出口王仁三郎 文献検索

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物語55-1-31923/03真善美愛午 万民王仁三郎参照文献検索
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第三章 万民〔一四一一〕

 鬼将軍と世の人に  恐れられたるバラモンの
 鬼春別は漸くに  心に悔悟の花開き
 前非を悔いて大神の  尊き恵を覚りつつ
 瑞の御霊の神徳は  汲めども尽きぬ久米彦が
 スパール、エミシと諸共に  心の空も治国別の
 神の命の御教に  帰順しまつり常磐木の
 動かぬ心の松彦や  醜の岩窟を竜彦の
 司と共に阪道を  スタスタ帰る神司
 道晴別やシーナをば  背に負ぶつて許々多久の
 罪や穢れの贖と  川の流れもスミエルの
 谷間を渉り大神に  誠を捧げてスガール姫
 万公司に送られて  屠所の羊のトボトボと
 悄気返りたる足許も  漸く茲に玉木村
 テームス館の門前に  月照る空の夕間暮れ
 首を傾け汗流し  息もせきせき帰り着く。
 万公は表に立ち止まり  大音声を張り上げて
 『玉木の村のテームスよ  それに仕ふる僕等
 一時も早く凱旋の  宣伝将軍迎へ入れ
 歓喜の涙に浴すべし  そも吾々は三五の
 神の教の宣伝使  治国別の一の弟子
 万公別の命ぞや  猪倉山に立籠もる
 バラモン軍のゼネラルと  羽振り利かした大将を
 箒木で蝶を叩くやうに  いと容易と生捕つて
 芽出度く凱旋なしにけり  くめども尽きぬ久米彦の
 悪業多き身魂をば  尊き神の御恵に
 谷の流れに洗はれて  今は誠の人となり
 スツパリもとの生身魂  スパール、エミシのカーネルが
 万公別のお伴して  二人の姫を送りつつ
 此処にお詫を致さむと  いと殊勝にも来りけり
 治国別の宣伝使  松彦、竜彦諸共に
 尊き司にましませど  万公別が居らなけりや
 どうしてもかうしてもこの戦  これほどうまく行きはせぬ
 喜び玉へテームスよ  ベリシナ姫のお婆アさま
 早くこの門開けなされ  吾師の君を何時までも
 これほど蚊の喰ふ門の前  立たせて置くは失礼ぢや
 万公別もちと困る  開けよ開け表門
 常夜の暗も一時に  明け放れたる岩戸口
 歌舞音楽を調へて  吾等一行の英雄を
 早く歓迎致すべし  ああ惟神々々
 神に代りて万公別  館の主に気をつける』

と歌ひながら門の戸が割れるほど殴つて居る。門番の乙丙は万公の歌を聞いて胸を轟かせ、バラモン教の悪神が、またもや、あんな事を云つて門を開かせ倉につないで置いた両人を奪還しに来たのではあるまいかと案じ案じ奥の間に駆け込んで、テームスの前に……数多の人々が門外へ押寄せ来たれり……、と報告した。テームスは……物騒な世の中油断はならぬ……と身仕度をなし槍を小脇に抱へながら、ともかく様子を窺はむと密かに門口に立現はれ、門の戸に隔てられて一行の姿は見えねども……何だか娘の帰つたやうな気配がする、治国別様が娘を助けて帰つて下さつたのではあるまいか。但しは敵に捕らはれ玉ひ悲惨な憂目に会はせ玉うたのではなからうか。敵は勢に乗じて吾館を打滅さむと押寄せ来りしには非ずや……と、とつおいつ思案に暮れてしばし佇み考へてゐる。
 シーナは傷だらけの頭をふりながら、苦しさうな声で、
シーナ『旦那様、シーナでござります。治国別様のお助けによつてお嬢さまと共に無事に皈りました。どうぞこの門開けて下さいませ』
と呶鳴つて見たが、どうしても厚い門扉に隔てられて中へは聞えなかつた。万公はもどかしがり大声にて、
万公『吾こそは、三五教の宣伝使治国別の片腕と仕へまつる、天下無双の英雄豪傑、万公別命でござる。館の主テームス殿、一時も早く表門を開かれよ。某の申す言葉に間違はござらぬ』
と呶鳴り立てた。テームスは万公の声を聞いてヤツと安心し、急ぎ門扉を開き、半信半疑ながらよくよく見れば月夜の事とて、ハツキリは分らねど、どうやら、シーナを始め二人の娘が背に負はれて皈つて来た様子に思はず知らず門外へ走り出でた。シーナは背中から、
シーナ『もし旦那様、お蔭で助けて頂きました。御安心下さいませ』
と云ふ声に、テームスは驚喜しながら、
テームス『やア皆様、御苦労でござりました。さアどうぞ奥へお這入り下さいませ。まあまあ治国別様、よう娘をあの峻い阪を負うて帰つて来て下さいました。嘸お疲れでござりませう』
と嬉し涙と共に感謝する。治国別は一同の先に立つて門内に入る。十二人はテームスの後に従ひ僕に灯火を以て案内され、奥の広き一間に進み入る。
 テームス、ベリシナの夫婦は余りの嬉しさに、下女や下男に命じ、座敷を掃いたり座布団を出したり、煙草盆を並べなどしてキリキリ舞ひをしてゐる。
万公『テームス殿、必ずお構ひ下さいますな。まア御緩りなさいませ。吾々が勝手にそこらを片づけて休息させて頂きます。もうかうなれば親子も同然ですから……』
と早くも養子になつた気分に馴々しく云ひ出した。
テームス『ハイ、貴方様は命の親でござります。御礼はどう申してよいやら分りませぬ』
万公『いや舅殿、若いものが控えて居りますれば、貴方は御老体、どうぞ緩りとなさいませ。しかしながら道晴別、シーナ、スミエル様を始めスガールが深い陥穽に堕され余程体を痛めて居りますからどうぞ寝床を拵へてやりたいものです。夜具や蚊帳の用意をせねばなりませぬが、何分私はホヤホヤで今来た所ですから家の勝手は分りませぬから一寸教へて下さいませ』
テームス『ハイ、勿体ない。左様な事を貴方にさせて済みますか。どうぞ御緩りして下さいませ』
万公『舅殿、そりや何をおつしやる。若いものが働かいで誰が働くものですか。治国別、松彦、竜彦の宣伝使には私が名代として十分にお礼を申して置きます。おい春チヤン、久米チヤン、スーチヤン、エーチヤン、病人を……いや負傷者を早く卸して下さい。お前さまも御苦労でした。こんな時や図体の大きい奴は重宝なものだな』
 四人は下女の案内によつて負傷者を一室に連れ行き夜具を敷いてその上にソツと寝かせ、下女に介抱を頼みおき、もとの居間へ帰つて来た。治国別は松彦、竜彦と共に離れの間に下女に案内され、一先づ息を休め、大神に感謝の祝詞を奏上し、終つて茶菓を喫し息を休めてゐた。鬼春別、久米彦、スパール、エミシ、万公は、奥の一室にグツタリとして足を伸ばせ自分按摩を頻りにやつてゐる。四人はまして重い人間を背負つて来たのだから、足も疲れ体も弱り、縄のやうになつて腕枕に横たはつて居る。
 テームスベリシナの夫婦は娘の帰つた嬉しさに、治国別に礼云ふ事も忘れ、室内をウロウロしながら四人の負傷者が寝て居る居間へ駆け込み、ベリシナは二人の娘の介抱にかかり、テームスは道晴別、シーナの枕許に坐つて体を擦り労つて居る。何れも深い穴へ吊り下ろされ体を何処ともなく痛めて思ふやうに動かないのを、やつと安心したので気も緩みグツタリとなつて、物をも云はずベツドの上で苦しげな息を吐いて居る。両親は能ふ限りの親切を尽して介抱に余念なく、治国別の事を殆ど忘れて居た。万公は老夫婦が娘二人と道晴別、シーナを何処かへ連れて行つたきり、顔をも出さぬのでチツとばかり癪に触つたと見え、大きな声でそこらにウロウロしてゐる下女を捉まへ、『茶を汲め、足を揉め、何を愚図々々してゐるか』と早くも若主人気取になつて呶鳴りまはして居る。

万公『肝腎の娘番頭を助けられ
  テームス老爺礼さへ云はず。

 愛し娘の帰りたるより狼狽へて
  俺やお客を忘れよつたか。

 万公はスガール姫の主人公
  神が許した仲と知らぬか。

 僕共早く主人を呼んで来て
  吾師の君に愛相せぬかい。

 このやうな大きな家に住みながら
  何故俺等を馬鹿にするのか』

下女『テームスの主人の君は姉妹の。
  姿眺めて狼狽へ玉ひぬ。

 今少時し待たせ玉へよ神司
  水の出鼻は詮術もなし』

万公『それだとて義理人情は知るだらう。
  救ひの神を袖にするのか』

下女『私はお民と申す賤女よ。
  そんなむつかしい事は知らない。

 三四日前に出て来た下女なれば
  宅の様子が分りませうか。

 そのやうな駄々を捏ねずに今晩は
  おとなしうして寝み遊ばせ。

 姫様が千騎一騎の苦しみを
  どうして親が見捨てられよか。

 テームスの主人の君は愛し娘に
  心悩ませ煩ひ玉ふ。

 お前さま屈強な身をば持ちながら
  チツとハキハキ働きなされ。

 俺だとてこれほど広い家中を
  手の廻りさうな事がないぞえ。

 緩りと今夜は此処に落着いて
  夜が明けたなら噪ぎなされ』

万公『こりやお民女の癖に益良夫を。
  嘲弄致すか迂愚者奴が』

お民『この家に来ると匆々若主人
  気取りてござる人の可笑しき。

 心よきお嬢さまだと云つたとて
  お好き遊ばす筈はないぞや。

 何故なればお前の姿は阿呆面
  顔の紐まで解けてる故』

万公『賤女の癖にべらべらたたく奴
  腮外さうか神の力で』

 万公はこんな下女に相手になつて居つてもつまらない、ともかく主人を引張り出し、吾師の君に挨拶をさせなくちや済まないと、お民を案内させて、四人の寝て居る居間に進み行く。見れば夫婦は四人の負傷者を交る代る親切に介抱してゐる。
万公『やア御主人、介抱は私が引受けてやります。どうぞ吾師の君御一行にお礼の御挨拶に御入来下さいませ。彼処に待つて居られますから』
テームス『ハイ、有難うござります。あまり嬉しいのと、娘の介抱に気をとられ、肝腎の命の親様に一言の御礼を申すのも忘れてゐました』
ベリシナ『誠に済まない事でござりました。そんなら老爺どの、あなた、済まないけれど治国別様御一行に、取敢ずお礼を云つて来て下さい。私はここで介抱して居りますから』
 テームスは肯きながら、慌ただしく廊下を渡つて治国別の居間に進み行く。万公は一生懸命にスガールの横顔を覗きながら、道晴別、シーナの介抱を甲斐々々しくやつて居た。

(大正一二・二・二六 旧一・一一 於竜宮館 北村隆光録)



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