出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語55-4-221923/03真善美愛午 比丘王仁三郎参照文献検索
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第二二章 比丘〔一四三〇〕

 左守司のキユービツトは六人の客をトマスに命じ叮嚀に応接させ置きながら、欣々として刹帝利の居間に伺候した。刹帝利はソォファの上に横たはりヒルナ姫に介抱されながら、稍快方に向つたので顔色も俄によくなり、ニコニコとして居る。左守は両手を仕へ、
『刹帝利様、お気分がよくなられましたさうでございますなア、左守も尊顔を拝し何となく気分が浮々と致して来ました。どうぞこの後の御養生が肝腎でございますから御注意下さいませ』
刹帝利『窓外は庭園の樹木が風に揺られて自然のダンスをやつてゐる。涼しい夏の風は自然の音楽を奏で、予が心を慰めてくれる。実に病の身は苦しいもので、この天然の恩恵も左まで愉快に思はなかつたが、この通り気分がよくなるとまた格別にすべての物が面白くなつて来たやうだ』
左守『左様でございます。庭木に風が当つて自然の音楽を奏する様は、丸でクラブィコードの音色のやうでございます。オルレグレットな気分が漂ひますなア』
刹帝利『左守、何か珍らしき話を聞かしてくれないか』
左守『ハイ、別に珍らしい御話もございませぬが、姫様の事は御心配なさいますな。屹度神様の御蔭で日ならず御帰り遊ばすさうでございます。貴方の御病気がオルレグレットに赴いたのも全く三五教の宣伝使万公別さまの御骨折でございます。万公別様がわざわざ吾君の御悩みを御案じ遊ばしてエンゼルさまの命令だと云つて来て下さいました。その時刻から御病気が軽快に向つたのでございます』
刹帝『何、三五教の万公別様が来て下さつたと云ふのか。而して姫は日ならず無事に帰ると申されたか』
左守『ハイ、あの宣伝使の御言葉には少しも間違ひはございませぬから、御安心下さいませ。今私の居間で御休息を願つて居ります。而して刹帝利様に珍らしい御話を申上げたいのは、外ではございませぬ。恥かしながら今より二十五年以前下女を孕ませ、男の子を産み落しモンテスと名をつけて首陀の家へやつて置きました。その伜が立派な奥方を伴れて只今万公別の宣伝使と共に城内に参り、親子の対面を致し、力一杯嬉し泣きに泣いて来た所でございます。イヤもう埒もない事を致しまして御恥かしうござります』
刹帝『それは結構だつた。定めてモンテスも喜んだであらうなア。御前も嘸嬉しかつただらう。アアそれに就いても思ひ出すのは、チヌの里へ里子にやつた姫はどうなつたであらう。未だ無事でこの世に生きて居るであらうか。年が寄るにつけて気が弱つたと見え、民間に与へて縁を切つた子供の事までが思ひ出され、せめて息ある内に一度何とかして会ひたいものだが、仄に聞けば養家の両親は早くも世を去り、娘の行方は知れぬといふ事だ。定めて難儀をして居るであらう』
と憮然として首垂れる。左守も涙を流しながら、
左守『吾君様、姫様がモシヤこの世に御無事で居られましたならば、貴方は快く御会ひなさいますか』
刹帝『久離切つても親子だ。どうかして一度娘に会ひたいものだ。会うて娘に詫をせねばなるまい。アア可哀相な事をしたものだ』
ヒルナ『左守殿、万公別の宣伝使様に御尋ね致したら姫様の所在が分りはせよまいかな。一つ願つて貰ひたいものだな。吾君様も大変に姫様に憬がれてゐられますから、どうか一つ願つて見て下さいなア』
左守『実の所は恐れ多い事でござりまするが、私の伜モンテスの妻となり、立派な服装をして夫婦仲よく玉の宮へ御参拝になり、宣伝使と共に今私の居間に休んでゐられます』
刹帝『ナニ、姫が城内へ来て居るといふのか。そして御前の伜と夫婦になつて居るのか。それは結構々々、これも何かの因縁だ。一時も早く姫に会ひたいものだ』
左守『御差支さへなくば直様御供をして参りませう』
ヒルナ『吾君様、妾が御迎へして来ますから、寸時御待ち下さいませ。サー左守殿参りませう』
とヒルナ姫は欣々として刹帝利の許しを受け、六人の客室に進み行く。万公別は一生懸命に刹帝利の病気平癒とダイヤ姫の無事帰城せむ事を五人の男女と共に祈つてゐる真最中であつた。ヒルナ姫は襖の外に立つて左守と共に祈願の済むまで待つて居た。ヒルナは折を見計らひ、サツと襖を引き開け、叮嚀に両手をついて、
ヒルナ『三五教の宣伝使様、よくまあ吾君の御病気を御助け下さいました。有難うございます。就てはお民の方に刹帝利様が一度面会がしたいと仰せられますから、どうぞ皆さま御一緒に御居間まで来て下さいませぬか』
万公『ア、貴方はヒルナ姫様、先づ先づ御無事で御目出度う存じます。イヤもう大い御世話に預つて居ります。サ、皆さま、姫様の御後から参りませう』
と一同を促しぞろぞろと六人は左守、ヒルナの後に従つて、王の居間に進み行つた。
万公『刹帝利様、今春は師の君と共に永らく御世話に預りました。私は玉置村の里庄の養子となり、女房を引き連れて玉の宮へ参拝をいたしました処、隆靖彦、隆光彦のエンゼルが忽ち御降臨遊ばし、刹帝利の御病気の原因や姫様のお行衛を御知らせ下さいましたので、一寸御訪問致しました』
刹帝利『エライ御厄介に預りまして有難うござります』
万公『この方は王様の御落胤チヌの村のお民さまでございます。新婚旅行を兼ね玉の宮へ御参拝になつたのでございます』
刹帝『アー其方が姫であつたか。ようまあ無事でゐてくれた。折角城内に生れながら首陀の家へ落したのは、私が悪かつた。どうぞ許してくれ。お前は玉手姫と云うたであらうがな』
お民『ハイ、玉手姫でございます。お父さま、御無事で御目出度うございます。会ひたうございました』
と両眼よりハラハラと落涙してゐる。刹帝利も身を起し、玉手姫の手を握つて嬉し涙に暮れ、しばし無言のまま、互に抱ついて啜り泣いてゐた。かかる処へ慌ただしく玉の宮の拝礼を了へて帰つて来たタルマン、エクス、ハルナの三人は出で来り、両手をつきながら、
タルマン『刹帝利様に申上げます。ダイヤ姫様が修験者に送られて、只今無事に御帰りになりました。御目出度うございます』
刹帝『アー嬉しい事が重なれば重なるものだ。サ早くダイヤと修験者を此処へ御案内申しや』
 タルマンはただ一人『ハイ』と答へてこの場を立去り、しばらくあつてダイヤ姫、修験者四人を伴ひ、欣々として入り来り、
タルマン『吾君様、ダイヤ姫様が御帰りでございます』
刹帝『ヤ、其方はダイヤ姫、ようまあ無事に帰つてくれた。お前は一体何処に行つて居たのだ』
ダイヤ『ハイ、父上の御病気御全快を祈願せむと、住み馴し照国山の清滝に水垢離をとり居りまする処へ、前の右守司のベルツ及びシエールの両人現はれ来り無体な事を申し、終には双方より妾を殺さうといたしましたので、樫の根を楯にとつて防ぎ戦ふ折しも、山彦を驚かして聞え来る法螺の声追々近づくと見ると共に四人の修験者が現はれて、妾の危難を御救ひ下され、此処まで送つて来て下さいました。どうぞ御礼を申して下さいませ』
刹帝『何れの修験者か存じませぬが、よくまあ娘を救けて下さいました。サア、どうぞ御緩りと御休息下さいませ』
治道『拙者は御見忘れになつたか知りませぬが、元はバラモン教のゼネラル鬼春別でございます。この三人は久米彦、スパール、エミシでございますが、治国別様の御教を承り、菩提心を起し修験者となり、私は治道居士、久米彦は道貫居士、スパールは素道居士、エミシは求道居士と名を改め、照国山の清めの滝に修業に参らむと法螺貝を吹き鳴らし、上りて見れば姫様の御遭難、直様悪者を追散らし、此処まで送つて参りました』
と一伍一什の物語に、刹帝利を始め一同はアツとばかりに驚き、互に顔を見合せて少時言葉も出なかつた。刹帝利は殆ど会見絶望と諦め居たりし二人の姫に廻り会ひ、嬉し涙を浮べながら、両手を合せて、三五教の大神に感謝の祈願を奏上し始めた。左守の司も吾子に会ひし嬉しさに、同じく合掌し感謝の辞を奉つてゐる。ハルナは思ひも寄らぬ兄のモンテスに会つて兄弟の名乗りを上げ悦び勇む。玉手姫は父に逢ひ、また妹のダイヤ姫に思はず面会して歓喜の涙に咽んでゐる。
 偖治道、道貫、素道、求道の四人の修験者は刹帝利の依頼によつて玉の宮の守護役となり、頭を丸めて三五の教を四方に宣伝し、代る代る各地に巡錫して衆生済度に一生を捧たり。頭髪を剃り落し教を宣伝に廻つたのは、この四人が嚆矢である。而してビクの国の玉の宮から始まつたのだから、後世頭を丸め衣を着て宣伝する聖者を比丘と名づくる事となつたのである。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 外山豊二録)
(昭和一〇・六・一三 王仁校正)



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