出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語55-1-61923/03真善美愛午 洗濯使王仁三郎参照文献検索
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第六章 洗濯使〔一四一四〕

 治国別の居間へはフエル、アヅモスの両人が膳部を運び、叮嚀に辞儀をしながら、フエルの方は慄うてゐる。フエルは三五教の宣伝使とアヅモスに聞いたので、俄に恐ろしくなつたのである。しかしながら治国別、松彦、竜彦は一面識もないので、この家の下男とのみ考へてゐた。フエルは鬼春別以下三人の姿を見て、様子は分らず、不思議相に俯いたまま横目で四人の顔を見比べてゐた。エミシは早くもフエルの姿を見て、
エミシ『オオお前はフエルぢやないか。どうして此処へ来たのだ』
フエル『貴方はカーネル様でございましたか、ようマア……どうしてお出でになりました。私は貴方の命令によつて、シメジ峠に三五教の宣伝使の閉塞隊を勤めて居る矢先、道晴別宣伝使に霊縛をかけられ、当家の庫に放り込まれ、ヤツと今朝ここの若主人に解放され、炊事や掃除の役を仰せ付けられて居ります』
エミシ『お前一人か』
フエル『イエ、ベツトと二人でございます。ベツトも私と同様に早朝から大活動をやつて居ります』
 エミシは鬼春別を指ざし、
『オイ、このお方を知つてゐるか』
フエル『ハイ、ゼネラル様ぢやございませぬか、どうしてマア三五教の宣伝使と、かやうな所へお出になりました。また霊縛にかかつてぢやございませぬか』
鬼春『アハハハ、治国別様の霊縛にかけられ、たうとうゼネラルを棒にふつて、今日は三五教の一兵士となつたのだよ』

フエル『思ひきやゼネラル様がこの家に
  お越しあるとは夢にも知らず。

 夢の世に夢を見るてふ人の世は
  はかなきものと今や悟りぬ』

鬼春別『三五の神の光に照されて
  暗は晴れけり心の闇も』

治国別『テームスの珍の館に落合ひて
  神の恵を味はふ今日かな』

アヅモス『客人よいと平けく聞召せ
  万公別が献立の味を』

竜彦『万公の姿見えぬと思ひしに
  早飯焚となりにけるかな』

 松彦は飯の少しく色の変つたのを見て、

松彦『この飯は何とはなしに色づきぬ
  灰カラ女のたきしものにや』

アヅモス『色付きし万公別の献立と
  思へば何の不思議かはある。

 さりながら直日に見直し聞直し
  今日一朝は忍ばせ玉へ』

松彦『何となくゲヂゲヂゲヂと歯はきしり
  砂を噛むよな飯の味かな』

竜彦『万公が主人気取となりよつて
  灰カラ飯を炊しなるらむ』

 治国別は、
『皆さま、頂戴致しませう。お先へ御免』
と云ひながら、一口口に含んで目を白黒し、吐き出す訳にも行かず、涙を流しながらグツと呑み込んでしまつた。白い飯の上に所々灰が黒く塊つてゐた。

治国別『黒胡麻のふりかけ飯と思ひきや
  目も白黒と麦粟をふく』

松彦『麦飯の色にもまがふ灰飯に
  黍悪相に粟を吹くかな』

竜彦『オイ番頭さま、偶々のお客さまに、こんな飯を食はすといふ事があるか、余りヒドイぢやないか』
アヅモス『ハイ、万公別の若旦那が御指図で、お炊になつたのでございますから、どうぞ今朝だけは御辛抱下さいませ。それはそれは炊事場は偉い灰埃でございました。飯の奴、鍋山が噴火して灰を降らし、そこら一面灰の山となりましたので、知らず知らずの間に厚い鍋蓋を潜つて、灰が浸入したのでございませう。何なら鬼春別さま、久米彦さまにあがつて頂きまして、お腹がすきませうが、しばらく待つてゐて下さいませ。更めておいしい御飯を炊いて参りますから……』
治国『イヤ、誰だつて同じ事だ。しかしながら折角の志、無にするのも済まないから一度これをスツカリ清水に洗つて日に乾かし、お茶漬にしてよばれませう。サ、お膳を引いて下さい。誰だつてこの御飯ばかりは勿体ない事ながら喉へは通りませぬから……』

アヅモス『左様ならば一先づ膳をひきませう
  待たせ玉へよしばらくの間。

 フエルさまお前も共に炊事場へ
  急ぎ御飯を炊いてくるのよ』

フエル『炊きやうによつてお米はフエルさまだ。
  サアこれからが一生懸命。

 生命の綱と聞えしこの飯を
  灰にまぶせし吾れはハイカラ。

 万公別主人の君と諸共に
  腕に撚かけむし返しみむ』

と云ひながら、アヅモス、フエルの両人は急いで膳部を片付け、幾度も謝罪しながら、炊事場に引返して来た。見れば万公はお民をつかまへて、一生懸命に指図をしてゐる。
万公『オイお民、火消壺の蓋は何時もキチンと出来てるか、底の方に火がまわりはせぬかとよく気をつけるのだぞ。コンロの下の灰を一遍々々捨てる事を忘れるな。井戸の水はどんなとこへ使へば危険でないか。煮物、炊物、沸かして呑む水等の外、決して生水は呑んではいかぬぞ。この頃は梅雨だから、水に塩気があつて、妙な黴菌が生いてゐるから充分に沸らして、水が呑みたけりや冷して呑め、生水を使ふのは手洗水か雑巾水より外にはならぬぞ』
お民『流しを洗うたり、食器類や爼板を洗ふのはどうしたらいいのですか。ヤツパリこれも湯を沸かすのですか』
万公『エー、そんな事まで指図せなくちや分らぬのかナ、其奴ア水で辛抱するのだ。そして水壺に何時も水を用意して、非常の時の用意に備へておくのだ。そして毎日新しい水と取かへるのだぞ。柄杓などを水の中へつけておくと、水の味もかわるし、杓もホトびて損むから、一遍々々外へ出して乾かしておくのだよ。そして井戸は使つたあとは蓋をしておくのだ。釣瓶縄の新しいのを使う時は、ようスゴいて使はないと、クロロを脱線するから気をつけよ』
お民『贋旦那さま、指図ばかりして居らずと、貴方も一つ手伝うて下さいナ。ここは井戸ぢやありませぬよ。水道の水を使つて居るのですよ』
万公『水道でも井戸でも同じ事だ。痳病やみが小便をたれるやうに、いつもジヨウジヨウと洩しておいては公徳上すまないから、水道の栓は、使つたら固く締めておくのだ。そして朝水道の水はバケツに一杯だけは使水とし、余りは滌ぎ水にして外へ利用するのだ。お水を粗末にすると、月の大神さまの神罰が当るぞ』
お民『ハイハイ。ようゴテゴテと構ふ人ですな。そんな事位知らいで、大家の下女が勤まりますか』
万公『コリヤ主人に口答するといふ事があるか。何だ灰だらけの飯を炊やがつて、おまけに火のいつた黒い黒い飯を沢山拵へたぢやないか』
お民『あんたが出て来て喧ましう差出なさるものだから、つい気を取られてお前さまの顔ばかり見て居つたら、焦げついたのですよ』
万公『ヘヘヘヘ、気を取られて俺の顔ばかりみとつたといふのか、其奴ア駄目だ。諦めたがよからう、下女を女房にする訳にも行かず、また汝の赤い頬ぺたでは、如何に物食ひのよい万公別でも、一寸は三舎を避けるからのう』
お民『ホツホホホ、誰が主人だつて、貴方のやうなお顔に惚ますか。余り奇妙な顔だと思つて、気を取られてゐたのですよ。モウいいかげん彼方へ行つて下さいな』
万公『今日はどうやら日和もよささうだから、お客さまの着物が大分汗じゆんでゐる。着替を出して着て貰つて、そのお装束を洗濯するのだな』
お民『ハイハイ飯を焚かねばならず、洗濯もせにやならず、本当に忙しい事だ。私はここへ飯焚き女に雇はれて来たのだから、洗濯は約束以外ですワ、洗濯さすのなら二人前の給料をくれますか。お前さまは俄主人だから私の約束を知らぬのだらう。庭掃きとも座敷の掃除番とも云つて、雇はれて来たのぢやござりませぬよ』
万公『下女と云ふ者は家の内一切を構ふものだ。飯焚きといへば一切の事が含んでをるのだ。融通の利かぬ奴だなア』
お民『そんなこた分つてをりますよ。しかし余り融通を利かすと、忙しいばかりで身体が疲れて損ですワ。目のない主人に使はれて居つては、何程骨を折つても椽の下の舞だから、マアやめておきませうかい。お前さま若主人だなんて、勝手にきめてるのだらう、そんなこたチヤンとお民の目に映つてをりますよ。宣伝使の褌持ぢやありませぬか、オホホホホ、チツとどうかしてますねえ』
万公『エー、お上の事が下に分るものかい。サアこれから洗濯だ。洗濯の仕方は分つとるかなア』
お民『洗濯と云つたら、河へ持つて行つて、浅瀬に石を一々乗せて、漬けておけばいいのでせう。そして十日ほどして行けば自然に垢が除れてますワ。万公さま、ここに古い褌や湯巻の古手が沢山つつ込んであるから、お前さま抱えて猪倉川まで持つて来て下さらぬか』
万公『馬鹿云ふな、主人候補者の俺に向つて、チツと失礼ぢやないか。ここの背戸口で盥に水や湯を汲んでバサバサとやればいいのだ。きめの粗い水だとみた時は、始めに曹達をよく溶かして使へばキツト美しうおちる、さうすると石鹸と時間とが経済になる。そして滌ぎ水は奇麗に濁らなくなるまで何遍も変へないといふと、生地が早くいたむぞ。そして水で洗うていいものと、湯で洗うていいものとある。それを第一心得ておかないと洗濯婆にはなれぬぞ。俺は世界の人民の霊を洗濯する三五教の洗濯使だ。しかしながら今日は譲歩して、汝に衣類の洗濯方法を教てやるのだから、よく忘れぬやうに覚えておけ。洗方に注意せないと、折角の結構な衣類が台無しになつてしまふものだ。絹物や毛織物や色物は熱い湯につけて洗うと駄目だ。また毛織物は冷たい水に漬けても悪い。そして絹物、毛織物、麻織物は強く揉んでは駄目だぞ。曹達(灰汁)や悪い石鹸で、絹物はキツと洗つてはならない、色物は猶更だ。そして色物は皆陰干にせなくては、日向に出したら皆色が褪せてしまふ。干す時は竿か縄を通して、木から木へ掛けておくのだ。白い物を色物の竿にかけると、色がついて台なしになつてしまふぞ。あああ宣伝使も何から何まで知つてをらねば勤まらぬ、本当に難しい職掌だなア』
お民『ハハア、さうするとお前さまは若い時から洗濯屋の番頭をして居つたのだなア。男の癖にそんな事を知つて居るものは、首陀の内だつてありませぬワ。モウ余り喋りなさるな、お里が見えると、折角の縁談もフイになりますよ。ホツホホホホ』
万公『馬鹿云ふな、女子大学家政科の卒業生だ。それだから何もかも知つてるのだ』
お民『ホホホホ、女子大学へ男が行くのですか。さうするとお前さまは男の腐つた女の屑だな。道理でクヅクヅ云うと思つてゐた』
万公『女は口を慎むが第一だ。男子に抗弁するといふ事が何処にあるか、らしうせよといふ言を知つてゐるか』
お民『その位のこた、とうの昔に御存じのお民ですよ。主人は主人らしう、奴は奴らしう、下女は下女らしう、宣伝使は宣伝使らしう、居候は居候らしうせよと云ふ事でせうがな。お前さまも若主人なら、なぜ若主人らしうせぬのだい。私が一寸考へてみると、お前さまは、馬鹿らしう、ケレまたらしう、自惚男らしう、腰抜らしう、デレ助らしう、雲雀らしう、九官鳥らしう、まだも違うたら鸚鵡らしうみえますよ、ホツホホホホ』
 かかる所へアヅモス、フエルの両人はツマらぬ顔をして、入り来り、
アヅモス『オイ、お民、何といふ飯を炊きやがるのだ。偶々のお客さまに灰飯を食はしやがつて、マ一遍炊き直さぬかい。サ、早う、何をグズグズしてゐるのだ。ハハアこのお客さまにうつつをぬかしやがつて、飯の焦たのも知らず、灰の這入つたのも気がつかなかつたのだなア』
お民『モシ二の番頭さま、この人、どつかへ伴れて行つて下さい、蕪から大根菜種のはしに至るまでゴテゴテ云つて構ふのですもの、骨折つて炊事も出来やしませぬワ』
アヅモス『ヤア貴方は夜前のお客様、どうぞ奥へお入り下さいませ。先生が御待ち兼でございます』
万公『ウン、お前が番頭のアヅモスだなア。スガールやシーナが病気で伏せつて居るので、お前も忙しい事だらう。しかしながらここ二三日辛抱してくれ、その代りに褒美はまたこの若主人がドツサリ使はすから』
アヅモス『ヘーエ、妙ですな。貴方何時の間にここの主人になられましたか』
万公『遠き神代の昔から、霊の因縁でここの主人ときまつて居るのだ。俺は今の主人の父親のテームスの生れ変りだぞ』
アヅモス『ヘーエ、貴方のお年は、一寸見た所で四十近いぢやありませぬか、御主人のお父さまは亡くなつてから、まだ五六年よりなりませぬがな』
万公『そのモ一つ親だ、親と云つたら先祖をすべて親といふのだ。それで遠津御祖代々の親等と祝詞にもいうてあるぢやないか。祖父さまだの、曾祖父さまだのと、人間は云ふか知らぬが、神の方では一口に親と云へば、それでいいのだ。ゴテゴテ言はずに、お民に飯の炊方から洗濯の方法まで教へてあるから、よく聞いて早く膳部を拵へ、珍客さまを待遇すやうに致さぬか』
アヅモス『モシ、若旦那の候補生様、これから吾々が骨を折つて御飯を拵へますから、どうぞ治国別さまのお居間へいつて、しばらくお客さまの待遇をして居つて下さいませぬか』
万公『主人が番頭の言ひ付を聞く法はないけれ共、しばらく折角のお客様だから、主人が出ないのも却て失礼になる、そんならよく気をつけて万事抜目のないやうにやつてくれ。……お民、汝も、今度は性念入れて飯を焚くのだぞ』
と言ひ捨て、広い家を迷ひさがしながら、漸くにして治国別一行の陣取つてゐる庭園内の建物を見つけて走り行く。

(大正一二・三・三 旧一・一六 於竜宮館 松村真澄録)



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