともあれ、この高姫の隠れ家までいらつしやい。決して利益にならぬ事は云はぬ。皆天国へ助けてやるのだからな』
シャル『オイ、ヘルにケリナに、六公、どうしようかな。一つこの婆アの話を聞いてやらうか』
六造『うん』
高姫『エー、そりや何を云ふのだ。この婆の話を聞いてやらうも、糞もあつたものかい。底津磐根の弥勒様の生宮だ。何と云つても助けにや措かぬ、さア来なされ来なされ。これ、其処な若いお女中、お前は一寸見た所で仲々気が利いて居る。事と品とによつたら妾の脇立に使つてやらうまいものでもない。何せよ、曇りきつた霊が直に天国に行くと云ふのは余り気が良すぎる。中途で墜落るやうな事をしてはならず、苦労の花が咲く世の中だから……天国紫微宮から人間の姿となつて降つて来たのだ。そして苦労の手本を見せて皆に改心させる役だぞえ。お前も出て来て苦労をしなさい』
ケリナ『ハイ、有難うございます。実の所は八衢の関所まで参りました所、まだ生命が現世に残つて居るから帰れ、とおつしやつたから帰つて来たのです。最早此処は現界でございますか』
高姫『きまつた事だよ。此処は現界も現界、大現界だ。現幽神三界の救ひ主だから先づ現界の人間から助けてやるのだよ』
ヘル『あああ、何が何だか訳が分らなくなつて来た。しかしさう聞くと現界のやうにもあるし、も一つ心の底に疑念も残つて居る。こんな道端に立つて居た所が仕方が無い。先づお婆アの後に跟いて何でもいいから探らして貰ふ事にしようかい。のう二男一女の御連中』
高姫『探らして貰ふなんて、そりや何を云ふのだい。神の教は正真一方だ。水晶のやうにつきぬけて居るのだぞえ。スパイか何ぞのやうに探るなんて、心の穢い事を云ふのぢやありませぬわい。さアさア来なさい』
と羽ばたきしながら欣々と東を指して小径を歩み出した。四人はともかく、婆さまの館に行つて休息せむと重い足を引摺りながら跟いて行く。
 谷川の辺に萱で葺いた二間作りの小かな家が建つて居た。これが高姫の中有界における住家である。ヒヨヒヨした板の一枚橋を危く渡りながら漸くにして四人は高姫の館にやつと着いた。

(大正一二・三・一四 旧一・二七 於竜宮館 北村隆光録)



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