出口王仁三郎 文献検索

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物語55-4-211923/03真善美愛午 嬉涙王仁三郎参照文献検索
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第二一章 嬉涙〔一四二九〕

 トマスは再び応接の間に現はれ来り、
トマス『ヤア、万公別さまを初め御一同様お揃ひの上どうか左守の室までお越しを願ひます。左守様も大変な御心配が起つて居る所ですからどうか貴方方の御経歴話でも聞かして頂けば幾分かお気が紛れるでせう。さア案内致しませう。どうかお越し下さいませ』
万公『よし、左守の爺、万公別を安く買ひやがつたな。皆一緒に来いなんて、よし、行つてやらう。サア案内せい、皆さま拙者に続いてお出なさいませ。三夫婦揃うてビクトリア城の奥の間まで、玉置の村の里庄の息子が通ると云ふ事は異数でございますよ。これと云ふのも矢張万公別の余光ですからな』
と云ひながら、トマスの後に跟いて長い廊下を潜り、左守司の居間に進み入つた。万公は左守に向ひ、
『これはこれは左守のキユービツト殿、しばらくお目にかかりませぬ。吾々は三夫婦揃うて新婚旅行と出掛け、玉の宮への参拝の帰り途、一度御挨拶に上らないでは済まないと思ひ、門番がゴテつくのをやつと潜つて此処まで参りました。随分貴方も年が寄りましたねえ。白髪がどつさり生えたぢやありませぬか』
左守『ハハハハハ、皆さま好くお出なさいませ。時に万公さま、拙者の白髪は二十年前から生えて居るのぢや、お前さま今気がついたか。そして何処に奉公して居るか知らないが、綺麗な娘さまのお伴して居るが、身分相応と云ふ事を考へて今までのやうな野心を出さないやうにしなさい』
 万公はスガールの肩に手をかけ、
『ヘヘヘヘヘ。もし左守様。ダイヤ姫様とはどうでございますな。私の女房は、マアザツトこの通りでございます』
左守『これこれ万公さま、またしてもお前さまは心得の悪い。主人のお嬢様を捉まへて女房扱ひをすると云ふ事がありますか。些と心得なさい。』
万公『ヘン、済みまへんなア、おいスガール、左守様に疑の晴れるやうにお前から言つてくれ。本当に誰も彼も俺を安く買つて馬鹿にして居るからな』
スガール『左守様、初めてお目に懸ります。私は玉置の村のテームスが妹娘スガールと申すものでございます。バラモン軍に捉へられ猪倉山の岩窟で苦しんで居ました所を、治国別様一行がお出なさつてお助け下さつたのです。中にもこの万公さまは実は万公別様と申まして治国別様のお師匠さまですが、ワザとに部下と化けて剽軽の事ばかり云つてお出なさるのでございます。私は治国別様の御媒酌によつて万公別の宣伝使と夫婦になり、玉の宮へお礼に参りましたその帰りがけ、夫と共にお伺ひしました。どうぞお見捨てなく今後はお心易く願ひます。そしてこの方はシーナさまと申し、スミエルと云ふこの姉の夫でございます。も一組はアーシスさま、お民さまと申しましてこれも新夫婦でございます』
左守『イヤ、どうも見違ひを致して居りました。万公別の宣伝使さま、よくマアお尋ね下さいました。しかし折入つてお願ひ申たい事でございますが、聞いては下さいますまいか』
万公『刹帝利様の御病気とダイヤ様の行衛が分らないので御心配なさつて居るのでせうがな』
 左守は驚いて、
左守『ハイ、お察しの通りでございます。どうしてマアそんな事がお分りになりましたか』
万公『何と云つても三五教切つての大宣伝使万公別でございます。千里先方の事でもかうして居つてチヤンと分つて居るのですからなア。しかしながらこの事は城下で一寸聞いて来たのですよ。アハハハハ、本当の事云へば薄紙を顔に当てて物を見る位より分りませぬわい』
左守『冗談はさておいて、万公別さま刹帝利様の御病気はどうお考へですか』
万公『ヤア実の所は玉の宮様に参拝致し祈願の最中隆靖彦、隆光彦と云ふ二人のエンゼルが拙者の前に下らせ給ひ、「刹帝利様はベルツ、シエールの怨霊が悩めて居るから早く汝はホーフスに入り、お助け申せ。さうしてダイヤ姫様は両人のために苦しめられお命も危い所、四人の修験者に助けられ、やがてお帰りになるから御心配なさらぬやう、お知らせ申せ……」との事でございます。それ故失礼をも顧みず六人連れでお邪魔を致したのでございます』
左守『成程タルマンの伺ひにも左様の事を申て居りました。それに間違ひはございますまい。ああ有難うございました。どうぞ直様、御苦労様ながら、刹帝利様の御病気平癒のため御鎮魂をお願ひ申す訳には参りますまいか』
万公『拙者が別に刹帝利様のお居間に参らずとも万公別この城に入るや否や神徳に恐れ二人の怨霊は雲を霞と逃げ失せました。やがてニコニコとして此処にお出になるでせう。またダイヤ姫様も修験者に送られて此処へお帰りなさりませうから、先づ悠り落付きなさいませ』
左守『ハイ有難うございます。それで一寸安心を致しました。時にアーシスさまとやら貴方はどこともなしに伜のハルナに似て居るやうだが、貴方の生ひ立を聞かして貰う事は出来ますまいかな』
アーシス『ハイ』
と云つたきり、早くも涙をハラハラと流して居る。
万公『エエ アーシスさま気の弱い、何を泣いて居るのだ。何故堂々とお名乗りなさらぬか』
アーシス『ハイ、それでも何だか云ひかねます』
万公『モシ左守さま、貴方のお子さまと云ふのはハルナさまただお一人ですか』
左守『ハイ、まアまア一人でございます』
万公『まアまア一人とは、チツと瞹昧ぢやありませぬか。奥様の目を盗んで、下女の部屋へ○○して腹を膨らせた事はありませぬか』
左守『ハイ何分若き時にはいろいろの不仕鱈の事もございました。余り恥かしうてお話が出来ませぬ』
万公『もし貴方の落胤が今無事で生きて居られたら貴方は喜んで面会しますか。イヤ親子の名乗りをしますか。先決問題として聞いて置きたいものです』
左守『女房には死別れ、この通り年は寄り、一人の伜のハルナに女房をもたせ、今では一寸一安心したものの、ハルナの兄に当る、モンテスと云ふ伜があつた筈でございます。世間の手前、ある田舎へ金をつけて子にやつた所、不幸な伜で両親は無くなり、何処へ行つたか分らぬと云ふ噂を聞いて居りますが、今となつて思へば実に残念な事をしました。かう年が寄つて何時天国参りをするか分らぬ身の上、せめて生前に一度その伜に遇ひたいと神様を念じて居ります。どうか貴方の御神力で伜の所在を見て頂く訳には参りますまいかなア』
と鼻汁を啜りながらグタリと萎れる。
万公『もし左守さま、貴方の御賢息モンテス様は立派な奥さまを持つて、立派に暮して居られますよ。そのまた奥さまが一通りの人ではありませぬ。「提灯に釣鐘」と云ふやうな、身分から云へば懸隔のある御夫婦でございます』
左守『何、伜が立派に暮して居りますか、それは有難い事でございます。さうして何処に居りますかな』
万公『ハイ只今の所在はビクの国、ビクトリア城内、左守の室内に、お民の方と云ふ奥様と万公別に従ひお出になつて居ります。それ、このお方ですよ』
とアーシスを指ざす。左守はアーシスの顔を熟視しながら、
『アーお前は伜であつたか。どこともなしにハルナに似て居ると思うて最前から不審を抱いて居たのだ。まア無事で居てくれたか。さうしてお前の嫁と云ふのはどのお方か』
アーシス『アアお父さまでございましたか。どうぞ一度お目に懸りたいと、寝ても醒めても忘れる暇はございませなんだ。されど賤しき首陀に落ちて居る身の上、到底尊い左守様に御面会は叶ふまいと諦めて居りました』
と男泣に泣く。左守も両眼に袖を当て、夕立の如き涙を拭ひながら嬉しさ余つて一言も発し得ず、アーシスの身体に抱きつき嘘唏泣きして居る。
 お民は両人の背を両手で撫でながら、
お民『お父さま、旦那様、どうぞ潔ようして下さいませ。私までが悲しくなりますからな』
左守『アーお前が伜の嫁であつたか、好う来てくれた。まアまア綺麗な女だな。伜も嘸喜んで居るだらう。私も嬉しい……』
とまたもや両眼に涙を湛へて泣きじやくる。
万公『エー見つともない、チツと確りなさいませ。万公までが悲しくなつて来ました。もしもし左守さま、このお民さまは誰人の娘だと考へて居なさるか。勿体なくも刹帝利様の落胤玉手姫様でございますぞ。チヌの村の卓助の家へお下しになつた王女様で、今はお民と名乗つて居られます』
 左守はこれを聞くより驚いて五足六足退き、両手をつかへ畳に頭を下げ、
『ハハア貴女様が王女様でございましたか。存ぜぬ事とて御無礼を致しました。ああ勿体ない。賤しき吾々が伜の女房とおなり下され、冥加に尽きはせぬかと心配でございます。どうぞお許し下さいませ』
お民『お父さま、何をおつしやいます。そんな事を云うて下さると私は苦しうございます。どうぞ、「お民お民」と呼び付けにして下さいませ』
万公『サアサア親子の名乗が済んだ上は涙は禁物だ、ちつと歌でと歌ひませう』
 かく云ふ所へ、カルナ姫は襖をそつと押し開き叮嚀に辞儀をしながら、
『お客様、よくお出下さいました。どうぞ御悠りと御休息を願ひます。時にお父上様、刹帝利様が俄に御気分がよくなり、御元気におなりなさいました。「左守が心配して居るだらうから、早く知らせて来い」との君の仰せ、どうぞお喜び下さいませ』
左守『何、刹帝利様の御病気が御快癒なされたとな。ああ有難い有難い、これと云ふのも全く三五教の神様の御守護、ああ惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』
と嬉し涙にまた掻き曇る、カルナは早々にこの場を立ち去り刹帝利の居間に急ぎ行く。

(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 加藤明子録)



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