出口王仁三郎 文献検索

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物語55-2-71923/03真善美愛午 朝餉王仁三郎参照文献検索
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第七章 朝餉〔一四一五〕

 万公は炊事場をあとに治国別の居間に駆け入り、頭に灰を被りながら顔に黒い汗を滲らせ、
万公『これはこれは三五教の宣伝使治国別様を初め奉り松彦、竜彦、鬼春別、久米彦、スパール、エミシのお歴々様、女房がいかいお世話になりまして家内一統の喜びは筆紙に尽す事は出来ませぬ。何とお礼を申してよいやら、あまり突然の事とて狼狽を致して居ります。二三日しましたら稍落ち着きますから、とつくりと調理法も調へお口にあふものを差上げたいと存じます。何分下女が来たてでござりますなり、下男も漸く蔵から引張出して初めての修行をさしたのですから、何事も意の如くなりませぬので、万事不始末ばかりでござります、何卒神直日大直日に見直し聞直しましてしばらくの御容赦をお願ひ申します』
鬼春『アハハハハ、万公別さま、貴方何時の間に、此処の主人になりましたか。まだ御披露もあつたやうにも思ひませぬが』
万公『決して決して左様な御心配は要りませぬ。披露や婚姻の儀式等は何日でもよろしうござります。とに角霊と霊とが密着不離の関係を持つてさへ居れば、最早動かない大盤石のやうなものですからな』
治国『万公さま、どうやら今度はものになりさうだな。吾々に斡旋の労を執らさうと思へばチツと優待せぬと駄目だよ』
万公『滅相もない、こんな良縁を勇退して堪まりますか。仮令幽体になつても勇退しませぬわ。エツヘヘヘヘ』
治国『優待と云ふ事は大切にもてなすと云ふ事だ。待遇が悪いと不成功に終るかも知れないぞ』
万公『先生、縁起の悪い事云つて下さいますな。もてなし所か大もてありです』
松彦『アハハハハ、先生、こいつは一寸逆上してるやうですな』
治国『うん、頭から冷水でもぶつかけてやらなくちや大変な逆上せ方だ。おい、万公さま、お前の頭は何だ、大変心配したと見えて髪の毛が真白になつたぢやないか』
竜彦『自分のはいぐう(配偶)について心を悩ましてゐるものだから、頭の毛まで灰を被つたやうにしてるのですよ。これでは万公さまもゼロハイ(零敗)だ』
万公『もし、竜彦のお客さま、ゼロハイ(零敗)でも何でもありませぬよ。万公山が噴火して降灰をやつた所です』
竜彦『ハハハハハまるつきり灰猫同様だ。一体何をして居たのかな』
万公『炊事場へ行つて下女下男に対して、さいはい(采配)をふつて居たものだから、この通り灰殻頭になつたのですよ』
竜彦『万公別さま、お前は大変腹が悪いぢやないか。俺等に灰まぶれの飯を食べさせやうとしたぢやないか』
万公『何分家庭の様子がテンと分らぬものですから、思はぬ失ぱい(敗)を致しました。しかし御心ぱい(配)下さいますな。屹度今に御飯を焚き直し僕共がはいぜん(配膳)をもつて参ります』
久米『万公別さま、随分敏しこうやりますね。何時の間にスガールさまと情約締結をしましたか。随分凄い腕ですな』
万公『何と云つても三五教の万公別ですよ。

 音に名高きフサの国  猪倉山の山砦に
 この世を乱す曲津神  八岐大蛇の懸りたる
 大黒主の醜柱  これに仕ふる数多の魔神
 中にも別けて  鬼将軍と仇名をとつた
 悪逆無道の鬼春別  久米彦両将軍が
 金城鉄壁と恃み  数万の軍勢を引率れて
 いとも堅固に守りたる  醜の陣屋を打亡ぼし
 天下の害を除かむと  万公別が部下の勇将
 治国別、松彦、竜彦を引率れ  旗鼓堂々と
 敵の陣屋へ攻めかくる  三五教の神将と
 世に聞えたる某が  生言霊に辟易し
 流石の鬼春別将軍も  兜を脱ぎ剣を投げ出し
 丸腰となつて紅涙滴々  五臓六腑を転覆させながら
 啜り泣きつつ  脆くも降参したりけり
 逃ぐるを追はず  謝罪るやうな腰抜者を
 頭の一つも殴つた所で  何の利益かあるべきと
 ここは寛仁大度の  本性を発揮し
 醜の魔神を神直日大直日に  見直し聞直し
 百千万の過失を宣り直し  救ひ助くるは天の道と
 瞬く間に至清至潔の身魂に感じ  無事にそのまま事済みとなり
 敵の大将を霊縛しながら  凱歌を奏して谷を飛び越え
 岩間を潜り杉の木立を掻き分けて  青葉茂る大野原を
 声は聞けども姿は見えぬ  山時鳥に送られて
 玉木の村の里庄が館  テームス方へと凱旋したりけり
 かかる智勇の神将なれば  鬼春別や久米彦を
 蚰蜒の如くに嫌ひたる  天下無双のスガール美人
 忽ち吾に懸想して  電光石火
 目にもとまらぬ急速力で  吾両眼に視線を投げ
 以心伝心  忽ち情意投合し
 神界晴れての誠の夫婦  テームス館の若主人
 万公別となりにけり  ああ惟神々々
 常平生に三五の  神に仕へし甲斐ありて
 嬉しき今日の吾身の上  夢ではないかと折々に
 吾と吾手に頬を抓り  鼻を捻つて伺へば
 やつぱり苦痛を感じ入る  治国別の師の君よ
 何卒々々教子の  万公別に暇を賜はり
 二人が仲の媒酌を  完全に委曲に結ばせ給へ
 偏に願ひ奉る。  小北の山で十七の
 娘お菊に弾かれて  男を下げた万公も
 吾師の君のお蔭にて  漸く男を作り上げ
 ビクトリア城に立向ひ  再び神力現はして
 ダイヤの姫を救ひ出し  左守の司に遮られ
 いささか閉口の為態  しかるに何ぞ図らむや
 金勝要の大御神  イドムの神の御恵
 漸くここに相思の男女が  程遠からぬその間に
 合衾式を挙げむとす  今は万公別にとり
 最も大切の正念場  治国別の師の君よ
 私の結婚済むまでは  何卒々々辛抱して
 万公別の弟子なりと  人目を繕ろひ一生に
 一度の願を快く  何卒聞いて下さんせ
 松彦、竜彦始めとし  鬼春別や久米彦の
 ゼネラルさんよカーネルの  スパール、エミシ両人よ
 ここはお前も辛抱して  万公別に花持たせ
 そこはそれそれ都合よく  バツを合して下さんせ
 偏にお願ひ申します  人に手柄をさそと思や
 自分は何と云はれても  辛抱するのが男ぞえ
 男に中の男とは  吾師の君を初めとし
 皆さま等の事だらう  ああ惟神々々
 御霊幸ひましませよ』  

一同『アハハハハハ』
鬼春『治国別様、大変に万公別さまは春情立つてるぢやありませぬか。気の毒なものですな』
竜彦『三五教の大宣伝使英雄豪傑の万公別様、スガール様の御容態は如何でござりますか。一度お尋ね致したいとも思ひ、脈も見てお上げしたいと存じて居りますが、何と云つても男が女に手を触れると云ふのは剣呑ですからな。もしや拙者の顔を見て「やつぱり万公別様よりも貴方の方がどこともなしに男らしうございますわ。ネー貴方」などとやられちや当家の若主人に対して失礼ですから、まア控へて居りませうかい』
万公『や、有難う。どうぞ、さう願ひます。何れ主人の私が親しく見舞つてやれば勢がついて、直ぐに全快するでせうが、何だか女にでれてゐるやうに舅姑に思はれても面白くないと思ひ、控へて居るのですよ』
竜彦『それだと云つて吾々は御祈願もし、鎮魂もしてやらなくちやなるまい、なア松彦さま。一つ先生にお願ひして直接鎮魂をやつて来うぢやないか』
治国『さア、夫婦も御心配だらうし、道晴別も苦しんでるだらうから、お前等二人に鎮魂を願ひたいものだな』
竜彦『ハイ、承知致しました。さア松彦さま、師の君のお許しが出た。これから第一着手としてスガールさまの身体検査をしようぢやないか。エツヘヘヘヘ』
と故意とデレ声を出して笑うて見せた。
万公『いや、その御心配には及びませぬ。お前さま等に拙者の女房を鎮魂して貰ひましては剣呑です。乳吸鎮魂、接吻鎮魂、裸鎮魂などをやられちや困りますからな』
竜彦『私は誠の宣伝使だ、決して心配して下さるな。偽宣伝使のガラクタ役員のやうな脱線的鎮魂はやらないからな』
万公『それでも廿世紀の○○教の宣伝使がチヨコチヨコやつて家を追ひ出されたり、本山から電報で呼び戻されたりした例もあるのだから大切の女房を任す事は出来ませぬわい、イツヒヒヒヒ』
治国『万公別さまが、あまり心配をするから松彦、竜彦は少時く御遠慮して鬼春別、久米彦様に御苦労になりませうかな』
万公『いえいえ滅相もない。スガールはどうぞ放つといて下さい。この万公別が不断的に遠隔鎮魂をやつてゐますから、やがて全快するでせう』
竜彦『大変気が揉めると見えますな。とらぬ狸の皮算用ぢやありませぬか。どうも前途暗澹不有望の気配が漂うてゐるやうですな。先生』
 かかる処へアヅモスはフエルと共に膳部を運び来り両手をついて、
アヅモス『皆様、先程は誠に不都合な事を致しました。何分俄主人が采配をなさつたものですから、到頭何もかも灰まぶれになりまして申訳がござりませぬ。今度は改めて支度を致しましたから、どうぞお食り下さいませ』
治国『どうもお手数をかけて済みませぬ。さア皆さま頂戴致しませう。随分お腹が空いたでせう』
万公『いや、アヅモス、フエル、御苦労だつた。これから拙者が皆様にお給仕を致すから、お前は彼方へ行つて其処辺を片付けるのだ。グヅグヅしてゐると、しやうもない屑が出ると困るからな』
アヅモス『ハイ、承知致しました。ここにお酒が沢山にござりますから、どうぞ馬鹿旦那様……ア、イヤイヤ若旦那様、お客様に充分お召り下さるやう、お勧め下さいませ。左様ならば皆様、緩りと召あがり下さいませ』
とフエルと共に恐る恐るこの場を立去り再び炊事場に皈り行く。後は万公の酌で一座も賑ひ一同舌鼓をうつて朝飯を済ましたりける。

(大正一二・三・三 旧一・一六 於竜宮館 北村隆光録)



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